仮面ライダー獄王(ゴクオー)   作:アカミツ書庫

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 どうも、アーニャです。

 本日5/26は、私の活動九周年の記念日になります。

 そんな日に合わせての最新話更新、色々と話がごちゃついてきましたが、どうかお楽しみください。


第十話 紺青の翼

 とある廃墟。妖怪達が拠点にしているそこに、酒吞童子達は集っていた。

 酒吞童子は部屋の片隅に敷かれた畳の上に座り、酒がなみなみと注がれた盃を持ち、酒を呑んでいた。そんな彼に対して、九千坊が声をかける。

 

「よう、酒吞。浮かない顔してんじゃないか」

 

 その言葉に、酒吞童子は酒を呑むのを中断し、彼の方に視線を向ける。

 

「別に、なんでもない」

「嘘吐くなよ。文車妖妃がやられたことを引きずってんだろ? その酒は弔いのつもりか何かか?」

「――何が言いたい」

 

 冷たい視線を送り、酒吞童子は静かに言う。九千坊は肩をすくめて苦笑する。

 

「別に? 機嫌が悪そうだから気ぃ遣ってんだよ。気付いてないかもしれないが、お前から漏れる殺気が周りの奴らをビビらせてんだよなぁ。ここにいた妖怪共はみんなどっか行っちまったぞ」

 

 言われて、酒吞童子は周囲を確認する。少し前まではそれなりの数の妖怪がたむろしていたはずだが、今は一体も残っていなかった。自分が酒を呑むことに集中している間に、皆姿を消していたようだ。

 

「……そうか。我としたことが、未熟な面を晒していたか」

「そういうことだな。良かったなぁ、俺が残ってて。教えてくれる奴なんて俺くらいのもんだぜ?」

「貴様はただ我を玩具にしたいだけだろう。優しさなどと、くだらぬことを考えるはずもあるまい」

「あちゃ~バレたか。どんな顔するかと思ってたんだけどな、相変わらずの鉄面皮だな」

 

 無表情を崩さずに、淡々と語る酒吞童子に、九千坊はまたもや苦笑する。

 そんな時、ガラスが割れた窓から人影が入り込んできた。それは女天狗であった。

 

「あら、酒吞はもう立ち直ったの? もうちょっと静かにしてるところを見てたかったのに」

 

 背中から生えていた羽根を消し去りながら、女天狗は言う。酒吞童子は盃に残った酒を飲み干してから、特に動揺することもなく答える。

 

「我がわざわざ貴様らの期待に応えるようなことをするわけがなかろう。二度は無い」

「ええ~残念」

「それより女天狗よぉ。何か面白そうな話はあったか?」

 

 クスクスと笑う女天狗に対し、九千坊が問いかける。

 

「そうね、どうやら海の向こうからお客さんが来てるみたいよ。結構派手にやってるみたい。あと、それを追いかけてきた人間もいるみたい」

「海の向こう、って言うと西洋妖怪の奴らか。アイツらがこっちに来るなんて珍しいな」

「ええ、どうやら最近頭領が変わって、色々方針も変わったみたいなのよねぇ」

 

 そこまで話すと、女天狗は座ったままの酒吞童子へと視線を向けて問いかける。

 

「こっちはどうする、動く?」

 

 酒吞童子はすぐには答えず、近くに置いていた瓢箪から酒を注ぎ、盃を持ち上げる。

 

「――今は様子見に徹するべきだな。西洋の連中も、人間も、我らにとって毒にも薬にもならんだろう」

 

 そう言って、酒吞童子は盃に口を付けて、酒を口に含んでいくのだった。

 

 ★

 

 雑貨屋《東堂》、そのリビング。

 今ここには五人の男女が集まっていた。

 ソファに並んで座るのはカズキと早苗。その向かいに座るのは、『教会』からやって来た二人組――赤獅子ダイヤとレイ・キリエ。彼らの間にある椅子に、健児が座っている。

 五人はダイヤの提案により、この場に集められていた。

 

「さて、とりあえず色々話すことはあるが、まずはオレ達がこの国に来た目的からかな」

 

 そうダイヤが切り出した。カズキは黙って聞いている。

 

「オレ達が日本(ジャパン)に来た理由は二つ。一つはアメリカから逃げ出した西洋妖怪共を皆殺しにすることだ。オレ達が戦ってた奴らが、不利を悟ったのか日本に逃げ出したらしくてな。それを追いかけてきたんだ」

「じゃあ、もう一つの理由は?」

 

 カズキの問いかけに、ダイヤは一瞬口を閉じる。そして薄ら笑いを浮かべながら。

 

「まあ、それは追々(おいおい)ね。あまり人に言いたい理由でも無いんでね」

「なんだよ、それ」

「まあ良いじゃないか。大したことじゃない」

 

 肩をすくめて誤魔化すダイヤ。その姿にカズキは不信感を覚える。

 そんな時、ダイヤの隣に座っているレイが、彼の脇腹を突いた。

 

「ダイヤさん、他にも言うべきことがあるでしょう?」

「ん? ああ、そうだった。忘れてたぜ」

 

 ダイヤは何かを思い出したように手を叩き、カズキに向かって人差し指を向ける。

 

「実を言うと、三つ目の理由がある。ここに来た一番の理由は、お前だよ。桜井カズキ」

「……なに?」

 

 突然の発言に、カズキは困惑する。

 ダイヤはニヤリと笑い、口を開く。

 

「《教会》は、お前達のことを知っている。十年前に一人の男がライダーシステムを持ち出して消えたこと、その男が一般人に力を受け継がせてしまったこと。一年間、戦い続けた一般人がお前だということもね」

「……マジかよ」

 

 カズキは驚愕の表情を浮かべる。早苗と健児も、声こそ出さなかったが同じように驚いていた。

 自分達の行動が、全て把握されてるとは夢にも思わなかったのだ。

 しかし、それならば何故これまで放置されていたのかという疑問が湧く。その疑問に答えるように、ダイヤが続きを口にする。

 

「《教会》は世界各地に戦闘員を派遣して、妖怪と戦い人類を守っている。早い話が仕事が盛り沢山なんだ。極東の島国で、たった一人の離反者が妖怪と戦っている、その程度のことにわざわざ手を出す気はなかったんだよ。放っておいても敵対はしないだろうとね」

「……そういうことか」

「だが、状況は少し変わってきた。お前の頑張りで、妖怪が『祠』を二つも壊したと言うからな」

「……皮肉か?」

「聞くまでもないだろう?」

 

 カズキは思わず眉間にシワを寄せて睨む。ダイヤはその視線を受けても、微笑を浮かべて気にも留めない。

 

「今更『祠』を壊したところで意味は無いが、そのために妖怪共が人を殺しまくるのは困るからな。それに西洋妖怪まで合流するとなると、お前一人じゃキツくなってくるだろう。せっかくの戦力を見殺しにするのは忍びないってことで、オレが派遣されたってわけよ」

「意味は無い? どういうこと?」

 

 ここまで黙って聞いていた早苗が口を開いて尋ねる。ダイヤはそちらに顔を向けて、ニッコリと笑う。

 

「美人に聞かれちゃ、正直に答える他無いな」

「良いから早く答えろよ」

 

 不愉快だと言わんばかりにカズキが遮る。自分の彼女に色目を使われることが、気に食わなかった。

 そんな反応にも、ダイヤは笑みを絶やさない。

「ぬらりひょんの封印、アレは奴の肉体だけを封じている。魂はとっくの昔に消滅している。だから封印が解かれたとしても、ただの抜け殻が現れるだけなんだよ」

「なっ……」

「……それは本当か?」

 

 ダイヤの言葉に、早苗は絶句し、それまで黙って聞いていた健児も思わず口を開く。二人も知らなかったことであったらしい。

 

「まあ、知らなくても無理ねえよ。これは《教会》の中でも上位の奴らしか知らない。末端の戦闘員なんかじゃ、まともに教えられることもないだろうよ」

「じゃあ、なんでお前は知ってるんだ?」

 

 カズキの問いかけに、ダイヤはニヤリとドヤ顔を浮かべる。

 

「ちょっと気になってね、上の奴らをちょいとばかしぶん殴って聞き出したんだよ。中々痛快だったぜ?」

「……とても組織人とは思えないな」

 

 クックッ、と笑うダイヤに、カズキは本気で引いていた。これが本当に仮面ライダーなのかと、そう思ってしまう。

 そんな心を知ってか知らずか、ダイヤは突如立ち上がった。

 

「さて、そろそろお喋りも終わりにして、次のステップに行くとしようか」

「次のステップ?」

 

 疑問を浮かべるカズキに対し、ダイヤは指を突き付ける。

 

「ああ、オレとお前で、戦うんだよ」

 

 ★

 

 雑貨屋《東堂》から程近い空き地、そこにカズキ達は移動していた。

 困惑しながらもゴクオードライバーを腰に装着するカズキ、余裕たっぷりにストレッチを繰り返すダイヤ。二人の態度は対照的だった。

 

「なあ、本当にこんなことをする必要があるのか?」

「当たり前だろ。戦いは言葉よりも多くのことを教えてくれるんだぞ? ごちゃごちゃ喋るより、シンプルで分かりやすい」

 

 カズキの質問も、あっさり一蹴される。

 少し離れたところで見物している早苗と健児も、呆れ半分といった表情で見ている。

 

「ねえ、本当にアレが《教会》の人間なの? 私の知ってるのと全然違うんだけど」

「俺だって同じだ。俺たちが去った後で色々変わってしまったのかもしれないな」

 

 そう言って、隣に立っているレイの方に視線を向ける。レイはニコニコと笑みを浮かべながら。

 

「まあ、あの人はちょっとアレですけど、頼りになる人ですよ。大丈夫です」

「……アンタも中々怪しいわね」

 

 ため息混じりに呟く早苗。

 そうしている内に、ダイヤがSMGを取り出した。カズキもアヤカシバレットを取り出し、変身の構えを取る。

 

「さあ、一般人上がりの人間がどこまで出来るのか、見せてもらおうじゃないか」

「……あまり気は進まないけど、やらなきゃ話が進まなさそうだな」

 

《ラセツ!》

《ウリエル!》

 

 二人は同時にアヤカシバレットを起動し、ドライバーとSMGに装填する。

 カズキは腕をクロスさせてから広げ、右手を銃の形にしてこめかみに。ダイヤはSMGの引き金を引きながら、中空に十字を描く。

 そして、二人は同時に叫ぶ。

 

『変身!』

 

《ジゴク・レンゴク・ヘンゴク!》

《ゴクオー・ラセツ!》

《クロス・フェイス・グレイス!》

《クルセイド・ウリエル!》

 

 変身アイテムから放出されるエネルギーによりスーツが形成、それぞれ獄王とクルセイドに変身する。

 カズキはヘルソードを正中に構える。対するダイヤは右腕を前に突き出す。すると、右腕に装備された銀色の腕輪から、3センチ程の棒状の物体が射出される。

 それは空中で高速回転すると、徐々に形を膨らませていき、やがて身の丈程のトマホークへと変形した。ダイヤはそれを掴むと、頭上で振り回してから正面に構える。

 武器を構え、対峙する二人。先に動き出したのはダイヤだった。

 地面を蹴って飛び出してトマホークを振り上げ、勢いよく振り下ろす。カズキはヘルソードの刀身で受け止める。強い勢いに少しだけ押され、半歩下がったところで耐える。そこからトマホークの刃先をずらして、地面に向かって受け流す。

 反動でダイヤの動きが一瞬だけ止まる。その隙を突いて、カズキはヘルソードを横薙ぎに振るう。

 正確に首を狙って放たれる剣。それに対してダイヤが取った行動は、上半身を思い切り仰け反らせることだった。素早く身体を動かし、逆くの字になることで斬撃をかわしたのだ。この光景に、カズキは驚きの声をあげる。

 

「嘘だろ……!?」

 

 予想外の動きに目を見開いてしまう。その間にダイヤは態勢を立て直し、トマホークを引っこ抜いて、再び振り回した。

 カズキはギリギリのタイミングでヘルソードで受け止める。そのまま鍔迫り合いへと移行した。

 

「ぐうっ……!」

「ヘッ、中々良い動きだな。伊達に戦い続けていないってわけか」

 

 歯を食いしばって耐えるカズキ。それとは対象的に愉快そうな声音でダイヤが話しかける。

 

「それはどうも……! にしても、随分と楽しそうだな、アンタは」

「ん? そりゃそうだろ。戦いは楽しいからな。特に相手が強いほど燃えてくるだろ?」

「……俺には分からない感覚だな」

「おいおいマジか? せっかく戦う力を持ってるってのに」

 

 呆れたように言うダイヤは、腕に力を込めて剣を弾き飛ばす。カズキは数歩下がるが、すぐに立て直して剣を構え直す。

 ダイヤは今度は激しくトマホークを振るい、連続攻撃で攻めていく。カズキも剣を素早く振るうことで、それを防いでいく。

 

「俺達と妖怪の戦いは、人類を守るためのものだろう。それを楽しもうだなんて、俺には理解できない――!」

「なるほど、人類を守るか。確かにそれも大事だな。だがな、どうせなら楽しくやるのが良いと思わないか? クソ真面目にやったところで、いつかポッキリ折れちまうだろう」

「人を守る力を持ちながら、それを自分の娯楽のために使うのかよ。ふざけた野郎だな」

「お前こそおかしいな。それだけの力を持ちながら、何故戦いを楽しまない?」

「何……?」

 

 ダイヤは攻撃をやめてトマホークを地面に突き刺し、両手を左右に広げる。そして、空を仰ぎ見ながら高らかに叫ぶ。

 

「いいか、命を懸けた戦いの中で、互いに全力でぶつかり合うことは、とてつもなく心が躍る。オレにとっては戦いそのものが娯楽になる。こんなに楽しいことはないぞ、必死になればなるほど、楽しみが強くなっていくんだからな」

 

 そして、正面に向き直りながら、強く叫んだ。

 

「楽しめよ! 痛みも、苦しみも、悲劇も! ただそのための代償でしかない!!」

 

 仮面越しでも分かる程に、狂気に満ちた表情で、ダイヤは叫ぶ。その声には最早隠す気もない狂気が溢れ出していた。ただひたすらに戦いを求め、それを己の娯楽と定める男の持つ、純然たる狂気であった。

 その姿に、カズキは言葉にできない恐怖を覚える。目の前にいる男は、自分とは根本的に違う存在なんだと、心底から思い知らされた。

 やがて、笑みを抑えたダイヤはトマホークを引っこ抜き、大上段で構え直す。カズキもヘルソードを両手で握り、いつでも動けるように構える。

 

「さあ、そろそろ第二ラウンドといこうか」

 

 ダイヤはそう言うと、再び斬りかかる――前に、戦場に着信音が鳴り響いた。

 二人が視線を向けると、早苗とレイのスマホが同時に鳴り響いていた。

 早苗とレイは、それぞれ電話を受ける。やがて、早苗が叫ぶ。

 

「カズキ! 街に妖怪が現れたって文香から連絡があったわ! すぐに向かって!」

「っ! 分かった、すぐに行く!」

 

 その言葉を受けて、カズキはすぐさま動き出した。新たに取り出したアヤカシバレットを起動し、ホルスターから抜いたヘルガンに装填する。

 

《ヤギョウ!》

《アヤカシバレット! ヤギョウ・エクスプレッション!》

 

 引き金を引くと、銃口から光が照射され、獄王の専用バイクであるヘルスピーダーが出現する。

 『夜行』とは、首切り馬に乗った妖怪であり、その力を使い、離れたところにあるバイクを召喚することができるのだ。

 現れたバイクに跨るカズキを見て、ダイヤもまたアヤカシバレットを取り出した。

 

《ペガサス!》

《モンスバレット! ペガサス・フラッピング!》

 

 SMGに装填したアヤカシバレットを放つと、ダイヤの目の前に白銀のバイクが現れた。その光景にカズキは少し驚く。

 

「アンタもバイクを出せるのか」

「まあな、お前に出来ることは大抵出来るよ。こいつは『シルバー・センチュリオン』ってんだ」

「……アンタも一緒に来るのか?」

「もちろん。妖怪退治はライダーの仕事だろう?」

 

 そう言うとダイヤもバイクーーシルバー・センチュリオンに跨り、エンジンをかける。

 カズキは内心嫌な思いになるも、それを表に出さないように努める。先程まで剣を交えていた戦闘狂と一緒に戦うということに、不安を覚えてしまっていた。

 しかし、妖怪が出た以上、放置するわけにもいかない。カズキは無言でバイクを走らせる。ダイヤもそれに続いて走り出して行った。

 残されたのは早苗と健児、そしてレイ。レイはスマホの通話を切り、早苗へと話しかける。

 

「先程、『教会』の後方支援部隊からも妖怪が出現したという連絡が来ました。我々と同じタイミングで情報を送ってこれるとは、貴女達も中々優秀な仲間を抱えているようですね」

「ーーええ。なんてたって、現役の記者だからね」

 

 微笑みながら褒めるレイに対し、早苗も不敵な笑みを浮かべて答える。

 走り去るバイクのエンジン音が、少しずつ遠ざかっていった。

 

 ★

 

 街から少し離れた廃墟、そこは不良の溜まり場となり、市民は近付かない場所であった。

 しかし、今そこは人間の死体と血溜まりで埋め尽くされており、まさしく地獄という様相だった。

 

「グルルル、日本に来て早々にこんなに餌がいる場所を見つけられるとは、我ながらラッキーだな」

 

 血溜まりの中心で、人間の肉を喰らいながら呟く異形。それは人型でありながら、全身が毛だらけで、頭部が狼になっている。手足の先からは鋭い爪が伸びて光っており、腰の部分からは尻尾も生えている。

 妖怪「狼男」は、口元の血を拭い取りながら、一人呟いた。

 

「なんなんだよ……いきなり出てきて、みんなを殺して……」

 

 生き残った不良の男が、震えた声でそう呟く。

 狼男はそちらへと視線を向けると、ニヤリと大きな口で笑みを浮かべる。

 

「決まっている、貴様ら人間は俺達の餌だ。弱く、怯え、醜く足掻くことしか出来ない、極上の餌だ。だから殺して喰らうのだ」

 

 狼男は一方的にまくし立てると、ゆっくり不良の男へ向かって歩き出す。

 腰が抜けて倒れ込んでいた男は、必死に地面を這いながら、泣き叫ぶ。

 

「だ、誰かぁ! 誰か助けてくれぇ!」

「フハハ、誰も助けになど来ない! 人が近寄らない場所を選んだのはお前達だろう!」

 

 狼男の言う通り、この場所は滅多に人が近寄らない。不良の溜まり場として有名だったからだ。故に、妖怪からすれば目立たずに食事が出来る絶好の場所であった。

 狼男は舌なめずりをしながら、男を殺そうと腕を振り上げる。しかし、その時バイクのエンジン音が甲高く響いてきた。

 

「ハアッ!」

 

 カズキーー獄王が乗ったヘルスピーダーが猛スピードで突っ込み、狼男を吹き飛ばす。そのままバイクを止めると、カズキは不良の男に向かって声を張り上げる。

 

「おい、アンタ! 早く逃げろ!」

「お、おう!」

 

 不良の男はなんとか立ち上がり、すぐさま走り去って行った。男は、後からやって来たダイヤの横を素通りしていく。

 バイクから降りたダイヤは、同じくバイクから降りたカズキに向かって声をかける。

 

「ギリギリ一人助けられたみたいだな。やるじゃないか」

「皮肉のつもりか?」

「まさか、ちゃんと心を込めてるよ」

 

 カズキは若干苛立ちながら、ダイヤは笑いながら言う。

 その間に狼男は立ち上がり、二人の前に立ちはだかっていた。

 

「痛えじゃねえか、っと、その姿、お前らが仮面ライダーって奴らか。はるばるアメリカから来たってのに、ツイてねえなぁ」

「知っていたのか、なら話は早い。お前は地獄に堕としてやる」

 

 カズキはヘルソードを向けながら言う。そして、ダイヤに向かって。

 

「アンタは手を出さないでくれ。アイツは俺一人で倒す」

「ん? そりゃまたなんで?」

「俺はアンタを信用出来ない。戦いを楽しむなんて意味の分からないことを言う奴と、一緒に戦うのは不安しかないんでね」

「おやおや、随分と警戒されちまったもんだね」

 

 ダイヤは肩をすくめると、バイクにもたれるようにして、見物の態勢になる。

 

「なら好きにしなよ。獄王の実力、存分に見せてもらうとしよう」

「ーーアンタを楽しませるためにやるわけじゃない。だが、妖怪は必ず倒す!」

 

 カズキはそう叫び、狼男に向かって走り出した。ヘルソードを肩に担ぐように引き、力を込めて勢いよく突き出す。

 狼男はその一撃をかわし、爪で引き裂こうとしてくる。カズキもそれをかわして距離を取る。

 

「ふう、どうやら噂以上にやるようだな。人間風情が、乗っ取られることなく我ら妖怪の力を身に纏うとは」

「妖怪なんかに褒められたって嬉しくはないな」

 

 そう言うと、カズキはヘルガンを取り出して弾丸を放つ。数発の弾丸が狼男に向かって飛んでいくが、それは全てかわされる。狼としての身体能力は弾丸の速度よりも速かった。

 狼男はそのままの勢いでカズキに向かって突進する。カズキは再びヘルソードを構えて、それを受け止めた。

 

「くっ……」

「ぬうっ、これも受け止めるか。中々じゃない、か!」

「っ!」

 

 狼男は鋭い爪を伸ばして、連続で腕を突き出してくる。カズキはそれを剣で受け止めたり、逸らしたりしながら防いでいく。

 やがて、カズキは一度距離を取ると、ドライバーからラセツバレットを取り出し、ヘルソードの柄に装填する。

 

《ファイナルバレット!》

《獄王羅刹滅却斬!》

 

 電子音声が鳴り響くと、刀身に赤黒いエネルギーが満ちていく。カズキはその状態のヘルソードを構えて、狼男の爪とぶつかり合う。

 何度か攻撃を弾いた後、狼男の腹部に剣を押し当てる。そのまま一息に身体を回転させて、横一文字に切り裂いた。

 

「グオオオオッ!?」

 

 その勢いに吹き飛ばされた狼男は、地面に叩き付けられる。しかし、腹部に深い傷を負わせたものの、致命傷を与えることは出来なかったようだ。それを確認したカズキは、再び臨戦態勢になる。

 

「あれで倒せないのか、しぶといな」

「ぐうっ……日本の仮面ライダーも厄介じゃねえか……話と違うぞ!」

 

 狼男は、腹部を押さえながらそう毒づく。痛みが全身を駆け巡り、怒りが溢れ出していた。

 

「西洋妖怪か、元になった妖怪が違うだけで、これまで倒してきた妖怪と大きな差は無いみたいだな。大人しく倒されるんだな」

「クソが……人間風情が舐めやがって……! こうなったらーー」

 

 カズキの冷徹な言葉に、歯ぎしりした狼男は、あるものを取り出した。

 それは、球状のボールのようなものだった。狼男がそれを掲げると、ボールは空中に浮かび上がり、数十メートル上空で停止した。

 

「お前、一体何をするつもりだ?」

「ククク、オレの邪魔をしたことを後悔させてやる!」

 

 そう叫ぶと、狼男はボールの方へ視線を向ける。その瞳が、ボールを確かに捉えた。

 すると、狼男の全身が膨れ上がり一回りほど大きくなる。頭部は耳が長くなり、口もより大きく裂けて鋭い牙が丸見えになる。腕と足も筋肉が大きくなったことで、丸太を思わせる形に変わる。そして腹部の傷は塞がり、完全に回復していた。

 その変貌に、カズキは息を呑んだ。

 

「何……!?」

 

 思わず驚きの声をあげるカズキ。その隙に狼男は動き出す。

 先程よりも倍以上の速さで動くと、カズキの腹に蹴りを叩き込む。抵抗することもできず、数メートル吹き飛んで地面に転がされる。

 

「っ……速い!」

「ほう、狼男は月を見ることで変身する妖怪だった。そこから転じて、球状の物を見ることでパワーアップできる、ってわけか。面白えじゃん」

 

 後ろで見ていたダイヤは、何が起こっているのかをすぐさま理解し、呟いた。

 カズキは腹を押さえながら、なんとか立ち上がる。しかし、その瞬間に狼男が飛びかかってくる。

 大きく開いた口で噛みついてくるのを、思わず左腕で受け止める。スーツはあっさりと突破され、鋭い牙が皮膚を裂いて肉を貫き、激痛が走る。

 

「ぐうっ……!?」

 

 カズキは歯を食いしばり耐えようとするが、飛びかかってくる勢いに押され、地面に倒されてしまう。更に右腕で首を絞め上げられる。反撃しようとヘルソードを振ろうとするが、そちらは左腕で抑え込まれてしまう。

 一瞬にして、両腕を塞がれた上で、首を絞め上げられるという危機的状況へと追い込まれてしまった。

 

「ぐうっ……! があっ……!」

 

 うめき声を出すことしか出来ないカズキに対し、狼男は目を歪めている。どうやら笑みを浮かべているようだ。そのまま首をへし折るために右腕に力を込め始めーー。

 

「そうらよっと!」

「グハッ!?」

 

 ーーようとした瞬間、ダイヤの振るったトマホークで顔面を殴られて吹き飛ばされた。狼男は近くにあった建物の壁に叩き付けられ、悶絶する。

 フルスイングした態勢から振り返ったダイヤは、地面に倒れるカズキに視線を向ける。

 

「やれやれ、酷い様だなぁ」

「…………」

 

 からかうような口調で言うダイヤ。対するカズキは決まりが悪そうに黙りこくる。その左腕からは大量に出血していた。それを見たダイヤは、やれやれというに肩をすくめる。

 

「仕方ねえ、治してやるよ」

 

 そう言うと、ダイヤは一本のアヤカシバレットを取り出した。それには炎を纏った大きな鳥が描かれていた。

 

《フェニックス!》

《モンスバレット!》

《フェニックス・リザレクション!》

 

 不死鳥ーーフェニックスを描いたアヤカシバレットをSMGに装填すると、赤と緑のエネルギーが発生する。その状態のSMGをカズキに向け、引き金を引く。

 すると、カズキの全身を赤と緑のエネルギーが包み込み、左腕の傷を癒していく。あっという間に傷が塞がり、元のように動かせるようになった。

 

「傷が治った……!?」

「治癒能力さ、便利だろ? まあ、こういう傷くらいにしか使えねえんだけどな。ーーさて」

 

 驚くカズキを尻目に、ダイヤは狼男の方へと振り返る。

 

「次はオレが相手になってやるよ、犬っころ。それなりに楽しめそうだしな」

「くっ、不意打ちとは卑怯なーー!」

「バカか、二人いるのに一人しか見てねえテメェが悪いんだよ」

 

 立ち上がって文句を言う狼男に、ダイヤは仮面の下でニヤリと笑って返す。

 そして、また別のアヤカシバレットを取り出し、SMGに装填する。描かれた絵柄は、青い翼を持った女性の天使だった。

 

《ガブリエル!》

 

 SMGから青い光が溢れると、それを持った右手を顔の横に構える。そして引き金を引きながら、中空に十字を切る。

 放たれた弾丸は十字の形に留まった後、一息に弾け飛ぶ。

 

《バース・ブレス・ノティス!》

《クルセイド・ガブリエル!》

 

 青い光がダイヤの全身を包み込む。茶色だった装甲が、濃い青へと変わっていく。更に手足の装甲が少なくなり、身軽さを感じさせるようになる。

 クルセイド・ガブリエルバレットへと変身したダイヤは、両腕を回してから独特の構えを取り、狼男を挑発する。

 

「さあ、懺悔の用意は出来てるか?」

「フン、人を喰らうのが罪だとでも!」

 

 挑発に乗る形で、狼男は爪を伸ばした腕を振り回す。ダイヤはその動きを受け流すようにして避ける。

 狼男の攻撃は何度も繰り返される。しかし、その全てが受け流され一切当たらなかった。

 

「何故だ、何故当たらねえ!」

「種明かしをしてやろうか?」

 

 苛立つ狼男に対し、余裕たっぷりのダイヤが言う。

 

「このガブリエルバレットは、水の力を宿している。そこから転じて相手の力の流れを見極めて、受け流すことが得意なんだよ。お前みたいに力任せな相手なら、特にな」

「なっ、そんな無茶苦茶な話があるか!」

「だからどの口が言ってんだ、テメェの球だって似たようなもんだろ」

 

 話している間にも、狼男の攻撃はことごとく当たらない。爪での切り裂き、拳や蹴りを混ぜても、その全てが受け流される。しかも、こちらは必死なのに相手は余裕を見せてくる。狼男の苛立ちはどんどん高まっていた。

 それを見越したダイヤは、突如動きを変える。攻撃がからぶった隙を突き、掌底で狼男の顎を打ち上げた。掌底が触れた瞬間、掌から水が放たれ大きく吹き飛ばした。

 

「ゴヘッ!?」

「水の力を使うって言ったろ? 当然攻撃にも使えるんだぜ」

 

 手に付いた水滴を払いながら、ダイヤは笑う。

 背中から地面に落ちた狼男だったが、まだ動けるようですぐに立ち上がる。

 

「おのれ……人間風情が妖怪をコケにするとは……!」

「コケも何も、元々アメリカから逃げてきた口だろうに。それとも、そんなことを忘れるくらいに、頭が悪いのか?」

「貴様ぁ!」

 

 狼男は怒りのままに叫ぶと、地面を削って砂埃を起こした。ダイヤの周囲が砂に覆われ、視界が悪くなる。

 ダイヤは相手がどこから来るのかと警戒する。すると、突如頭上から何かが迫ってくる。ダイヤは咄嗟に反応して、両腕を交差させて受け止める。

 それは硬く研ぎ澄まされた尻尾であった。煙が晴れると、狼男が身体を一回転させて尻尾を叩き付けていたのが分かった。

 

「クソがーー!」

「なるほど、こういう動きも出来るのか。悪くないな」

 

 狼男の罵倒も無視して、ダイヤは感心を示す。そして、尻尾を掴んで振り回し、地面に叩きつけた。

 狼男は短い悲鳴をあげて悶絶する。その間にダイヤはSMGを取り出して構えた。

 

「さて、そろそろ終わらせるか」

 

 そう言うと、ダイヤはSMGの銃床を三回引く。すると、青いエネルギーがSMGを包み込むと、ガトリング状の幻影を形作る。

 それを確認すると、ダイヤは引き金を引く。

 

《ファイナルバレット!》

《クルセイド・ガブリエル・ガトリング!》

 

 電子音声が鳴り響き、ガトリングの銃身が回転する。それと同時に無数の弾丸が発射され、狼男に向かっていく。

 ようやく立ち上がった狼男だったが、自分に向かってくる無数の弾丸の嵐に呆然としてしまう。その間に全身を蜂の巣にされる。身体を貫通した弾丸は、背後にあった廃墟にも命中し、よりボロボロにしていく。

 

「ギャアアアアアア!?」

 

 一瞬の間に全身を撃ち抜かれた狼男は、そのまま倒れて爆散した。それに巻き込まれて、廃墟も完全に倒壊した。

 弾を撃ち尽くしたダイヤは、変身を解除するとカズキの元へと歩いていった。

 

「よう、どうだった? オレの戦い方は」

「……確かに俺より強いってことは分かったよ。でもーー」

 

 同じく変身を解除したカズキの視線は、破壊された廃墟に向けられていた。

 

「アンタ、例えここが街中でも、ためらわずに攻撃したよな?」

「そりゃね、妖怪を倒すことの方が大事だろ? それに戦ってる時は楽しくて仕方ないから、周りのことなんて気にしてらんねえよ」

 

 全く悪びれる様子も見せずに、ダイヤは答える。その態度に、カズキは嫌悪感を覚えてしまう。

 

「……やっぱりアンタのことは信用出来ない」

「そうかい、だがそれはオレも同じだぜ」

 

 苦虫を噛み潰したようなカズキに対して、ダイヤも冷たい視線で答える。

 

「お前は思ってたよりも弱い。そんな奴が仮面ライダーを続けていることは、オレとしても迷惑だ。さっさと辞めて田舎に帰るんだな」

「何っーー!」

 

 カズキは怒りの形相で掴みかかる。ダイヤはそれを避けると、薄く笑っていう。

 

「どうやら、オレ達の相性はあまり良くなさそうだな」

「ーーそれはこちらのセリフだ」

 

 二人はしばらく睨み合うと、互いに背中を向けて去って行った。

 その様子は、まるでこれからの二人の行く末を暗示しているかのようであった。

 




 ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
 
 正直、自分でも何を書いてるのか分からなくなるほどの難産な回でした。とにかく、今日に間に合ったことだけが救いです。
 そんな内容でしたが、カズキとダイヤの対立がメインになりました。まあ、2号ライダーなんて対立してナンボですよね。個人的には流星辺りのイメージで書きました。みんなはどう思ったかな?(露骨なコメ稼ぎ)
 一応、ダイヤの話は起承転結になるように考えていますので、次回は更に色々起こることになります。ので、頑張って書いていこうと思います。

 それでは、今回はこの辺で。
 次回もお楽しみに!
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