愛讐越界特異点カムラン   作:Pon_De_hutago

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2章 虹の先にあるもの

 フィールドワークを続けているが

森ばかりで何も見つからない。

カルデアからマシュが地道に

マッピングしてくれているから

迷わずに済んでいるけど、

やはり霧(きり)をどうにかしたい。

ランスロットは反応が出たり

消えたりしていて、 位置も都度(つど)大きく

変わるためすぐに合流は難しいそうだ。

 幸(さいわ)いなことにシグルドが

いつもより調子がいいようだ。

膨大(ぼうだい)な魔力(まりょく)が適切(てきせつ)に流れ込んでいるらしい。

シグルドの考察(こうさつ)では

特異点(とくていん)外周(がいしゅう)に沿(そ)って張(は)られた結界(けっかい)は

魔力(まりょく)の流れを気流(きりゅう)のような流れで

コントロールしているらしく

異常(いじょう)に大気中(たいきちゅう)の大源(マナ)が濃(こ)いらしい。

ダヴィンチちゃんの計測(けいそく)によると

第七特異点(バビロニア)よりちょっと数値(すうち)が高いとか。

おかげでサーヴァント自身の魔力(まりょく)で

完結(かんけつ)出来るから一戦(いっせん)した割に

ほとんど疲(つか)れがない。

「マスター、敵(てき)が現(あらわ)れた。

霧(きり)の性(せい)かこの距離(きょり)まで気づかなかった。」

大きな剣を持った大傷のある大男。

フェルグス・マック・ロイが

そこにいた。

攻撃するそぶりもなく、

堂々(どうどう)とそこにいる。

「俺の名はフェルグス・マック・ロイ!

アルスター時代(サイクル)はコノート最強の騎士(きし)で

ご覧(らん)の通(とお)り色男(いろおとこ)だ!

貴公(きこう)らにはここで死んでもらう。

もっともこの特異点(とくていん)に関与(かんよ)せず、

手を引くならその限(かぎ)りではないがな」

押しつぶされそうなプレッシャーを放(はな)ちながら、

小さくえくぼを浮かばせる。

「悪いけど、それは出来ない。

この特異点(とくていん)を修正(しゅうせい)しないといけない」

「そうか。その決断(けつだん)に敬意(けいい)を。

まぁ悔(く)いの無いようにやってくれ」

フェルグスが構(かま)え始める。

「シグルド頼(たの)んだ」

「委細(いさい)承知(しょうち)」

両雄(りょうゆう)が剣先(けんさき)を結(むす)ぶ。

 剣戟(けんげき)から始まったが、驚(おどろ)くことに

当方の方が膂力(りょりょく)、スピード共に

上回(うわまわ)っているのに

巧(たく)みな剣技(けんぎ)ですべてい(・)な(・)された。

称賛(しょうさん)するしかない。

辛(かろう)うじて距離(きょり)をとりルーンによる攻撃に

切り替えるも相手の剣が鞭(むち)のようにし(・)な(・)り(・)伸びる。

投(な)げた短剣も弾(はじ)き落されてしまう。

ルーンを刻(きざ)んでも虹霓(こうげい)が光(ひか)りかき消されしまう。

「どうした戦士(せんし)、打(う)つ手(て)なしか?」

おまけにすぐに距離(きょり)を詰(つ)められる。

「ゲオルギウスを出す!」

マスターがシャドウサーヴァントを召喚(しょうかん)。

当方とフェルグスとの間(あいだ)に入り入れ替わり(スイッチ)する。

「今のうちに立て直しを!」

「承知(しょうち)した!」

 周囲(しゅうい)にありったけのルーンをばら撒(ま)き、

竜(りゅう)の炉心(ろしん)を加速(かそく)させ、最大限(さいだいげん)魔力放出(まりょくほうしゅつ)をする。

渾身(こんしん)の力で破滅の黎明(グラム)を振(ふ)り下(お)ろす。

 

 まいったな・・・・。

我がマスターは優秀(ゆうしゅう)過ぎて、

ま(・)い(・)っ(・)て(・)しまう。

敵(てき)の数を制限(せいげん)し、そこから更(さら)に分断(ぶんだん)。

霧(きり)で合流を妨害(ぼうがい)し

敵(てき)は単独(たんどく)で戦(たたか)うしかない。

おまけにこちらは結界の効果で

地脈(ちみゃく)の魔力(まりょく)をまるまる使えるようなもの。

これじゃ戦う前から勝ったも同然(どうぜん)ではないか。

正直、手ごたえがない。

おかげで余計(よけい)な事を考えてしまう。

 

 今のマスターに付いたのはもう1年以上前だ。

人理修復(じんりしゅうふく)の任務(にんむ)を遂行(すいこう)していた男には妹の様に

可愛(かわい)がっていた少女がいた。

全ての特異点(とくいてん)を修正(しゅうせい)したあとの戦いで少女は

死んでしまったらしい。

俺は同じ戦場(せんじょう)にはいたが、

同じ場所には居なかった。

不甲斐(ふがい)ない。

見事(みごと)人類史(じんるいし)を救(すく)った彼は、勝利の美酒(びしゅ)が

与(あた)えらるはずが、絶望(ぜつぼう)に堕(お)ちた。

その後、任務(にんぬ)を終(お)え俺たちは退去(たいきょ)した。

が、その後再召喚(さいしょうかん)された。

この特異点(とくいてん)に。

目的は少女を蘇(よみがえ)らせるためだそうだ。

魔術(まじゅつ)に弱い俺にもわかる。

そんな事は不可能だ。

少女は普通(ふつう)に殺されたのではなく

マスターを守るために焼き消えたそうだ。

スカサハはクー・フーリンの息子コンラに

生き物を生き返らせる魔術(まじゅつ)を授(さず)けたそうだが、

遺体(いたい)がないものは神代(しんだい)の魔女(まじょ)でも無理らしい。

だが男は言った。可能だと。

男は自分が持(も)ち得(う)る全てのリソースを費(つい)やし

膨大(ぼうだい)な計算により

不可能な魔術式(まじゅつしき)の構築(こうちく)に成功したらしい。

もっとも、

この人理(じんり)が不安定な状況(じょうきょう)あ(・)っ(・)て(・)の(・)ものだとか。

 男には辛(つら)く苦しい試練(しれん)を

達成(たっせい)した栄誉(えいよ)があった。

守(まも)り切った世界があった。

だが男はそれら全てを投(な)げうち、

この特異点(とくいてん)を作った。

人類史(じんるいし)を終(お)わらせるためじゃない。

少女を蘇生(そせい)させる装置(そうち)として。

男に帰る世界は最早(もはや)無い。

この計画のため

消費してしまったらしい。

男は世界を救(すく)った英雄(えいゆう)だ。

英雄(えいゆう)がそこまでして

一人の少女を助けようとしている。

 それだけで

同じ英雄(えいゆう)として手を貸(か)すには十分だ。

だから気が乗らない戦いにも身を投(とう)じる。

今この瞬間(しゅんかん)も。

 

 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

シャドウサーヴァントとの打(う)ち合いの

合間(あいま)に巧妙(こうみょう)に入り込む。

破滅の黎明(グラム)がトップスピードで降りかかる。

これはいなせない。だが・・・・。

「『虹霓剣(カラドボルグ)!』」

瞬間(しゅんかん)、辺(あた)りは虹色(にじいる)に包(つつ)まれ、

太陽の魔剣(まけん)は吹(ふ)き飛ばされた。

 

 「ぐわあッ!!」

虹霓剣(カラドボルグ)に吹(ふ)き飛ばされたが、

着地(ちゃくち)したのは先ほどの地面ではない。

さっきまで立っていた場所は

大きくV字に裂(さ)け、地表(ちひょう)が露(あら)わになっている。

その生まれたばかりの斜面(しゃめん)に

宙(ちゅう)に浮いた身体(からだ)が引(ひ)き戻(もど)された。

 体中(からだじゅう)が裂(さ)けている。

ガッツが無ければ終わりだった。

周りに配置(はいち)していたルーンも

クッションになったがほとんどは

虹(にじ)の光と共に消えてしまった。

 崩(くず)れそうな胸(むね)から竜(りゅう)の炉心(ろしん)を

無理やり加速(かそく)させて回復(かいふく)を図(はか)る。

「シグルド!」

「マスター!!こちらには来るな!!

急(いそ)ぎ次のシャドウサーヴァントの召喚(しょうかん)を!!!」

「マスター!

シグルドさんの霊基(れいき)がもう持ちません!

即刻(そっこく)撤退(てったい)を推奨(すいしょう)します!」

マシュからの通信(つうしん)が響(ひび)く。

「逃(に)げられればな・・・!」

糸目(いとめ)の戦士(せんし)が斜面(しゃめん)を滑(すべ)り下(お)りてくる。

マスターを狙(ねら)われないのは幸(さいわ)いだが、

もう彼と打(う)ち合う余力(よりょく)はない。

マスターだけでも逃(に)がさなければならない・・・・!

今、礼装(れいそう)から応急手当(フローリペア)を起動(きどう)してもらい

多少(たしょう)はマシになったがもう何分(なんぷん)も

持ちこたえれない。

可能性は低(ひく)いが、

もう宝具(ほうぐ)で無理やり逆転(ぎゃくてん)するしかない。

幸(さいわ)い、魔力(まりょく)だけは潤沢(じゅんたく)な状況(じょうきょう)だ。

この場面(ばめん)だけ切り抜(ぬ)けられれば

あとから回復(かいふく)を図(はか)れる。

今この瞬間(しゅんかん)に全力をかけて挑(いど)む。

マスターがシャドウサーヴァントで

援護(えんご)してくれているがフェルグスは

全て軽く流している。

青き炎をたぎらせろ・・・!

「絶技(ぜつぎ)用意(ようい)・・・・!

太陽の魔剣(まけん)よ、その身で破壊(はかい)を巻(ま)き起(お)こせ!!

『壊刧の天輪(ベルヴェルク・グラム)』!!!」

 

この霊基(れいき)に染(し)みこんだ動作(どうさ)。

大地を踏(ふ)みしめて、

破滅の黎明(グラム)に拳(こぶし)を叩(たた)き付ける。

その筈(はず)が、

甘(あま)く見ていた。

引(ひ)き裂(さ)かれた大地の強度(きょうど)は低く

拳(こぶし)をふるうための踏(ふ)み込(こ)みの際(さい)に

大きくガクッと下へ落(お)ちた。

体勢(たいせい)は崩(くず)れ宝具(ほうぐ)は不発(ふはつ)に終(お)わった。

 「やはりマスターの計略(けいりゃく)は優秀(ゆうしゅう)過ぎる。

これだけの英霊(えいれい)がこの様(ざま)とは

いやはや困(こま)ったものだ・・・。」

その時、ゲオルギウスのシャドウサーヴァントが

後ろからフェルグスを

がっしり抑(おさ)え込(こ)む。

彼もガッツで耐(た)えていたようだ。

今にも消えそうな状態(じょうたい)で

本人(ほんにん)さながらの

守護(しゅご)をしてくれている。

この隙(すき)に残(のこ)っている

ルーンを起動(きどう)させる。

勝利のルーン(トゥール)。

地面に散(ち)らばっていた

ルーンを空中(くうちゅう)に投影(とうえい)する。

空気がレンズ状(じょう)に固(かた)まり

しっかりとした足場になる。

もう一撃(いちげき)、破滅の黎明(グラム)を打(う)ち放(はな)つ。

 

 シャドウサーヴァントが後ろから

掴(つか)んできた時は驚(おどろ)いた。

もうとっくに消えていると思っていた。

惜(お)しむらくは 振(ふ)り払(はら)えなくとも

宝具(ほうぐ)は撃(う)てるということ。

 あぁ。マスターの力にはなるが、

何十何百と英霊(えいれい)を屠(ほふ)っては

剪定(せんてい)される世界を潰(つぶ)しているのだ。

止められるものなら止めてほしい。

それでもパスを通(とお)して男の記憶(きおく)が流れる度(たび)に

我(わ)がマスターを救(すく)わねばと 決意(けつい)する。

我(わ)ながら女々(めめ)しい事を考えているな。

男を救(すく)うには願(ねが)いを叶(かな)えてやるのも

一(ひと)つの手ではある。

だが、堂々(どうどう)と健全(けんぜん)な行(おこな)い

と言う事も出来ない。

戦(たたか)いと女にしか頭を使えん俺には正直、

問題が複(ふくざつ)雑過ぎる。

だから問題の解決(かいけつ)手段(しゅだん)があるなら

敵(てき)でもなんでもいい、

やってほしい。

けれども、

我(わ)がマスターに抗(あらが)うには

俺を倒(たお)せる程度(ていど)の能力(のうりょく)が必要(ひつよう)だ。

故(ゆえ)に全力で戦(たたか)う。

負(ま)けたいのに

勝たざる負(お)えないとは

まったく面倒(めんどう)を引(ひ)き受(う)けたものだ。

目の前に居る男の覇気(はき)は凄(すご)い。

彼(かれ)の様(よう)な戦士(せんし)に

勝ってもらいたいものだ。

「  ↑  (トゥール)!!」

眼前(がんぜん)の戦士(せんし)が叫(さけ)び、

大地に刻(きざ)まれたそ(・)れ(・)は(・)宙(ちゅう)に現(あら)れ、

戦士(せんし)はそこに立ち上がる。

再び太陽の煌(きら)めきを放(はな)つ。

身体(からだ)が奮(ふる)い立(た)つ。

久々(ひさびさ)の高揚感(こうようかん)に口角(こうかく)が吊(つ)り上(あ)がる。

全力で迎(むか)え撃(う)っても

更(さら)に勝負(しょうぶ)の見えない感覚(かんかく)。

これで全力で宝具(ほうぐ)を放(はな)てる。

「真(しん)の虹霓(こうげい)をお見せしよう・・・!」

「魔剣(まけん)完了。

貴殿(きでん)の矜持(きょうじ)、見せてもらう。」

口上(こうじょう)の途中(とちゅう)だが耳に残(のこ)る。

なかなかこたる言葉だな・・・。

「これなるは破滅(はめつ)の黎明(れいめい)『壊刧の天輪(ベルヴェルク・グラム)』!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

どうか、

この虹(にじ)が彼方(かなた)の意志(いし)に届(とど)き、

我(われ)らの願(ねが)いが果(は)たされますように。

「虹(にじ)の如(ごと)く、等(ひと)しき無限長(むげんちょう)。されど剣(けん)。

それなるは螺旋(らせん)虹霓(こうげい)!

伸(の)びろ!『極・虹霓剣(カレドヴールフ・カラドボルグ)』!!!!」

虹(にじ)が大地に染(し)みこみ

螺旋(らせん)に伝播(でんぱ)する。

宝具(ほうぐ)を打(う)ち出(だ)す、

戦士(せんし)を飲み込むように。

足場は揺(ゆ)れ、

身体(からだ)は吹き飛ばされそうなはずだが、

戦士(せんし)は全力の攻撃(こうげき)のモーションを

途切(とぎ)れさせない。

だがもう間に合わない。

「主(しゅ)の御業(みわざ)をここに!『我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)』」

優(やさ)しい光が突然(とつぜん)広がる。

あちらのマスターが出した

シャドウサーヴァントの宝具(ほうぐ)か。

シャドウサーヴァントには結界の効果がないから

十分(じゅうぶん)押し切れる出力(しゅつりょく)だ。

だが、押し切ったところで

彼(かれ)の準備が整(ととの)った。

宝具(ほうぐ)が来る。

撃(う)ち放(はな)たれた太陽剣は閃光(せんこう)となり、

俺の霊核(れいかく)に触(ふ)れてくる。

既(すで)に放(はな)たれた剣を

どうする事も出来ない彼は

全ての魔力(まりょく)を投(とう)じて

この一撃(いちげき)に賭(か)けている。

「うおおおおおおおおおおおおおお

おおおおおおおおおおおおお!!

ブリュンヒルデえええええええええええ

えええええええええええええええええええええ!!!」

虹(にじ)の波の中心(ちゅうしん)で太陽の光が煌(きら)めき、

激(はげ)しい白が広がっていく。

 

【挿絵表示】

 

 

 「激(はげ)しい閃光(せんこう)で映像(えいぞう)見えませんが、

敵(てき)サーヴァントの消失(しょうしつ)を観測(かんそく)!

勝ちました!」

よっしゃああああ!!

と声が上がる。

「やりましたよ!マタ・ハリさん!」

回復(かいふく)を終(お)え、管制室(かんせいしつ)で一緒に見守(みまも)っていた彼女と

両手を合わせて喜(よろこ)ぶ。

「ええ!やったわね!」

満面(まんめん)の笑(え)みを浮(う)かべる彼女は

軽(かろ)やかに立ち上がり、

通路(つうろ)に出て歩き出した彼女は

踊(おど)り始(はじ)める。

モニターはまだ光に覆(おお)われ、

白いまま見るもののない職員達(しょくいんたち)の

視線(しせん)を集(あつ)め、

ヒューヒューと歓声(かんせい)があがる。

美しい体躯(たいく)が魅(み)せる踊(おど)りは

徐々(じょじょ)に他の職員達(しょくいんたち)も

釘付(くぎづ)けにしていき、

全ての職員(しょくいん)が

彼女を見ているように感じる。

彼女から目が離(はな)せず

確認(かくにん)は出来ない。

 「おいおい、

いくら嬉(うれ)しくても管制室(かんせいしつ)で踊(おど)る....の.....は...........」

ダ・ヴィンチ司令官(しれいかん)代理(だいり)が

注意(注意)を促(うなが)そうとするも

口(・)が(・)閉(・)じ(・)ず(・)に中断(ちゅうだん)された。

いつの間(ま)にか管制室(かんせいしつ)には

甘(あま)い匂(にお)いに包(つつ)まれている。

「結(むす)び、開(ひら)き、私という女に溺(おぼ)れて頂戴(ちょうだい)!」

『陽の眼を持つ女(マタ・ハリ)』

踊(おど)りを終(お)えた彼女の周りには、

手繰(たぐ)り糸が切れた人形のように

立ち止まっている人影(ひとかげ)のみ。

全員瞳孔(どうこう)が開(ひら)き、

マタ・ハリ同様(どうよう)に瞳(ひとみ)が光(ひか)っている。

宝具(ほうぐ)による洗脳(せんのう)が完了(かんりょう)した。

ダヴィンチもマシュも同様(どうよう)に。

先(さき)ほどとは違(ちが)い、

ニンマリと笑(わら)う彼女は

胸元(むなもと)の谷間(たにま)から装備(そうび)していた

聖杯(せいはい)を現界(げんかい)させる。

管制室(かんせいしつ)のロックを確認(かくにん)し、

職員(しょくいん)を操(あやつ)り通信(つうしん)を繋(つな)ぐ。

「第一(だいいち)段階(だんかい)完了(かんりょう)よ。マスター

ここは当たりの世界みたい!」

「あぁ、よくやった。

流石一番(いちばん)信頼(しんらい)出来るサーヴァントだ」

モニターには黒い鎧(くろい)の男とロビンフッドが映(うつ)っている。

 

 誰(だれ)の視点(してん)だろうか。

カルデアの一室(いっしつ)で

ミーティングをしている光景(こうけい)が見える。

「君たち、出会ってからまだ数週間なのに、

いやに馴染(なじ)んでるね!

まるで兄妹(きょうだい)みたいだ」

にやけながらダヴィンチが言う。

「兄妹(きょうだい)・・・・!

なら兄さんですね!マスター」

「やめてくれ。社会的印象(いんしょう)が悪くなる。」

「?!え・・・?何故(なぜ)ですか?」

困惑(こんわく)するマシュに適当(てきとう)に返(かえ)す。

「知らなくていい・・・。

任務(にんむ)が始まって以来(いらい)ベッタリだ。

プライベートで無理に

構(かま)わなくてもいいんだぞ」

目を合わせずに、紅茶(こうちゃ)に砂糖(さとう)をまぜながら話す男。

「無理になんて!

いえ、お嫌(いや)なら辞(やめ)めますが・・・。」

急に暗(くら)い表情(ひょうじょう)になるマシュが

横目(よこめ)からでも視界(しかい)に入ってしまった。

面倒(めんどう)だ・・・。

「したいときだけしろ・・・。

不安(ふあん)になることはない」

「・・・・!はい、兄さん!!」

嬉(うれ)しそうに笑(わら)うマシュを見て思わず

微笑(ほほえ)んでしまった。

彼女は研究(けんきゅう)のためサンプルでしかない。

人として扱(あつか)ってはいけない。

魔術師(まじゅつし)として当(あ)たり前のことを

いまさら頭の中で反芻(はんすう)させる。

 

 彼女は16歳(さい)の誕生日(たんじょうび)に大きな事件(じけん)にあった。

今まで誰(だれ)とも接(せっ)せずに

ガラス室(しつ)で飼(か)われてた彼女は

ようやくマスターとしてやって来た、

選(え)りすぐりのメンバー達(たち)と友人になり

人並(ひとな)みの感情(かんじょう)が芽生(めば)えたところで

全て失(うしな)った。

友人以外のマスター候補(こうほ)も全員失(うしな)った。

マリスビリーに戦術顧問(せんじゅつこもん)として

呼(よ)ばれていた俺は管制室(かんせいしつ)から

飛んでいき、貴重(きちょう)な研究(けんきゅう)サンプルを

助(たす)けにいった。

そして、死にかけの彼女を

励(はげ)まして救出(きゅうしゅつ)を試(こころ)みた。

そうして、あれよあれよと

人類最後(じんるいさいご)のマスターになった。

たまたまレイシフト適性(てきせい)があったばっかりに。

そこから雛鳥(ひなどり)のす(・)り(・)こ(・)み(・)みたいに懐(なつ)かれた。

 おまけに新任(しんにん)のアニムスフィアのご令嬢(ごれいじょう)は

最初(さいしょ)のレイシフトで死亡(しぼう)。

他(ほか)に適任者(てきにんしゃ)がいなくてダヴィンチが

カルデアの司令官(しれいかん)になった。

まったく他(ほか)の職員(しょくいん)も猫可愛(ねこかわい)がりするから

カルデアはマシュの託児所(たくじしょ)みたいだ。

 

 「任務(にんむ)の話に戻(はな)すけど、

現在(げんざい)我々(われわれ)に協力(きょうりょく)してくれているサーヴァントは

マタ・ハリとロビンフッドのみ。

君の作戦通(さくせんどお)り規模(きぼ)が大きく

ひっ迫(ぱく)している特異点(とくいてん)から

対処(たいしょ)しているが、

最初(さいしょ)のバビロニアは

英雄王(えいゆうおう)がサーヴァントを

召喚(しょうかん)していて協力(きょうりょく)してくれたから

勝(か)てたが、もっと直接的(ちょくせつてき)な戦闘(せんとう)が

出来るサーヴァントを

仲間(なかま)にしないといずれ手詰(てづ)まりだ。」

「あぁ、俺とマシュとロビンじゃ

英雄王(えいゆうおう)みたいトップサーヴァントの

相手(あいて)は無理だ。

次のエルサレムの情報(じょうほう)から

必要(ひつよう)になりそうなサーヴァント

を英雄王(えいゆうおう)から見せてもらった

宝具(ほうぐ)の一覧(いちらん)から選別(せんべつ)して

聖遺物(せいいぶつ)として投影(とうえい)、召喚(しょうかん)を試(こころ)みる。

俺が降霊術(こうれいじゅつ)の大家(たいか)の出(で)でよかったな」

「まったくだ。

君の様(よう)な戦闘面(せんとうめん)も研究面(けんきゅうめん)も

優秀(ゆうしゅう)な人間を

没落貴族(ぼつらくきぞく)の魔術師(まじゅつし)の中から見つけて

雇(やと)って来るなんで、

マリスビリーの人材確保能力(じんさいかくほ)は天才的(てんさいてき)だ」

「まぁ、1994年の冬木(ふゆき)の儀式(ぎしき)で

時計塔(とけいとう)のパワーバランスが崩(くず)れたからな。

研究(けんきゅう)で籠(こも)ってたらいつの間(ま)にか

ポストを取られてたんだ。

流石に冠位(ロード)が用意(ようい)した霊地(れいち)が

報酬(ほうしゅう)じゃ断(ことわ)れん。」

「なるほどね。

今日(きょう)のミーティングはお開(ひら)きにするけど、

君らこの後の予定は?」

「・・・・。

45分後に仮眠(かみん)を取るが、それまで何かするか?」

「えっと。それなら食堂(しょくどう)でトランプでも」

「了解(りょうかい)した。この前、ロビンとダヴィンチに

搾(しぼ)られたからな。 タダのゲームは魅力的(みりょくてき)だ」

「・・・!それはよかったです!」

ふふっとダヴィンチが部屋を後にして、

男たちも続く。

 

 「は・・・・・・・?」

土砂(どしゃ)の上で目が覚(さ)める。

宝具(ほうぐ)の撃(う)ち合いで

フェルグス・マック・ロイを撃破(げきは)したあと、

彼(かれ)の宝具(ほうぐ)による地形破壊で

土砂(どしゃ)に呑(の)まれて気絶(きぜつ)した。

胸(むね)から下と左腕(ひだりうで)がない。

 「なん・・・

だ・・・・?

すべて思い出した・・・!!

俺はマスターのカルデアから

呼び出されたサーヴァントではない・・・!

彼(かれ)もマスターではない!!

忘(わす)れさせられていた!

彼女に操(あやつ)られていた!

マタ・ハリの宝具(ほうぐ)で!!」

 そうだ。当方はエルサレム攻略(こうりゃく)のために

『原罪(メロダック)』を触媒(しょくばい)に召喚(しょうかん)されたサーヴァント。

再(ふたた)び、この特異点(とくいてん)で呼(よ)ばれた際(さい)に、

あの男の恐(おそ)ろしい計画(けいかく)を止(と)めるべく離反(りはん)した。

あの男に敗(やぶ)れて拘束(こうそく)された当方は

マタ・ハリの宝具(ほうぐ)で洗脳(せんのう)され、

スパイの片棒(かたぼう)を 担(かつ)がされたという訳(わけ)か・・・!

 まずい、このまま当方は消えてしまう。

マスターは!

彼がいた場所は地形破壊(ちけいはかい)の影響(えいきょう)が少ない。

シャドウサーヴァントが守(まも)ってくれたのだろう。

彼は既(すで)に次の行動(こうどう)に移(うつ)しているのか。

姿(すがた)が見えない。

上からでは当方の位置は隠(かく)れて見えそうにない、

もともとパスが繋(つな)がっていないのだから

生存(せいぞん)の有無(うむ)も確認(かくにん)出来なかっただろう。

仕方(しかた)あるまい。

だが、

あの男を止めるために彼には

勝利(しょうり)してもらわなければならない。

意識(いしき)が薄(うす)れていく。

当方はもう合流出来ない。

代(か)わりに彼のために

誰かを送(おく)らなければ。

彼にあの男の事を教(おし)えなければ・・・!

今持てるものをすべて託(たく)す。

頼(たの)む、彼を止めてくれ・・・・・!

右手で綴(つづ)ったルーンが円を繋(つな)ぎ、

儀式(ぎしき)が行(おこな)われる。

 

 マタ・ハリに占領(せんりょう)された管制室(かんせいしつ)。

電力(でんりょく)の供給()ほきゅうを少しずつ制限(せいげん)して

稼働中(かどうちゅう)のサーヴァントに気取(けど)られないように

現界(げんかい)出来ないようにしていく。

藤丸立香(ふじまる りつか)の意味消失(いみしょうしつ)を防(ふせ)ぐための

モニタリングを辞(や)め、

黒い鎧(よろい)の男や仲間(なかま)のモニターに

切(き)り替(か)える。

 「順調(じゅんちょう)に進(すす)んでいるけれど、

フェルグスの戦闘(せんとう)の影響(えいきょう)で二層目(にそうめ)の結界が

破(やぶ)られちゃったわね」

「英雄(えいゆう)シグルドとの戦闘(せんとう)だ。仕方(しかた)ない。

それより

サーヴァントの損失(そんしつ)が出るとは思わなかった」

「まぁフェルグスの兄さんがあの宝具(ほうぐ)使うのも

ここ来てから初(はつ)ですしね。

今まで全戦全勝(ぜんせんぜんしょう)なのが、おかしいんすよ」

重(おも)く考え込(こ)むマスターの空気(くうき)を換(か)えるように

両手(りょうて)を平(たい)らにジェスチャーするロビン。

「計画(けいかく)は予定通(よていどお)り第二段階(だいにだんかい)に移行(いこう)する。

こちらも損失(そんしつ)は出ているが

敵(てき)マスターは単独(たんどく)。

戦力(せんりょく)はシャドウサーヴァントのみだ。

二層(にそう)の外にいたヘクトールと合流しても

意味消失(いみしょうしつ)に耐(た)えられず

消えていくだけだろう。

そのあと彼を倒(たお)せばいい。」

「了解(りょうかい)。

まぁ一騎(いっき)だけなのが幸(さいわ)いしましたな。」

「その一騎(いっき)が問題(もんだい)なんだがな・・・・。

ヘクトールについてはベオウルフに任(まか)せよう。

フィン・マックールもそろそろ終(お)わっている頃(ころ)だろう

報告(ほうこく)があり次第(しだい) 向(む)かわせてくれ。」

「わかったわ。」

笑顔(えがお)で応(こた)えるマタ・ハリ。

 「機材(きざい)や設備(せつび)の調整(ちょうせい)完了(かんりょう)。

あとは何をすればいいんだい?」

「レオナルド、あなたには特別(とくべつ)な仕事(しごと)があるの

私と一緒(いっしょ)にコフィンに来てちょうだい!

マシュもね!」

「了解(りょうかい)」「わかりました」と待機(たいき)する。

「霧(きり)が消(き)えたから確認(かくにん)していたが、

以降(いこう)は計器(けいき)もすべて第二段階(だいにだんかい)のために

割(さ)いてくれ、

仲間(なかま)を見ていても意味(いみ)がない」

「伝(つた)えておくわ、この後も気(き)を付(つ)けてね」

「あぁ、ありがとう」

通信(つうしん)が終(お)わり、

画面(がめん)から映像(えいぞう)が途絶(とだ)える。

 

 「マシュ、準備(じゅんび)できたかしら?」

「はい、準備完了(じゅんびかんりょう)です」

コフィンに入(はい)るマシュに

笑顔(えがお)で見送(みおく)るマタ・ハリ。

タブレットからダヴィンチが

コフィンの術式(じゅつしき)を調整(ちょうせい)し、

聖杯(せいはい)と接続(せつぞく)する。

「よし!じゃあ始(はじ)めよっか!

実(じつ)に興味深(きょうみぶか)い術式(じゅつしき)だ。

ホントに可能(かのう)なのかやりがいがあるよ!」

「万能(ばんのう)の天才(てんさい)がやるんだもの、

絶対(てんさい)うまくいくはずよ」

二人(ふたり)の美女(みじょ)の異(こと)なった笑顔(えがお)が

迎(むか)え合(あ)わせになる。

「確(たし)かに、

この人理(じんり)が不安定(ふあんてい)な状況(じょうきょう)を

利用(りよう)する方法(ほうほう)としては

堅実的(けんじつてき)なプランに見える。

実際(じっさい)、こんな事(こと)やる人間はいないから

まったく予想外(よそうがい)の事(こと)が起(お)きても

おかしくはないけど」

「ふふっ、あなたたちホントに仲良(なかよ)しね!

マスターも同じことを言っていたわ」

「? そうなのかい?

これが終(お)わったら直接(ちょくせつ)会(あ)ってみたいね」

はっと両手(りょうて)を口に押えるマタ・ハリ。

「ええ、喜(よろこ)ぶわ」と笑顔(えがお)で合(あ)わせる。

 「それとマシュ、あなたはレイシフトしたら

私の宝具(ほうぐ)を受(う)けた後の事(こと)は

全部(ぜんぶ)忘(わす)れてちょうだい。

いつも通(どお)りそのまま

マスターを探(さが)して合流するといいわ」

「わかりました。マタ・ハリさん」

「良い子ね」と頭を撫(な)でそうになるが

とっさに止めて手を振(ふ)るマタ・ハリ。

「それじゃあマシュ!

人類未踏(じんるいみとう)の試(こころ)みに挑(いど)んでみようか・・・!」

「はい、マシュ・キリエライト出撃します!」

レイシフトの音(おと)が響(ひび)き渡(わた)る。

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