大天使エイスリンちゃんに罵倒されながら国際交流する話 作:アライ
出どころはいろいろ
目にした事がある牌譜ものってるかも
麻雀というゲームにおいて勝つという最終目的には、人それぞれの価値観が関わってくる事を強く留意しなければならない。純粋なめくり合いを好むのか、それとも意表を突くような奇異な麻雀か。それは麻雀のルールにも影響してくる。
よくある取り決めとして、雀荘の従業員がお客さん相手に打つ際、宣言牌のスジで待つようなモロ引っ掛けリーチを禁止する、という物がある。モロのスジ引っ掛けは汚い行為だ、という観念を持つ人が少なからずいるようで、徹底している所だと従業員含め全員が禁止というのもあるらしい。一見で雀荘を訪れる時はここらへんを確認しておかないと面倒な事になってしまうのだ。
気持ちは分からなくもない。自分もモロでは無いものの、普通の筋引っ掛けに振り込んだ時は、この野郎……といった感じでまんまと術中にはまってしまった事にイラっとするのだから。しかし、意図せずとも筋引っ掛けになってしまうケースは沢山ある。代表的なのはリャンカンを最後まで残した時だろうか。
例えば、{①③⑤}を持っている時にツモってきた牌で別の所に面子が出来て聴牌。{①}と{⑤}どっちを切ってもスジに関わる待ちになってしまう。これをモロ引っ掛け禁止だからリーチしてはいけない、というのはばかげている話だと思う。
……まあでも、その取り決めを完全に否定するつもりは無い。赤アリや赤ナシ、アリアリやナシナシといった風に雀荘によって様々な取り決めがあり、それはいわばローカルルールみたいな物だろう。特定の縛りによって唯一生まれてくるドラマというのもあるのだ、発想を柔軟に持たなければならない。麻雀の観念は千差万別なのだから。オカルトやらデジタルやら、もう沢山存在するのである。
ちなみにこの雀荘は、イカサマと過度な三味線を含む妨害行為以外は何でもありとなっている。もちろん従業員にも何の縛りも無い。
煽ってくるお客さんには煽り返すし、モロ引っ掛けも普通に使います。
う~ん、最高かな。
東2局
東家 配牌 ドラ{一}
{三八①③⑥⑦112東南西西}
午後三時過ぎを迎えた東2局。親番は自分である。上家と下家にはお客さん、対面にはエイスリン先生が座っている。
少し牌譜検討をした後、何かを感じ取った様子のエイスリン先生から半荘戦を誘われた。特に拒む理由も無かったので、空いた卓を見計らって面子を集め、そして今に至る。
トンパツに2000、3900のツモ和了をしたので今の自分はだいぶリードしているものの、対面に座る彼女はやる気満々といった面構えをしている。この和了はだいぶ速攻だったので判断するには至らなかったのだが、恐らく彼女にはもうオカルトが戻ってきている事だろう。
少し前までのよわよわ逆連対だったエイスリン先生はもう居ないという事だ。
ツモ{発}
持ってきた{発}を手牌の横に並べて考える。オカルト全開のエイスリン先生は、それはもう強い。
が、今の自分は彼女の致命的な弱点を知ってしまっている。
もし寸分の狂いも無しに徹底的に対策するならば鳴きまくればいい話なのだが、果たしてどうするべきか。
最終形がどうなるか、よく分からない配牌を眺めながら考える。
……まあ、その時になれば分かる話か。
適当に{南}を切って手なりに進める事にした。
手牌 八巡目
{三①③⑤⑥⑦⑨1236西西} ツモ{⑨}
ツモってきた{⑨}をすぐさま河へと送り返す。まあ重い手だったから、巡目が経ってもこんな物だろう。
対面のエイスリン先生からは既に中張牌が出始めている。まだ手出しはあるが、そろそろ張った頃なのかもしれない。
ヤミテンは怖いが、ある程度リードのある状況での親。一応アレがまた見えるので、少しぐらいは押してみたいところ。
北家 打:{②}
少し逡巡していると、上家に座っているお客さんが{②}を河へと捨ててきた。
あ、それ一番欲しい所ですね。
「チー」
{①②③}の順子を横に除け、不要な{6}を切り出す。
「...!」
そうすれば、対面に座っているエイスリン先生がぴくりと少し揺れ動いた様な気がした。
いやー、これは許してほしい。
三色と一通の両天秤に取れる{②}だ。どちらも喰い下がりがあり、鳴くと悲しい点数になってしまうが、和了りには近くなる。是非とも鳴きたい場面となっていた。
次巡
北家 打:{⑧}
すると、またもや上家がこちらの手牌の要所となる部分を切ってきた。
うーん、これはまあ……鳴いても良いかな……。
「チー」
手牌
{三⑤⑥123西西} チー{横⑧⑦⑨横②①③}
打{三}
出来たのは片アガリの一通。1500点。
やっす。
でもこれで一応聴牌だ。まあ流石に出和了りは期待出来なさそうなので、ツモ期待かな……。
「...!!」
手牌を確定させれば、何やらくぐもった声が聞こえてきた。
場所は対面からである。
手牌から顔を上げてみれば、顔を真っ赤にしながら小刻みに震えるエイスリン先生がそこには居た。
あっ。
「...!!!」
もしかしてエイスリン先生のオカルト、今の鳴きで消えちゃった感じですかね……?
ま、マジですか……。
「
小さく発された言葉の意味を解する事は叶わなかったが、雰囲気が語っている。
か、彼女は表情が豊かだ……。いくらダマにしててもこれでは聴牌状況がある程度把握出来てしまうだろう、ポーカーフェイスを務めるように助言しなければいけませんね。
うん……。
「リーチ」
そんな事を考えていれば、上家からリーチが入った。
河は么九牌が並び、特に目立った所は無い。恐らく普通のタンピン手だろうか。ならば裏次第では満貫にいってもおかしくはない。いくら親とはいえ、1500点の待ちが悪い手で押すのは難しいか。
素直にオリる事にしよう。
手牌
{⑤⑥123西西} チー{横⑧⑦⑨横②①③}
ツモ{西}
持ってきたのは一枚切れの{西}。
自分で持ってきた事によって、国士以外には絶対に当たらないほぼ完全な安牌となった。{西}を含め、手牌にあるのは全て上家に通っていない牌である。こういう時にリーチを凌げる手段を持っておく事は大切だ。安パイが増えるのを望みながらオリますかね。
打{西}
{西}を切る。流石にロンと言われる事は無かった。
当然だ。
「ノーテン」
「ノーテン」
「
「テンパイ」
かなり危ない牌を掴んでいたので、形式聴牌を取ることは不可能だった。
結果はリーチした北家のお客さん以外、皆ノーテン。供託を残したまま聴牌料合計3000点が流れていき、東2局は終わった。
「...♪」
対面のエイスリン先生が、ニコニコと満面の笑みを浮かべながらこちらを見つめてくる。それは牌を自動卓の底へと落としている時でも変わらなかった。
今の彼女の心情を表すのならば、コイツ散々鳴いておいてリーチが入れば途端にベタ降りしやがった──そんな感じだろうか。
や、別に彼女を虐めたくてわざとやっているワケではないのだ。
この鳴きが最善だと思ったから……だから自分は悪くない……。
……でも考えてみれば、わざとだと思われても問題は無いのか。
この雀荘は基本的に決められた麻雀のルール内なら何をやってもいい。
当然、鳴きまくってエイスリン先生のオカルトを消し去っても、ルール上は問題無いという事だ。もし負けられない戦いが有って、その中で対戦相手の明確な弱点を知っていたら──誰だってそれを実行するに違いない。
エイスリン先生は手加減を嫌う性格なハズ。ならばこれはむしろ……。
「
どうだ……?
どうなんだろう?
英語分からん。
東3局一本場。
「
ある程度打牌が進み、中段目を終わろうとしていた頃。
なんと対面から先制リーチの宣言が掛かった。相手はもちろんエイスリン先生である。
ロンツモ及び流局時以外において、初めての発声である。
彼女はリーチしないんじゃなかったのかと一瞬思ってしまったが、もうオカルトは切れてしまっているのでデメリットはほとんど無く、普通にしてくる可能性はあるという事か。
南家 エイスリン 河 ドラ{南}
{北①西⑨82}
{②東白発4横9}
彼女の捨て牌を一度確認する。牌の並べ方がガタガタできたないのはとりあえず置いといて、宣言牌の{9}はツモ切りだったのを確認している。
うーん、何か変な事でもしているのだろうか。
宣言牌が通ったのを確認すれば、屈託の無い笑みを浮かべながら供託の点棒を場へと取り出した。
うん、絶対何かやってますね。
自家(西家) 手牌
{二四五六八⑥⑦⑧⑨⑨778} ツモ{④}
引いてきたのは変な所。安全そうな字牌を抱え込んでいてもおかしくない状況なのだが、配牌及びツモでも全く来なかったのでこの形に至る。萬子は全て見えて無いので打ち辛いし、この持ってきたツモの処理も大変だ。形式聴牌は取りたい物だが、現実は厳しい。ドラも無いし、一向聴でも無い。
もし手牌にドラがあってツモが萬子周りの有効牌だったら、索子を勝負する形になるのだろうが……。まあ普通は通るだろう、状況が状況ならば押している。
しかし、直後の{9}のツモ切りリーチがなあ……。
待ちも悪いのでこれはオリ気味でいいだろう。
そして数巡後。
「テンパイ」
「
「ノーテン」
「ノーテン」
またもや流局してしまった。下家の親がエイスリン先生のリーチに対してやたら押して来ていたので、所在が見えないドラの{南}を抱えているのかと思ったら案の定対子持ちだった。しかも役ありで、かつリーチの現物待ちだったようでヤミテンを選んだらしいが、聴牌気配は濃厚だったのでなんとか振り込む事は回避できた。まったく、怖いですね。
まあそれはともかくとして。
エイスリン 手牌
{一二三九九③④⑤⑥⑦⑧68}
これはカン{7}待ちの聴牌。序盤の{8}切りは、{468}のリャンカンにくっついていた{8}を先に切り出した形だったのか。それでリャンカンが最後まで埋まらなかったので{4}を切ってリーチした、というワケか。いやでも、それなら一巡目待ってツモ切りリーチをした理由が分からない。
迷彩ならすでに十分役目を果たしている。このモロ引っ掛けカン{7}はかなり分かり辛い待ちなので、十分に出和了りは可能だ。一巡待つ必要も無い。
……考えられる理由としては、モロ引っ掛けを悟られるのを嫌った、そんなところだろうか。
古来よりリーチ宣言牌のスジは他のスジよりもかなり危ないと言われている。それは現に出てきているリャンカンの形の所為なのだが、この認識が全国的に広まっているのか意地でも宣言牌のスジは切らないという人は多い。彼女もそれを知っていて、一巡待ってツモ切りリーチをしたのかもしれない。
う~ん、でもツモ切りじゃあんまり意味ないような……。
宣言牌のスジでも出る時は出るのだから、ここはそのままリーチに行きたいところだ。それか、空切り出来る牌が来てからリーチか。
押せる手ならば、自分はこのリーチに{7}を切って放銃していただろう。これは優秀な待ちである。
「
渾身の策だったものの、巡り合わせによって不発となってしまったエイスリン先生は、目に見えて分かるほどにしゅんとなってしまった。
とても表情で分かりやすい子である。
南二局
溜まったリー棒を安手で和了った自分が総取りした以外は特に何も起きずに南入り。
そして二局目。再び自分の親がやってきた。
「ポン」
「
自家(東家)手牌 八巡目 ドラ{6}
{三四八②②④⑥⑥34789} ツモ{9}
毒にも薬にもならない{9}をくるりと回しながら頭も回す。対称なので、上下を入れ替えても牌姿は変わらない。
さてこの八巡目で一気に二人が仕掛けた。相手は下家に座るお客さんと、対面のエイスリン先生。この鳴きも彼女にとっては、初めてのものである。
自分が出した一枚切れの南を鳴いた下家が{赤⑤}のポン出し。それをエイスリン先生が鳴いて、{1}のチー出し。
やはりこの鳴きも、オカルトが消えてしまった今はデメリットなんて何も無いのだろう。何の躊躇も無く、打ち筋を変えてきたというワケだ。
これも何か秘策が有っての事だろうか。う~ん、分からない。
とりあえず少し様子見してみようか。
手牌 十巡目
{三四②②④⑥⑥⑥34789}
下家は河の具合から索子のホンイツなのはほぼ間違いないとして、エイスリン先生の河をよく見てみる。
エイスリン 河
{北九二白一9}
{南13③}
エイスリン 手牌
{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} チー{横赤⑤③④}
字牌及び端牌が目立つ河だ。これが面前ならばタンピンなのだろうが、今の彼女は鳴いている。すると、ほぼタンヤオで間違いないだろう。
タンヤオドラ1が今の所見えているが、ドラは真ん中の{6}である。裏に持っていてもおかしくはない。となると打点はそこそこか。
手役がタンヤオならば么九牌は当たらない。それはまあ当然なのだが、問題は自分の手から何を切るかという話である。
手牌 十巡目
{三四②②④⑥⑥⑥34789} ツモ{⑤}
これで一向聴。まあ切るとしたら{②}か{⑥}辺りで、{②}を切ることになるのだが……。
エイスリン先生が聴牌している可能性も十分にあるので、ここで少し{②}の安全面について考えてみる。
下家のお客さんは{赤⑤}を切った後、続けて{⑤}をツモ切りしている。その牌をエイスリン先生は鳴く事は無く、次巡に手出しより{③}を切り出した。
もし{③③④}の形を持っていたのならば、下家の{⑤}を鳴くのが普通である。となれば、あえてスルーをしていない限り、この形から{③}を捨てるのは考え辛い。
これでおおよそ{②⑤}のリャンメン待ちは消える。するとカンチャン、シャボ、タンキ待ちが残る。
しかし、{①③}のカン{②}待ちはタンヤオが消えるので無いし、シャボ待ちは上家の捨て牌に現物として一枚切れで捨てられているので、こちらからは三枚見えている以上絶対に有り得ないと判断できる。
……まあいけるいける。
打{②}
「
手牌が倒され、対面から軽快なロン和了りの声がする。
えっ。
エイスリン 手牌 ドラ{6}
{五六七②⑦⑦⑦456} {横赤⑤③④} ロン{②}
「
ロン和了。マジですか。
エイスリン先生、なんと執念の単騎待ちである。
もし{③}を捨てずに{⑦}をアタマにすれば、リャンメン{①④}が出来るが片アガリ。チーで{④}を1枚使ってしまっているので、待ちは実質3枚となる。これは彼女から見た{②}の単騎待ちよりも1枚多い。
が、しかし{④}と{②}、どちらが出和了りし易いかなんて分かりきった話である。この単騎待ちは奇をてらったワケでは無く、十分に実戦であり得る選択肢だ。……というか選ばなければいけない選択だ。そもそも{①}を自分で持ってきたら目も当てられないのだから。
ううむ……何か策を使ってくると見せかけて、至極真っ当な和了りを目指してくるとは……。
「
点棒を受け取ったエイスリン先生は、それはもう溢れんばかりの気持ちの良い笑顔で答えてくれた。
……まんまとやられました。
自分は圧倒的トップなので3900程度では揺るがない点差なのだが、この3900という点数はかなり危険な数字である。
ダマでこの点数を張れば即リーと言われるほど、打点上昇幅が大きい。たった1翻増えるだけで3900が7700になるのだ、リーチせずには居られない。
今回のエイスリン先生は面前では無かったのでリーチ云々は関係ないが、後1つでも手牌に赤ドラが有れば7700になっていた。ここまで来るとミスでは許されない。
一応考慮していた事とはいえ、まだまだ自分も甘いという事なのだろう……。
親番は流れ、南3局となった。
◇
半荘戦が終わった。
3900の放銃はしたものの、最終的にはトップを維持したまま終わる事ができた。
「
しかーし。
勝った気がしない。まさかオカルト無しのエイスリン先生にしてやられるとは思っていなかった。
悔しいですね……これは悔しい……。
これは、発想の柔軟さが必要、という事を暗に示されているのだろう。普段と違う面子で打てば、今まで見えて居なかった側面に気が付かされるというものだ。
よく勉強になりました。次は絶対に負けません。無放銃でいきます。
「
勝負の熱が冷めきらない彼女を横目に、そう決意した。