大天使エイスリンちゃんに罵倒されながら国際交流する話 作:アライ
三日目からのお話です
私はあまり麻雀得意な方では無いので、合ってるかどうかは割と不安なのです
三色信者
冬という時期。身も凍る様な東北の大地では、特にそれは厳しい物となる。放射冷却により地熱が放出されきった日に朝を迎えようものなら、あまりの寒さに布団から出る事すらも難しいだろう。それに加えて真夜中に降る雪という存在。こんな事されたら次の日からがっつり気温が下がってしまう。
エイスリン先生に宮守を観光して貰ったその翌日。そんな雪は、昼になっても未だ降り続けている。
「
軽く昼ご飯を食べ終えた後、雀荘の控室のパイプ椅子に座っていたエイスリン先生は、ぷるぷるとゼリーの様に震えていた。
寒いのかなと思ったが、しかし理由は別にあるらしい。
「
今日は雀荘の開店日という事でエイスリン先生の希望通りに雀卓を開放したのだが、結果は逆連対の沼だった。
「
何度か行った半荘戦の後、下振れまくっていたエイスリン先生から彼女自身が持つ矜持──もといオカルトについて、翻訳アプリを使いながら仔細に教えてもらった。
彼女曰く、他家の配牌と自身の手の完成形及びツモ牌が見えるらしい。他家のリーチに毎回ノータイムで無スジを切ってたり、当たり牌を華麗にビタ止めしたりと、敢えて変な手順を辿って彼女の反応を伺ったりせずとも分かる材料は有ったが、マジで見えていたのかと驚きました。
が、しかし。
彼女が持つソレはそんな風に中々に恐ろしいオカルトではあるものの、今日は全くと言って良いほど振るわなかった。
理由は同卓者にある。
「
ク〇鳴きおじさん。
それがエイスリン先生の対戦相手に居たのだった。
そのおじさんの打ち筋、というか特徴は何といっても鳴きまくる事である。およそ副露率75%くらいあるだろう、四局あれば三局は必ず鳴くやべー奴であった。
麻雀における最強の役はリーチと言われるほど面前は強いのだが、それを無視して鳴きまくる。そのおじさんが卓に居れば、全員のリーチ率とリーチ成功率が極端に下がると言われているのだ、なんて恐ろしいのだろう。それでいてしっかりと高打点の染め手を毎回作っているというのだから酷い話だ。たぶんそのおじさんもオカルト入っていると思う。
話が少し逸れたが、どうやらエイスリン先生のオカルトは鳴きを多用されると消え去ってしまうらしい。
それは彼女自身が鳴いても同じな様で、だから鳴きを一切使わなかったというワケだ。リーチも宣言牌が鳴かれ易い事や、同卓者がスピード重視の鳴きへとシフトし易い事から使いたがらないのだろう。
となると、オカルトが無くなったエイスリン先生は完全にヒラで打っている事になる。
その状況を後ろから見させて貰ったが、何が課題なのかはだいたい分かった。
他家のリーチに対する押し引きや、捨て牌からおおよその手牌を把握する河読みや残っている牌の山読み。
色々有るものの、それは全て発展形の話。やはり一番は牌理だろうか。
こういうのは一度見て貰った方が早い。
「
彼女のオカルトはいずれ戻ってくるものらしいが、無くなってしまっている間はデジタルな部分に頼らざるを得ないだろう。
こういうのは自分の得意分野である。昼休みももうすぐ終わって雀荘の営業も再開するので、打ち筋を後ろから見て貰う事にしようか。
◇
顔見知りのおっさん達と同卓しながら始められた半荘戦。
自分は全く和了る事は出来ていなかった。無放銃と言えば聞こえは良いものの、実際はオリていただけである。
「...」
後ろを見ずとも何となく反応は分かる。めっちゃ気まずい。
や、やめて……そんな目で見ないで……。
今の自分はラスである。無和了、無放銃で何も出来ずにラス目にいる事を地蔵ラスと言う。
地蔵は辛いものである。なんて言ったって、麻雀をやっている気がしないのだ。
配牌は今に至るまでほぼ五向聴。まともなツモも来ず、配牌オリすら視野に入れなければならないレベルの連続である。チャンタはともかく、縦にも重ならないので七対子すら目指す事は叶わなかった。
チートイは山読みが問われるので見て貰うには結構良い手役なのだが、それすら無理だとは……。
これはもうダメかもしれませんね。
南入りして二局目。起家が南家だったのでこれが最後の親番となる。
三位とはそこそこ離れているので、ここを逃すとほぼラス確してしまうのだが……。
配牌を後ろから見やすい様に並べながら、先行きを考える。
配牌 ドラ{四}
{三四四五六八①④3346北} ツモ{8}
来ましたッ……! 配牌ドラ2の最高の手がこの親番に……!
これはもう和了るしかないだろう。満貫手に仕上げて見せましょう。
打{北}
…
ツモ{8}
打{①}
…
手牌 三巡目
{三四四五六八④334688} ツモ{七}
三巡目に持ってきた{七}。ここがターニングポイントだろう。
どうしても和了りたいこの親番。向聴数を取るのならば、{④}なのだろうが……。
まあこんな早い巡目でそんな事するワケが無い。
打{3}
{3}を切ってのシャンテン戻しの打牌。そのまま{④}を切っていれば3種8枚の受け入れとなる。
しかし打{3}のシャンテン戻しなら、{二}~{九}{②}~{⑥}{1}~{8}の19種の凄まじい受け入れが発生する。
枚数は……多分、60枚くらいは有りそうだ。扱う麻雀牌が136枚であり、そこから手牌諸々を差し引けば二回に一回は確実に手が進む。それならば戻す以外に有り得ない。
それに、{④}を切ればアレが消えてしまう。
一昔前には、麻雀の手役の花形と言われていたほどのアレが。
手牌 四巡目
{三四四五六七八④34688} ツモ{二}
次に来たのは有効牌。流石に二回に一回を外す様な運の悪さは持ち合わせてはいなかったようだ。
打{6}
ここは手なりに打って、受け入れ枚数の多い物を選択する。
手牌 七巡目
{二三四四五六七八④3488} ツモ{4}
この{4}はかなり重要なツモである。
打{4}
出来る限りノータイムでツモ切りを行う。空切りなんて以ての外だ。
「……」
自家 河
{北①36白発}
{4}
同卓している顔見知りのおっさん達と自分の河を見る。どういう流れか知らないが、この人達は自分が知っている中でもかなり麻雀が強い者達であったはずだ。当然、手出しかツモ切りかなんて、全て把握されてしまっている。
ここで時間を掛けて{4}を切っていれば確実に後々響いていただろう。
手牌 八巡目
{二三四四五六七八④3488} ツモ{③}
そして次順。ツモって来たのは{③}だった。
う~ん、やっぱり自分の思い通りの麻雀が進むって楽しいね。このくっつきをずっと待っていたんですよ。
打{七}
…
ツモ{二}
打{二}
手牌 十巡目
{二三四四五六八③④3488} ツモ{赤五}
ダメ押しの{赤五}ツモ。これで一盃口という別方面も行ける手になってきた。贅沢な手である。
手牌 十一巡目
{二三四四五赤五六③④3488} ツモ{②}
そして最後にツモ{②}。一盃口はならなかったものの、それでも最高のツモである。
さすがリャンメン先生は分かっている。
「リーチ」
余った{五}を打ち、リーチ宣言をする。久々に気持ち良いリーチが出来たような気がした。
「……」
「はぁ……」
「けっ……」
同卓者のおっさん達が忌々しそうな目でこちらを見てくるが気にしない。ラス目のリーチは怖いですよねえ……分かりますよその気持ち。
これはもう勝ったな。勝ちましたね。
麻雀の神様! 高目……高目をお願いします!
ツモ{2}
そして引いてきたリーチ後の第一ツモ。
「はい一発高目ツモ~! メンタンピン一発ツモ三色ドラ3。裏は……乗らず。倍満で8000オールで~す!」
「は?」
「ガキが……舐めてると潰すぞ……」
「クソゲーかよ」
意気揚々と引きヅモすれば(この雀荘は引きヅモOKである)、おっさん達が一斉に愚痴を吐き捨て始めた。
何やらぶつくさ言っているが、裏が乗らなかっただけでも感謝してほしいものである。もし裏が一つでも乗れば三倍満もあった。8000オールが12000オールになる可能性があっただけに残念である。
とにかくこれでラス目から一気にダントツトップだ。
親で倍満を上がれば、もはや勝負は決まったようなものである。
「あ、すみません。誰かこれ撮影してくれませんか?」
そういえば。
ふと忘れていた事を思い出した。自分でも中々の牌理が出来たと思えるほど、この和了は良かったのだ。
今日のこれは役立ちそうな物なので、後で思い返せる様にしなければいけない。
とりあえず誰かに頼んで画像を送って貰う事にしようか。
「は?」
「ガキが……舐めてると潰すぞ……」
「煽りかよ」
そう観衆に頼めば、同卓者のおっさんは若干キレ始めた。
や、煽りじゃないし……。後で牌譜検討に使うだけだし……。
……まあ、煽りと捉えられてもおかしくはないか……。
「もう許さん。絶対まくったるわ」
「ガキが……舐めてると潰すぞ……」
「一転ラスかよ」
うるさいおっさん達を他所にしていれば、少しそわそわとしているエイスリン先生が目に入った。
彼女の中ではこの打牌について、色々と疑問点が有るのだろう。早く一緒に検討をしなければならないな。
その為には早くこの半荘戦を終わらせる事にしよう。
「じゃあ、南2一本場始めます」
◇
「
適当に半荘戦を切り上げた後。
控室に入れば、後ろからエイスリン先生が付いてきた。
「
逸る先生をどうにか抑えながら、先ほどの対局の場況が撮られた画像をスマホに表示する。
お客さんに取って貰った後に受け取った物だ。
それを控室に置かれていた麻雀牌を使って再現する。
ここで再現するのは自分の手牌と河だけ。
手牌 三巡目
{三四四五六八④334688} ツモ{七}
まずはここから。自分の三巡目の手牌を再び作り直した後、エイスリン先生に席を譲る。
いわゆる何切る問題というヤツだ。説明が何も無く一瞬戸惑った表情をしていたので、翻訳アプリを使って対話しようとしたが、雀士としての直感で何をしろと言われているのかすぐに理解したらしい。
並べられた牌から恐る恐る切る牌を選ぼうとする。
「
エイスリン先生が選んだのは孤立牌である{④}。これを切れば向聴が進み、{358}のいずれかが埋まれば聴牌となる。しかしそれはシャボ待ちやカンチャン待ちで結構和了り辛い。いや、まあ……ドラ2あるから、普段ならばそれでも十分良いのだけれども。
それはともかく、もちろん彼女自身も分かっている事だろう。恐らくここから他の牌の重なりを見て平和を確定させていくはず。萬子が中膨れ+順子の形なので受け入れも多いと考えているのだろうか。
しかし、三色を捨てるのは頂けない。
横から実際に行った対局と同じように{3}を指す。
「
するとエイスリン先生が渋々といった感じの声音をあげて、牌を河へと放った。
「
言いたい事は何となく分かる。三色なんて実戦では中々上手くいかない手役だと。そんな事を言いたいのだろう。
確かに赤アリルールが一般的な現代では、昭和的な価値観が強い三色は忌避される事が多い。
彼女の言う通り、三色はほとんど上手く行く事は無い。リャンメンに受ければ待ちが枯れていない限り必ず安目が発生するし、カンチャンに受けて役を確定させればピンフが消えてしまう。だいたいペンチャン待ちになるであろうチャンタ三色とかはもはや苦行の類だ。鳴けば早いが点数が安すぎる。
いけそうな配牌から20回狙えば1回和了れるかどうか。そんな役である。
しかし、そんな1回だけでも和了る事が出来れば局の収支は大きく変わる。難易度の割にたかが二翻だが、それでも麻雀は僅差を争うゲーム。この手役は侮れない。
三色は嫌いな人が多いから分かる話なのだけれども。
「
そんな事を翻訳アプリを使いながら頑張って説明すれば、分かったといった表情をエイスリン先生は浮かべた。
ほんとかな……?
まあ三色を考慮しなくても、シャンテン戻しの{3}切りの方が良いとは思う。ここは譲れない場所だ。
次点で{6}切りあたりだろうか。
よし。一つ終わったことだし、次へ行こう。
手牌 七巡目
{二三四四五六七八④3488} ツモ{4}
これは速攻でツモ切りをしなければならない牌だ。
いや、しなければならないというのは少し違う表現か。
速攻でツモ切りをすれば超お得な牌というワケだ。
「
エイスリン先生の指が{④}の方へと向かおうとして、ぷるぷると強く震えていた。
まあ分かる。数巡前に切って無くなってしまった{334}の形が{344}となって復活したのだ。これは完全イーシャンテンの形などで見られる素晴らしい良形なのだから、残したくなるのも分かる話だ。
しかし自分はここでツモ切りを選択した。
理由は数巡後になる。
「
手牌を崩して、別の物へと作り変える。
河は数巡目の物へと置き換えた。
親 河
{北①36白発}
{4七二八横五}
他家 手牌 ドラ{四}
{四四③④⑤⑥⑦223赤567} ツモ{4}
これは少し極端な例だが、この手を張った時に親リーに対して{2}を切れるだろうか。持ち点はラス目の親以外ある程度横並びしているとする。
翻訳アプリを使って、エイスリン先生に問い掛けてみた。
「
放銃の結果が分かり切っている問題だったので、エイスリン先生は少し答えに窮していた。
まあドラが三つもあるし良形三面張なので普通に押しなのだが、重要なのは{2}が危険かどうかという話だ。
「
恐らく直観的な判断なのだろう。実戦なら他家の河も有るので、ワンチャンスやらノーチャンスやらが関わってくるのだが、これ単独で見た場合の答えはそれで合っている。
宣言牌よりも遠く、そして序盤に早く切られているので{364}周りを持っていないと思ってもおかしくはない。中段の{4}は速攻ツモ切りだ。
押してもいい状況なら、ある程度余裕を持って{2}を切れるだろう。そこそこ河が濃いので、打点があることが条件にもなるが。
その思い込みを逆手に取った仕組みなのだ。
まあ、自分でツモってきたので意味は無かったのだけれども……。
「
頑張って説明すれば、エイスリン先生は得心がいったという表情をした。
こういう引っ掛けは対戦相手が人間だからこそ出来るものだ。CPU相手ではこう上手くは行かないだろう。
人読みというのもある程度は入っている。
「
答えを示せば、少し考え込む様な様子になってしまった。
果たして自分は、彼女の麻雀の観念に感銘を与えられる物を見せる事が出来ただろうか。
別の道ではあるものの、願わくばより良い結果になる物であって欲しい。
「
そんな牌譜検討を終えれば、何やらエイスリン先生は元気を取り戻した。
ウキウキとした心情が身振り手振りで体現され、表情には未来への希望が存分に表れている。
あ、これ参考書とかを読み漁った後に良くある現象だ。
アカン。
「
静止の声も聞かずにエイスリン先生は雀荘へと飛び出していってしまった。
大丈夫だろうか……?
オカルト無しで打つには、常連客の人たちは結構キツイ相手なのだから……。
「
すぐにエイスリン先生は帰ってきた。
うん……麻雀は難しいから……。
簡単には行かないのだ。