ひどく居心地が悪い。
視線は頭上で固定され、
手も足も動かない。
身体の感覚もなく、
匂いもなく、音もなく、
ただ暗い。
五感の何とも分からない不愉快さが
意識を覆っている。
辛うじて見える世界は
赤黒い空と焼けるような泥の海。
男は泣いていた。
目の前には誰もいない。
男は自分自身だ。
だが男はと思った。
男には必要な誰かが居ない。
自分には必ず居る。大切な誰かが。
男はそれに泣いている。大切な彼女がない。
そのことを。
酷く目覚めが悪い。
カルデアのマイルームで起きる。
いつもの背景。
目は覚めているが、頭が重い。
気持ちがそのままベッドに沈む。
ドアが開く音。
「お目覚めですか。マスター」
「起きてるよ」
いつものやり取りにほっとした。
「管制室から呼び出しです。
昨日未明から微小特異点と思われる
反応が現れました。
先ほどから数値が跳ね上がり、
異常な強度になったとのことです。
準備が整い次第
ダ・ヴィンチ司令代理から説明があるそうです」
「わかった。すぐ行くよ」
カルデア管制室。
「現在、この特異点は規模を維持したまま
着々と特異点としての強度を増している。
まるで初めから有ったものが、
ひょっこり出てきたみたいにね。
これはここ数ヶ月対処してきた亜種特異点とは
異なる現象だ。
ある意味去年一年の
主要な特異点より厄介かもしれない。
何故だか、
2017年現在のブリテン島に出現したこの特異点は
我々の人類史にピッタリくっ付いている。
現地の調査員からは特異点とは異なる
特殊な結界が張られていてカルデアで
観測出来ている以上の情報は確認出来ないそうだ。
シバがあるからこっちの方がよくわかってるってさ。
冗談じゃないよね。
さて、不幸中の幸いとして
時計塔からほどほどに離れた場所に出来ているから、
あちらの干渉はなし。
例によってよくわかんない厄ネタより
身内の揉め事の方に集中したいってね。」
あきれた様に軽口を言っているが、
ダヴィンチちゃんはあまり笑っていない。
「以上により、
同行サーヴァントを同行させて
すぐにレイシフトしてもらう。
ただ,,,,,,,今回の,,,,,,
特殊,,,,,一定の,,,,,,,,同行出,,,,,ない
すまないが,,,,,,,こち,,,,,,選りすぐ,,,,,,,
用意,,,,,,」
意識が暗転していく、
どんどんダヴィンチちゃんの声が
聞き取れなくなっていく。
「せ,,,,ん,,,,,ぱ,,,,,,,,,,,,,,い!!」
レイシフトの光が見える。
特異点へ意識が飛んでいく。
「はっ・・・・・!!」
冷や汗が出た。
レイシフト前に気を失うなんてめったにない。
焦りで脈拍が上がっている以外は問題ない。
レイシフトを実行している事も考えると
忘れているだけで 問題なく
行動出来ていたのかもしれいない。
辺りには森が広がっているが
霧で遠くまではよく見えない。
「大丈夫?マスター」
「むぎゅ」
柔らかいものが後頭部にあたる
「うわっ!!!」
「ご、ごめんなさい!
安心させようとしたら逆効果ね!」
マタ・ハリが困ったように笑っている
「いや大丈夫。ありがとう。
今回のメンバーはマタ・ハリだけであってる?」
「いえ?まさか!私だけじゃ何も出来ないわ
シグルドが今辺りを見て回ってるの
でも、私たちはカルデアのサーヴァントだけど
この特異点に呼ばれちゃった みたいなの。
私たちが合流した時には一人だったわ」
「そうなんだ。
ダヴィンチちゃんの説明では
誰かと一緒に来たみたいだけど、
早く合流しないと。」
「ええ。そろそろシグルドも戻ってくる頃よ」
「二人とも、周囲の警戒を。
当方の前方に敵影1。 かなり現地に慣れている。
ルーンを行使して偵察していたが
微かな痕跡から着実に近寄ってきている。
周囲に建物等の身を隠せる場所はなく、
交戦は避けられない。
当方の未熟さもあるが、
あちらの情報収集能力の高さは驚異的だ。
特異点の結界も彼のものかもしれないな・・・。」
「了解。
相手がこちらの位置を特定するまえに先手を取ろう」
「当方もそう考える。
現在残してきたルーンで敵の位置ははっきりわかる。
マスターたちはそこの茂みに身を隠しておいてくれ。
姿隠しのルーンも渡しておく」
「分かった。気を付けて」
「頑張ってね」
「了解。敵影を排除する」
木の枝を伝い、敵の頭上近くまで接近する。
本来戦士の戦い方ではないが
現状の戦力を考えれば
致し方ない。最善手である。
短剣を持ち、一撃で相手の霊核砕く。
敵へめがけて宙に浮こうとした瞬間。
「疑似接続。宝具召喚。
焼き尽くせ『■■■■■■■■』!!!」
「何ッ?!」
あたりがヒに包まれる。
なんて事だ。
敵はこちらをあぶり出すためだけに
宝具を使用した。
よほど魔力が潤沢なのか、
こちらの数を把握している故の戦術なのか。
兎に角、これを防がなければ
マスター達が一溜りもない。
敵の正面に降りて、
渾身の力と最大限の魔力放出で迎え撃つ。
「瞬間強化!」
マスターからのサポートだ。魔力も上乗せされた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「!!」
敵が慄いた。
多少の負傷はルーンで治せる。
なんとか持ちこたえた。
次は宝具で迎えなければ耐え切れない。
切り分けた火が回りに飛び散るが、
マスター達の位置は死守した。
続く手を防ぐためにすかさず加速。
破滅の黎明で大袈裟。
柔らかい動きでいなしてくる。
剣戟のなか、相手の姿が明らかになった。
黒い鎧姿。腰に長剣を携えて、
ガラディーンをふるっている。
顔は髪と兜で見えないが
おそらく2,30代ほどの肉体の男。
我々の時代のものとは違う、
合理性に特化した現代的な剣術。
【挿絵表示】
「相当な使い手だが、貴君はどこの勇士か」
「騎士ではないので名乗る気はない・・・・。
騎士道を貫く気もない」
そういう彼の剣技は騎士と呼ぶにふさわしい
堅実で抜け目のないものだった。
突然、上から声がする。
「あいよ。旦那。」
緑の外套の弓兵が木の上に現れ矢を放つ。
まっすぐマスターへ向かう矢を追うべく、
目の前の騎士の剣戟を退け、
大きく押しのけ後方へ駆ける。
だが矢には間に合わない。
「キャアアアアアアアアアアアア!!」
「マタ・ハリ!!」
一瞬マスターが射貫かれなかった事に安堵するが
すぐに焦りがもどる。
矢は彼女の霊核のすぐ下に
深々と突き刺さっている。
叫び声をあげた彼女はそのまま気絶した。
木の上の弓兵に短剣を投げつけると
「おおっと、あぶないあぶない」と霊体化して消えていく。
短剣に刻んだ浄化のルーンで霊体を追撃する。
黒い騎士が間に入り太陽剣で防ぐ。
慌てて黒騎士の後ろで 実体化する弓兵。
短剣を弾いた火の後ろに身を隠し姿をくらませる。
ルーンを刻んだ短剣を投げて索敵するが、
かなり距離が離れていて 追撃できない。
確実に徐々に戦力を奪っていく作戦かもしれないが
一先ず戦闘を終えた。
「マスター、そちらの容体は」
「矢は抜いて回復させたけど
意識が戻らない
木の上に見えたのはロビンフッドだった。
毒矢だろうけど 、
解毒出来る礼装じゃない。」
「ひとまず、サークルを設置して
カルデアとの連絡を図ろう」
「わかった。
そういえば連絡も今出来ないのか・・・。
今日は凄い抜けてるかもしれない。」
「いや先ほどの強化は助かった。
突然の事態故致し方無い」
マスターの肩に手を置き、
マタ・ハリを背負って進む。
サークル設置。
ダヴィンチちゃんと連絡を取る。
「了解した。マタ・ハリはこちらで回収する。
ただ、弱っているせいかマタ・ハリの霊基が
こちらのものと一致せずに エラーが出て戻せない。
なんとかしないと。」
「俺も一度一緒にもどる?」
「いや、レイシフトの際に特異点の結界に干渉された。
レイシフト後のトラブルはそのせいだ。
今は結界が展開しきっているから
次向かった時には 敵の罠に直行
ってことも有りうる。
それは避けたい。」
「うぅ・・・・・。」
酷く汗をかき苦しむマタ・ハリ。
「・・・! 令呪を持って命ずる
カルデアに戻っていてくれマタ・ハリ!」
「!。おっけい!
令呪の反応がアンカーになって
計器がとらえた!
部の悪い賭けだったけどうまくいったね!
よし!回収完了!」
「よかった!」
安堵に胸をなでおろすが
話を次へ進めなければならない。
「先輩と特異点へ向かったサーヴァントは
ランスロット卿のみです。
なぜか他の方々は レイシフトできず、
こちらの調査ではシグルドさんも
レイシフト不可能でした。」
「うむ、
当方もいつの間にか召喚されていて、
召喚前カルデアで なにをやっていたか
思い出せない。
レイシフトに干渉する結界といい、
敵はかなり周到にこちらに攻撃を
仕掛けているのかもしれない。」
「やれやれ、こういう時こそ稀代の名探偵が
必要なのに特異点の情報が一通りわかったら
倉庫に閉じこもってしまってね。
まったくもぉ!」
「それと特異点内部にもう一層結界があり、
結界の外に出るとサーヴァントが
活動できなくなると思われます。
ただ先輩たちはその結界の内側にいるので
現状大きな影響はないかと。
こちらで観測できる限り
ランスロット卿も内側に入っています。」
「まぁ、周りにかかってる霧が
何らかの魔術によるものみたいで
今わかってるのはここまでだ。
悪いが地道に探索してない地域を調べていくしかない。
強度が強いだけで規模は小さめなのが
不幸中の幸いだね。」
「フィールドワークは慣れっこだから大丈夫!」
「そう言ってもらえると助かるよ。
シグルドも頼んだよ」
「任されよ」
そうして一行は
深い霧の森の奥へと進んでいく。
薄明かりが窓から流れる白亜の石の一室。
ロビンフッドと男が腰かける。
「ふう、やっと戻ってこられましたね。」
「あぁ自分たちの居城に戻るにも一苦労だ。
なんせ道が覚えられないから、
お前が居ないと遭難する」
「はは、ご冗談を」
頼られているのを
飄々と躱そうとしたが、
ふと気づき
やってしまったと顎に手をやる。
「今のところは計画通りだが
一先ず二人に任せるしかない。
出番まで好きにしていていいぞ」
「て言っても、
サーヴァントですし、
ここ何もないし
旦那と話してるのが一番ですよ。
もうフェルグスの兄さんは出撃済み。
ベオウルフ、ダビデは待機中。
フィン・マックールは逃げたランスロットを
追っている最中。その他も作戦通り。
結界の外の奴も当然動きはなしっと。
まぁ俺が言わなくても
地脈経由で全員とパスつながってる旦那には
全部伝わるとおもいますけど」
「状況の確認は重要だ。
いつも助かってる。」
「いえいえ、しがない義賊ですんで
どうぞお気軽に」
そう言い、ロビンフッドは舞台役者のような
大袈裟な手ぶりでお辞儀する。