大天使エイスリンちゃんに罵倒されながら国際交流する話 作:アライ
挿絵を貰うのは初めてなので嬉しいです!
世界的な人気を誇る麻雀というゲーム。それが持つ競技性は多少の──いやかなりの運要素に作用されてはいるものの、やはりその華やかさはどこも捨て難いらしい。
金曜日の朝。
ゴールデンタイムで放送されていた競技麻雀の対局が、この時間になってもテレビで再放送されていた。
ドラフトにより選出された強豪達を擁する各企業チームが、麻雀の頂点を目指して鎬を削り合うリーグ。目の前で繰り広げられているものを一言で表せば、まさにそれ以外の何者でも無いだろう。
聞いた事のある企業ロゴを全身にプリントアウトしながら麻雀を打っている姿は少し滑稽ではあるものの、古来より金銭的なやり取りを持つ事が多い麻雀の特異性が表れていると思えば、形や様式は変わっているが確かにその通りだと言える。
ただ……。
『くっ、捲くられたか! まさか、見えていたとはッ!!』
『ああ。まさにスケスケだ』
『チャルチウィトリクエ! 私を守って!』
『八百万の神々によって作られし神器──それが遍く大地を照らす……』
『私には聞こえる……捨て牌さんの声……』
『自動卓なのにも関わらず、どうしてここまで偏るの……? どうして流れが分かるの……ッ?!』
『想いが、声が、卓の中で唄っているの……』
『……まさか、自動卓の製造技研に携わっていたから分かるのかッ?!』
『愚問ね。さあ──産業の歯車に押し潰されるがいいわ……!』
やはりやばい。
テレビの中で巻き起こっているのは、超常的という言葉だけでは片付けきれない人智を超えた者達の戦い。確かリーグが開設されたばかりの初期は嵐を巻き起こしたり、火花を散らしたり、まばゆい閃光を放っていたりと、視聴側でもどんな麻雀か分かりやすかったが、今はもはや認識すらも超えている。
麻雀リーガー達がより洗練され、対局者同士のメタ的な要素が増えたというのも有るだろうが、やはり演出が凄く派手だ。実況及び解説の人も当たり前の様にその応酬を解説しているのも中々にやばい。
プロリーグも随分とコントラストが強くなったものだ……。
「
確かにそうだ。
横でテレビの対局を見ているエイスリン先生に同じく同意をする。
しかし何というか、プロ達が織りなす歌劇の様な物は麻雀のオカルトには全く関係の無いものに見える。
どういう事かと言うと、そのエフェクトが有っても無くても麻雀の結果は変わらないのでは?という話である。
いわゆる魅せる麻雀というものを彼女らは行っているのだろう。
テレビで行われている競技麻雀は、興行的な側面がかなり強い。選手同士の対局を直接放映しているのだけあって、やはり地味な麻雀よりも派手なものが好まれるという訳だ。
トップの順位点が一般的な麻雀よりも遥かに高かったり、トビが無かったりする所からもその傾向が読み取れる。トップラス麻雀、というのは言い過ぎかもしれないが、常にトップを目指し点差にあまり縛られない麻雀を選手たちに打って欲しいのだろう。
そんなトップ取りが偉いなか、一際目立つ暗黙のルールがある。
トップ争いの直接対戦の時は、超常的なオカルト現象を用いて激しい応酬を演出しなければならないというものだ。
視聴者的には分かり易い方が良いのだろう、ほぼ毎回の様にそれに従った先鋭的なオカルティズムが、卓上を優雅に舞っている。それも結構パターンが多い。他にも牌姿が把握出来る様に理牌がほぼ推奨化されていたりもする。勿論これにはデメリットも有って、触らずの14牌という格言がある通り{①②③④⑤⑧⑨245689白}の様な上下を変えても余り変化の無い牌が透けるという問題が生じてしまう。理牌読みの手段を聞けば現実的なモノでは無さそうに思えてくるが、そこそこの確率で当ててくる人はプロアマ問わず結構居る。とても恐ろしい。
それを防ぐ為に、上下を全て揃えてくれる自動配牌卓がプロリーグでは採用されているらしい。当然の事ながら普通の自動配牌卓よりもお値段が跳ね上がる。
これらはまあ、リーグの関係者達が現代のプロ麻雀のあり方を模索した結果かもしれない。
別にプロ同士の麻雀の対局は一つの場で行われるものではない。世界的な人気を誇るゲームな以上、様々な企業が、様々な連盟がその娯楽を擁しているのだ。チャンネルを変えても、色々な所で麻雀をやっている。
となれば、見栄えが無ければ視聴率が減っていくのは道理と言えるだろう。
「世知辛い話だ……」
「...?」
プロはプロ入りしてから、まず魅せる麻雀を身に付ける事が求められるという訳だ。その為に、よく分からないエフェクトを出す練習が各自負わされると言う。それらは別に、己の実力を向上させる要素には成らないのに。
プロも大変だ。
しかしまあ、そこで挫折する人は一人も居ないらしい。
苦心してプロに成ったというのも有るが、別に練習すれば限界はあれど誰にでも取得出来るものだからだ。
その辺に居そうな普通のリーマンのおっさんが、電影を纏いながら麻雀牌をツモる能力を持っていても、宴会とかで使うのかな、としか思わないくらいにその事実は浸透している。
めんどくさいものは、面倒くさいというのは変わらない。
それは確かな話だが……。
「
そんな事を思っていれば、テレビの中で繰り広げられるよく分からない現象を、少しキラキラとした目で眺めるエイスリン先生が居た。
言語を解さずとも、意味は分かる。まるで、昔の自分を見ている様だ。
「
なるほど、今の彼女はそれを習得する事を望んでいるのだろう。
それが一過性のモノなのか、それとも本気で思っている事なのか、彼女の本心を覗かないと分からない事なので勿論否定はしないが、しかし……。
『めっちゃ練習大変ですよ』
『
翻訳アプリを通して現実の厳しさ、もとい面倒臭さを端的に伝えれば、全くもってそれが実力の向上に繋がらない事を理解したのだろう、エイスリン先生はすぐに退き下がった。
彼女はリアリストなのかもしれない。
考えてみれば、自分が持っているツモった時に風を出す和了演出なんて、まさにその最たる例だ。
この一応オカルトとも言えようタダの一発芸が、一体何の役に立ったと言うのだろうか。横にいる彼女の髪をボサボサにした事しか貢献してないぞコイツ。これを取得するのに一年間掛かったというのに。
なんて空虚な一年なんだ。
『
そう書き記しながら、うんうんと唸るエイスリン先生。
やはり、麻雀というものは奥深い。
あれ?
◇
雀荘の手伝いというのは、毎日のように行っているものではない。父が店番になっていて、自分が足りない面子の補充役になるというのが多いが、別に足りていれば入る事も無いのだ。一人、二人で来る人は多くは無いし、三人で来る人はだいたい三麻を打ちに来ている。
今日は控え目の客足だが、ある程度纏まった人数の来店。自分の出番はほぼ無かった。
開店準備をとりあえず終えたら、お役御免という事になる。
という訳で。
久しぶりにネット麻雀をしてみる事にした。
リアル打ちが多い雀荘の従業員だが、別にネット麻雀を嫌っているというわけではないのだ。
『ツモ。ごめんなさいねぇ~w』
パソコンから全くもって反省をしていない、煽りを存分に含んだ発声が聞こえてくる。画面上では、何故か包丁持ったキャラクターが高らかにツモ和了宣言をしていた。
しかし、これは自分の和了では無い。
局が流れ、南4局オーラス。
自分は北家で、場に供託は無い。
1着目 南家 :52300
2着目 西家 :24200
3着目 北家(自分):14400
4着目 東家 :9100
南3はトップ目の満貫和了りであった。やりたい放題されて、かつツモられ損ばかりで3着目。横移動がある程度有ったのでラスでは無いものの、ラス目と点差もそれほど大きくは無いという結構最悪な状況である。1300オールは一応耐えるが、親なので普通に連荘される。
どうやら中々にツキが悪いようだ。
ネット麻雀というのはリアルとは違い、『オカルト』や他の事象に全く影響がなされない麻雀である。プレイヤーが介入出来る要素が何一つ無いのだ、故に完全な実力ゲーとも言えるし、完全な運ゲーとも言える。
最近は結構オカルトの波に浸されていた感じだったので、気分転換も兼ねて久しぶりにやってみたが、結果はこれだ。
いや、まだ1着は無理だとしても満貫ツモで2着を狙える立場だし、オリ打ちをする局面では無いのだが……。
「ポン」
「チー」
「ポン」
1着目 手牌 ドラ{⑧}
{裏裏裏裏裏} ポン{中中横中} チー{横867} ポン{⑧⑧⑧}
打:{七}
対面の1着目が序盤にして、{中}ポンに{8}のリャンメンチー。そして絞る暇が無いラス目から、ダメ押しの余った{⑧}のドラポン。バカヅキとも言えよう、トップ目の満貫確定3副露。
もう張っててもなんらおかしな話では無い、最悪に近い状況だ。
ラス目は当然の事ながらゼンツするが、こっちは満貫に振ったらラス落ちするから攻める訳にはいかない。
地獄といっても差し支えは無いだろう。
「
1着目 河
{1四④白七}
自家 手牌 4巡目
{三四五赤五②③346899白} ツモ{②}
打:{四}
2着が見えるそこそこ良い手だっただけに、心の中でさめざめと泣きながら現物の{四}を中抜きしていると、後ろから声が掛かった。
「
エイスリン先生が横へと入ってくる。意外な事に彼女は、今までリアルでの麻雀経験がそれほど無い代わりにそこそこネット麻雀の経験があるのか、見知ったような面持ちで画面を覗いていた。
だが、表示されている状況を見るやいなや、何ともいえない表情になってしまう。
この巡目にしてオリに徹しているというのだから、残念に思われても不思議ではないが……。
無理……ここから危険牌押すなんて、無理ぃ……。
まあでも仕方の無い事でしょう。麻雀というのはどこまで行ってもやはり運ゲーな以上、避けられない状況は幾らでもある。
1段目に高打点のダマに振り込む事とか、追っかけリーチに一発で掴まされるとか、それはもう思い浮かべるのが難しい程に理不尽な状況がたくさん。初めの頃はその度に一喜一憂していたが、今はもう何とも思わなく成ってしまった。心が摩耗しているのかもしれない。悲しいなあ。
「
果たして打ち筋を吸収しようとしているのか、まじまじと画面を見つめているエイスリン先生。一切のオカルトの要素が排除されたネット麻雀では頼れる物がデジタル以外無い以上、間違った選択をするのはご法度なのでこうして見られていると中々に緊張する。
が、ここはベタオリの局面なので、難しい押し引きは必要とされない。落ち着いていけば、大丈夫なはずだ。
『ちぇっ……残念』
上家が切った牌にドラを合わせ打ちしていれば、やがて河は二段目の終わりへと差し掛かる。
自家 手牌 12巡目
{一三五八③⑦⑦4699南発} ツモ{3}
ツモってきたのは一段目の終わりで切られた対面の現物の牌である。しかし安易にこれ捨てるのは許されない。
上家 河
{(中)白⑦八西8⑤}
{2五①⑧1}
対面 河
{1四④七七3}
{①北②白東西}
下家 河
{⑨中(8)(⑧)南④5①}
{⑨東北}
河をよく眺めてから、1枚切れの{南}を切り出した。
「
そうすれば、何やらエイスリン先生がその打牌に疑問を持っているような声をあげた。
多分、{南}がドラ仕掛けをした対面に通っていないのを危険視しているのだろう。親の現物の{3}を切るべきだと、そう思っているのかもしれない。
でもまあ、自分の打牌はこうだ。
そして次巡。
『へへ~、ラッキー!』
上家のキャラクターが、ツモ発声もせずに和了宣言をするというマナ悪の極みをしでかした後、手牌が全面へと倒された。
上家 手牌
{一二三①②③③③45678} ツモ{9}
ツモ・平和。20符2飜で400・700の安和了り。
何とかこれでオーラスが消化され、三着目に確定した。
他力本願ではあったが、何とか4位にならずに済んだ局面である。
まさに渾身のラス回避麻雀であった。
「
すると直前に自分が止めた{3}を見て、当たり牌だから止めたと思っているのだろうエイスリン先生はしかし、上家の安和了りを受けて何やら考えこんでしまった。
ロンなら平和のみなので1000点の放銃。まあ結果論の話だが、対面の現物である{3}を切っていれば、あの時点でオーラスは終わっていた。
しかし、そうも上手く行かないのが麻雀である。
ちょっと牌譜を見直してみよう。
気軽にいつでも対局を見返せるのがネット麻雀の強みだ。
カーソルを動かしながら南4局に合わせ、ラス争いをしていた下家の手牌を映す。
最後の巡目の手牌はこうだった。
下家 手牌
{二三四六七八九九④⑤455}
「
開いてみれば一向聴の手だったが、{3}が入り目、もしくは待ちになる形。
もうちょっと巡目が進んでいれば、これでロンと言われる可能性も十分にあった。まあ大抵はその前にリーチを宣言するが。
こういうオーラスやツッパてくる人が必ずいる状況では、ただ高打点者の現物だけに合わせていればいいというワケではないのがオリという行為の難しさを体現している。
今回はそこそこ切りやすい一枚切れの字牌が残ってたから良かったものの、そうでなければ割と何を切るか難しい場面だった。
自分が今しがた行っていたネット麻雀ではダブロンが採用されている。
もしちょっとだけ牌のツモが変わっていたら。タンヤオや赤が相手の手に入ってたら。どうなっていたかは分からない。
「
思わず危険牌の{3}を切りそうだったエイスリン先生は、結果にショックを受けていた。
まあでも、初めのうちは仕方の無いことだ。高打点確定で他家からマークを受けやすい人物の現物待ちというのは、やはり陥りやすい罠だ。
場況にその都度しっかりと気を配れるようになれば、きっと次からは気が付ける様になるだろう。
「
そこまではただ、修行あるのみである。
日進月歩。麻雀の上達に明確な近道は無いのだ。
それを心に深く刻み込んで貰う事にしよう。
「
「えっ」
エイスリン先生の精進を願っていれば、横から生暖かい視線が向けられる。少し呆れた様な面持ちも添えて。
えっ。
慌てて場況に気を配ってみれば、いつの間にかネット麻雀のホーム画面に飛んでいた。
そこには先程の対局で使っていたキャラクターが表示されている。セーラー服とうさ耳の様な赤いヘアバンドが特徴的な金髪の女の子だ。
や、これは……。
べ、別に……たまたま出たから使っているだけで……そういうワケじゃないんです……。
本当です……。
「
そう頑張って弁明すれば、後に続くのは何とも言えない雰囲気だけ。
どうしてこうなった。
「そうだ、もう一半荘打ちます……」
なんとなく。
その後、熱続行した。
天 江 衣