緋弾のアリア 雀蜂の二十六刻印   作:ドレスデン

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キンジの憂鬱

----寮へ帰るバス車内

 

 西に赤い太陽を拝みつつ、伽耶は隣に座る少女に話しかけていた。

 澄んだ水のような髪を持つ無口な少女の名前はレキというらしい。

 

「そうそう、ところでレキさんって狙撃科の所属って言ってたよね?

 どんな銃を使ってるの?」

「……これ」

 

 愛想よく話す伽耶とは対照的に、無機質な答えが返ってくる。

 レキが持っていた長いガンケースのジッパーを下すと、愛銃が顔を出す。

 

 ドラグノーフ式狙撃銃、旧ソビエト連邦製の銃だった。

 

「古い銃だけど……綺麗なのね」

「手入れは怠っていません」

 

 レキの言葉は淡々としていた。

 

「あなたの使ってる銃は?」

「私はこれかな、他にも使用許可の書類を出してる銃はあるけど」

 

 伽耶もホルスターの中から愛銃のP210を半分だけ見せる。

 それを確認したレキは車外へと視線を向けた。

 

(うーん、会話の糸口がつかめないよ……)

 

 レキと伽耶の教室は2年C組で、席は前後だ。

 親睦を深めるために何度か会話を試みた伽耶だが、長く続かない。

 

 

 

 しばらく沈黙が続いた後、バスは停車し二人は別々になった。

 近くのコンビニに夕飯を買いに行くと、そこには青ざめた顔をしたキンジがいた。

 

「わー、なんか死にそうな顔をしてるね、キンジ。大丈夫?」

「あぁ、伽耶か。大丈夫だと思うか?」

「うんにゃ、思えない」

 

 背中に疲労の二文字を背負ったキンジの手に大きなスーパー袋が握られていた。

 中には大量の『ももまん』が顔を覗かせている。

 

「わお、偏った食事だね、体壊すよ?」

「俺が食うんじゃねえよ」

「同じ部屋の人?」

「いや、侵入者だ。それも凶悪な」

 

 言っている意味が理解できず伽耶は首をかしげる。

 部屋に侵入者? それも追い出さずに食べ物をごちそうする?

 

「アリアってやつが押しかけてきたんだ、俺を相棒にするって言ってな」

「アリアが? あぁ、本当にパートナーにする気なんだ」

「はぁ!? なんで伽耶がそんなことを知ってるんだ!?」

 

 驚いたキンジが声を荒げる。

 

「いや、始業式の日の夕方にアリアと会ってさ、キンジに胸を触られたとか、子ども扱いされたとか……

 あとは、パートナーにするっていうのを聞いただけだよ」

 

 その話を聞くとキンジは額に手を当てて落ち込んでいた。

 周囲には負の感情が漂っている、近くにいると伝染しそうなくらいだ。

 

「あれ? じゃあ今、キンジの部屋にアリアがいるってこと?」

「認めたくない事実だがな」

「へー、じゃあ私も行ってみていい?」

「は?」

 

 キンジの顔が引きつる。

 ただでさえ男子寮にアリアという女子を連れ込んでいる。

 さらにその上、彼女まで部屋に招き入れてしまっては面倒なことになる。

 

 誰かに見られでもしたら、すぐに噂の種になるだろう。

 同居人が居らず1人で使えて便利だった部屋が逆に不幸となった。

 

「断るっ! 何が嬉しくて----」

「まあまあ、そんなに大声出さないでよ」

 

 抗議するキンジを無理やり引っ張り、伽耶は男子寮へと向かっていった。

 

 

----男子寮 キンジの自室

 

 

「やっほーアリア、面白いことになってるね」

「別に面白くなんかないわ。そこの馬鹿がなかなか言うことを聞かないだけよ」

 

 手を振る伽耶にアリアは『ももまん』を手に返事する。

 ちなみにキンジは椅子に座って沈黙している。

 

「パートナーにするって件だよね?」

「そうよ、私はそうするって決めたの」

「俺は納得してないけどな……」

 

 相棒になれと睨みつけるアリア、断ると目線を泳がすキンジ。

 アリアを見て、キンジを見て、また彼女に戻ってを繰り返す伽耶。

 部屋は何とも言えない空気になっていた。

 

「とにかく、俺にその気はない」

 

 短く言い切るとキンジは自室に戻っていく。

 

「ちょっと----」

 

 まちなさいよ。アリアは続けようとした言葉を飲み込んだ。

 伽耶はその時、彼女のある一点を見ていた。

 それはアリアの目。

 紅い少女の瞳には、焦りと苛立ち、そして悲しさが浮かんでいた。

 

「この分からず屋!!」

 

 閉じられた扉越しにアリアが声をぶつける。

 けれどキンジからの返事はなかった。

 

 なんとなくではあるが、二人の間に少しの溝が見える。

 目標に近づきすぎる人間と周りと距離を取りすぎる人間。

 外から見ていた伽耶にはそう感じられた。

 

「ところで伽耶は何をしに来たの?」

 

 椅子に座って最後の『ももまん』を飲み込み、アリアは多少の落ち着きを取り戻した。

 

「何ってわけでもないけど、アリアに会いたかったから」

「私に? なんで?」

 

「仲良くなりたい人に話しかけるのは駄目なことかな?」

「別に悪いことじゃないけれど、話すことなんてあるかしら?」

 

「学校生活とか?」

「あなたも私も、ここに来て一か月も経ってないでしょ」

 

 呆れた顔でアリアが返す。

 言い出した伽耶も話題の持続性の無さに頭を抱えた。

 

「うぅ、それもそうだよね」

「まあちょうどいいわ、アンタに聞きたいことが幾つかあったから」

 

「私に?」

「そうよ」

 

 アリアから聞きたい事があるなど夢にも思わず、伽耶は驚いた。

 

「アンタの戦闘技術よ。どこで学んだの? とても一般の高校から来たとは思えないの」

「一般じゃないよ、通信制高校だから。

 戦闘技術はアメリカに居たときに学んだの。

 隣の人が退役軍人だったから、結構本格的に教えてもらったわ」

 

 秘密組織で訓練を受けました。なんて正直に言えるわけがない。

 伽耶の経歴はすべて中隊が綿密に用意した。

 

 通信制の高校に在学していたこと、アメリカに居たこと。

 周りの武偵から怪しまれないように偽装した書類を何十枚も用意した。

 

「そう……なるほどね」

 

 あまり納得した様子はないが、アリアは一応は言葉通りに受け取ってくれた。

 

「あ、じゃあアリアは何で日本に来たの?」

 

 相棒を探すなら海外にいるプロなどを見つけた方が早い、信頼もできるはず。

 まだ半人前の武偵校の生徒から選ぶ理由は何だろうか?

 

 その他にも幾つか疑問があった。

 

 アリアは実績のある武偵だからだ、一人前のプロとして海外で活躍している。

 卓越した能力と才能の持ち主だ。

 それが何故、日本に?

 

「それは……それは私の義務を果たすためよ」

 

 そう答えるアリアの言葉は、とても重みを感じた。

 知り合いになってから日も浅い。

 彼女のことは何も知らないはず。

 それなのに彼女の言葉は、耳を通って心に響いた。

 

「……そうなんだ」

 

 色々と聞きたいことがある。

 けれど伽耶はそれ以上質問できなかった。

 

 そのあとは他愛もない会話に話しを変えて、すぐに伽耶は退出した。

 心に鉛が置かれたような後味の悪さを感じたまま。




更新が遅くなり、本当に申し訳ありません。

これからもご愛読頂けるように頑張ります。
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