宿スレDQ3ネタ投下まとめ(仮タイトル)   作:Rasny

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Stage.4 ミイラ男と星空と(前編) ★番外付

 

 

 <GAME SIDE>

 

 

「エリス、この手紙をポルトガ王に届けるよう頼んできて。あとこっちはイシス女王へ。で、こっちがエジンベア王宛てね」

 各手紙の隅に、ロマリア国王直筆の書簡であることを表す判を押して、すっかり秘書役になっているエリスに手渡す。

 ポルトガ王には「死ぬほど黒コショウ贈ってやるからノルドに道を開けさせろ」。

 イシス女王には「勇者に魔法の鍵を貸してあげて。まだピラミッド内から発掘されていないのであれば、ピラミッド関連の資料を勇者に渡してほしい」というお願い。

 エジンベア王には「いずれ勇者が訪ねるから、番兵一人にいたるまでしっかり伝えておくように!」。差別主義のアホな門番一人のために、何度も海を越えてられるかっての。

 エリスは各手紙をくるくる巻いて紐でくくると、遠慮がちに声をかけてきた。

「ところでゆう……じゃなくて新国王様。なにかお召し上がりになりませんか?」

 言われて時計を見ると、正午を回っていた。そういや朝からろくに食べていない。

「じゃあ厨房にサンドイッチでも作らせてくれる? あ、ピクルスは入れないでね」

「わかりました。あまりご無理をなさないでくださいね」

 ふわりと笑って退室するエリス。優しくてよく気がつくコだ。ホント、仲間には恵まれたなぁ。

 

 サミエルたち三人がカンダタから金の冠を取り返して来たのは、実に明け方すぐだった。最短でという僕の要望に、期待以上に応えてくれた三人には超感謝!

「ロマリアで雇った傭兵の中に、カザーブ出身者がいましてね」

 その人にまずキメラの翼でカザーブまで連れて行ってもらって、今度は地元の猟師からシャンパーニの塔への近道を教えてもらい、普通は丸一日かかるところを半日で到着したのだ、とサミエルが得意気に説明する。

「それに、カンダタも賢い男で助かりましたよ、ははは」

 話を引き継いだロダムが思い出したように笑った。手下より大勢の傭兵部隊に囲まれて、カンダタ一味は剣も抜くことなくさっさと降伏したとのこと。ビビったんだろうなw

 そんなこんなで僕は今、ロマリアの新国王(仮)をやっている。

 朝イチで王様に金の冠を届け、さっそく祝いの宴じゃ!と騒ぐ王様をなだめすかして、さっさとカジノに追い出した。

 仲間の労をねぎらってやりたい気持ちは山々だったんだけど、

「別に城の公式パーティならいいッスよ」

 肩をすくめるサミエル他、全員が「堅苦しいのはパス」になったので、仲間が泊まっている宿にごちそうを運ばせるだけにしておいた。

 それからずっと執務室のデスクに張り付いている。王様権限を駆使して、今の内に打てる手は打っておかないとね。

 ポルトガへの関所は、真っ先に国王命令で鍵を開けるよう通達を出した。

 なので直接バハラタに向かって黒コショウを手に入れ、ポルトガで船をゲット。

 エジンベアで渇きのつぼを取って、すぐ浅瀬の祠に向かい、最後の鍵を入手してから、旅の扉を使って世界を回るのが手っ取り早いはずだ。

 ただ鍵関係のイベントは大切だから、イシスには行かないとダメかもしれない。できればあの罰当たりな墓荒らしイベントは飛ばしたいんだけど。

 あ、よくわからない方は攻略本や攻略サイトをごらんください。

 

「あとは、あれがこうなってそうなるから、あれは飛ばせるはず。でもあそこをハショるとヤバイかなぁ。だけど時間無いし……痛ぅ」

 目の奥がズキッとして、僕は両手の親指でこめかみのあたりを抑えた。ドラクエ世界に飛ばされて、眼精疲労で頭痛を訴える主人公なんて僕くらいだろうな。

 結局きのうもほとんど寝てないし、ダメだ、頭が回らなくなってきた。

 少しだけ仮眠を取るか——。

 

 と、急にドアが開いた。

 入ってきたのは前国王だった。城の塔の最上階に隠居している、放楽息子に頭を悩ませているロマリア国王の父君その人である。

 僕は慌てて立ち上がり、彼の前に膝をついた。彼は「まあまあ」と言って僕の腕をつかんで立ち上がらせると、ソファに腰をおろして僕にも座るよう促した。

「いやはや、正直ワシは参っておるよ。うちの息子よりよっぽど評判ではないか」

 言葉とは裏腹に、父君はなにやら上機嫌だ。

 評判もなにも、こんだけ女官さんを抱えてるんだ。若い男の子が一日署長、じゃない、一日王様やってれば、城中がキャーキャー騒がしくもなるわいな。

「どうじゃ、いっそ本当に継いでみんか?」

 彼はフォフォと笑った。一見すると王族というより、田舎の旅籠のご隠居さんという感じの、冗談好きのただのおじいちゃんだ。

 でも目が笑ってない。本気らしい。「勇者アルス」のネームバリューの高さを考えれば傀儡として飼っておきたいと思うのは当然か。

 王様…か。確かに向こうで普通のリーマンやってるよりは楽しいかもなー……。

 いかんいかん。ここで誘惑に負けたらいけない。ヘタに「はい」なんて選んだ日には、またとんでもないことになるに決まってる。 

「申し訳ありません。このような重責は、わたくしごときには耐えかねます」 

「そうかのう。頭も良し、見目も良し、しかもあのオルテガ殿のご子息とあれば、ワシは申し分ないが。ほれ、うちの姫も年頃じゃし」

 いやいやそんな、まあ頭脳と容姿は少し自信ありますけどぉ……って、はいぃ!?

 姫なんかいたっけか? 僕は急いで昨日の謁見の模様を脳内再生した。ビデオのようにはっきりと情景が浮かび、偉そうな王様の隣にフォーカスをずらすと——うわ、いた。

 確かに年増の地味な、もとい、熟女の魅力を放つ慎ましやかな姫君が、鎮座ましましていらっしゃるぅ! 濃ゆい王様の存在感に負けて、そっちまで意識が行ってなかったよ。

 もちろん、丁重にお断りさせていただきマス。

 だいたい大国ロマリアの姫君ともなれば、引く手あまたのはず。なのに今まで独り身なのは、あの国王が見かけによらず親バカってことじゃないの? ヘタすれば僕の首がハネられる。冗談じゃない。

 前国王はとても残念そうだったけれど、僕に再三断られると、しぶしぶ退室していった。

 ヤ、ヤバかったぁ。ほんと下手な選択肢は選べないゲームだな。

 

 これ以上長居すると、さらに余計なトラブルに巻き込まれそうだ。

 王様がまだ陽の高い内に帰ってきてくれたのを幸いに、僕はすぐ王位を返還し、その日の内にロマリアを出発することにした。

「みんな、慌ただしくてゴメンね」

 次の目的地バハラタまでの旅程を確認してから、チェックアウトしてもらう。

「気にしなくていいッスよ。それにしても、ようやく勇者様と旅ができますね」

 サミエルがにかっと笑った。いよいよ冒険らしくなるとウキウキしているようだ。

 僕はこの時点ですでにウツ気味だけどネ。

 はぁああああ。とうとうこの時が来ちゃったよ。

「もう少しでロマリアの警戒域を抜けます。ここからはモンスターが出ますから、お気をつけてくださいね、勇者様」

 エリスが心配そうに僕を振り返る。

 前にも言ったけど僕は「Lv.1」で「経験値ゼロ」。無論、僕のレベルが低いことは最初の契約時に確認してることだから、戦闘に慣れるまでは後方支援に徹する、という打ち合せは済ませている。

 なんだけど、本当に問題なのは、たぶんそこじゃない。

「って、言ってるそばからなんかいっぱいキター!」

 獲物だ、とばかり茂みの中から4つの塊が飛び出してきた。ついに宿スレ定番の初戦闘シーンだ! ちょっといまさら感もあるけど、そこはほら、初スライムまで平均五時間という噂のDQ7もあることだし。

 敵は紫色の一角ウサギが二匹と、緑色のイモムシが一匹、それに頭から黒いフードをスッポリ被った怪しい人型のが一匹。アルミラージ、キャタピラー、まほうつかいだ。

 ロマリアのモンスター格闘場で遠目には見たけど、間近だとホント迫力ある。

「これまた出ましたねぇ。下がっていてください勇者様」

「はーい、お任せしまーす」

 最後部に回って「ぼうぎょ」に入る僕。って言ってもどうしていいかわからないから、とりあえず逃げることを優先に構えてるって感じ?

 うはww情けなーwww

 反面、この地点での目標レベルを軽く越えている三人は、余裕の笑みさえ浮かべている。

「精霊界の偉大なる女王ルビスの名において汝らを召還す、ジン、イフリート、サラマンドラよ、我のもとに集いて我を守る盾となり、敵を貫く剣となれ……ベギラマ!」

 エリスが高らかに詠唱する。彼女の手の平から目もくらむ閃光が放たれ、ウサギ二匹が巻き込まれた。

 あっけなく炎上したアルミラージのそばをすり抜け、サミエルがカザーブで買ったというチェーンクロスを巧みに操って、イモムシを薙ぎ払う。

 その間にロダムがまほうつかいにマホトーンをかけて呪文を封じ、オロオロしているソイツを、駆けつけたサミエルがすかさず斬り捨てた。

 なんとも鮮やかな連係プレー。初戦闘は、呆気ないほど簡単に終わってしまった。

 

 だが、問題はここからだ。

 僕の様子を見たロダムが慌てて駆け寄ってきた。

 サミエルも走ってきてくれたが、その彼の背中には、モンスターの体液がベッタリ付着したチェーンクロスが背負われている。ほっぺたにも紫色の返り血が飛んでたり。

「ちょ、ごめ、やっぱダメ!」

 僕は急いでその場を離れ、適当な木の陰に回りこんで幹にすがりついた。

「うっ…うぇぇっ……ケホ、ゴホッ……」

 ああもう、僕吐いてばっかりいないか? 後世に「吐瀉王伝《としゃおうでん》」などと伝わるのは激しく抵抗があるんだが。

 でもねー。ここで行われたのは、あくまで「殺害行為」なワケだし。

 アルミラージは火だるまになって、しばらくのたうち回ってから動かなくなった。獣の体毛と肉の焼ける臭いって、ほんと形容しがたいようなキツさがある。

 サミエルがキャタピラーを斬った時はグチャッと音がしたし、飛び散った体液と内臓器官は全部ドス黒い紫で、それもしばらくピクピク動いていた(一部まだ動いてる)。

 まほうつかいなんて最悪、本当にモンスターかと疑いたくなるような、まるで人間みたいな声で悲鳴を上げるんだもん。最期の瞬間、僕の方を見てなにか叫んでたけど、それが

「命乞いだ」と容易に察しがついた時点で、もう限界。

「……どうぞ」

 エリスが遠慮がちに近づいてきて、水筒を差し出してくれた。小さく礼を言って受け取り、胃酸くさい口内を洗い流す。それからなんとなくバツが悪くて、汚した場所にブーツの先で土をかけた。

「大丈夫ッスかー? なーに、最初は誰でもそうですよ」

 サミエルは予想通りといった様子で、カラカラ笑う。

「そうですよ。勇者様は実技の成績もとても優秀でいらしたんですから、場慣れさえすれば、すぐに我々に追いつきますよ」

 ロダムも優しくほほえんでいる。今ちょっと気になるコトを言ってたが(あのバカがなんだって?)、僕は問い返す気力もなく、素直にうなずいた。

 

 落ち着いたところで行軍再開。

 三人はまるで何事もなかったように、また談笑している。タフだなぁ。

 僕は彼らの少し後ろを歩きながら、腰のベルトに差してある「聖なるナイフ」の柄に、そっと触れてみた。銅の剣なんて重量武器は、どう考えたって僕に使えるわけがないのでさっさと売り払ったし、鉄の槍や鎖鎌も同じ理由で却下。とりあえず扱えそうな武器としてロマリアで買っておいたのが、このナイフだ。

 次にモンスターが現れたときは、僕もこいつで戦うことになるのか——。

「ま、考えても仕方ないよな」

 殺せというなら殺すさ。たとえどんな手段を使っても、絶対にクリアしなきゃ。

 だって僕が戻れなかったら、アルスも帰ることができないから。

 あのおっちょこちょいのバカ勇者様は、逃げる先を完全に間違えてる。まだ物見遊山で済んでいるうちにこちらへの退路を確保してあげないと、きっともっと傷つくことになる。

 いろいろ考えたけど、やっぱりね。

 あの人に、あんな現実を押しつけるわけにはいかない。

 

 

 

 <REAL SIDE>

 

 

「へ…っくしゅ!」

 うぃー。冷えてきたかな。もう陽も沈みかけているし。

 俺はちょっと迷ったが、ユリコを呼んでパソコンの後始末の仕方を教わった。このインターネットってやつでだいたいのことは調べたし、図書室は次の機会にしよう。

「そんじゃ付き合ってくれてありがとね」

 ユリコが校門の前で手を振り、そのまま別の方角へ歩いていった。バスの中で、今日は「ジュク」があるとかで、帰りは学校前で別れることを話していたのだ。

「ところでさーっ」

 少し離れてから、ユリコが振り返って叫んだ。同時にバスがやってくる。

「なんでまた名前で呼ぶことにしたの?」

「は?」

 バスのドアが開く。

「カノジョでもないのに名前で呼ぶのは変だからって、あんたが言い出したのに」

「え?」

「乗らないんですか?」バスの運転手が言うから「いや、乗ります!」思わず乗り込む。

「嬉しいけど……私はやっぱり『片岡』に戻してくれた方が——」

 ドアが締まって彼女の声が途切れ。

 走り出したバスが、片岡百合子を追い越していく。彼女はうつむいて歩いていて、顔は見えなかった。

 

 ……カノジョじゃないって?

「おっかしーなー…」

 別に「甘酸っぱい青春な毎日!」を期待してこっち来たんじゃねえから(いや多少の憧れはあるが)、ヤツの女関係なんざどうでもいい。

 しかし「間違う」ってのはどういうことだ? 「知らない」ことはあったとしても、この俺が自発的に覚えようとしたことを記憶違いをすることは絶対ない。

 いっぺんイチから情報を洗い直さなきゃダメか? タツミ本人に聞くのが手っ取り早いが、ここぞとばかり、あることないこと吹き込まれそうだし。

「三津原ぁ?」

 いっそ頭でも打って、記憶喪失になったフリでもするか。でも下手に大怪我したら治せないで死ぬしな。

「おい、三津原ってば」

 アホみたいな難病も治せるくせに、死んだらそれまでってのは中途半端な話だ。いや、ベホマだのザオリクだの、究極の回復呪文が存在する向こうが極端なのか——。

「ミツハラタツミー」

「うお!?」

 いきなりポンと肩を叩かれて俺は飛び上がった。振り返ると、黒髪を短く刈り込んだ、俺より一〇センチくらい背の高い少年が、俺の大げさな反応に苦笑している。

 肩にでかいバッグをひっかけて、青赤の派手な色合いの服を着ている。黒のごついヒモ靴は泥だらけ。なんかのスポーツ系の、動きやすそうな格好だ。

 戸田和弘。こいつもヤツの同級生で友人……のはずだが、合ってるかはもはや疑問だ。

「三津原の私服見たの久々だな。お前でも休みに出歩くことあるんだ」

 また言われたよ。うちのプレイヤーはヒキコモリかと、俺はちょっとガックリきた。

「ユ……片岡に付き合わされてさ。携帯、教室に忘れたとかで」

「片岡が。あいつも健気だね。マジお前さ、なんで断ったのよ。付き合ってやれば?」

 なんとヤツの方がフッたのか!? 生意気な! って俺も人のこと言えねえか。

 俺の複雑な心情をよそに、カズヒロが屈託の無い笑顔を見せる。

「まあ三津原にとっちゃ、俺も片岡も子供っぽく見えんのかもしんねえけど。若いもんが変に達観しててもつまんねえぞ? うん?」

 こいつは「夢」の通りにイイ友達らしい。俺は内心ホッとした。

「ほっとけよ。んでそっちは? あーと…『部活』?」

「ん、試合の帰りだけど。昨日言わなかったっけ?」

 こういう食い違いはこれからいくらでも出てくる。サラッと流すに限る。

「だっけか。すまん、最近どうも記憶力に自信なくてさぁ」

「え、マジで? ヤバイだろ、それ」

 途端に真面目な顔になるカズヒロ。俺そこまで変なこと言ったか?

「まあ三津原なら問題ねえだろうけど……なんか困ってたら言えよ?」

 なんだかわからんが、騙してる手前、心配かけるのは悪い気がする。「大丈夫」と首を振ったら、相手は一瞬だけ斜め下に視線を流した。

「じゃあ俺にも付き合えよ」

 言いながら「次、停まります」のボタンを押す。

「試合負けちまってさ。気晴らしにゲーセンでも行こうぜ」

 ゲーセン? 気晴らしというならカジノみたいな娯楽施設の一種か。

 それもよくわからんが、さっきからどうもモヤモヤした状態だからな。スッキリできる場所なら大歓迎だ。俺は一も二もなく賛成して、カズヒロに続いてバスを降りた。

 

「なるほど、『Game Center』の略でゲーセンか……」

 カズヒロが案内した施設は、向こうのカジノとはまるっきり違っていた。

 雇われ楽士が奏でる景気の良い音楽の代わりに、所狭しと置かれた機械の一個一個が、好き勝手に甲高い音を垂れ流している。大勢の人間がいるのに、ほとんど「人の声」がしない。多少騒いだところで機械の音が掻き消してしまっている。

 うるさいのに静かな、なんか不思議な場所だ。

「なにやる?」

 カズヒロに聞かれて俺は困った。そうだな。

「モンスターとか派手にやっつけるようなの、ないか?」

「へえ、意外。じゃあこれなんかいいよ」

 引っ張っていかれたのは、おどろおどろしい装飾がされたデッカイ画面の前だった。前に小さな操作台があって、その横にヒモに繋がれた、赤い「へ」の字型のものが2つひっかけてある。

 カズヒロは慣れた手つきで操作台の穴にコインを投入した。画面に「プレイ人数」だの「難易度」だのといった文字が浮かび、操作台のボタンで設定していく。

「まずは初心者向けにしとくな。一緒にやろうぜ。ほれ」

 への字型の1つを渡される。あ、前にヤツが観てたテレビに出てたのと形が似てる。

「これ、銃だよな。どーやんの?」

「普通に握りゃいいよ。んで、敵が出たら狙って撃つ!」

「おお!? おおお!!」

 いきなり画面に腐った死体みたいなのが出てきたと思ったら、そいつがバンと弾けて飛び散った。カズヒロがかっこつけて、銃の先端にフッと息を吹きかけてみせる。

「すげえっ。えーと、狙ってここを引くと……」

 腐った死体をやっつけた!

「おもしれー! うわ、なんかたくさん出てきたぞ。あれみんな敵か?」

「そうだ。左下に弾数が出てるだろ? 無くなったら銃を下に向けると補充されるぞ」

「え? あー撃てなくなった! んで下に向けると、うん増えた」

 ルールは単純だが、あれだけ苦労したゾンビ系モンスターが、こんなもんをカチッとやるだけで吹っ飛んでいくのは爽快だ。

「っく〜、気ぃ持ちいい〜! なあなあ、これもっといっぱい出てこないか?」

「うまいじゃねえかオイw じゃあ難易度、思いっきり上げてやるよ」

 画面が薄暗くなって止まり、さっきEASYに設定した項目がVERY HARDに変わる。

「足引っ張んなよ、三津原?」

 カズヒロがちょっと意地悪く笑った。

 ふん、挑戦されたら受けて立つのが勇者だぜ。やったろうじゃん!

 

 ——なんて意気込んで臨んだのだが。

「おいカズぅ、お前また撃ち漏らしたぞ?」

「いや三津原がおかしいから! お前こそ本当に初めてかぁ!?」

 だって簡単なんだもん。前方向しか来ないのに全部の敵に出現予告あるし、弱点とか見え見えだし。ちょっとのミスで死ぬような向こうのバトルと比べたら、なあ?

「んじゃそっちのも貸して」

 俺はカズヒロからもう1個の銃を取り上げた。画面をほとんど埋め尽くしている敵が、俺の銃撃で次々と倒されていく。弾数の補充はいちいち腕を下げるより、輪っかの部分に指を引っかけて銃をクルッと一回転させる方が楽だな。

 あーあ、向こうでもこんな風にやっつけられたら、俺も楽だったのに。

「マジかよ……全国レベルじゃん、このスコア」

 カズヒロが傍らでぼやいている。

 なんとなーく白けた空気が流れた。その時だ。

 

 プルルルルルル! プルルルルルル!

 

 携帯? なんだよこんなときに。

 察したカズヒロが俺から銃を取り上げて、目だけで「出てこいよ」と促す。俺は店の入り口まで移動した。携帯を開けた。みると表示は「TATSUMI」。

 へぇ、向こうからかかってくるとは珍しいこともあるもんだ。

「うーっす。話の途中でブチ切りするような相手に、なにかご用ですかぁ?」

『あの時はごめん。君も、時差のこと知らなかっただけだよね』

 およ? なんか素直じゃないか。まあ俺も時差のことは知っててかけたけどな。

『それで…さ、今回だけ、ナビ頼めないかな』

 聞き取りづらい小さな声で、ヤツは言った。

『そのーーゾンビ系のモンスターの楽な倒し方って、ある?』

「ップハ!」

 やべえ、なにこのタイミングw 思わず吹き出した俺に、タツミが『なんだよ』とムッとしたような声を出す。

「悪い、こっちのことだ。リビングデッド系の楽な倒し方だよな? 簡単だぜ」

『ホント? どんな!?』

「まずな、弾切れする前にリロードすること」(だはははは!)

『え、リロード?』

「あとはよーく弱点を狙って撃つことかな。参考になりましたでしょうか?w」

『…………』

 タツミは電話の向こうで黙ってしまった。ありゃ、反応無し?

 ああ、元ネタがわかんねえのか。ヒキコモリ(らしい)コイツが、外にある店のゲームを知らないのも仕方ない。

 いやもちろん俺もそこまで性格悪くねえし、ちゃんとナビってやるけどさ。

「なんてな、教えてやるからありがたく思え。有効なのは火炎系魔法だが、もうひとつ、武器にあらかじめ聖水をかけておくと……」

『もういい!!』

 いきなり怒鳴られて、俺はその場で固まってしまった。

「タ、タツミ?」

『自分でやるよ! 二度と頼らないから、そっちも勝手にすればいい!』

 同時にブツッと切られて「ツー、ツー」と数回鳴った後に、静かになる。

「もしかして……マジでヤバいのかな」

 なんかちょっと、泣きそうだった、ような。

 って、しかもお前、ゾンビ系の攻略法を聞いてきたってことは、

「嘘だろ、今ピラミッドかよ!?」

 俺はてっきり、今頃はアリアハンを脱出したあたりかと踏んでいた。時差があるとしても早すぎる。いったいヤツはどういうルートをとってんだ。

「すまん、急用ができたから帰るわ!」

 俺はカズヒロに向かって叫び、すぐ店外に走り出した。気のいい友人が追いかけてきてるかどうかも、気にする余裕はなかった。

 ヘタをしたら俺もヤツもここで「死ぬ」。

 

 冒険を肩代わりさせるにあたり「ここはナビが必要だ」というポイントがいくつかある。

 ピラミッドもそのひとつだ。

 たぶん現実側からプレイしてる限りわからないだろうが、実はあそこ、とんでもない数のトラップが仕掛けられている。回避策さえ知っていればなんともないんだが、普通は絶対にわからないだろう。かなり複雑な謎解きだから誘導してやるにしても、俺もいったん家に戻って、あっちの現状をモニタリングしながらでないと難しい。

 しかもあそこの地下は……頼むから落ちてくれるなよ、普通の神経じゃまず保たねえ。

「ったく、なんでつながんねえんだよっ」

 何度もリダイアルしたが「電波の届かないところにおられるか……」の繰り返しだ。

 ゲーム内の時間の進み方は現実と比べると恐ろしく早いが、通話している間だけは同期するらしい(でなきゃ普通に会話できん)。つながってさえくれりゃ、こっちも同じ時間の流れで動けるが、このままだと俺が家に帰る前にすべて終わってしまうかもしれない。

 さっきのバス亭に戻り、時刻表を確認する。

「一〇分後か」

 家はここからそんな遠くない。次の便を待つより走った方が早いか? 判断に迷う。

「待てよ三津原」

 その瞬間、グイっと乱暴に肩をつかまれた。

「だから急用だって……っと!」

 カズヒロじゃない、と思うと同時に、咄嗟に避けた耳元を相手の拳がかすめていった。背後からいきなり殴りかかられたのだ。

「へえ、タッちゃんやるぅ」

 そいつの後ろで手を叩いているのが2人。どいつも見たことのない顔だ。

 俺と同い年くらいの3人組で、揃いの紺色の服を着ている。向こうじゃ王族が着るような良質の生地だろうに、着こなしがだらしないせいで、ひどく俗っぽい印象を受ける。

「ビックリさしてごめんな? なんせ久々だったからさ〜」

 ニヤついた顔に見て取れるのは明らかな敵意。

「…………」

「ま、待てっつってんだろ!?」

 無言できびすを返した俺の前に、他の二人が回り込む。なに慌ててんだよ。

 

 ああああああめんどくせええ!!

 なんなのよコイツら! いや不良さんにカラまれちゃったみたいテヘ♪ってのはすぐ理解したんだけどね、なんで今ここで湧くんだよ!

 時間ねえっつーのに、どうすっかな。黙らせるのは簡単だが、初日から騒ぎを起こすのもどうよ。俺、静かで平穏な生活を望んでこっちに来たんですけど。

 それにしてもうちのプレイヤー、おとなしそうに見えて、実はロクに出歩けないほど敵が多いのか? どうなってんだいったい。




★番外3 「ゲームサイドの携帯」


「ゲームサイドの携帯の充電はどうしてるのか?」
というご質問が来ましたので、当事者たちに聞いてみました。


アルス「あ、当事者って俺らか」
タツミ「実は僕も気になってたんだよね、携帯の充電」
アルス「んなもん決まってんだろ、お前どこに飛ばされたと思ってんだよ」
タツミ「じゃあ、この電池残量のマークに重なってついてる『M』ってのは……」
アルス「当然『MP』だろ。使う人間の」
タツミ「なるほどー。って、僕にMPなんてあったの!?」
アルス「知らん。お前のステータス見てねえからわかんねえや」
タツミ「遊び歩いてないでちゃんとモニタリングしてくれよ。こっちからは客観的な数値がわかんないんだから」
アルス「うるせえ命令すんな。だいたい俺、お前にクリアさせる気ねえし」
タツミ「それ以前に僕が死んだら君もくたばるってこと忘れてない?」
アルス「ほぉ、死ねるモンなら死んでみろ」
タツミ「実際そうなりかけたら大慌てのくせにねぇ」
アルス「なんだよ」
タツミ「なにさ」


……空気が悪くなってきたので今日はこの辺で。

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