この度、数年ぶりに仮面ライダーシリーズの二次創作を執筆しました。既存のライダーではなく、オリジナルライダーものです。
初めての挑戦で至らぬところもありますが、楽しんでいただけると幸いです。
第一話 地獄の王
東京某所。
深夜になろうと煌びやかな灯りが消えないこの街も、一つ道を外れれば漆黒の闇が広がる。その闇の中で、二つの影が動いていた。
一方はサラリーマン、その場に座り込みながら必死に後ろに下がろうとしている。腰が抜けてしまっているようだ。
もう一方は、人間とは思えない姿をしていた。全身が刺々しい針のような皮膚に覆われ、顔に当たるであろう部分は獣のように生物的なものになっている。背中からは翼が生え、腰からは尻尾。端的に表すなら『妖怪』という表現が最も相応しいだろう。
「た、頼む……やめてくれ……」
「やめろだと? 何故我らが人間の頼みなど聞かねばならぬ?」
男性の命乞いに対し、怪物――妖怪はそう返し、腕を振り下ろす。
鋭い爪の一閃が男性の胸元を引き裂き、その場へと倒れさせる。激しく血が流れ、身体がビクビクと何度か震え、すぐに動かなくなった。
「ふん、人間など、我らからすれば贄でしかないのだ。そんなものの言葉など聞く耳を持たんな」
妖怪はそう呟き、爪に付いた血を舐める。好みの味ではなかったのか、顔をしかめた。
「薄味だな。まあ、頭部さえ残っていれば――」
「そこまでだ」
突如、背後から声をかけられる。妖怪は警戒しながら振り返る。
そこには男がいた。暗闇の中で表情は分からないが、妖怪は自身が強い視線を受けていることを感じ取った。
「何者だ? 人間のようだが、邪魔をするな」
「邪魔をするさ。これ以上、その人を傷付けさせるわけにはいかない」
男の視線は、妖怪の後ろにある死体へと向けられていた。妖怪も死体を一瞥し、フン、と鼻を鳴らす。
「こいつはとっくに死体だ。助けることは無意味だ」
「そんなことは分かってる。だが、例え死人であっても尊厳を守るだけだ」
男はそう言うと、懐から小さなバックルのようなものを取り出し、腹部に当てる。それは瞬時にベルトを形成し、腰に巻き付いた。それを見た妖怪は驚愕の表情を浮かべる。
「そのベルト……貴様、まさか……!」
「そのまさかだ。お前にはしっかりと裁きを与えてやる」
そう言うと、男の身体が光に包まれ、その姿が見えなくなっていく。
妖怪はそれでも男へ向けて走り出し、爪を振るう――
★
東京都心の近郊にある街、その一角に「雑貨屋 東堂」という店がある。今はシャッターが下りているその店の前に、箒と塵取りを持った青年がいた。青年は慣れた手付きで箒を使い、手際よく店の前を掃除している。
「おはようカズキ!」
「おはようございます!」
「おはよう、カズキさん」
「おはようございます!」
道を歩く近所の人々が声をかけてくる度に笑顔で返事をする。それが青年――桜井カズキにとっての日常である。
カズキは五分ほど掃除を行うと、店の裏へと回り塵取りの中身をゴミ箱に移す。そのまま道具を片付けると、バケツと雑巾を用意して水道からバケツに水を入れる。
そうしていると、勝手口が開き、中から緑色の髪の女性が現れる。女性は眠気が残っているのか目を擦り、あくびをしながら歩いていく。カズキは女性に声をかけた。
「おはよう、早苗。また夜更かししてたのか?」
「おはよう、カズキ……ちょっと長くなっちゃてね……」
女性――東堂早苗は、軽く伸びをしながら答えた。そのまま水道に近づくと、水を出して顔を洗う。水飛沫が舞うと、反射された光で緑色の髪が輝く。カズキはその様を見て、感嘆の声を出す。
「おお……相変わらず綺麗な髪だな」
「もっと褒めなさいよ。手入れ大変なんだから」
早苗は気を良くしたのか、軽く胸を張って言う。それなりに豊満な身体が揺れたことで、カズキは少しだけ顔を赤くする。そして話題を変えるべく口を開く。
「そういや、おやっさんは?」
「ああ、また工房に籠ってるわよ。多分新しい雑貨を思いついたんでしょ。また徹夜コースでしょうね」
「相変わらずというかなんというか。程々にしとくように言っとかないとな」
「聞く耳持たないでしょうけどね」
二人で顔を見合わせ、ため息を吐く。こうしてあれこれ話しながら朝の支度を整えていくのが、二人の日常であった。
ふと、カズキは腕時計に視線を向ける。
「おっと、もうこんな時間か。そろそろ店を開けないとな」
「あら本当。私も準備してくるわ」
早苗は勝手口から家の中に戻る。この建物は表が雑貨屋で、裏が住居となっている。勝手口は直接台所に繋がっている。
カズキはそれを見届けると、表に回る。時刻は午前9時になろうとしていた。シャッターを上げて、現れたのはガラス張りのドア。そこにかけられた「CLOSE」の札を裏返し「OPEN」へと変える。
「さて、今日も頑張りますかぁ!」
そう言って、笑顔で振り返るカズキ。雑貨屋の店員として働く一日が、今日も始まるのだった。
★
東京の街は、無数のビル群が立ち並ぶ場所が多い。その真下には無数の人々が道を行きかう。皆、仕事や生活、観光のためなど目的は様々だが他者を気にする余裕など持たない者がほとんどである。
故に、ビルの間に存在する路地裏での出来事など、誰も知る由もない。
大通りから大きく離れた路地裏。ビルの間に出来た細い道を何本も奥へと進んで辿り着くような場所で、一人の男が座り込んでいた。薄汚れた服を纏い、何日も洗わずボサボサになった小汚い金髪の男。片手には酒の空き瓶を持ち、アルコールの匂いを漂わせていた。
「どいつもこいつも……金くらい寄越せってんだよ……クソが」
そう呟き、瓶を口に含む。しかし、すぐに酒が入っていないことを思い出し、舌打ちをしながら空き瓶を投げ捨てる。瓶が地面に叩き付けられ甲高い音を響かせて割れる。
「金さえあれば、なんだってできるってのによぉ……」
「ならば、金を手に入れる方法を教えてやろうか?」
再びの男の呟きに答える声。男が顔を上げると、そこには顔の整った青年が立っていた。今時珍しい和服に身を包み、温和な表情を浮かべた白髪の青年である。しかしその瞳は、どこか冷たさを感じる鋭さを持っていた。
「なんだ、お前」
「私はただの通りすがりだ。だが、お前の望みを叶えてやる方法を知っている」
「何?」
男が怪訝そうな表情になると、青年は懐から何かを取り出す。
それは弾丸のような形をした物体だった。先端が鋭く尖り、正面には蜘蛛を思わせる絵が描かれ、側面には押し込むボタンのようなものが付いている、漆黒の弾丸だった。
「これを使えば、お前は人を超えた力が手に入る。そうすれば、お前の欲する金が好きなだけ手に入る」
「はあ? そんな話、信じられるわけないだろうが」
男は露骨に顔をしかめ、立ち上がってその場を去ろうとする。その背中に向かって、青年は声をかける。
「いいのか? お前は自分を見下している奴らを見返したかったのだろう? そのために金を欲した。だが結局失敗し、今こうして無一文で露頭に迷っている。それを簡単に覆す方法があるというのに、それを拒むのか?」
「だからって、そんなおもちゃみたいなもんで何が出来るってんだよ。馬鹿にすんのもいい加減にしろよ」
「そうか、信じられないか。――これでもか?」
青年はそう言うと、新たな弾丸を取り出した。そこには角と牙を持ち、片手に盃を抱えた人型の異形――鬼の絵が描かれていた。青年はその弾丸に付いているボタンを押す。
《シュテン!》
野太い音声が鳴り響き、弾丸が怪しく光りだす。青年はその弾丸を胸に突き刺す。
すると、弾丸から赤と黒色のエネルギーが放出され、青年の身体を包み込む。やがて球状に形が変わると、エネルギーが消失し姿が見えるようになる。
そこに立っていたのは、鋭い角と牙を持ち、腰まで届く白髪を携え、赤黒い筋肉質な肉体を持った人型の異形――鬼であった。
「う、うわああああっ!?」
男はその姿に驚き、腰を抜かす。その様を見て鬼は口を開く。
「我が名は酒吞童子。この世の裏側で生きる妖怪共を束ねる者。これで本当に力があることを理解できたか?」
鬼――酒吞童子から発せられる声は、先ほどまでの青年のものだった。その事実が、青年が異形に変身したのだと否が応でも突きつける。男はただ頷くしかなかった。
「さて、話を戻そう。この弾丸を受け取れば、お前にも人智を超えた力が与えられる。その力を使えば、金などいくらでも手に入る。どうだ、受け取るか?」
酒吞童子は再び弾丸を取り出し、男に問う。対する男は震えながらも笑みを浮かべていた。
「す、すげえな……確かにそんな力があれば、いくらでも金を得られそうだ。もちろん、受け取るぜ!」
男の返答に、酒吞童子は満足げに頷く。男の手に弾丸を握らせ、腕を引っ張り立たせてやる。
「ならば、これはお前のものだ。好きなように使え。そうだな、例えば手近な銀行を襲うなんてどうだ? 大金を手っ取り早く奪えるだろう」
「そうだな、そうするのが一番か。ありがとよアンタ! おかげで人生逆転だぜ!」
男は喜び勇んで表へと歩き出す。先ほどまでの絶望感が嘘のように消え去り、軽い足取りで歩いていく。その背中を見ながら、酒吞童子は呟く。
「好きなだけ楽しむがいい。お前の――人としての最後の時だ」
★
「ありがとうございました!」
店を出る客に向けて、カズキは頭を下げながら大声で送り出す。客も満足そうな顔で出て行った。
その様子を見て、早苗は棚の整理をしていた手を休め、感心するような表情を浮かべた。
「相変わらず丁寧というかやりすぎというか、よく真面目にやれるわねぇ」
「何言ってんだ。小さいとはいえ接客業だぞ。真面目にやらなくてどうするんだ」
「そりゃそうだけどねぇ。アンタはあっちのこともあるのに、こっちで全力出しすぎたら疲れちゃうでしょ?」
「大丈夫だよ、ペースは考えてるし、身体は頑丈だからな。だから続けられるんだ」
そう言って身体を伸ばしながら、カズキは時計に目を向ける。時刻は午後3時を過ぎていた。
「もうこんな時間か。あと少しだな」
「どうせもう来る人なんていないんだから、休みみたいなもんよ」
早苗はカウンター内の椅子に座り、スマホを取り出す。
雑貨屋東堂のピーク時間は、午後1時から3時の間。それ以降は学校帰りの学生が覗きに来るくらいで、そこまで忙しくならない。ちなみに閉店時間は午後6時頃である。
二人がそんな話をしていると、店の奥の扉が開き、中から壮年の男性が現れる。白髪交じりの茶髪を搔きむしり、眠そうにあくびを嚙み殺している。男性の名は東堂健児。早苗の実父にして、雑貨屋東堂の店主である。
「おはよう、お父さん。もういい加減に昼夜逆転やめたら?」
「おはようございます、おやっさん。早苗の言う通り、健康のためにもやめた方が良いですよ」
早苗とカズキは、早々に生活リズムへの苦言を呈する。そんな二人に対し、健児はバツが悪そうな表情を浮かべる。
「はいはい、分かった分かった。起きて早々に説教しないでくれ」
「もう何日もこんな調子じゃ、こっちも心配になりますよ」
呆れたような表情でカズキは言う。実際、健児はここ数日深夜まで自室に籠って作業をしており、朝に眠って昼に起きるという生活を繰り返していた。
「大丈夫だ、おかげでもう少しすれば完成するんだ」
「えっ、まさかずっとアレを作ってたんですか?」
「当たり前だろ。今ここでアレを作れるのは俺だけだ。そのためならいくらでも無理をするさ」
「それで倒れたりしたら、それこそ本末転倒でしょうが」
どこか強情な雰囲気を見せる健児の頭を、早苗が軽く叩く。そのまま背中を押して、店の奥まで連れていく。
「とりあえずご飯食べなさいっての。軽いもの何か作るから」
「う~む、すまんな、早苗」
健児は諦めたのか、大人しく連れていかれる。その様子を、カズキは微笑ましそうに見ていた。
そんな時、店の外から爆発音が聞こえてきた。かなりの轟音で、店のガラスが大きく揺れるほどの衝撃も伝わってきた。
「っ! 今のは!?」
カズキはすぐに店の外へ飛び出す。周囲を見回すと、数キロ先の大通りから黒煙が上っているのが見えた。その方向には銀行があったことを、カズキはすぐに思い出した。
「あの方向……また、ろくでもないのが出てきたみたいだな……!」
そう呟くと、カズキは店の前に停めていたバイクへと駆け寄る。すぐにエンジンをかけ、発進準備を整えていると、店の中から早苗が出てくる。その手にはアタッシュケースが抱えられていた。
「こっちは準備OKよ、カズキ」
「よし、行くぞ早苗」
カズキはヘルメットを渡し、自分も被る。早苗もすぐにヘルメットを被り、カズキの後ろに乗る。
しっかりと座っていることを確認したカズキは、一気にエンジンをふかして全速力で現場へ向かうのだった。
★
カズキ達が店を飛び出す数分前、人々が忙しく行き交う大通り。
人が集まる場所には、物や金が集まる。あるいは物や金が集まるからこそ、人が集まるのかもしれない。大通りの中には大きな銀行が建っていた。この辺りに住む人々の財産を一手に預かる重要な場所である。
そんな場所へ向かって、一人の男がフラフラと歩いていく。先程、路地裏で怪しげな弾丸を手に入れた金髪の男であった。男は一歩ずつ銀行に近付くごとに、意地の悪い笑みを深くしていった。
「へへ……もうすぐ、もうすぐだ……もうすぐで全ての金が手に入る! 全部俺のもんだ!!」
喜びを抑えきれないという風に、男は大声で叫ぶ。周囲の人々が怪訝そうな顔をするが、まるで気にも留めていない。
やがて、男は銀行の目の前に立つ。銀行の中には多くの利用者がおり、男の様子には気付いていない。
男は舌なめずりして、手の中の弾丸を掲げ、ボタンを押す。
《ツチグモ!》
野太い音声が鳴り響き、怪しく弾丸が光りだす。男はそれを自らの胸に突き立てる。赤黒いエネルギーが男の全身を包み込み、その姿を異形へと変えていく。
エネルギーの奔流が収まり消え去ると、そこには土気色の皮膚を持ち、背中から4本の蜘蛛のような足が生えている人型の異形――妖怪・土蜘蛛が立っていた。
土蜘蛛は無数に生えた牙を持つ口を、ニヤリと歪め、その腕で正面にあるガラスを殴りつけた。ガラスはまるで飴細工のように簡単に砕け、その破片が周囲に飛び散った。
その凶行に人々も驚き、恐怖に駆られてパニックになる。特に銀行の中にいた人々は、すぐに逃げ出そうとして、建物の奥へと我先に走り出した。大勢の人々が一斉に同じ方向に動き出せば、あっという間に道は塞がり簡単には逃げられなくなってしまう。ある人は床に倒れ、ある人は壁にぶつかり転がる。そんな様子を尻目に、土蜘蛛は奥の部屋へと進んでいく。
扉を蹴破った先には、貸金庫があった。壁一面に金庫が取り付けられており、土蜘蛛は適当な金庫に手を触れ、力付くでこじ開けた。その中には少量の宝石が入っていた。
「くはは、やっぱりこういうのが入ってたか! もっともっと、全部俺の物だ!」
土蜘蛛は歓喜の声をあげながら、次々と金庫をこじ開けていく。その中にある宝石や貴金属、現金などを取り出しては足元にぶちまけていく。
やがて、ほぼ全ての金庫から金目のものを取り出すと、口を大きく開けて糸を吐き出した。その糸は床に置かれた金品を一瞬で包み込み、巨大な球へと変貌した。土蜘蛛はそれに満足げに笑い、引きずって外に出る。
銀行の外では、騒動に惹かれて集まった野次馬達がいた。中から現れた土蜘蛛の姿を見ると、皆一目散に逃げだしていく。その様子に土蜘蛛は言い知れぬ高揚感を覚えていた。
「ああ、気分が良いな。どいつもこいつも、俺のことを恐れてる。金も手に入って、誰も俺を見下さない。良い気分だ!」
空を仰ぎ、高らかに叫ぶ土蜘蛛。再び逃げ惑う人々に目を向けると、徐々にどす黒い欲求が高まってくるのを感じる。
「ああ、それにしてもビビッて逃げ惑う人間ってのは、中々見てて面白いな。それに美味そうで――な、なんだ、俺は何を言って……うぐぅ!?」
土蜘蛛は突如、頭を押さえて苦しみだす。自分の中の何かが急速に書き換えられるような、そんな感覚を味わい、困惑する。
「お、俺は……ぐうっ、おおおおおおっ!!」
やがて、土蜘蛛の中から何かが消える。それが何なのか、最早本人にも分かることはない。ただ、それが消えた後の土蜘蛛に残ったものは、シンプルな思考のみだった。
「ハア……ハア……人間、美味そうだ……食ってやろう……!」
自分の中の食人衝動、それに反する人としての理性は瞬時に消え去り、湧き上がる衝動を満たすための思考のみが残る。人としての死を迎え、妖怪としての生誕を果たした瞬間である。
土蜘蛛は周囲を見回し、目に付いた人間に狙いをつける。逃げ遅れて物陰に隠れて様子を伺っている青年だった。土蜘蛛は口を大きく開き、糸を吐き出す。糸は目にも止まらぬスピードで青年の身体に取り付き、瞬時に全身を包み込みミイラのようにしてしまう。そのまま糸を巻き取り引き寄せると、頭からかぶりついた。
果実が潰れるような音が響くと、青年の頭部は土蜘蛛の口の中に収まっていた。首として繋がっていた部分から大量の血液が垂れ流され、足元に血の海が広がっていく。その惨状の中で、土蜘蛛は初めての人の味を噛みしめていた。
「ああ、美味い……! 人間ってのはこんなに美味かったのか……! もっと、もっと食いたいなぁ……!」
土蜘蛛はそのまま残った身体の方も食べていく。数分もすると、人がいたという痕跡はぶちまけられた血液しか残っていなかった。
だが人ひとりを食らっても、土蜘蛛の欲求は満たされない。次の獲物を求めて、周囲を見回す。
すると、遠くから何かの音が聞こえてきた。その音はどんどんと近付いてくるのが分かる。
音のする方へ目を向けると、バイクに乗った男女が見えた。他の人間と違い、逃げるのではなくこちらに向かってきている。土蜘蛛は怪訝そうな表情で、その様を眺めていた。
やがてバイクは数十メートル先で止まり、男女が降りる。その二人の男の方――桜井カズキは、現場の惨状を見て、眉をひそめた。
「クソ、遅かったか……!」
「いや、まだ食われたのは一人だけよ。すぐに倒せば、被害は抑えられるわ」
「――そうだな、早苗、ジャミングを頼む」
「ええ、任せなさい。そっちも気を付けなさいよ」
早苗はアタッシュケースを抱えてその場から離れる。ある程度離れたところで地面にケースを置いて開く。
カズキはその様子を確認し、土蜘蛛へと向き直る。土蜘蛛は謎の闖入者達に警戒し、鋭い視線を向けていた。
「なんだ、お前らは。邪魔をする気か?」
「ああ、そうだ。お前みたいな妖怪を倒すために来た。これ以上、人を殺させはしないよ」
「ハッ、くだらんな。俺は妖怪だぞ? 人間ごときが俺を止められるわけがないだろう。逆に俺がお前を食ってやるよ」
「……やはり、もう人としての意識は無いか、こればかりはどうしようもないな」
カズキは無念さを滲ませた表情を浮かべるが、すぐに意識を切り替えて真剣な表情になる。
懐に手を入れると、大きなバックルのような物を取り出した。正面には液晶パネルが取り付けられ、上部には三つのボタンが付いている。全体は赤く、所々に黒のラインが入っている。カズキはそれを腰に当てると、バックルからベルトが現れ自動で腰に巻き付いていく。ベルトが完全に巻き付くと、バックル部分の液晶が赤い光を放ち、電子音声が鳴り響く。
《ゴクオードライバー!》
バックル――ゴクオードライバーを装着したカズキは、さらに懐から弾丸のようなアイテムを取り出した。
全体は銀色で、正面には剣と銃を持った仮面の戦士の絵が描かれており、側面にはボタンが取り付けられた弾丸――アヤカシバレットを、顔の近くまで持ち上げてボタンを押し込む。
《ラセツ!》
爽やかな音声が鳴り響くと、カズキは左手でドライバー上部の右側にあるボタンを押す。すると、ドライバーの右側から扇状に開くマガジンが現れる。そこにアヤカシバレットを装填し、マガジンをドライバーの中に戻して、今度は真ん中にあるボタンを押す。
ドライバーから荘厳な待機音声が鳴り響き、赤と黒のエネルギーがカズキを中心に円柱型に現れる。カズキは両腕を正面でクロスさせ、勢いよく左右に広げる。さらに右手を拳銃の形にすると、自身のこめかみに当てる。右手には周囲のエネルギーが集まり、輝きだす。
「変身!」
そう叫ぶと同時に、自身のこめかみを打ち抜く。右手に溜められたエネルギーが一気に放出され、カズキの全身を包み込む。頭から順に赤いエネルギーに包まれ、全身が輝くと黒いエネルギーがラインを引くように縦や横に走っていく。
やがて光が収まると、赤色のアンダースーツが全身を覆い、上半身には黒の筋肉質なアーマーが装着され、各所には銀色の装飾が取り付けられている。頭部は鋭い眼光を持つ黄色の複眼、銀色の口を模したマスクが付き、3本の角がまるで冠のように生えている。さらに両手にはドライバーと同じ色の銃と剣が握られている。
《ジゴク・レンゴク・ヘンゴク!》
《ゴクオー・ラセツ!!》
最後にドライバーから電子音声が鳴り響き、溢れていたエネルギーは消失する。
文字通り、その姿を変える『変身』を行ったカズキに対し、土蜘蛛は大きく動揺する。
「な、なんだお前は!?」
「――俺は、獄王。仮面ライダー獄王。お前を地獄へ送る者だ」
静かに告げるカズキ――獄王。その視線は真っ直ぐに土蜘蛛を捉え、両手の武器を構える。
対する土蜘蛛は、地面に両手をつき背中の4本の脚も地面に突き刺し、本物の蜘蛛のような体勢になる。
「地獄へ送るか、随分と大きく出たな、ガキが!」
叫ぶと同時に土蜘蛛は地面を蹴り、カズキへと飛び掛かる。その速度は人間を遥かに超えている。
カズキはそれを見て、右手に握った銃――『ヘルガン』を向ける。土蜘蛛の頭部に狙いを定め、引き金を引き弾丸を数発発射する。放たれた弾丸は狙い通りに頭部へと向かっていったが、背中の脚を巧みに振り回し弾丸を弾き飛ばす。カズキは舌打ちをしながらその場から飛び退く。
カズキが飛び退いた瞬間、土蜘蛛の身体が地面を抉った。アスファルトが割れて勢いよくまき散らされる。土蜘蛛はそれに構うことなく起き上がり、カズキに向かって糸を吐き出した。
人間をいとも簡単に絡め取る恐ろしい糸、しかしカズキは恐れることなく左手に握った剣――『ヘルソード』を振るう。
刀身が糸に触れると一瞬で切り裂かれていく。粘着性など微塵も感じさせず、あっけなく切り裂かれていく。その様子に土蜘蛛は苛立ちを見せる。
「チッ、なんで効かねえんだよ!」
「こいつの刀身は、あらゆる邪なものを切り裂く力が込められている。お前の攻撃は通じない」
「ふざけた野郎だ!」
今度は接近戦と言わんばかりに、土蜘蛛は地面を走り拳を振るう。さらには背中の脚も連続で突き出し、合計6本の手足で猛攻を仕掛ける。
対するカズキも、ヘルソードを振るい脚の連撃を捌き、拳に至っては身体を右へ左へ動かし避けていく。土蜘蛛の攻撃は全く当たらなかった。
「クソが!」
「こんなものか、妖怪。今度はこっちの番だ!」
カズキは拳を避けると、土蜘蛛の腹にヘルガンを突き付けて引き金を引く。零距離で放たれた弾丸を避ける術はなく、大きな火花を散らして土蜘蛛は吹き飛ぶ。
「うおおおおおっ!?」
「さらにこいつだ!」
すかさずカズキは新しいアヤカシバレットを取り出す。正面にはシンプルな形の火の玉が3つ描かれていた。ボタンを押して音声を鳴らすと、ヘルガンの側面からマガジンを引き出し、アヤカシバレットを装填する。
《オニビ!》
《アヤカシバレット! オニビ・フレイム!》
ヘルガンが赤く光り輝き、炎を纏う。カズキはすかさず引き金を引いた。
すると、銃口から炎を纏った弾丸が放たれ、土蜘蛛を襲う。地面を転がっていては避けることは叶わず、全身が炎に包まれ燃やされる。
「がああああああっ!? く、クソォ!!」
数秒経つと炎は収まり、土蜘蛛は不利を悟ったのか逃げ出そうとする。ビルの外壁に糸を吐き、それを伝って逃げようと試みる。
「逃がすか!」
《カマイタチ!》
《アヤカシバレット! カマイタチ・ウィンド!》
カズキはヘルガンを腰のホルスターに収め、また新たなアヤカシバレットを取り出し、鳴らす。続けてヘルソードの柄にあるスロットに差し込み、ソードを右手に持ち替えて振るう。
刀身が振るわれた瞬間、いくつもの風の刃が飛び出し土蜘蛛を襲う。肉体を切り裂くだけでなく、糸も切り裂かれ、土蜘蛛はまたしても地面に転がることになった。
「グハッ!? こ、この野郎……!」
「お前がやったこと、これからやろうとしていること、それを考えれば、この程度優しい方だよ」
「黙れ! 俺は腹が減ってんだ。人間を食って腹を満たすことの何が悪い!」
「お前みたいな妖怪が、たくさんの人々を傷付け、殺してきた。そんな悲劇を見過ごすほど、俺は腰抜けじゃないんでね」
「クソ野郎がぁ!」
怒る土蜘蛛は口から紫色の毒の塊を吐き出した。鉄すらも溶かしてしまう強力な毒である。これなら通用するだろうと確信を持った攻撃だった。
しかし、カズキは冷静にヘルソードを構える。両手で握り大上段に構え、向かってくる毒弾を迎え撃つ。
「ハアッ!」
そして目前まで迫った瞬間、思い切り振り下ろす。刀身が毒弾に触れると、邪なものを切り裂く力が発動、毒の効果を全て無効化して真っ二つに切り裂いた。その光景を見て、土蜘蛛は完全に呆気に取られてしまった。
「う、嘘だろ……」
「さあ、裁きの時間だ。閻魔様に許しを請うなら今のうちだぞ」
カズキはヘルソードを地面に突き刺し、ゆっくりと歩いて迫っていく。それに気圧されたのか、土蜘蛛は数歩後ずさる。
「お前は銀行を襲い、人々の財産を奪った。人を襲い、無残に食い殺した。そしてお前が生まれたことで一人の人間が死んだ。例えどんなに下種であろうと、人の命を奪ったことは許されない!」
力強く叫ぶカズキ。その声には抑えきれない怒り、強い義憤の感情が感じ取れた。
「お前の罪は決して許されない。地獄に――堕ちろ!」
叫ぶと同時にドライバーの真ん中にあるボタンを2回連続で押す。すると、ドライバーから多量のエネルギーがあふれ出す。そのエネルギーは両足に向かって流れていき、カズキは右足を後ろに下げて腰を下げる。やがてエネルギーが完全に両足に固定されると、カズキは地面を蹴り上空へ飛び上がった。
両足が赤と黒の光に包まれ輝き、エネルギーがあふれ出す。そのエネルギーはカズキの身体を空中で動かし、土蜘蛛へと向かわせる。カズキはそこから右足を突き出した飛び蹴りの体勢で勢いよく突っ込んでいく。
《ファイナルバレット!》
《獄王羅刹破壊脚!》
赤と黒のエネルギーが右足にさらに集中し、大きくなっていく。それはまるで一つの巨大な刃のように鋭さを増していった。
「ハアアアアアアッ!!」
カズキの蹴りは土蜘蛛の胴体に炸裂、大量のエネルギーをその身体に流し込み。数十メートルほど吹き飛ばした。
地面に降り立ったカズキは、吹き飛んだ相手を静かに見つめていた。
「グハァァァァァァ!? ば、馬鹿な……こんな、簡単に……!!」
吹き飛んで地面に叩き付けられた土蜘蛛は、現実が受け止められないという風に目を見開いていた。
やがて、その肉体が流し込まれたエネルギーによって内側から崩壊、大爆発を起こして消滅した。
土蜘蛛が爆発したことを確認すると、カズキはドライバーの左側のボタンを押し、マガジンを引き出す。そこに刺さっていたアヤカシバレットを引き抜くと、獄王のスーツが消滅して人間の姿へと戻った。
「ふう……」
「お疲れ様、カズキ」
変身を解き、息を吐くカズキに、物陰から出てきた早苗が声をかける。その顔は笑顔が浮かんでいた。
「ああ、そっちもありがとう、早苗。いつも電子機器のジャミングをしてくれて」
「まあ、下手に正体をバレても困るからね。アタシにはこれくらいしかできないし」
肩をすくめて早苗は言う。
そんな時、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。市民の通報を受けた警察がようやく駆けつけてきたらしい。二人は慌ててバイクまで走る。
「やば、もう来たのか。早く逃げよう」
「そうね、でも悪いことしてるわけじゃないんだから、逃げるって言い方しなくてもいいでしょ」
「いや、なんかサイレンを聞くと悪いことしてる気分にならないか?」
「それは分かるわね」
そんなくだらない会話を交わしながら、二人はバイクに乗り、その場から去っていった。
遅れて駆け付けた警察達は、原因不明の破壊の形跡を見て、頭を抱えることになるのだが、それはまた別のお話である。
★簡単なキャラ紹介
・桜井カズキ…主人公。仮面ライダー獄王。黒髪の爽やかイケメン。24歳。
・東堂早苗…ヒロイン。緑髪のツンツン美人。巨乳。24歳。
・東堂健児…早苗の父親。茶髪の初老。最近白髪が出てきた。52歳。
ここまでお読みくださりありがとうございます。めちゃくちゃ筆が乗ってしまい、1万1千文字を超える長文になってしまいました。果たして楽しんでいただけたでしょうか。
オリジナルライダーは昔からやりたいと思っていたことで、今回念願が叶い、個人的には嬉しく思っています。もちろん連載していくつもりですので、頑張っていこうと思います。
さて、今回はこの辺で。良ければ感想やお気に入り登録をしていただけると幸いです。
次回もお楽しみに!