イナズマイレブンRTA 称号『英雄に連なる者』獲得ルート   作:山田ークネス

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ホモくんは苗字が変わってもホモくんなので初投稿です。


第二話 胸に燻る

彼の名前を見つけたのは、本当に偶然だった。

 

ほんの少し前に行われたスポンサードトーナメント、それに出場していた一校の選手達が雷門に転校してくるという。

となれば当然、生徒会長である神門アンナの元にも、彼らの情報を纏めた書類は降りてくる。

それを眺めていた時だ。

 

ペラペラとページを捲る指が、とある選手の欄で止まった。

少しはねた黒髪、物憂げな黒い瞳、そして、細谷誠也という氏名。

写真から受ける印象も、なんなら苗字すら違う。

けれどアンナは彼に、ひどく既視感を覚えた。

幸いすぐにその正体に行き着く。

 

「確か……宝月誠也、だったかしら」

 

椅子を引き、顎に手を当て、呟くのは以前の彼の名前。

一つ歳下で、明るく、サッカーが好きで上手な少年だった。

家が近所だったため付き合いも多く、こうしてスラスラと名前や思い出が浮かんでくる。

 

「どうしたんですか? アンナさん」

「いえ、なんでもないわ。それより、趙金雲さんに聞きたい事が出来たから。出るわね」

 

生徒会メンバーにそう伝え、書類片手にサッカー棟に向かうアンナ。

雷門に付いたスポンサーの資金提供で新築されたそこの自動ドアをくぐれば、いつものようにゲームを遊ぶ趙金雲の姿があった。

思わず眉を顰める。

 

「お話があります」

「なんですか〜? もしかして、伊那国の彼らの事ですかぁ?」

 

趙金雲の視線は変わらずゲームに釘付けで、対話の姿勢はこれっぽっちも感じられない。

わざとらしいため息の一つも出ようというものだ。

いや落ち着け、こんな事でいちいちイラついては、話したい事も話せない。

アンナはそう自分に言い聞かせ、努めて静かに声を絞り出す。

 

「その通りです。一体どういうつもりなんです? 部員を全員退部させたと思ったら、他校の選手を招き入れるなんて」

 

それは遡る事数ヶ月前。

旧雷門メンバーが海外のチーム、バルセロナオーブに敗れ、強化委員として全国に散った後の話。

 

全国優勝を成し遂げた雷門サッカー部には多くの入部希望が届いた。

これは良い、部活動の活性化は雷門中にとって喜ばしい事である。

問題は、彼らの入部届けを受け取る監督がいなかった事だ。

 

響木正剛はとっくに監督業を降りており、かつて監督をしていた冬海卓は論外。

かといって雷門校には、今のサッカー部を任されるに足る教師はいない。

外部教員を雇うにしても全国優勝校というネームバリューが逆に足を引っ張り、いつまで経っても相応しい人材は見つからなかった。

 

監督がいなければ入部は出来ず、入部出来なければサッカーは出来ない。

その不満は意見箱を通してアンナにも伝わっており、どうしようかと悩んでいる、まさにその頃だ。

趙金雲を名乗る小太りの男が、彼女の前に姿を現したのは。

 

「これからは私が雷門サッカー部の監督ですので、よろしくお願いしますねぇ〜?」

 

なんとも胡散臭い男だな、というアンナの第一印象と異なり、趙金雲は非常に優秀な男だった。

スポンサーからの資金を適切に分配し、スムーズに部員達の人数把握や伝達手段の確立を行い、不満が溜まりにくいメニュー提案やスケジュール管理、見やすく纏まった書類作成。

 

スポンサーから派遣された調整員、趙金雲の子分を名乗る李子文などの手助けもあったが、雷門サッカー部は短期間でメキメキと力を伸ばしていった。

各個人の才を見抜く炯眼(けいがん)でも持ち合わせていたのか、必殺技を使える選手も順調に増えていく。

それこそ、イナズマイレブンの再来と呼ばれる者達を欠いた今の雷門でも、FF二連覇を夢見ることが出来るほどに。

 

そうしてFFを三ヶ月後に控えたある日。

趙金雲は、サッカー部員を全員退部させた。

突然の事だ。

昨日までと同じテンションと声音で一言、

 

「え〜では、今日から皆さん。ここを出ていって下さ〜い」

 

そう退部を突きつけて。

雷門サッカー部は昔と同じ……それこそ円堂守が初めて部室の戸を叩くより以前に、逆戻りしてしまったのだ。

 

それから二ヶ月、趙金雲は一切の入部届けを受け取らなかった。

当然、それだけの問題を起こせば解雇も話に上がる。

だが結局、彼は監督の座に座り続けた。

 

誰もが、趙金雲でなければ雷門サッカー部はFF二連覇を達成できないと理解し、未だ心のどこかで期待しているのだ。

代わりに自分が責任を負うことになるかもしれない、という教員達のプレッシャーもあったのだろう。

 

そんな彼らをよそに、新たに雷門サッカー部の門戸を叩く者達がやってくる。

それこそが、伊那国島の少年少女達だった。

 

 

 

という経緯だ。

趙金雲がコントローラーから手を離し、アンナの方に体を向ける。

 

「彼らなら私の期待に応えてくれる。そう確信しているだけですよ」

「期待? FF二連覇なら以前のメンバー達のほうが」

「ブッブー、違いまーす。私の期待は優勝ではありませ〜ん。まぁ、あながち間違いでもありませんが」

 

それだけ言うと、再びゲームの方に意識を戻した。

どうやら、これ以上のことをペラペラと喋るつもりはないらしい。

ならば次だと、アンナは趙金雲とゲームモニターの間に立った。

 

「まだ納得がいきませんかぁ? 大丈夫ですよ、今度こそちゃ〜んとFF二連覇を目指しますよ」

「そっちはもういいです、ひとまず置いておきます」

 

そこで言葉を区切り、趙金雲に見えるように掲げるのは、束ねられた書類の1ページ。

細谷誠也のページだ。

 

「彼の事について、聞かせて下さい」

 

まぁ、どうせいつもの如くのらりくらりとかわされるんだろうな、というアンナの予想と異なり。

趙金雲は正しく驚いた、というリアクションを返した。

 

「あー、つかぬことをお聞きしますが、もしかして彼とお知り合いですか〜?」

「まぁ、ずっと昔に。それとそのつかぬこと、誤用です」

「まぁまぁ。で、何が聞きたいんです?」

 

ゲームコントローラーを隣に座っていた李子文に預け、改めて対話の姿勢を取る趙金雲。

触ったことのないゲームに慌てふためく李子文をよそに、二人の話し合いが始まった。

 

「彼は、その……小学生の頃に養護施設に預けられました」

「えぇ、それは私も知っていますよ〜。伊那国の彼らのことはちゃ〜んと調べましたので」

「それがどうしてか伊那国島に引っ越していて、雷門にやってくる」

 

それからアンナが知る細谷誠也をつらつらと語っていると、改めて実感する。

伊那国の中で細谷の情報のみが異様に欠けている、と。

他のメンバーが『伊那国生まれ伊那国中学校所属』と言った簡素な情報だけのため、非常に気付きにくいが。

 

細谷に関しては預けられた児童養護施設も、細谷性の人に引き取られたであろう事も、所属していた小学校の情報でさえ、記されていない。

それがアンナの眼にはひどく不気味に映った。

だから、かつての幼馴染に何があったのか、どういった経緯を辿り、雷門に転入してくるのか。

 

「ん〜、何を聞きたいのかイマイチ分かりかねますが」

 

つまるところ、

 

「貴方は少しでも知りたい、という事ですねぇ? 細谷くんの事を」

「知り、たい……」

 

知りたい。神門杏奈は細谷誠也の事を、知りたい。

そのピースは、ぐちゃぐちゃに絡まっていたアンナの思考回路をほぐすのに十分な役割を果たした。

 

「確かに私は細谷くんの情報を意図的に穴だらけにしました。つまり、貴方にも明かすつもりはありません」

「……貴方の言う期待と、何か関係があるんですか?」

「いや〜、勘が鋭いですねぇ。ま、あると言えばあります。それはともかくとして」

 

相手について詳しく知りたいのなら、やるべきは一つだろう。

 

「そ〜んなに気になるのなら本人の口から直接聞いてみてはいかがです? あくまで私個人の口からは言えないだけですしねぇ」

「へっ? え、と……それは、その……」

 

趙金雲のアドバイスにいつもの凛とした調子はどこへやら、アンナは途端に口ごもり始めた。

その理由は非常にシンプルだ。

気まずい、である。

細谷が事故で両親を亡くして施設に預けられたのが小学校低学年、アンナと遊んでいた時間などごく僅かだ。

幼い頃に仲良くしていた少女の事など忘れているかもしれない。

いや、年月や細谷の身に起きた不幸を考えればそちらの方が自然だ。

 

そんな彼に”いかにもな雰囲気”で話しかけ、ズケズケとデリケートな過去に踏み込み、万が一嫌悪されてしまえば。

気まずい、なんてレベルではないだろう。

死ねる。精神的に死んでしまう。

 

如何に地域を代表するマンモス校の生徒会長を務める少女と言えど、気まずいものは気まずく、不安なものは不安なのだ。

まだ、彼女の胸中に渦巻く感情の正体すら定かではないが。

だからこそ慎重に動きたかった。

 

「では、素晴らし〜い案を提示しましょう」

 

並外れた観察眼でそれを察知した趙金雲が、指を一本立ててそう告げる。

現状、細谷誠也について一番詳しいのはこの男だ。

ならば良質なアイディアの一つや二つあるのだろうと納得しつつ、アンナは紡がれる言葉に耳を傾ける。

そして、

 

「アンナさん、貴方には雷門のマネージャーとなる事をお勧めします!」

「はい?」

 

頓珍漢にも思えるその提案に首を傾げ、頭上にクエスチョンマークを浮かべるのだった。

 

◆◇◆◇

 

結論から言えば、アンナはマネージャーにならなかったし、細谷は何も覚えていなかった。

アンナの事だけではない、預けられていた施設の事も、亡くなった両親の事も、宝月という以前の自分の苗字さえ。

彼を構成するあらゆるものが、朧げ程度にしか残っていなかったのだ。

 

アンナが細谷の暮らす寮に押しかけ、知る限りの説明をしても、それは変わらず。

少しヤキモチする。

自分は微かな記憶を頼りに、あれだけ感動的な再会を果たしたのに。

あんなにロマンチックというか、劇画的だったのに、と。

 

「あっちはなーんにも覚えていないなんて」

 

そう一人ごちて、アンナはベッドに顔を埋める。

その姿勢のままたっぷり数分、様々な方向に思考を飛ばして。

最も強く印象付いていたのは、イナビカリ修練場の場面だった。

顔を上げ、姿勢を仰向けに直す。

 

「本当に、まだやってたんだ……サッカー」

 

浮かべる表情も、性格すらも変わっていたが、サッカーに対してだけは何も変わっていなかった。

むしろ輝きを増していたようにさえ思う。

ひたすら真剣にボールを追う、彼の姿は。

 

「決めた」

 

試合を見よう。彼のサッカーをもっと見よう。諸々の問題は、それから考えよう。

まだ何も解決出来ていない心に、猶予を与えるために。

 

そうして生徒会長を務めながら時折グラウンドを眺める毎日が始まり、あっという間に試合の日は訪れた。

 

 

三度、結論から述べよう。

アンナは45メートル×90メートルという箱庭の、一時間という世界の中でしのぎを削る彼らの姿に、見惚れてしまった。

観客席よりもなお遥か天高くへ昇る細谷の姿が、脳裏に刻まれてしまったのだ。

 

だから後日、趙金雲の元を訪れ、マネージャーの話を持ち出したのは仕方のない事だろう。

 

「ふっふっふ、やはり貴方はマネージャーになってくれると信じてましたよ〜」

「……わかっていたんですか? 私がマネージャーになるって」

「えぇ。細谷くんの事もありますが、貴方、以前からサッカーに興味があったでしょう? 目を見ればわかります」

 

表面上無言のまま、内心乾いた笑いが出る。

あぁ、本当にどうして、こんな男が今まで無名だったのか。

そんな空恐ろしさを感じつつ、アンナは改めて思う。

自分は何のためにサッカー部に入るのか。

 

細谷に記憶を取り戻してもらうため? 

なくはないが、理由としては弱い。そもそも、細谷は記憶がない今の状況でも問題なく生活できているのだ。

無理に干渉する必要がどこにある。

 

サッカーを見たいから?

これもあるだろうが、わざわざマネージャーになる理由には満たない。

 

ならば、細谷を近くで見たいから?

これが一番近いかもしれないが、そもそもどうしてそう感じる?

恋心? 何年も会っていない相手に、それは飛躍しすぎではなかろうか。

 

かといって他にしっくりくる理由は浮かばず、まだ何をしたいのかすら定かではないが。

まずは伊那国雷門のマネージャーとして頑張ってみようと、アンナは決意を固めるのだった。




恋愛感情とも言えるし、恋愛感情でないとも言える。
どう見えるかだ(サム8)

ホモくんと幼馴染の今走が異端なだけで、通常プレイではサッカーが好きという理由でマネージャーになります。
でもそれだとあまり面白くないと思ったのでホモくんとの設定を生やしました。

そもそも原作が原作なので、最低限のストーリーラインには沿りますがバンバン改変していく予定です。
キャラリスペクトの意思は必ず持ちますので、お許し頂けると幸いです。

感想等で怒られたら諸々修正します。お兄さん許して。
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