「・・・・ッ!!!!」
「大丈夫かマスター!
しっかりしろ・・・・ッ」
頭痛がする。気分が悪い。
頭の中にいきなり
暗い情報を押し込まれた。
こうならなくて良かったと
恐怖するような光景が
実際に体験した記憶として流し込まれた。
終局特異点の後の
青空を一人で見て膝をついている光景。
マシュが居ないカルデアの光景が
断片的に流れてきた。
ここの特異点のマスターの記憶・・・・?
「ごめん、一瞬頭痛がしただけ。
もう大丈夫」
「これまでの経緯を聞くに、
既にマタ・ハリが管制室を占領している。
連絡が付かないのもそのせいだ。
これは早く特異点を修復しないと
お前さんがもたないな」
「うん。そうしよう」
「つーわけで、ここはお目こぼし頼むぜ?
ベオウルフさんよー。」
鋭い目つきのヘクトールに対して、
飄々と笑っているベオウルフ。
「そいつは聞けねぇーな。
代わりにさっさと楽にしてやるから
恨みっこなしで頼むぜ。ヘクトール」
両者睨み合い、剣風が舞う。
ベオウルフ相手には
離距を取りたいのはやまやまだが、
赤原猟犬の的確な重い連撃で
どんどん距離を詰められる。
更には下手に距離を取り過ぎても、
赤原猟犬をマスターに投げられては
その場で終わってしまう。
トドメに鉄槌蛇潰は
不毀の極槍では強度が高すぎて
当てただけで砕けるが
爆発を防ぐ手段がない。
「相性が悪すぎるな・・・・。」
赤原猟犬を受けた槍から
重い金属音が響く。
無理やり押しのけて
必死に吐き出すヘクトール。
「我らがマスターの知略は一級品だからなぁ!
しっかりアンタが出てきた時の事も
織り込み済みよ」
「ヘクトール!仕切り直して」
後ろからシャドウサーヴァントが現れる。
あれはバビロニアの記録で観た。
レオニダス一世か!
鉄槌蛇潰を盾で抑えるレオニダス。
その隙に赤原猟犬を持っている右半身を
槍で雀刺す。
しかし、
赤原猟犬によって
穂先が捉えられ弾かれる。
バーサーカーの癖に器用な事を・・・!
引き留められた槍を
膂力で無理やり押し返される。
吹き飛ばされそうだ。
もうもたない・・・・!!
「まだまだあああああああああ!!!」
レオニダス一世が片手の盾のみで
鉄槌蛇潰を抑え始める。
腕がはち切れそうなほど膨張して
血管が所々に浮き出ている。
片手槍が振るえるようになり
ベオウルフに仕掛ける。
「やるじゃねぇか・・・!
だがなぁ!!」
赤原猟犬が不毀の極槍から離れた。
レオニダス一世に赤原猟犬で
畳み掛けるベオウルフ。
今だ・・・!
不毀の極槍に魔力を込めて
ベオウルフの横から切りつける。
右腕と脇腹に深い裂け目が出来ても
構わずレオニダス一世に
赤原猟犬を叩きつける。
「おらおらおらおらおらおらおら!!!!」
返す穂先で雀刺すが
身体に穴が開き続けているのに、
まるで止まる気配がない。
戦闘継続スキルか?!
更には膨大な魔力で
次々と傷が再生していく・・・・!
すさまじい連打に
レオニダスがすり潰されていくようだ。
止められない!
間に合わない。
「先輩!!」
大盾がベオウルフの頭上に降ってくる。
舌打ちをしてベオウルフが回避する。
「マシュ?!」
「マシュ・キリエライト
一時的に戦線復帰しました!
万全です!指示を!」
マスターの眼が変わった。
遠くを見据えて、
敵を捕らえている。
ふっ、マシュ嬢ちゃんに
こんな相手が出来た世界か。
「了解!
マシュは全力で防御を。
ヘクトール!思いっきりやって!!」
そういう事か!
「オーケイ、マスター!」
マシュが大盾を構えた。
透かさず、槍で鉄槌蛇潰を突きぬく。
破裂した威力をマシュ嬢ちゃんが防いで
ベオウルフにぶつける!
ベオウルフは鉄槌蛇潰から
手を離して宙に放った。
「そういう魂胆か。
ならこいつもやるよ」
宙に浮いた鉄槌蛇潰目掛けて
赤原猟犬も投げた。
赤原猟犬は鉄槌蛇潰を押して
まっすぐマシュの方へ飛んでいく。
「え?」
壊れた幻想。
鉄槌蛇潰が手榴弾のように
爆発した直後、
ミサイルのような赤原猟犬の
爆発が巻き起こる。
想定を上回る火力に
マシュが後方に吹っ飛び、
レオニダスは霧散した。
直感によるその場の判断か、
マシュが合流した際の作戦も
織り込み済みなのか、
一瞬で増援を無力化した。
「ははは、ははははははははは!!!
やっぱ久々の闘争に心が躍る!
いつもはフェルグスとフィンで
終わっちまうからなぁ!!」
理性を欠くことのないはずの男が
目は白く光り輝き、
口は大きく開き高笑いをする。
俺が与えた傷や爆発の余波を受けても構わず、
再生するに任せて立ち上がる。
「アンタともあろう奴が、
まさかもっとマスターと戦いたくて
こんな事に協力してんのか!」
「まさか。
別に俺たちは人類史を脅かしてる訳じゃねぇ、
ただあってもなくてもいいような世界を
救わされた代わりに
家族を犠牲にされちまった奴が、
名誉も居場所もすべて賭けて
大事な妹を救おうって言ってんだ!
そいつに手ェ貸して何が悪ぃってんだ!!」
こめかみが裂けた気がした。
「悪ぃに決まってんだろーが!!!!
女のために戦争起こすならいい。
その時は我が輝ける武具の
すべてを賭して共に戦おう。
だがな!!!
自分の大事な女を殺してまで、
その女生き返らそうなんて事、
許せる訳ねーんだよ!!!」
真名開放ではないが
出来る限りの魔力を込めた槍の一投が
ベオウルフに伸びる。
既にダメージを受けているベオウルフに
これは耐えられないだろう。
ベオウルフは空いた両の手で槍をつかむ。
そのまま仰け反り槍を無理やり止める。
「『源流闘争』!!!!!」
巨人を殺した膂力で不毀の槍は静止する。
「アンタが、俺たちの居城を破壊するために
出来るだけ魔力を温存しておかなきゃ
いけねぇことは分かっている。
だから宝具を使ってこねぇってなぁ!」
「・・・・ッ!!」
「だが、悔しいなぁ
どうせなら、全力のアンタと
殴り合ってみたかったぜ。
俺は全力で殴る。
アンタが全力を出せない分は
後ろのマスターに期待しよう。
なんせ、俺たちから二人も倒すなんて
初めてだからなぁ!!
さぞ、優秀なマスターなんだろうよ!!」
喋りながら歩み寄る。
槍を引き戻して、
マスターの壁になる。
「ヘクトール!!避けて!!」
緊急回避。
礼装からの術式で強制的に横に移動させられた。
「な?!」
「『幻想大剣・天魔失墜』!!!!!!」
青い光が壁のように
眼前に流れていった。
光が来た先に目を向けると
マスターの横に長髪の男が
大剣を構えて立っている。
シャドウサーヴァントではない。
眼鏡を光らせ、
口をとがらせる竜騎士が
ベオウルフを鋭く見つめている。
「てめぇ・・・・、
どっから来た・・・・?」
宝具の一撃を受けたベオウルフが
血だらけになって問い質す。
なんとか源流闘争の間だったから
殴りまくって耐えたが、
こいつはキツイ。
マジでどこから来た?
カルデアから召喚されるなんてありえねーぞ。
「俺はシグルドに召喚されたサーヴァントだ。
彼の力と意志を継いで
この特異点を修正する。
よろしく頼む。マスター」
「あぁ、驚いたけど助かったよ。
よろしく。」
鎧姿に眼鏡で確かにシグルドみたいな野郎だ。
宝具を受け止めた両腕は
焼け焦げてほとんどついてるだけだ。
宝具が切れる前になんとかする。
「そして、抑止の守護者でもある。
この特異点の修正は抑止力からも求められいることだ。
君も人理に刻まれる一人なら手を引いてもらおうか。」
「あぁ?!抑止力だ?
勘違い機構がちょっかい出してくるんじゃねぇよ。
事が終わったら言われなくても
この特異点は消すことになってる。
マシュ嬢ちゃんが住んでく世界が無くなるからなぁ!!」
「そうだとしても、この事態は見過ごせない。
実は、君たちに騙されたシグルドが
俺を召喚する時に憤慨していてな。
その感情が俺に残っているんだ。
抵抗するなら容赦はしない!!!」
たっく面倒な事になった。
ヘクトールだけ潰せばいい筈が
抑止力とはなぁ。
だが、
既に作戦は第二段階に突入している。
俺はマシュが意味喪失するまでの
時間稼ぎをすれば いいだけだ。
こいつらがマスターの邪魔しねぇように
殴って蹴って立ってりゃなぁ!!
まっすぐに眼前の騎士の元へ歩く。
こいつは未知数だ。
ヘクトールよりマスターは嫌がる。
此奴だけはすぐに消す。
「はぁああああああああああ・・・・・・・・」
呼吸を整えて
突っ込む!!!
騎士は剣を構え、
握りを回す。
「邪悪なる竜は失墜し
世界は今落陽に至る
『幻想大剣・天魔失墜』!!!」
「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおら
おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおら!!」
途中で両腕が吹き飛んだ。
後は蹴るしかない。
左足を前に蹴り続ける。
光の大流が途切れ、
右足だけになった四肢を
動かし近づき続ける。
立て続けの宝具の使用を目の当たりにして
左右に控えているマシュとヘクトールは近づけずにいる。
あと一歩近づければ・・・・。
「はああああああああああああ!!!」
長髪の騎士の袈裟斬りが身体に染みこんでくる。
「はっ」
笑った。
貰った・・・・!
筋肉で刃を止めて
千切れた足の代わりに支えにした。
これで此奴の首を思いっきり
噛み千切れる!!
「何ッ!」
長髪の騎士が身を引こうとするが
もう遅い!!
「『無毀の湖光』」
途端、長髪の騎士の肩を抜けて
細い水光の線が俺の頭を貫いた。
最終特異点の記憶がよみがえる。
最終特異点にたどり着いた男は
サーヴァント達に特異点の
重要拠点を攻撃するように
分散して攻め込ませた。
これまでの特異点の実績から
似合わず慢心していたのかもしれない。
最終局面で合流するはずが、
特異点の主の前に現れたのは男とマシュのみ。
作戦では男たちは最後の到着のはずだった。
他のサーヴァント達は戦闘を続けているのに、
男達だけ到着するのは
事前のリサーチのデータではありえない。
敵の猛攻が続き、
時間も稼げぬまま
敵の宝具の餌食となってしまう二人。
マシュが大盾で防いでなんとか耐えている。
「兄さん、この一撃だけは耐え抜きます・・・・!
儀式の準備を続けて、
他の方たちの到着まで逃げて下さい!!」
「耐えるって!!どうやって!!
このまま二人とも焼かれて終わりだ・・・!」
「いえ、サー・ギャラハッドの宝具なら・・・!
私が兄さんを守り切ってみせます。」
「いや、だめだ。
話していただろう!
お前の宝具の最大出力はお前自身が耐えられない。
消えてしまうぞ!
だから今までほとんど使わなかった!!」
「はい、でもこの状況では他に手段がありません。」
「いいかよく聞け、
消えるなら私と一緒か私だけだ!
逆はありえない。
今、令呪による転送で私ごと、
仲間の元へ転移出来るか試みる。
お前はそれまでこのまま耐えて
時間を稼いでくれればいい!」
「いえ、何度か実験を重ねていますが、
マスターごとの転移は不安定で兄さんだけ
取り残されてしまう可能性が高いです。
それではこの状況から勝利することは困難かと」
「いや、お前だけでも転移出来ればいい。
指揮はお前とロビンが引き継ぐんだ。
サーヴァント達は俺が消えてもレイシフト中は
継戦出来るように術式を組んである!」
「いいえ、兄さん。
この旅はみんな兄さんに頼りきりで
私はほとんど何もしていません。
貴方の代わりになれる者はきっと
人理が修復したあとでも
見つけられないでしょう。
だから、兄さんがいないとダメなんです。」
「悪いが、指揮権はまだ俺にある
令呪を持って重ねて命ず」
左手に刻まれた令呪に魔力を流す、
一画では二人の転移に足りないなら
三画全て使って無理にでも押し通す!!
「妹ですので、兄へのわがままくらい
許されますよね・・・!」
マシュが出力を上げ始める。
先ほどまでは熱が漏れ伝わっていたが
今はなく
敵の攻撃が続いている緊張感が和らぐ。
マシュの身体が薄れ始める。
「やめろ!マシュ!!行くな!!!」
「兄さん・・・・、
家族になってくれてありがとう・・・・。
きっとこの先、寿命を迎えるより
素晴らしい人生をあなたは与えてくれました。
貴方は完璧なマスターで、
完璧な兄さんです・・・・・。」
彼女の身体が光に昇華し
目の前には盾だけが残る。
男は声のない叫びを己の中に
響かせて立ち上がる。
術式が特異点に染みわたった。
マシュが長い時間耐えてくれたおかげで
あっさりと構築出来た。
男の表情からは優しさが消え、
憎悪と後悔で
ぐちゃぐちゃに線を引いたような
黒い顔をしている。
あぁ、すまねぇマスター。
俺はこの時も、
今もアンタの役には立てなかった。
くっそ・・・・!
次があればアンタの幸せを
絶対ぇ叶えるって決めたのにな・・・・。
ベオウルフの意識が黄金の光に
昇華して消えていく。