大天使エイスリンちゃんに罵倒されながら国際交流する話 作:アライ
原作開始前の絡みが宮守は少々難しい。
Just Aislinn.
「
お昼ご飯を食べ終えたエイスリン先生は、不織布のテーブルナプキンを使って口角の隅をエレガントに拭うと、突然言葉を紡ぎ始めた。彼女のやたら流暢な麻雀という単語が耳をくすぐる。
麻雀──ときに、何か忘れている様な気がする。
ああそういえば、雀荘の開店準備をしていない。
壁に掛かる時計を見上げてみれば、刻々と操業時間が迫っていた。早く店のシャッター開けないといけませんねこれは。
「
急いで席を立って取り掛かろうとすれば、後ろからエイスリン先生の声が聞こえてきた。何か言いたげな調子である。
ちょっと意地悪だったかもしれない。
ホームステイ先の情報は恐らく、全て事前に開示されると見ても間違いないだろう。当然、我が家が雀荘を営んでいる事も彼女は知っている筈。だとすれば、何が言いたいのか分からないほどこちらも察しが悪い訳ではない。目と目が合ったらポ○モンバトル──そう例えられる位にはこの世界で、麻雀という競技は一般的なのだから。
付いてきて、は確かフォローミーだったか。
そんな言葉を発すると、親鳥の通った道をそのまま辿る雛の様にエイスリン先生は付いてきた。
「あらあら~」
後ろで食器の片付けを行っていたはずの母が何か言っていた。
◇
廊下の先にある物置部屋へ向かう。一般的な認識でそれを語れば、ただの資材置き場故に部屋に存在する扉は一つだけだろう。だが、ここは違う。この部屋は雀荘の控室ともなる場で、家と雀荘の二つを行き来できる言わば連絡路の様な所になっている。
扉を開けたすぐ先は暗闇。少し外れた場所にあるスイッチを感覚で押せば、中で光が満たされた。
「
彼女の目線は部屋の隅にある一つの自動卓へ向かっていた。卓上には裏に伏せられた麻雀牌が角へ敷き詰められている。その上には簡素なビニールのカバーが掛かっているだけ。
この自動卓は偏りがあるから使えない奴である。確か上ヅモだったか、オカルトとか関係無しに特定の牌が露骨に偏るので導入して早々倉庫番になってしまったといういわくつきの卓だ。
使用される牌も専用の物になっているので、後継機には使えない。悲しいかな。もう完全に手積みで使うしか無い。
この部屋はそういった品の他にも、洗牌用のアルコールや布巾、点棒や牌の予備といった備品が収納されている。後、初見だと抽選会場で回すヤツと絶対誤解されるパイスター。物置とはいえ、よく通行するので掃除も勿論必要だ。エイスリン先生はそれらを確かめているのだろうか、ガラスばりの上からおずおずと手をかざしている。
ちゃんと清掃してるから埃の一つも付いてないぞ。
まあそれはともかく、本命はここでは無い。この部屋で麻雀を打つのはちょっと難しい。
とりあえず、連れ人に先を促す様にして、もう一つの重い扉を開けた。
「──」
めっちゃ寒い。扉を開けた途端、寒気が一斉に流れ込む様な感触がした。
一番に太陽光が入ってくるだろう入口部分は当然シャッターが下ろされているし、点在する窓もブラインドで仕切られている。光が入ってこないという点では物置きも同じだが、開放的な空間かつ外に近いという事で我が家──この建物内ではここが一番に寒い所となっている。下手すると外と同じくらい寒い。
「
同じく寒気に当たったのだろうか、後ろに居るエイスリン先生も震えていた。
身に着けていたコートはどうやら荷物と一緒に置いてきてしまったみたいで、そこそこ厚着をしているとはいえ中々寒そうである。上着取りに戻ってもええぞと視線を飛ばせば、何故か彼女はふるふると否定の意を込めて頭を振るった。
変な所で頑固だ。
ふむ。ならばそのままここで震えているがいい。
果たして、南半球の民はいつまで耐えられるかな?
さっむ……早く暖房付けよ。
当然ながら、暗闇の中では暖房器具を思うように操作できない。まず、消灯時でも爛々と輝いている配電盤に近いスイッチを順番に上からポチポチと押していく。すると真ん中、左、右と時間差で室内に純白の明かりが灯っていく。
「
目の前に現れるは、父が作り上げた雀荘だ。灰白色を基本として決して派手な印象を与えない作りに、仄かに光の反射を澱めている洋灯。天井に薄暗い影を描きながら廻るシーリングファン。所々に置かれている瑞々しく細長い翠の葉を吹かせる観葉植物のユッカ。幾何学的な紋様を辿るようにしてくねるインテリア。そして、開放感を失わない程度に配置された全自動麻雀卓。後、ほどほどのドリンクスタンドとメジャーな漫画が取り揃えられたコミックラック。一応、麻雀喫茶と呼んでも遜色無いだろう。
父曰くモダンな作りを目指したらしいが──
モダンって何だろうか。良く分からない横文字はやめてほしいものだ。
しかし、エイスリン先生には中々の好印象だったらしい。
「
彼女は360度くるりと回ってその景色を存分に眺めると、寒さも忘れて一番の象徴である自動卓に一目散に駆け寄り、存在を確かめる様に触れ始めた。
「ちょっ……」
近くに麻雀牌を敷き詰めた籠があるから注意して欲しい。そんな風に英語で説明したかったが、語彙力が無かったので、身振り手振りで頑張って説明する。
そうすると少しエイスリン先生はしゅんとしたが、すぐにその意を理解してくれた。気落ちした彼女からは、何故か途轍も無い罪悪感を感じる。
事故を防ぐためにも自動卓の中に麻雀牌を入れたままにしても良いのだが、冬の時期では取り出した際に温度差で水気が付く可能性があるため、あまり進んでやりたい事では無い。温度差は暖房で発生するが、こんな冬の時期に点けないという選択肢は無いのでまず避けられないのだ。
「暖房点けますよ……」
日本語で説明しながら、点けた。照明のスイッチのすぐ近くにあるエアコンのパネルを弄れば、すぐに生暖かい温風が天井から降り注いでくる。これからもう半日は点けっぱなしだ。冬季はこれほどまでに広い空間で長い間暖房を点けている所為で、電気代が天高く突き抜けてしまうそうだが、実際に払っている身では無いので知ったこっちゃない。父さん、母さん、許して。
ぺたぺたと自動卓を触るエイスリン先生を横目に、暖房が部屋中に効くまで待機する。彼女は自動卓を実際に目にした事が無いのだろうか。
嘲っているわけではない。世界的に麻雀が流行っているとはいえ、依然自動卓はそこそこに値段が高く、回転率を重視しない家庭用なら手積みの麻雀で十分という声は結構多い。それ故に何もおかしなことでは無いのだが……。
ネット麻雀という便利な存在も世の中にはあるからなあ。あれは雀荘の敵ですよ。ちょっと打ちたいけど人数が足りない……って時に凄くお世話になるから、一概には悪く言えないのだけれども。
「そろそろ時間か……」
そんな事を考えていると、ちょうど開店時間がやってきた。ある程度暖気が充満したのを確認し、店の入り口のシャッターを開ける。勿論これもスイッチを押せば自動で開いてくれる。父の話によると昔は手動だったらしいので文明の発達に感謝しなければならない。
突然部屋に響いてきた無機質な機械音に、エイスリン先生は遠目で見て分かる程にビクっとしていた。夢中になっていたまま気が付かなかったのだろう。
シャッターが迫り上がると、ちりんちりんと小気味よい鈴の音が響き渡った。夏に掲げられる風鈴の音を1オクターブ下げた様な響きが、この雀荘の入店音である。
「お邪魔します」
「今日ちょっと遅かったんじゃない?」
「おっす~。あれ、星川さんいないの?」
その辺に居そうな大学生みたいな台詞を引っ提げてやって来たのは常連であるおっさん達だ。高校の同期だとか、同じ会社の系列だとか、色々有るらしいが詳しい事は知らない。毎日というわけではないが、だいたいこの時間になると三人組でだべりながらやってくる人達だ。三麻をやっていると思えば、父が唐突に乱入して四人で麻雀をしていたりと、およそこの店で一番に来訪回数が多いお客さんだろう。
「いらっしゃい……ませ~」
う~ん……今日は日曜日。ここ雀荘に限らず色んな店で特売が始まる日だ。それに連なって、この雀荘も割引が行われる。主に自分のやる気が一割引き。
「おっ、今日は星川さんのガキが店番か」
「相変わらずやる気のないお出迎えだな」
うるさい客だ。営業時間も割引したろうか。いや……後で怒られるからやめとこう。
「卓代は後払いね」
へいへいと誠意の籠っていない返事をおっさん達が返してくる。常連だけあって、こちらもあちらも反応が定型文と化してしまっている。こういった返しは手間が省ける分楽だが、慣れると一見さんの時にもやってしまいそうになるから危険だ。父の雀荘は割と客足が良い。
「ノーレートで頼むよ~」
いつもの様に釘を刺しておく。勿論強制では無い。そう、お願いである。
何が何だか知らないが、今日も皆マナーを守って打ってくれる事を願おう。ちなみに法律を調べて見た所、予め注意していれば店が摘発される事は無いらしい。あくまで客が全ての責任を負うとかなんとか。なんてガバガバなんだろう。
とりあえず、今日は風の速度が書かれた看板を隠して置く。一瞬だけエイスリン先生に見られた気がするが、きっとマ◯オのステージ面か何かだと勘違いしてくれるだろう。
「それはそうと、この子は誰なんだね?」
卓に着こうとした三人のうち、一人から疑問の声が上がる。
そりゃ、気が付くよね。
目の行く先が一点に集まっている。ある程度雀卓の間には仕切りが置かれているが、彼女の容姿は当然目立つ。天衣の様に揺蕩う金糸が存在を声高に主張し、エイスリン先生は無事注目の的になってしまった。
「
おっさん達はここいらでは珍しい異邦人をまじまじと眺めている。視線の集中砲火を受けたエイスリン先生は小さくなってしまっていた。
近場で麻雀が精一杯打てる場所はここしか無いのだから我慢してくれ。
……とはいったものの、困っている先生をそのまま放置しているほど、こちらも捻くれてはいない。
とりあえず、状況を説明しようか。
◇
「へえ。ホームステイねえ」
「ニュージーランドってそりゃまた遠くから……」
「確か季節が日本とは逆なんだろ? となると、裏側は今真夏か」
「ここは寒いだろう。よくこんな辺鄙な所に来たもんだ」
「本当に金髪碧眼なんだな……」
「
かくかくしかじかと状況を説明すれば、おっさん達は今の状況を理解した。うちに泊まる取り決めになった事とか、まだあまり知らないけど彼女の身の上話とか。後、この雀荘こと麻雀喫茶にエイスリン先生を連れてきたのは彼女が麻雀に興味が在ると何となく察したから──とかそんな話も一緒に付随させておいた。
「つまるところ、エイスリン先……さんに麻雀を打ってるのを観戦させて欲しいというわけ」
「ほう」
とりあえず要点を説明し終えたか。一通り一方的に話したので少し疲れた。
「俺らの打ってるとこ、留学生ちゃんに見せろってことか?」
「そういうこと」
そう肯定すれば、おっさん達は得心がいったように頷く──といった事は無かった。
「いや、見るよりも実際に打ったほうがいいだろ」
何言ってんだコイツと暗に言っている様な視線がこちらを貫いてくる。
そうかな……
そうかも……
「要するに、麻雀を体験して貰いたいってことだろ? なら尚更に打ったほうがいい」
「そうだよ」
「それにこれ自動配牌卓だろ? 大丈夫だって」
おっさん達の言う通り、この雀荘に配備している自動卓は配牌まで全自動で配ってくれる。掴み取りして席を決めれば、もうポチっとするだけで配牌が配られてしまう。本来ならば賽の出目を見てチマチマ山から取らねばならないのだが、この自動配牌卓ならその手間を省いてくれるというわけだ。配牌を取れば、自動で山がセットされる。ちょんちょんする必要も無く、ちょんだけでいい。ついでにドラ表示牌も自動でめくってくれる。最高かな。
欠点はお値段がとっても高いという事だけである。自動配牌機能が無い一般的な自動卓が10万を下回るとすると、機能が付いている奴は50万を優に超える。高すぎ……欠点が大きすぎる。最高じゃ無かったわ。
ともかく。確かに手打ちの環境としては最良の物が揃っている。
エイスリン先生を観察するに、彼女は麻雀初心者の様な気がした。物珍しそうに牌を触る手が、私は初心者です! と言っている様な気がした。ならばいきなり打つよりかは見に徹していたほうが良いのでは、と自分の中で勝手に結論付けていたが、何事も経験からという格言もある通り、実際に触れてみるのが一番なのかもしれない。
「なら打って貰うか」
籠から風牌を四つ拝借し、裏返して適当に卓の上に並べる。
ささ、先生どうぞお好きなのを選んでください。
「
冬場の池に張った薄氷を踏む思いかの様に、エイスリン先生はおずおずと麻雀牌へと手を伸ばす。
うむ。今きっと先生の心中には大きな期待が渦巻いている事だろう。その華やぐ心を表情に隠しきれていない。こういうのは最初が一番ワクワクするんだよね。初めて牌を持った時は自分もこんな感じだったのだろう。
昔を思い出すなあ……。
「なに黄昏てんだよ。お前も打つんだよ」
「えっ」
何やら後方で腕組みしたい気分だったが、おっさん達に現実に戻される。
えっ。
「もしかして怖いのか?」
「緊張してんのか~?」
「若いねえ」
各人がこちらを捲し立てる様にして煽ってくる。う、うるせえ……。
ここに居るのは合計五人。四麻を打っている様子を一人後ろから眺めていようと思ったが──そこまで言うならやってやろうではないか。あ、ノーレートでお願いしますね。
ディーラーは最後に残った牌を取ると決められている。
エイスリン先生とおっさん二人が牌を取ったのを見て、最後の一枚を掴み取った。
親同士の付き合いから両親が麻雀好きとなったエイスリンちゃんは、ある程度既に打てる様になっているとする
既に能力も使える様になっているとする(絶望)
現代だとガッツリ風営法に反してるんですが、そこは咲の世界ということで