イナズマイレブンRTA 称号『英雄に連なる者』獲得ルート 作:山田ークネス
伊那国サッカー部。
練習試合すら行ったことが無い、孤島で細々と活動するだけの弱小チーム。
小僧丸サスケはそんなサッカー部のエースストライカーであり、幽霊部員だった。
「【スパイラルドロー】」
「うぉっ!?」
細谷誠也が、手慣れた様子で剛陣からボールを掻っ攫う。
そんなここ毎日行われている風景に、小僧丸は二階の廊下でため息を吐いた。
弱すぎる、あまりにもレベルが低い。
小僧丸にとって彼らのしている事はサッカーではない、遊戯だ。
本気で勝ちを目指さず、のほほんと腑抜けて、挙句にはあれで本土と戦いたいとのたまう始末。
「クソ……」
イラつくのだ、身の程も弁えない雑魚が粋がるのは。
そんな雑魚と温いサッカーをする、細谷にも。
「あんな奴らとするサッカーなんて、意味ねぇだろ」
小僧丸と細谷は同時期に伊那国島に引っ越し、そして同じ日にサッカー部に入った。
けれどその先は、真逆だ。
わずか2日目から幽霊部員となり、サッカーに対するモチベーションすら失せかけている小僧丸、熱心に部活動を続け、今でも真摯にサッカーに向き合っている細谷。
別に羨ましいと思った事はない、ただ不思議だった。
何故、こんな八方塞がりの島でサッカーを続けられるのか。
自分の思いが彼に負けてるような気がして……それも、細谷への嫌悪を募らせる要因だ。
そんなある日、唐突にサッカー部が潰れた。
トラックによってならされていくグラウンドを見て、小僧丸は漠然とした不安を抱いた。
この風景が、未来の自分を暗示しているような気がして。
このまま豪炎寺に挑戦するという夢を果たす事なく、小僧丸が見下している者達と狭い島でのうのうと過ごし続けるのか?
答えは否だ、そんなのが許されるはずがない、他の誰でもない自分が許さない。
聞けば、一ヶ月後のスポンサードトーナメントに伊那国サッカー部は出るらしい。
(そこで勝ち進んでスポンサーを付かせるしかねぇ。だが勝てんのか、あの面子で)
試合に出るという事は本土と戦うという事。
当然、強いチームもゴロゴロいるだろう(案の定、初戦はランキング1位の星章学園であった)
この短時間で伊那国サッカー部を強化するとして、敵うのだろうか。
(……あいつは、どう考えてんだ?)
ふと、細谷の存在が頭に浮かんだ。
伊那国で特出した実力を持つ彼は、この問題にどう対処しようとしているのか。
気になった、故に話を聞く事にした。
「はぁ……はぁ、【ソニック、ショット】ォ……!」
まともな明かりが存在しない伊那国島では深夜帯といっていい、21時。
細谷は一人、学校近くの空き地で特訓をしていた。
かれこれ3時間ほど。
(……どうなってんだよ、あいつの体力)
必殺技を持つ小僧丸にはわかる、あの疲労しながらも淡々と行われている行為が如何に狂気的なものなのか。
あれだけの回数だ、全身は鉛のように重く、呼吸するだけで肺が痛み、もうやめてくれと心が訴えているのだろう。
それでも細谷は止まらない、尋常でない汗をかき、膝を震えさせ、ユニフォームを汚してなおボールを蹴り続ける。
「……おい」
見ていられず、小僧丸は声をかけた。
それは細谷の体を心配してのものではない、自分がしてきた努力が『足りないぞ』と言われているような気がしたのだ。
「なんでお前、こんなド田舎に来たんだよ」
細谷の動きが止まり、瞳の焦点を小僧丸に合わせる。
そしてスタミナドリンクを飲みながら、たっぷり数秒かけてこう答えた。
「……答えたくありません」
「ま、俺も似たようなもんだから喋りたくねぇならそれでいい……なぁ、お前はあのチームにスポンサーが付くと思うか?」
別に細谷が伊那国に来た理由など小僧丸も興味がない、ちょっとした前座だ。
本題は、細谷がスポンサードトーナメントをどう思ってるか。
しかし返事は返ってこない、考えているのだろうか、夜なのに加え無表情なせいで感情が読みにくい。
「あいつらは素人の集まりだ。FFに出るどころかスポンサードトーナメントとやらで勝ち進む事も出来ねぇだろうな」
暗に俺と細谷だけなら勝てると伝えながら、この絶望的な現状を問う。
正直な所、小僧丸にも明確な答えは出ていない。
彼らを特訓するのか、それとも、初めから見捨てるのか。
しかし、細谷の答えはもっと先を見据えたものだった。
唐突に細谷がスマホを操作し始め、小僧丸のスマホが鳴る。
誰からの送信かは、明らかだった。
(口で良いだろ。なんでわざわざラインなんだ)
その面倒くさいや煩わしいといった感情は、ラインの文面を見て一瞬で吹き飛んだ。
「これ、練習メニューか? しかも一人一人メニューが違ぇ……」
記載されているのは伊那国サッカー部全員の名前と、練習メニュー。
それだけ、それだけだが、小僧丸にはそれで十分だった。
(こいつ、伊那国の奴らを鍛えるのは大前提で、その先まで考えていたのか!? ずっと前から!)
正直な所、頼られると思っていた。
どうすれば良いのかまではいかなくとも、一緒に練習メニューを考えてくれと懇願されるくらいには。後輩が先輩に頼るのは自然なのだから。
しかし違った、後輩は先輩なんぞより広く、深く物事を考えている。
「ハッ、温いサッカーで満足してる腑抜けヤローかと思ったが違うらしいな」
かろうじてその言葉を捻り出したが、果たして真の腑抜け野郎はどちらなのか。
伊那国サッカー部の弱さに呆れ、自分はこの中では一番なのだと思い込み、まるで井の中の蛙だ。
いや、
そう一人打ちひしがれていると、細谷から声がかかる。
「協力して下さい、小僧丸先輩」
「協力、だと?」
「僕達には強いFWがいないので」
言葉数は少ないが言いたい事はわかる。
スポンサードトーナメントに出てくれと言われているのだ、確かに、小僧丸は出るとは一度も言っていなかった。
「勿論、俺もトーナメントに出る。明日からの練習にも顔を出すぞ」
「良かったです」
そうして、細谷は特訓に戻った。
一分一秒を無駄にしたくないとでも言わんばかりのその気迫は、小僧丸の心に火を焚べる。
(認めてやるよ。俺は……逃げてた)
それはサッカーから、すべき努力から、そして恩師の言葉から。
けれど今は違う、久しく忘れていた熱が、全身を駆け巡っている。
『お前は良いFWになれる』そう言ってくれた恩師の言葉を嘘にはしない。
そしてもう二度と、豪炎寺に胸を張れない事はしない。
◆◇◆◇
最近、細谷の様子がおかしい。
そう海腹のりかに相談された稲森明日人は、人一倍の練習メニューをこなす細谷に視線をやりながら考える。
(確かに前より頑張ってるけど、そんなに気になるかな……?)
実の所、明日人はあまり細谷と交流がない。
部活動で話す機会はそれなりにあれど、あちらが無口な事も相まって仲が良いとは言えなかった。
だから、それは偶然だ。
深夜か早朝か区別に困る時間、学校に忘れ物を取りに行く途中で、伊那国山の麓に駆けていく細谷の姿を見たのは。
のりかの言葉が反芻される、明日人自身も気になっていたため彼の後を付けた。
「嘘ぉ……」
そうして見たのは、ボールを的確にキープしながら木を伝っていく細谷の姿だ。
伝っていくと言っても手は使っておらず、それでもかなりのスピードで進んでいる。
どんな体幹と反射神経とボールキープ力と勇気があれば、あんな曲芸が成せるのか。
しかし見惚れるのは後だ。
部活動で疲労している足に鞭を打って、明日人も全速力で山頂に向かった。
「ゲホッ……はぁ、はぁ、はぁ……」
山頂まで着くと、慣れていそうな細谷でも流石に疲れたのか、木にもたれかかって体力の回復に専念している。
今を逃せば明日までタイミングはないだろう、明日人は息を整えて話しかけた。
「細谷……もしかしてそれ、毎日やってるの?」
細谷の上半身が明日人の方を向き、両目が驚愕で見開かれる。
まさか付けられているとは思わなかったのだろう、そんな心情がありありと伝わってくる。
「……はい」
「そうなんだ、凄いね」
隣に座ったは良いものの、会話が途切れた。
気まずい、これは自分から話題を出さないとキャッチボールが始まらないと察して、明日人は口を開く。
「俺さ、細谷が作ってくれたメニューで強くなったと思ってた……でも、違ったんだ」
細谷は黙っているが、明日人をじっと見て話を促している。
「昨日、星章の試合見たんだ。そしたらみんな、俺なんかより全然強くてさ……勝てるのかなって思った」
こんな弱音、後輩に吐くべきではないのだろう。
けれど、
「小僧丸と細谷が鍛えてくれても、俺じゃ無理だよ……2人の期待に、応えられない……」
一度言ってしまったものは、止まらない。
(何言ってんだろ、俺。こんなの細谷に言う事じゃないのに)
しかし訂正する気にはなれない。
本来頼ってはいけない者が、なんと言うのか気になったからだ。
そして、変わらず瞳孔に明日人を写したまま細谷は口を開く。
「明日人先輩は、スポンサーが付いて欲しくてサッカーしてるんですか?」
「え……?」
「僕はみんなと、本土の人たちとサッカーがしたいからサッカーしてます」
「サッカーが、したいから……」
驚いた、無口だと思っていた後輩が予想以上に饒舌なのもそうだが、的確に胸の
そうだ、明日人は星章学園と戦うのが嫌なのではない、そこでサッカーが出来なくなってしまうのが嫌なのだ。
強敵と戦えるワクワクが、スポンサーという重荷に押しつぶされている。
細谷は、それがわかってこんな助言をしたのだろうか。
いや、今はそれはどうでもいい。
「先輩は違うんですか?」
「俺も! 戦いたい!」
前々からずっと思っていた、本土のチームと戦ってみたいと。
ならば萎縮して、プレッシャーに押しつぶされている場合ではない。
精一杯楽しむのだ、負けたらおしまいなんて思うな、まだ見ぬ強敵たちに思いを馳せろ。
「だから俺、強くなりたい。強い奴らと全力で戦えるようになりたいんだ」
「先輩ならなれます」
「でも、今のままじゃ無理なんだよね?」
答えは肯定、そりゃあそうだ。
今までずっと本気でサッカーを続けているチームに、たかだか一ヶ月で追いつけるはずがない。
だが、距離を縮める事は可能だ。
「細谷、俺も同じ特訓やるよ。良いかな?」
またも、答えは肯定。
興味なさげだが、彼も自分達と同じように”熱”を持っていると明日人はわかっている。
(見ててよ、母さん、父さん。俺、絶対強くなるからさ)
気付けば、太陽が顔を覗かせていた。
正直出来が良いとは口が裂けても言えないので精進したい所存です。
ダイジェストなのでイナイレ特有の泥臭い特訓描写がしにくいのも……。
後単純にキャラの口調が掴みにくいです。