追ってきたフィン・マックールとの
戦闘が始まる。
霧の深い森の中、
ランスロットはフィン・マックールの
魔術の猛攻を躱しながら走る。
木々を挟んで並走する二人、
槍が振るえない木々の集まりへ
誘導するも、
ランスロットへ向けた魔術が
周りの樹木の除去にもなっていている。
巧い・・・・!
流石は輝けるフィン・マックール。
しかも、こちらは霧でギリギリまで
木々の配置が見えないが
彼には周囲全てが
見えているようだ。
おそらく魔術で
感知しているのだろう。
敵の虚を突くのは難しいか。
ならば・・・。
「『無毀なる湖光』」
湖の魔力を直線で放つのではなく弾けさせた。
敵に当たるだろうが
おそらく大した効果は無いだろう。
目くらましだ。
止まらず放たれるフィンの
水の魔術の連射を躱しながら、
向かう先の木々を蹴って
枝を伝い、上昇する。
パルクールという奴だ。
木々の頭が見える位置まで
上昇し彼の頭上めがけて降下する。
当然のように槍の穂先を掲げて
迎え撃ってくる。
だが、打ち合いで
私が負けることはない。
穂先を剣で取らえ、
素早く持ち手に刃を当てて滑り込む。
「もらった!!」
流れるように袈裟斬りを放つが
そこにはあるべきフィンの身体がない。
彼の魔槍は魔術で宙に浮いていた。
しまった。
思った時にはもう遅い。
着地したところで死を覚悟した。
地面が深くぬかるんでいて
身体がそのままハマっていった。
我が聖剣ごと肩の高さまで
ぬかるんだ地面に埋まってしまった。
頭上にはフィンの
魔術が展開される。
「霊体化して抜けようとは思わないことだ。
いかなセイバーでも霊体化した状態では
我が魔術で浄化しきってしまうからな」
霧の中からフィンが姿を見せた。
「なに安心しろ。
君をこれ以上攻撃する気はない。
話をしよう。
君は我々の仲間のランスロットではないのだろう?」
不敵に笑みを浮かべて
彼は歩みを寄せてくる。
すると、いきなり彼は自身の親指を
口に押し込んできた。
「ッ?!」
「『親指かむかむ智慧もりもり』
驚かせてすまないが、
少し複雑な話をするからね。
これで円滑に話が進むだろう」
「マスターに似て手段を選ばないな」
「我等は皆そうさ」
そういう彼は少し懐かしむように微笑み、
この特異点の謎を
話し始めた。
男らは人理修復を成し、
最後にマシュを失った。
男は不可能と分かっていても
なんとか彼女を蘇生させようと
研究に執心していた。
マスターとしての業務は
継続していたいし、
気持ちの支えになるならと
誰も止めなかったと言う。
その後我々と同じように
いくつかの亜種特異点
と接触した。
「君達も下総にレイシフトしたのか」
「あぁ、我々の場合は
数騎落としたところで
割に合わないと帰られたけどね。
だがそこで、
天草四郎から
漂流者という存在を知った。
そこからマスターの研究に
現実味が出てしまった。
他の世界に行ければ足りない物を
集められるからね。」
「だが、漂流者などなろうとして
なれるモノではないだろう」
「それがなれるのだよ。
我々のマスターは令呪での
転移を利用して魔術錠のかかった
所長の部屋からも
研究のための資料を引っ張ってきてね。
そこには虚数空間を観測する計測器と
虚数空間を渡る船の設計図があった。
ペーパームーンだが、シャドウボーダーだか。
とにかくそれで
自分たちの世界とは別の世界に
潜伏出来るようになった彼は、
複数の聖杯を使って
自分たちの世界を破壊した」
「は?!」
「終わったことだ。話を続けるぞ」
「それで根無し草になった我々は
虚数空間で特異点を展開し
マシュの盾をアンカーにして
浮上。浮いたらそこは異世界だ。
たまたま浮いて出た場所がブリテン島でね。
そこに合わせて特異点を調整して
地脈と特異点の核となる聖杯を接続して
魔力を補給できる ようにした。
これがスライド式特異点誕生秘話だ。」
「頭が痛くなってきた。もっと親指をくれ」
「まだ半分だ。」
「嘘だろ?!」
口を塞ぐように親指を突っ込まれた。
「この特異点が存続出来ているのは
結界で最適なサイズに特異点を固定して
シバで常に観測を続けていているからだ。
トリスメギストスの演算も同様にな。
あとは浮上した後、アンカーを地脈に刺すと
魔力の流れを一時的に誘導できるので
聖杯に無理やりつなげて補充している。
それらの礼装とマシュの盾を聖杯で
組み合わせたのがあのキャメロット城。
要するに特異点管理システムだな。」
「それでもこの溢れるほどの
魔力供給は説明できないだろう。
どうしている?」
「せっかち山のたぬきさんだな君は。
カルデアと接触する度にサーヴァントを撃破して
魔力を聖杯に溜めている。
ここで流れる魔力は全て
トリスメギストスで計算した
効率的な流れにそって
聖杯に還元されている。
もう何十の世界、何百のサーヴァントと
戦っているからな。
最初はそうでもなかったが
今は有り余っている。」
「そんな魔力を使えるサーヴァントが6騎もか。
いやマタ・ハリ嬢は数に入れなくてもいいか」
「まぁそうだが、6騎と考えてくれ。
あの姿を見ただろう
彼はデミ・サーヴァントだ。
マシュを蘇生させるために
盾で色々やっていた
副産物らしくてね。
再召喚された時からあの姿だ。
以来一度も彼は前線に出ていないから
能力までは分からない。」
「マシュの盾から得た能力なら
ギャラハッドのもので間違いないだろう。
万が一他の円卓だとしても
どちらにしろ全員知り合いだからな・・・。
問題ないだろう。」
「一番良いのは
キャメロット城を破壊することだ。
彼はデミ・サーヴァントの不安定な肉体を
過剰な魔力で無理やり
形成し続けている。
普段戦闘に参加しないのも
魔力の消耗を抑えるためだろう。
供給が消えれば我々以上に能力が下がり、
自壊し始める。」
「そうか・・・。だがどうやって?」
「ヘクトールを探せ。
霧の結界の外に出されて隔離されているが、
君のマスターと協力してなんとか合流してほしい。
彼の宝具を防ぐ手段が我らにはない。
だからこそ離反した時点で
即刻結界の外に追いやられた」
瞬時の変化に二人とも気づいた。
ここから少し離れた地点で
赤い光が見えて広がった。
離れたところで森が燃えている。
「今のは?」
「我々じゃない。
あんな光を出せる者はいないからな。
まだ召喚されていないサーヴァントに
シグルドが居るが彼は火の魔術を嫌悪している。
消去法であれが我らがマスターの能力だ。」
「円卓で言えば
あれはガウェイン卿の攻撃の様だが、
あの男からはガウェイン卿の要素は
感じなかった。これは・・・。
やはり貴殿の言う通り、ヘクトールとの合流が必要だな。」
「あぁ、そうしてくれ。
戦闘が始まっているという事は
君のマスターもレイシフトしてきたようだ。」
「そういう訳だ。
マスターと合流する。出してくれ」
「おいおい、冗談はよし子さんだ。
我がマスターが直接不利になるような事は
するはずないだろ。
情報はあくまで君らに公平に勝つ可能性を
与えるためだ。
マスターを裏切っている訳ではない。
そもそも霧の結界を解く手段が
君らにあるかも不明だ。
此処で試させてもらう。」
「ふざけるな!
こちらとてマスターの危機だ。
そんな茶番に付き合うつもりはない!」
「だが、君はそこから抜け出せない。
いくら騒いでくれてもいいが
終わるまでそこに居てくれ」
「そういう訳にはいかないな・・・!」
地中に残りの肩から上も沈めた。
ぬかるみ切った地面に更に
無毀なる湖光の湖の魔力で
水かさを徐々に増して泳げるようにした。
さっきまでずっと立ち泳ぎをしていた。
「何?!」
フィン・マックールは足場に魔力を固めて
立っていて気づかなかった。
「水にしたたるいい男という訳か!」
急いで展開していた魔術を地面にたたき落すが、
一瞬隙を作れれば十分。
地中から大回りして霊体化し、
フィンの後ろに浮上した。
そのまま後ろから
湖の魔力を剣撃に乗せて飛ばす。
無防備な背中に直撃するが
、霞のように消えた。
フィンの魔術・・・・!
霞の右側後方から
霧に紛れて魔槍が伸びる。
カァアアアンと音が響く。
「これを止めるとは・・・!
まいったな」
冷や汗をかきながらも
笑顔を絶やさなフィン。
「貴公もなかなか食わせてくれる!」
刃を合わせれば、霧の中でも
敵の動きは把握できる。
もう逃がさない。
剣戟が続き、フィンが距離を取ろうとするも、
確実に捉え距離を保つ。
お互いに魔力で言えば
宝具を連射出来るが、
激しい剣戟の中、
詠唱の隙が無い。
互いに生前からの剣(槍)の
技術に頼るのみ。
だが、それだけに
少しでも集中を切らせば
直ぐに霊核を突かれて
やられる緊張感が押し寄せる。
互いに打開出来ぬまま、
時間が流れ、
戟が続く、
もはや先ほどの赤い光から
だいぶ時間が経ってしまっていた。
この状況では
マスターの事を気に掛ける余地もなく
ただ、無事を祈るしかない。
この思考すらも、
敗因になりうる状況。
思考を眼前の敵にのみ使・・・・・。
激しい閃光がした。
虹が横から飛んできたような
眼が眩む刹那。
グランと大地が揺れた。
周りの木々は倒れ、
大地の色をした湖が波を寄せる。
まさか、先ほどの脱出劇が
このような事になるとは。
互いに魔力を足場に固め、
地のように立っていたが
大波がたっては、体勢が崩れる。
「ぐわっ・・・!!」
フィンが先に波にあおられ沈んでいく、
私は波に寄せられて
大地よりも高く上がった。
この状況では打ち合えない。
しかし、
ここで身を隠しても
場が混沌として
どちらが有利になるかは
運に身をゆだねることになる。
互いに相手を見失う前に
決着をつけなければいけない
「爽やかに決めるとしよう!」
フィンが動いた。
魔槍の穂先に魔力が集まる。
水が湧き、
刃に変えて撃ち出される。
「堕ちたる神霊をも屠る魔の一撃!
その身で味わえ!」
「輝きは水面の如く。
欄々と燃え盛れ我が聖剣!」
足元の魔力の展開を増やし、
高低差を利用して落下の様に加速する
「『無敗の』」
「『縛鎖全断・過重湖光!!!』」
「『紫靫草』」
落下と滑走の掛け合わせの加速に
宝具の一撃がすり抜ける。
魔槍を抜けてフィンの
右肩から左脇腹にかけて一線が通る。
眩いひかりが弾けた。
大地が揺れた。
虹が見えた。
フェルグスの宝具?!
マスターはどうなった?!
眼が眩んで視線をやっても
霧の向こうが見えない。
身体が沈む。
いつの間に足を踏み外したのか。
沼のような地面に身体が落ちていく。
ランスロットが宙から迫る。
もはや考える余地がない。
宝具を撃つ!
魔槍を掲げて解き放つ。
が、気付けば水面の光が
私の身体を透き通る。
湖面が陽を撒くように
暖かな光が染みわたる。
「なるほど・・・・・」
これはこたえるな・・・。
マスターとの信頼の差というやつか。
私はマスターの力を信じていながら、
霧の先の状況が変わるなり
マスターの身を案じた。
彼はその一考すら捨てて
この一撃を放った。
素晴らしい・・・。
こんなサーヴァントのマスターなら
我がマスターを任せられるかもしれない。
あぁ、マスター。
どうか貴方の安らぎにたどり着けますように。
輝く五体が湖の底へと落ちていく。
「お疲れ様!
ようやく第五特異点オケアノスの
攻略が完了したね。」
レイシフトから戻ってきた男たちを
ダ・ヴィンチが迎える。
「あぁ、もう二度と海には出ない。」
「そんなぁ!
ビーチにバカンスに行くと
152日前に約束しましたよ!兄さん!」
「くッs・・・。ウ゛う゛ん。」
悪い言葉を言いそうになって咳払いした。
「そうだった。
あと一回だけだ・・・。」
「はい!」
満面の笑みのマシュ。
「二人とも律儀ねぇ・・・。」
疲れ切った男とマシュを見て
マタ・ハリも微笑む。
「まぁまぁ。
おかげで新しくヘクトールとダビデが
仲間になってくれたんだ! 大成功だよ!」
「確かに。
ダビデ王に兜輝くヘクトールとは大物だ。
改めてよろしく頼む」
「ヘイヘイ。そう硬くならずに。
気楽にいきましょうや」
「こちらこそよろしく頼むよマスター。
これからの旅はお任せあれ。」
二人の言葉のあと後ろから
がっしりと肩を組まれた。
フェルグスとフィンだ。
「もちろん。
俺たちも更に活躍してみせよう。
何せ我らがマスターは
戦闘だけでなく
愛も知る真の英雄!
この身を預けるにふさわしいお方だ!」
「えぇ、そうね!」と
マタ・ハリが頬にキスしてくる。
「はい!
お二人のためにも一刻も早い
人理の修復を!」
距離を取ろうとするマシュの手をおさえる。
「三人だぞマシュ。
家族は常にセット扱いだ。
一人でどっかに行くんじゃない」
「寂しいものね!」
「ふわぁ・・・!」
マタ・ハリがマシュと重なって抱き着いてきた。
マシュの眼はいつになくチカチカと輝いて
嬉しさで興奮していた。
「あぁ!マスター達のためにこれからも輝こう!」
「おう!」「勿論!」「無論!」と
ベオウルフとランスロット、
シグルドも応える。
「まったく、周りが大英雄ばかりで
しがない義賊はお役御免だなこりゃ」
雄々しい集団のなかに小さくなるロビンフッドが
仕方なしと、そっと呟いた。
「何言ってる。副官だろロビン」
「ははは、マスターもキッツイ冗談言いますね。」
「いや冗談ではないだろう。
通信や念話が出来ない状況では君が伝達役だ。
戦闘面でも君の機転に助けられることは多い」
マスターに続きフィンが褒めるので
ロビンは「はいはい」とフードを被る。
「さぁて、君達!
どうせたらふく飲むんだろう?
この万能の天才が手配済みさ!
食堂班の職員達が宴会の準備して待っているよ」
おぉ!!と歓声が上がる。
「物資の事は気にするな。
なんせ今回は海賊相手だったからな。
持てるだけ酒と物資を回収してきた!
思う存分飲めるぞ!!」
「流石マスター」と声が上がり口笛が響く。
サーヴァント達が先に扉を出ていくなか、
三人で一塊になっている状態の
男が立ち止まって
「あぁ、そうだ。
明日は報告も兼ねて
また四人で紅茶を飲もうダ・ヴィンチ」
「おうとも。
すっかり恒例だからね!
楽しみにしてるよ」
「四人かはマルガレータが
酔いつぶれてなきゃだけど」
「もう家族はセットなんじゃないの!」
「君は深酒すると起きないからな」
ふくれるマタ・ハリに
マシュが笑顔で応える。
「その時は私が起こしますよ」
「ふふっ、ありがとう!
お願いするわ!」
あぁ、思えばたった数ヶ月の期間に
40年近い期間で
身に付けた魔術師としての
考え方が無くなってしまったな。
だが、
こんな日々がずっと続けばいい。
「あぁ、私も同感だマスター」
意識が遠のいて
マスターの記憶を見ていたフィン・マックール。
このまま地の底へと
落ちて消えていく。
ぐおんと
水の音がして
上へと徐々に
後方に進んでいく。
「ぶはっ・・・・!」
水面へ上がり、
地面に引き上げられた。
「おい!大丈夫か」
「はは、大丈夫ではないさ、
君に霊核を破壊されたからな。
だが、助かった。
引き上げられなければ忘れていた。
貴殿に渡すものがある。」
そう言い、フィンはベルトに付けていた
革の袋をランスロットに渡す。
「なんだ?
私は貴殿ほどの者が
あのまま水の底では忍びないと思っただけだ。
たとえ、そのあと直ぐに
座に還るとしてもな。」
「流石は伊達男だな。
よくそんな事を自然にやってのける・・・。
今渡したのは、
私の宝具で浄めた水だ・・・。
解毒効果がある・・・。
ロビンフッドが居るからな・・・。
きっと役に立つだろう・・・・。」
もう口も動かせなくなってきた。
いよいよ消える時か。
「頼む、我らがマスターを・・・・。
救って・・・くれ・・・。」
もう声が出なくて
はっきりと口に出来ない。
諦めたように消える
その時、
「あぁ、しかと受け取った。」
動かない口で笑った。
フィンマックールが光となり、
空に還る。
広がる空は青く、
霧も消えていた。
目が覚めるとそこは、
澄み切った空と
視界の限り広がり続ける森。
そして
「キャメロット城。」
私は管制室でシグルドさんと
敵性サーヴァントフェルグス・マック・ロイの
戦闘をモニターしていて、
そこから・・・。
何も覚えていない。
何故私はレイシフトしているのか。
見渡したがそこには自分一人。
「先輩を探さないと」
使命感の様に立ち上がり、
足を動かす。
みると、終局特異点以降
ほとんどする事が出来なかった。
ギャラハッドさんの力をその身に宿している。
身体にはどこからか
膨大な魔力が心地よく流れてくる。
「これは・・・。」
おそらくこの魔力量で
一時的に能力が発現出来るように
なっているだけだろう。
ゴンッ。
森の奥から鈍い金属音が鳴り響く。
「先輩!」
少女は森の中へ駆けて行った。