大天使エイスリンちゃんに罵倒されながら国際交流する話   作:アライ

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アニメに有ったエイスリンちゃんのぐちゃぐちゃした河は再現できなかったのでご想像におまかせします

大天使に罵倒してもらうにはこうするしかなかった
反省している


エイスリン先生と接待

 麻雀といえば、色々縛りがあったりローカル役があったりと、場所によってルールが違うものだろう。よく聞くのは、後付けはありかどうか。赤は入れないか、入れるとしても何枚か。重ね役満はありか。おおよそ考慮すべきはその辺だろうか。細かい話かもしれないが、これを無視してしまうと無用な諍いが発生してしまう。

 

 今や世界的な競技である麻雀にはそれを防ぐ為に、世界共通のルールがある。あるらしい。まじですか。

 

 オカありで25000点開始の30000点返し。ウマはなし。祝儀と焼き鳥もなし。アリアリで一発はあり。

 満貫の切り上げは無しで、チートイは25符2飜。

 ドラは赤、裏、槓、槓裏すべてあり。槓ドラは暗槓のみ即めくり。赤は4枚。

 

 他にも符計算や、役の成立、リーチ供託とか色々あるが、ここら辺は普遍的なものだろう。だいたいそんな物だ。

 後、よく分からない変な仕様として大明槓の責任払いもある。誰もこんなもの狙ってやる筈も無いのに何故存在するのか、これが分からない。

 

「留学生ちゃんにルールの説明しといたぞ」

 

 難解な制約を、端的に、それでいて要点を逃さず。そんな感じなのだろうか。

 世界共通のルールが既に明文化されているとはいえ言葉で示すのは大変難しそうなのに、おっさんのうちの一人がとても英語が堪能だったらしく、難なく説明をし終えてしまった。

 このルールはここの雀荘のルールとは少々違うが、まあそれはこちら側で何とかなるだろう。

 

「上司の奴が煩くてさ、毎回ト○ックの試験受けてるけど、いつも点数100点付近なんだよね」

「完全に金の無駄遣いだな。全く勉強して無い俺でも500点付近は行けるぞ」

「どうやったら英語話せる様になるんだ? この歳になると頭が凝り固まって叶わん」

「もう諦めた方がいいかもしれんな」

 

 卓を通して向かい合いながら駄弁っているおっさん達を他所に、牌を卓の底へ流し込む。じゃらじゃらと愉快な音が鳴ったと思えば、すぐに13枚の配牌が底から上がってくる。

 当然の如く理牌はする必要はあるが、やはり総合的な準備時間は全自動配牌だと早い。ストレートで半荘が終わったとしても、従来機よりも約5分程度短縮が見込める。卓の料金は基本的に時間制なので打ちに来た人間誰しもが、より多くの回数を打ちたくなるというものだ。

 

 対面に座ったエイスリン先生を見やる。彼女は配牌を恐る恐る囲い込む様にして表に返したと思えば、休む間もなく底より這い上がってきた牌山にびくりとしていた。とても初々しい。

 

「...!」

 

 抱き込んだ牌を眺めている彼女は何も言葉を発しない。ただその手は機械的に、それでいて表情は情緒的に。いまや完全にその世界へと入り込んでしまっている。

 

 さて、そろそろこちらも理牌しますか。

 

 

 

東1局 ドラ{④}

 

 北家 配牌

{二二五六七七八九九⑦58中}

 

 席は北家となった。

 配牌は……ドラは無いものの、かなり良い手が狙えそうだ。伸びとか以前に萬子の形が中々に素晴らしい。染め手で決め打ちすればほぼほぼ跳ねるし、入り次第では倍満も普通に行ける手だ。たとえ萬子が入らなくても、鳴いて手を進めれば良い。

 なんだこの配牌、最高かな。

 

Mmm...(むぅ……)

 

 来たる未来に想いを馳せながら第一ツモを心待ちにしていると、何やら対面に座るエイスリン先生がこちらを一瞥し、悩ましげな声を出した。

 いけないいけない。無表情を努めていた筈なのだが、もしかして顔に出ていたのだろうか。これでは良い手が入ってると言ってる様なものだ。次からはよりポーカーフェイスでいかねばなるまいな。

 

「...」

 

 エイスリン先生は緊張しているのか、かなりの間長考すると親指と人差し指のみを使って牌を掴み、そのまま(なげう)つ様にして牌を河へと切り出していく。

 続く西家のおっさんも、手出しのオタ風を外切りで河へと放った。

 

 自家 手牌

{二二五六七七八九九⑦58中} ツモ{3}

 

 最初のツモ番。入ってきたのは重ならない牌。

 まあ、そんな簡単には引けないか。とりあえず、形になるまで待つとしよう。

 

 打{8}

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東1局6巡目

 

 自家 手牌

{一二二五六七七八八九九九⑦} ツモ{四}

 

 一転して早い順目で完成形に近付いてきた。受け入れの数も中々に多い良手。

 こんなにも素晴らしい良形を早期で形作れるのは久方ぶりだ。

 当然、{⑦}をノータイムで切り出す。

 

 

 

 東1局7巡目

 

 他家は特に動きも無く、そのままツモ番が回ってきた。

 

 自家 手牌

{一二二四五六七七八八九九九} ツモ{二}

 

 持ってきた牌を視認して、思わず震える。なんだこの手牌は、最高かな……?

 およそ自分が描いた()()に近い牌姿が目の前に存在している。余りにも無駄ヅモが少なすぎる。どうやら今日はかなりツイているようだ。

 役こそチンイツが確定するのみだが、待ちはかなり広い。三萬ならば役が増える可能性も一応有ったが、それは流石に高望みし過ぎか。

 このツモは恐らく、枚数が最大の待ちになる。今日はコレ、和了っても良いんですよね。

 

 

 

 ……

 

 

 

 ……本当に良いんだろうか。

 

 

 

 

 

 少し逡巡して場を捉え直す。

 

 明け透けに言えばもろ舐めプなのだが、麻雀が娯楽として蔓延るこの世界には、接待麻雀という概念がある。その名の通り、対戦相手を接待する麻雀だ。放棄をしない程に静やかに勝ち、負ける時は派手に負ける。それによって相手をヨイショするという概念である。麻雀をする者はよほど気がおかしく無い限り、誰しもが一着になって気持ちよく勝ちたいと思っているものだ。

 

 熱しやすく冷めやすい──まるで薄い鉄を表した様な言葉は、初心者を表す言葉としても最適である。その中でも一番形容し易いのは格ゲーの初心者辺りか。

 例えば、コンボも知らない始めたての者を中級者がボコボコにしたら、果たしてもう一度立ち上がって挑んでくるだろうか。考えなくとも答えは簡単に導き出されてしまう。もしそんな事をすれば、一瞬で熱が冷め、何処かへ去ってしまうだろう。麻雀だって同じ話だ。酷く打ちのめしてしまえば、続く物も続かないかもしれない。

 

 若輩者ながら雀荘の店番を任されている時がある自分は、往々にしてメンツの補充役となり客の相手をする事がある。過去に子(自分よりも年下)を連れてきたお客さんに一緒に打ってくれと頼まれた時に、確かその時は何も考えずにボコボコにしたのだったか、ガチ泣きした子を諫めるのに奔走したその夜、決して勝つだけでは成せない麻雀の概念を父からとくと教えられたものだった。

 父曰く、客のリピート率(麻雀という家に対する帰巣性や単純な来店率も含む)を上げてもらう為に初心者の相手を頼まれた時は程よく手を抜かなければならないらしい。ホームステイしているエイスリン先生は厳密に言うと客という枠組みには入らないのだが、同じ様なものだろう。彼女は、初心者だ。

 

 不誠実かもしれないが、理想とは違い、時にはこすい手段が後になって実を結ぶ事もある。

 何事も実直に成せる訳ではないのだ。

 

 対面に居るエイスリン先生を見やる。

 

Mmmmmm~♪(ふんふふ~ん♪)

 

 最初に眉をひそめていた時とは一転して、るんるんと鼻歌を歌うまでにニコニコしていた。彼女の心行きを体現しているのだろうか、愛用品であろう耳に挟んでいるホワイトボードの赤ペンが、彼女と一緒になって揺れている。

 そんな彼女を見ていると、目が合った。

 

Hmm?(ん~?)

 

 企みを知らずか、彼女は花が咲き誇った様な微笑みをこちらに返してきた。それは何も知らない、無垢な瞳を含んでいた。

 非常に気まずい。今しがた遂行しようと企てている行為が、有ってはならないとても邪悪な念だと思わされてしまう。いや、その通りなんだけれども。

 罪悪感から逃れる様にして視線を下に逸らす。

 

 すると、河が見えた。

 

 河。エイスリン先生が切った捨て牌の纏まりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 河:エイスリン

{西北2発9白}

{1}※めっちゃきたない

 

 

 

 

 ──なんだこれ。

 

 

 自分の手牌ばっかり目が行ってあまり意識していなかったが、捨て牌の角度がぐちゃぐちゃで河めっちゃ汚いな。どうなってんだこれ。どうにかして整列させたい。確かに河を整理しない人はそこそこ居るが、限度という物がある。見てられん。立場上、河が汚いのは滅茶苦茶気になるのだ。行こう。我慢ならん。早くこの局を終わらせて上手に並べて貰わねば。なんか手加減云々どうでも良くなってきた。余りに河が汚過ぎて。

 

 前言撤回。

 リーチせずには居られないな。

 

「リーチ」

 

 

 自家 手牌

{二二二四五六七七八八九九九} リーチ{横一}

 

 手出しの{一}を曲げながら河へ切り込む。5種{三六七八九}待ちの変則多面張。

 河は萬子が非常に高いので出和了りは期待出来ないが、それはダマでも同じこと。欲しい所がガッツリ入って来たので早めに字牌を切り出したが、テンパイ後に少々長考したせいで恐らく上家と下家にはチンイツを張っているとバレている。ならばリーチを控えても変わらない。

 ツモのみとすると、これで倍満確定だ。

 

 宣言を有効にする為、箱を開けてリー棒を取り出した──

 

 

 

 

 

Ron!(ロン!)

 

 

 

 

 途端に軽やかな発声が聞こえてくる。語尾を少し早めに切り上げている独特な発音だった。

 場所は座った先にある、トイメンから。

 

 

 

 え?

 

 

 

 南家 エイスリン 手牌 ドラ{④}

{二三④⑤⑥⑧⑧赤556677} ロン{一}

 

 エイスリン先生は満面の笑みもといドヤ顔で牌を倒した。

 すると何故かずっと首に掛けていたホワイトボードと、耳に挟んだままだったペンを手に取り、何やらすらすらとボード上に書き始める。

 

 あれ、点数申告は……?

 

【 7,700 】

 

 そして、こちらへ掲げた。

 ピンフイーペーコードラドラで7700。これをヤミテンで隠し持っていたのか。しかも早い。こんなん分からんわ。高めでタンヤオも付くしリーチして跳ねるのを狙ってもいい手だが、チンイツを警戒したのだろうか。

 綺麗な手役だ。そして綺麗な数字だ。数字ってやっぱり三ケタで区切るんだね。

 いやいや、わざわざ書かなくても分かるぞ。

 

I thought you might not hear me.(分からないかもと思って。)

 

 そう考えれば、エイスリン先生は心を見透かしたかの様な蒼の瞳を返してくる。

 ……もしかして、英語で言う7700の点数申告が聞き取れないと思ったのだろうか。

 さ、流石にそれぐらい分かるし。初歩中の初歩だから、いかなる状況でもちゃんと聞き取れるし……。

 

 

 

 ……いや強がったかもしれない。正直、本場の積棒が加算されたら聞き取れない可能性がある。1000点の三本場は1900みたいなのを英語で言われたら確実に硬直するだろう。いや、それ以前に単発でも普通に聞き取れないかもしれない。

 英語が苦手なのを考慮してくれたのですか。

 エイスリン先生は優しいのですね……。

 

 涙が出ますよ。

 

「おっ、ありがたいねえ。おじさん、英語苦手だから書いてくれると助かるなあ」

「英語苦手でも点数計算は可能だろ」

「最近、老眼が出始めてね……すぐに手役を把握するのは苦手になっちゃった」

「分からんでもない」

 

 雑談を始めたおっさん達を横目に、はよ点棒よこせとエイスリン先生は微笑みをこちらへ飛ばしてくる。

 はい……。

 

 最近の自動卓ではパネル式で点の受け渡しを行える物もあるが、この雀荘では現物を使う事にしている。よく分からない拘りだと言われるかもしれないが、そういうものである。

 

「どうぞ……」

「...♪」

 

 なけなしの赤いのを一本渡すとエイスリン先生は点棒を見て少し考え込んだ後、青いのを二本と白いのを三本こちらへ渡してきた。2300バック。

 7700は払い方に諸説あります。これがあるから満貫の切り上げ採用が検討されるんだよね。ちなみに上家と下家のおっさん達はさも当然かの様に10200を渡して、2500を要求してくる時がある。舐めてるな。

 

 

 ……少し頭を冷やす。

 ……あれ? そういえば、エイスリン先生の一連の行動がほぼ経験者の動きなんですがそれは……。

 もしかして、彼女って初心者では無い……?

 どういう事なの……。

 

 と、とりあえず、これは本気を出さねばなるまいな……。

 

「お前さあ、もしかして留学生ちゃんを接待するつもりだったの?」

 

 そんな決意を抱くやいなや、卓から外れ全員の牌姿を眺めていたおっさんがこちらへ尋問してきた。このおっさんは英語を使ってエイスリン先生へルールの説明をしたおっさんである。常連さんなので、勿論名前は知っているが──何となく呼ぶのが癪なので、英語つよつよおっさんとニックネームを付けて呼ぶ事にする。

 

「そ、そんな事は──」

「表情に出てたぞ」

 

 英語つよつよおっさんは、歳の割には良く動く表情筋を存分に扱いながら、ニタニタとこちらへ笑いかけてくる。歳の差はあれどそこそこ長い付き合いだから、やっぱりバレるものはバレるんですね。でも、中年のおっさんの笑みなんか好き好んで見たくはないぞ。

 

「接待するつもりだったが、予想以上に強くて焦ってるという訳か」

「そ、その様な事は……」

「時と場所と、ついでに人を考えろよ」

「未遂だから……」

「でも一度は考えたんだろ……? それってかなり失礼だぞ?」

 

 未だ和了の余韻があるのか、僅かに嬉し気な面構えを見せるエイスリン先生を、ちらりと横目で見やる。よし、こっちにはバレてないな。日本語が分かってたら恐らくこの会話も聞こえていただろう、間違いなく大変な事になっていた。

 

「俺は曲がった事が嫌いでね……」

 

 チッチッチッと指を左右に振るジェスチャーを英語つよつよおっさんはした。それはまるで赤子を諭す様な物言いだ。おい、何が曲がった事が嫌いだ。日頃の行いを棚に上げやがって。曲がった事が嫌いなヤツは賭け麻雀なんかやらないぞ。

 

「まあ何が言いたいかといえばな……ふっ。──I'm gonna tell on you.(チクってやるということさ(笑))

 

 英語つよつよおっさんは会話の最中で、途端に使用言語を英語へと転化させた。ゴナテル……? ゴナテルってなんだ?

 もう英語使うのはエイスリン先生だけで良いよ。

 ……なんか嫌な予感がしますね。

 

 

 戦々恐々としていると、バイリンガル英語つよつよおっさんはエイスリン先生の元へ行き、何かを彼女へ耳打ちした。何故かこちらを指差しながら──

 お、おい。人を指差しちゃいけないって昔習わなかったのか……。

 

 

 話を聞いたエイスリン先生は何やらぽかんとしていた様子だったが、次第に口角が下がり始め、ついには何もかもを氷尽くしてしまう様な絶対零度の面持ちとなってしまう。

 

What did you mean...?(えっ、どういう意味ですか……?)

Just a few minutes ago...(先程ですね……) he brew mischief... (彼がとある悪事を企んでまして……)

Is that so...?(それ本当なんですか……?)

Yes,(はい、) he was trying to take it easy on you.(アイツあなたに手加減を試みてましたよ。)

Oh yeah, very funny...(……なるほど、とっても面白いですね……)

 

 話していたエイスリン先生がこちらへ向き直る。油が切れた蝶番の様に、こちらもギギギと彼女へ向かい直った。

 

Okay,(……) You'll rue the day......(後悔する事になるよ……)

 

 顔を下に降ろして少し肩を震わせたと思えば、彼女は先程とは一転、にこにこと笑う様になった。

 

I've never seen such a TWERP like you.(こんなお馬鹿さんは初めてだよ。)

 

 表情は笑っている。しかし、目が笑っていない。

 ちょっ……もしかして本当に彼女にバラしたのだろうか……!?

 いやいや、確かに手加減しようかなとは思ったけど、一瞬だから! 一瞬の事だから!

 

YOU HAVE UNLEASHED KIWI'S RAGE!(私の事、怒らせちゃったねぇ……!)

 

 しかし、そんな心行きは彼女には伝わらない。いや、伝えられない。

 今、この時以上に己の英語力の無さを恨んだ事は無いだろう。

 

 語気を強めて言の葉を紡ぐエイスリン先生。牌を暗い闇の底へ落とし入れた後、彼女は賽を振る。

 まだ東1局が終わったばかり。麻雀は続いているのだ。

 

Let's keep going...(さあ、次いこ……?) you won't get away with this♡(逃さないよ♡)

 

 次は彼女の親番である。

 蛇に睨まれた様な気がして、思わず震えた。

 




エイスリンちゃんの能力とかあれこれ

・配牌から理想の牌譜を描き出す能力(卓上全員)
 全員の配牌、最終形が見える

 聞くととても強そうだが悲しいかな、誰かの牌が鳴かれるだけで効果が無くなってしまう(再発動は一応可能)
 また、ここで言う理想とは本人の経験に裏打ちされた意向が強く、鳴かれずともエイスリンちゃんが考える理想から外れた打ち方をされるだけで止まる
 三色信者と七対子信者が最大の敵

 怜ちゃんに少し近いが、最終形が見えるだけで次に来る牌が確定してる訳ではないので、リーチ一発ツモみたいなのはできない


 なぜか原作のエイスリンちゃんにはリーチ描写が全く無い
 ダマが好きな女の子の影響か、先負のオカルトを持つ女の子のせいか、それとも……

 ここではリーチしない彼女のスタイルを反映しております
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