仮面ライダー獄王(ゴクオー)   作:アカミツ書庫

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 どうもアーニャです。
 今月もなんとか更新できました。月一更新が意外としんどくなってきてる。
 今回はダイヤ編の「転」、つまり色々と話が動きます。
 どうぞお楽しみください。


第十一話 翡翠の風

 とある路地裏にて。 

 今ここで、二人の人物が向かい合っていた。

 一人はボロボロの服を身に纏った中年の男性。もう一方は高級なスーツを着こなした若い男性。

 中年の男性は、何かを求めるように両手を差し出し、もう一人の男性に話しかける。

 

「さ、さあ、早く俺にもあの力をくれ!」

 

 それに対して、もう一人の男性は落ち着いた様子で語り出す。

 

「ええ、もちろんですよ。貴方は選ばれた。人間を超える強大な力を得る器となれるのです。さあ、これを」

 

 そう言うと、若い男は銀色に輝くアヤカシバレットを取り出した。それを見た途端、中年男性の目の色が変わる。

中年男性はアヤカシバレットを受け取ると、ボタンを押して起動する。

 

《ドラキュラ!》

 

 電子音声が鳴り響くと同時に、中年男性は自らの胸にアヤカシバレットを突き刺す。すると、胸を中心に赤黒いエネルギーが放出され、全身を包み込む。

 数秒経つと、その姿が大きく変わる。色素の薄い白い肌に、人間の数倍にまで伸びた犬歯、そして服装も黒いマントを纏ったスーツへと変わる。

 人類がイメージするであろう妖怪・ドラキュラが、そこに現れた。

 

「おおっ……! これが妖怪……! 全身に力が満ちあふれるようだ……!」

 

 ドラキュラは、自らの姿を見て感嘆の声をあげる。その様子に、若い男は満足げに頷く。

 

「ええ、素晴らしいでしょう。妖怪としての力は。さて、早速ですが貴方に頼みたいことがあります」

「頼み? いや、貴方は私を導いてくれた存在、いくらでもお力になりますよ」

 

 ドラキュラは(うやうや)しく頭を下げて肯定する。それを見た若い男は、ニヤリと笑った。

 

「さあ、これでようやく楽しめそうですよ――ダイヤ」

 

 ★

 

 雑貨屋《東堂》は、いつものように営業――していたが、少しばかりいつもと違う雰囲気が漂っていた。

 理由は、店番をしているカズキが不機嫌だったからだ。

 いつになく仏頂面で座り込むカズキの様子に、店に来る客達は異様なものを感じて、早々に出て行ってしまう。おかげで店は開店休業と言っても良い状態だった。

 

「なぁに辛気臭い顔してんのよ、らしくもない」

(いて)っ!」

 

 そんなカズキの頭を叩きながら店の奥から出てきたのは、早苗だった。

 早苗は呆れたように息を吐いてから、口を開く。

 

「まあ、理由は分かってるけどね。あのダイヤって男のことでしょう?」

「……まあね」

 

 早苗の言葉に、カズキは嫌なものを思い出すように顔をしかめる。

 確かにカズキの悩みの種は、アメリカからやって来た赤獅子ダイヤだった。

 自分とは根本的に考え方が異なる相手、それが自分と同じ仮面ライダーとして戦っているということに、カズキは嫌悪感を覚えていた。 

 そしてそれは、相手も同じであった。ダイヤの方も、カズキの真面目なあり方を嫌い、お互いに牽制し合う結果に終わっていた。

 そのことが頭を過ぎるたびに不愉快な気持ちになっていた。それが数日続いていた。

 

「あの男、戦いを楽しむあまり、周りが壊されることも気にしない。もしも街中で戦うことがあれば、無関係な人間が巻き込まれるかもしれない。そんな奴がこの街で暴れるかと思うと、どうにも気になって仕方ないんだ」

「確かに、あの男はあまり信用できる感じはしないわね。なんというか、軽薄でガサツで、アンタとは正反対のタイプって感じだわ」

「……それもあるな、ああいうタイプはどうにも苦手だよ」

 

 そう言ってため息を吐くカズキ。すると早苗は、一度店の奥へと戻る。しばらくして出てくると、コーヒーを淹れたカップを二つ持っていた。

 

「はい、いつまでもウジウジしてても仕方ないわ。アイツが何かをやらかすことが怖いなら、そうなる前に止めれば良いのよ。まあ、妖怪と戦いながらそれをやるのは難しそうだけど、アンタならできるんじゃない?」

「……高いハードルだなぁ。でもそうか、人を守る戦いなら、そういうことをするのも役目の一つ、ってことかもな」

 

 コーヒーカップを受け取り、カズキは苦笑する。その表情は先程よりも少し明るいものであった。

 その様子を見て、早苗も微笑を浮かべる。

 

「アンタは真面目な分、色々考えすぎるところがあるからね。悩むのも仕方ないことだと思う。でもだからこそ、いっそ覚悟を決めてやり切るくらいがちょうどいいのかもしれないわ」

「そうかもね。決めたら少しスッキリしたよ。ありがとう、早苗。君は本当に俺のことを分かってくれてるみたいだな」

「……まあ、一応アンタのか、彼女、だし?」

 

 笑顔で礼を言うカズキに対し、早苗は頬を赤くして照れ臭そうに答える。その様子を見て、カズキは更に早苗のことを愛しく思った。

 そんなことをしていると、店の扉が開き、人が入ってくる。それは文香(あやか)であった。

 

「こんにちは~。ってあれ? なんか二人とも、距離近くない? もしかしてお邪魔でした?」

「そうですね、今ちょっと良いところではあったかも」

「なっ……! そういう話は一切してない!!」

 

 顔全体を真っ赤にして叫ぶ早苗を見て、カズキと文香の笑い声が響くのだった。

 

 ★

 

 同じ頃、都内の繁華街。

 人混みの中で並んで歩く一組の男女、赤獅子ダイヤとレイ・キリエ。二人はそれぞれの手にクレープを握っていた。ダイヤがストロベリー、レイがブルーベリー味だった。

 

「うん、噂に聞いてた店だったが、中々美味いじゃないか、このクレープ」

「そうですね、わざわざ行列に並んだ甲斐がありました」

「ストロベリーも悪くないけど、そっちのブルーベリーも美味そうだな。一口くれよ」

「仕方ないですねぇ、そっちのも一口くださいよ?」

 

 レイが差し出してきたクレープを、ダイヤは一口かじる。そしてお返しに自らのクレープを差し出すと、レイもまた一口かじる。

 人目も気にせず、二人でクレープを分け合う姿は、まさしくバカップルと言えるものであった。

 そうしてしばらく歩いていると、ふとダイヤが足を止める。

 

「さて、このままオレ達のねぐらまで着いてくるつもりか? 隠居したオッサンは暇そうだね」

 

 そう言うと、ダイヤは後ろを振り返る。そこには健児が立っていた。どうやらダイヤ達のことを尾行していたらしい。尾行に気付かれたことに、健児は驚いたような表情を浮かべていた。

 

「……まさか気付かれていたとは。さすがに《教会》の現役戦闘員といったところか」

「まあ、人混みの中だから気付くのにはそこそこ時間がかかったよ。アンタはオレ達に殺気を向けてるわけじゃなかったし。それで、何の用? オレ達、今デートしてて忙しいんだけど」

 

 飄々(ひょうひょう)とした態度で言うダイヤ。その隣では、レイが険しい表情で健児を見ていた。せっかくのデートを邪魔されたことにご立腹らしい。

 健児はしばらく考えた後、二人に近付いて口を開く。

 

「君達を()けていたのは、少し話がしたかったからだ。前に聞いた話だけでは、君達のことを理解できないと思ったからな」

「話、ねぇ。オレ達にインタビューがしたいってわけだ。オレ達も人気者になったなぁ」

「そういうことじゃないでしょう。真面目に聞いてください」

 

 ニヤリと笑ってから満足げに言うダイヤに、淡々とレイが指摘する。そんなやり取りをする二人に、健児は何も言わず無言で待つ。

 

「まあ、話がしたいってなら、どこかで座って落ち着くとしようか。そうだな、そこのカフェとか」

 

 そう言ってダイヤは通りに面したカフェを指差す。三人はそこに向かって歩き始めた。

 カフェに入ると、奥のテーブル席に座り、三人分の飲み物を注文する。やがて注文した物が届くと、健児が口を開く。

 

「まず、『教会』は我々のことを知っていながら放置しているとのことだが、それは本当か?」

「おいおい、アンタも元は《教会》の戦士だろう? オレ達の仕事がどれだけ大変なのかは知ってるだろ」

 

 呆れたような表情でダイヤは言う。ジンジャーエールを一口飲むと、頬杖を付きながら言う。

 

「妖怪は世界中で暗躍している。奴らから人類を守るのが《教会》の仕事だ。ついでに貧困救済とか、教えの布教とか、まあこの辺はついでだが――とにかく、そんな活動をしていれば、人手も物資もカツカツだ。そんな状況で一々単独で活動している離反者を気にしてる余裕は無いんだよ。特に私怨で妖怪退治に精を出しているような奴はな」

 

 その言葉に、健児は複雑そうな表情で腕を組む。やがて、目の前にあるコーヒーを口に含むと、静かに口を開いた。

 

「――正直なところ、いつか《教会》に見つかり粛清されるかもしれないと思っていた。仮にも虎の子であるライダーシステムを持ち出したわけだからな」

「最初の頃はそういう話もあったらしいけどな。だが、少なくとも敵にならない限りは放置するって方針で固まったらしいぜ」

「なるほど、不幸中の幸いと言えるか」

「まあ、さすがに見ず知らずの一般人に継承させたのは、色々騒ぎになったらしいぜ?」

 

 ダイヤは笑いながらそう言う。実に愉快だと言わんばかりである。そんな彼の態度をスルーしながら、健児は次の質問に入る。

 

「では次だ。ぬらりひょんを封印している『祠』。アレが破壊されても問題が無いということについてだが――」

「それについては私から説明させてもらいます」

 

 そう答えたのは、ダイヤの隣に座っているレイだった。ミルクティーのカップを置き、淡々と語り始める。

 

「妖怪の総大将とされたぬらりひょん。当然、《教会》は彼を倒すために戦いを挑みました。度重なる激しい戦争の果てに、ようやくぬらりひょんを撃破したのが今から約五百年前です。その際、《教会》の用いた技術により、ぬらりひょんの魂を消滅させることになったと言うのです。結果、残されたのは抜け殻になった肉体のみ。しかし、その肉体にも膨大なエネルギーが宿っていたことから破壊するのは危険と判断され、封印という形を取らざるを得なかったのです。それが今の封印の地ということです」

「なるほど、そういうことだったのか。しかし、そんな大事なことを何故多くの構成員に対して隠していた?」

「情報の漏洩を防ぐためだとか。下手に多くの人に知られると、妖怪側にもバレる恐れが高まります。《教会》はそれを警戒していたみたいです。ぬらりひょんの魂を復活させるには、大量の人間が生贄として必要になります。そのような大虐殺を未然に防ぐための処置、だそうです」

「まあ、今の情勢だとその気遣いはあまり意味が無かったみたいだけどな」

 

 それまで窓の外を見ていたダイヤが、ここに来て口を挟む。

 

「結局のところ、妖怪共はぬらりひょんが居ようが居まいが、自分達の欲求を満たすために好き勝手暴れてる。中には日本妖怪みたいに本気で復活させようとしてる奴らも居るみたいだが、そいつらの方が少数派だろう」

「――まあ、全ての妖怪がぬらりひょんの復活に躍起になっていれば、今頃人間は滅んでいたかもしれないな」

「そうだな、そこはラッキーだったと思うぜ」

 

 静かに言う健児に、ダイヤも同調する。

 ダイヤはジンジャーエールを飲み干すと、椅子にもたれかかり、再び窓の外に目を向ける。

 

「三つ目の質問だ。君達は《教会》の構成員ということだが、具体的にどこの所属だ?」

「……私達は《教会》の遊撃部隊の人間です。数こそ少ないですが、優秀な人材が揃っている部隊――でした」

「なるほど、俺がかつていたのは本隊だ。遊撃部隊と交流することは然程無かったな。……でした?」

 

 レイの回答に対し、健児は違和感を覚える。過去形で語られることが気になったのだ。

 レイは目を伏せ、テーブルから視線を上げることはない。ダイヤも窓の外を見たまま無言のままだった。

 やがて窓の外を見たまま、ダイヤがゆっくりと口を開く。

 

「オレ達が居た遊撃部隊、少し前に全滅したんだよ。生き残ったのはオレとレイの二人だけだ」

「それは……悪いことを聞いてしまったな」

「別に、大したことじゃない」

 

 そう語るダイヤの口調は、先程までと比べて明らかにトーンが低かった。しかし、すぐに気を取り直し。

 

「まあ、済んだことはどうでも良いのさ。大事なのは今だろ? そのために、こうして色々と話をしてるわけだしな」

「……そうですね、ところで東堂さん。私達としては貴方がたと協力することを視野に入れているのですが、そちらはどうお考えですか?」

 

 顔を上げたレイが、そのように問いかける。今度は逆に質問をされる立場になった健児は、腕を組み考える素振りを見せた。

 

「協力か、現状だと君達と協力関係になることは難しいだろうな」

「何故ですか、西洋妖怪まで現れた今、互いに協力した方が得策だと思いますが?」

「理由は単純だよ。ウチのカズキが、赤獅子ダイヤを信用していないのでね」

 

 健児はそう言って、ダイヤへと視線を向ける。ダイヤはニヤリと笑い、それに返答する。

 

「なるほどねえ、まあそれもしょうがないか?」

「カズキは、お前の在り方が気に食わないと言っていたよ。戦いを楽しみ、そのために他人が傷付くことを気にも留めないであろうところがね」

「まあそうだな。オレはいつだって自分のことだけしか考えてねえ。巻き込まれた人間がどうなろうが、知ったことじゃねえよ」

「よくそれで《教会》の人間としてやっていけるな……」

 

 悪びれもせずに語るダイヤの態度に、健児は呆れたようにため息を吐く。

 そんな彼に対し、レイが口を開く。

 

「この人が重宝されるのは、シンプルに強いからです。あらゆる不利な状況でも戦いに勝って生き残ってきた。そうでなければ、この性格の人が組織でやっていけるわけありません」

「おいおい、お前までそんなことを言うのか? 酷いもんだなぁ」

「事実ですからね、それとこれとは話が別です」

 

 そう言うと、レイは笑みを浮かべる。続けてダイヤも笑い出す。健児はそれを見て、カズキと早苗のことを思い出したが、すぐに違う方向性の二人なのだろうと思い直した。

 そうしている時、カフェの外から爆音が鳴り響き、店全体を揺らした。その直後に、レイのスマホが反応する。

 

「あら、どうやら妖怪が現れたみたいですよ。このすぐ近くです」

「おっと、それなら退治してやらねえとな。構わねえだろ、オッサン?」

「……致し方ないな、放っておく訳にもいかない」

 

 渋い顔で答える健児。

 ダイヤはニヤリと笑い、店を飛び出して行く。レイも小走りでその後を追いかける。

 二人が店から出て行った後、健児はゆっくりと立ち上がり、現場へと向かうのであった。

 

 ★

 

 街中は多くの人々が逃げ惑っていた。理由は突然現れた異形の存在であった。

 白い肌に黒いスーツとマント纏った怪人――ドラキュラは、突如街中に現れると、無数のコウモリを解き放ち、人々を襲わせた。

 コウモリは非常に獰猛で、人々を次々に襲い始めた。首筋に噛みつくと急速に血を吸い取る。すると、人々は一瞬で干からびてしまい、物言わぬ亡骸へと変えられる。そうして集められた血液は、本体であるドラキュラへと変換され、その飢えを満たすのだ。

 

「クククッ、やはり人間の血は味わい深いものだ。まだまだ吸いたりんな」

 

 ドラキュラは初めて味わう人間の血の味に興奮しているのか、喜びの声をあげる。

 そして、新たな獲物を探そうとしている時、赤獅子ダイヤ達が駆けつけて来た。

 

「っと、なるほど、もう派手にやってるわけだ」

「ええ、随分と酷い妖怪ですね」

 

 ダイヤとレイがそんな会話を交わす。すると、ドラキュラも二人の存在に気付く。

 

「ん? 貴様は……ちょうど良い、探していた奴が自分から来てくれるとはな」

「オレを探してた? 悪いが、女の子以外からの熱烈アピールは受け付けて無いぜ」

「そういうことじゃないでしょう、全く」

 

 ドラキュラの言葉に、ジョークで返すダイヤとそれにツッコむレイ。緊張感など感じさせないやり取りだった。

 遅れて駆けつけた健児がやって来ると、ダイヤはようやく戦闘態勢に入った。

 

「さあて、そろそろ始めますかね」

 

《ウリエル!》

 

 ダイヤはSMGとウリエルバレットを取り出し、バレットを起動。そして、SMGの銃床を引いてマガジンを引き出し、その中にバレットを装填して、マガジンを戻す。

 茶色と銀色のエネルギーを放ち始めたSMGを横に構えてから振り抜く。次いで縦に構えてから振り抜き、空中に弾丸で十字を描く。

 

「変身!」

 

《クロス・フェイス・グレイス!》

《クルセイド・ウリエル!》

 

 エネルギーが解放されると、ダイヤの全身を包み込み、クルセイド・ウリエルバレットへと変身を遂げる。

 

「さあ、懺悔の用意はできてるか?」

「クククッ、この身はすでに人ではない。誰に許しを乞う必要も無い!」

 

 変身が完了したダイヤの言葉に、ドラキュラを大きな笑みを見せながら言う。

 ダイヤは、SMGの引き金を引きながら走り出す。無数に放たれる銃弾が、ドラキュラへと襲いかかる。

 対してドラキュラは、身に付けているマントを振るい、身体を覆うようにする。そうすると、マントは身を守る盾代わりになり、銃弾を次々に弾いていく。布とは思えない硬さだった。

 

「おっと、そういう奴か!」

 

 銃弾を防がれるのを見たダイヤは、仮面の下で笑みを浮かべる。そのまま走り寄り、ドラキュラの目前で跳躍、背後に回ると再び引き金を引く。

 しかし、ドラキュラもそれにしっかり反応し、振り向くと同時にマントで全ての銃弾を防いでみせた。

 

「へっ、中々やるじゃねえか」

「これが妖怪としての私の力だ!」

「自信満々だな、面白え!」

 

 そう言うと、ダイヤはSMGを投げ捨て、右手首に装着しているリングに触れる。銀色のリングが反応すると、1センチ程の鉄棒が現れ、一瞬の内にトマホークへと変形する。

 トマホークを握ると、ダイヤは怒涛の攻めに入る。トマホークをめちゃくちゃに振り回して、ドラキュラへと迫る。

 ドラキュラはそれもマントで防ぎながら、後退する。激しい攻めを受けているにも関わらず、それに問題なく対応していた。

 ダイヤはますます笑みを深くして叫んだ。

 

「おいおいどうしたぁ!? 自信満々な割には防御ばかりかよ!」

「ククッ、まさかここからが本番というものだ!」

 

 そう言うと、ドラキュラは大きく後ろへ飛び、距離を取る。そして身体を覆っていたマントを翻した。

 すると、マントの内側から大量のコウモリが飛び出し、ダイヤへ向かって殺到する。

 

「うおっ! ただのこけおどしかよ!」

 

 その光景に、ダイヤも一瞬驚くが、すぐにトマホークを振り回してコウモリ達を切り裂いていく。ドラキュラの能力で生み出されているのか、切り裂かれたコウモリはすぐに霧散して消滅していく。

 だが、この状況でドラキュラは余裕の笑みを浮かべていた。

 

「クククッ、喰らえぃ!」

 

 そう叫ぶと、ドラキュラの瞳が一際赤く輝き、両目から真紅のビームが発射された。ビームは一直線にダイヤへ向かっていく。

 

「なにっ! ぐうっ!!」

 

 コウモリによって視界が悪くなっていたため、一瞬反応が遅れる。避けることは出来ず、ギリギリでトマホークを盾にして防いだ。

 しかし、その威力はかなり高いようで、ダイヤは防いだトマホークごと、数メートル吹き飛ばされてしまった。空中で一回転して、背中から地面に叩きつけられる。

 

「ぐはっ!」

 

 着地と同時に息を吐くダイヤ。すぐに起き上がるも、肩肘を付いた状態で右肩を押さえる。

 

「へっ……やるじゃねえか……!」

 

 ★

 

 一方その頃、健児から連絡を受けたカズキ達も現場へと駆け付けていた。

 

「おやっさん!」

「おおっ来たか、カズキ、早苗、南くん」

「状況はどうなってますか?」

「妖怪に襲われなかった市民は、なんとか逃げ延びた。今は赤獅子ダイヤが、妖怪と戦っている」

「……アイツがですか」

 

 健児の言葉に、カズキの表情が一瞬曇る。しかし、すぐに首を横に振り、気持ちを切り替えていく。

 

「俺も戦ってきます。おやっさん達は離れていてください」

「分かった、行くぞ、二人とも」

 

 健児に促され、早苗と文香も離れていく。それを確認すると、カズキはゴクオードライバーを腰に装着する。

 

《ゴクオードライバー!》

 

「妖怪にもアイツにも、これ以上暴れさせるわけにはいかない!」

 

 そう言うと、カズキは羅刹バレットを起動し、ドライバーに装填する。

 ドライバーから溢れる赤黒いエネルギーが、カズキの右手に集約していく。

 

《ラセツ!》

 

「変身!」

 

《ジゴク・レンゴク・ヘンゴク!》

《ゴクオー・ラセツ!》

 

 銃の形にした右手でこめかみを撃ち抜く。すると、エネルギーが全身に拡散してスーツを形成する。

 仮面ライダー獄王・羅刹バレットに変身したカズキは、すぐさまダイヤ達がいる場所へ走り出した。

 しかし、その行手を阻むように、大量のコウモリが現れる。

 

「うおっ!? な、なんだ!」

 

 思わず足を止めて困惑するカズキ。

 やがてコウモリ達はカズキから離れると、一箇所に集まり何かの形を作り出す。

 現れたのは、ダイヤと戦っているはずのドラキュラだった。完全に瓜二つの姿をしているその存在に、カズキは困惑する。

 

「ドラキュラだと……? 何故こっちにいるんだ、もう一体いたってことか?」

「クククッ、さてどうかな?」

 

 不敵な笑みを浮かべたドラキュラは、マントの中から両腕を広げ、宙に浮く。そのまま滑空するようにカズキに向かってくる。

 カズキはすぐさま地面を転がり、その攻撃を避ける。ドラキュラは地面に降り立つと、ゆっくりと振り返った。

 

「なんだかよく分からないが、とりあえずお前を倒すのが優先だな!」

「クククッ、やれるもんならやってみるがいい!」

 

 カズキはヘルソードを引き抜き、ドラキュラへと向かって走り出す。上から一直線に振り下ろすが、マントによって防がれる。続け様に連続で斬りつけるが、それすらも防がれてしまう。

 接近戦に意味は無いと判断したカズキは、距離を取ってヘルガンを引き抜く。そして銃口をドラキュラへと向けて、引き金を引いた。

 しかし、この攻撃もマントを貫くには至らず、ドラキュラへのダメージは与えることができなかった。

 

「クソッ、硬すぎるだろ!」

「このマントは鋼鉄よりも硬い、例えライダーの攻撃だろうと効くものか!」

 

 悪態を吐くカズキを見て、ドラキュラは余裕の笑みを浮かべ、瞳を赤く輝かせる。そして目から真紅のビームが放たれる。

 ビームはカズキの胴体に命中、激しい火花を散らして吹き飛ばした。

 

「ぐわぁぁぁぁ!!」

 

 カズキは地面に転がり悲鳴をあげる。ビームを受けた部分は溶解し、これ以上のダメージは危険だということが目で見て分かる程になっていた。

 それを見て、ドラキュラは更に楽しそうに笑い出す。

 

「ハハハッ、こんなものか、仮面ライダー? これでは簡単に殺せてしまうなぁ?」

 

 その態度に、カズキは苛立ちを覚える。両足に力を込め直し、ゆっくり立ち上がる。

 

「……舐めるなよ、妖怪は全て、俺が倒してみせる!」

 

 叫びと同時に取り出したのは、真紅の肉体を持った鬼が描かれたアヤカシバレット。それを起動し、ドライバーへと装填する。

 

《ウラ!》

 

 すると、赤い稲妻のようなエネルギーが全身を包み込み、やがて右手に収束していく。その右手を顎の下に持っていき、自ら撃ち抜く。

 放たれたエネルギーが、銀色のアンダースーツを形成し、その上に真紅の装甲が装備される。装甲には黒、白、黄色のラインが並んで刻まれる。

 

《キジン・センジン・カイジン!》

《ゴクオー・ウラ!》

 

 羅刹・八咫烏・犬神の力を掛け合わせ、強化された形態ーー温羅バレットへと姿を変えたカズキ。

 ヘルガンとヘルソードを原子分解して生み出された金棒型の武器ーーヘルズロッドを構えて、ドラキュラに対峙する。先程までとは違う威圧感に、ドラキュラも初めて動揺した様子を見せる。

 

「おおっーーまだ隠し玉を持っていたとは。だが、それでも私には勝てん!」

「そう思うんなら、試してみろよ」

 

 先程までとは逆に、カズキは落ち着き払って歩き出し、ドラキュラは空中を滑空しながら迫っていく。

 ドラキュラが目前まで迫って来たところで、カズキは無造作にヘルズロッドを振るう。当然、ドラキュラはこれまでの攻撃と同じようにマントで防御しようとするが、ロッドがマントに触れた瞬間、それごと身体にめり込んできた。

 

「なっ……なにィィィィ!?」

 

 自慢の防御を破られたことに驚愕しながら、ドラキュラは吹き飛ばされる。動揺したためか受け身も取れず、地面に叩きつけられた。

 

「なるほど、どうやらしっかりとしたパワーがあれば、ぶち抜けるみたいだな」

「ぐうっ……まさかこれほどとは……! 甘く見過ぎていたようだ……」

 

 立ち上がったドラキュラは、すぐに臨戦態勢になって構える。

 そんな状況で、カズキは両足を動かす。すると、ボディに走るラインの内、白色のラインが光り輝く。

 次の瞬間、カズキが地面を蹴ると、目にも止まらぬ速さでドラキュラへ接近。目前まで迫ったところでさらに加速し、背後に回り込む。そして、ガラ空きの背中に向かってヘルズロッドを叩きつけた。

 

「ガバァ!? な、なんだ今の速さは!?」

 

 再び地面に叩きつけられたドラキュラは、身体を起こしながら戦慄する。

 それに対し、カズキは冷静に語りかける。

 

「今のは八咫烏バレットの能力だ。スピードを極限まで高めて、高速で移動したんだよ」

「……なるほど、そんな芸当までできるとは……!」

 

驚愕に目を見開きながらも、ドラキュラは戦意を失わない。今度は自らの身体を無数のコウモリへと変換し、カズキに襲いかかる。

「そんなこけおどしが通じると思うなよ!」

 

 カズキが叫ぶと、今度はボディに走るラインの内、黄色のラインが光り輝く。それと同時に、カズキは大きく息を吸い、そして叫んだ。

 

「ウオオオオオオオオッ!!」

「っ!? ば、馬鹿な!?」

 

 叫びは衝撃波となり、コウモリ達に直撃。その瞬間、コウモリ達は強制的に一まとめにされ、ドラキュラの姿へと戻された。

 

「これは犬神の能力。破邪の力でお前の能力を打ち消させてもらった。もう目眩しも逃走も出来ないぞ」

「なんという力……これが仮面ライダーなのか……!」

 

 淡々と告げたカズキは、驚くドラキュラへ向かってゆっくり歩き出す。ヘルズロッドを地面に降ろして引きずりながら歩くその様は、まさに地獄の番人というべき姿であった。

 ドラキュラはその威容に気圧されるが、ここで逃げるのはプライドが許さないのか、あえて突っ込んで行く。

 

「能力を封じたくらいでいい気になるなよ! 私のパワーを味わわせてやる!」

 

 そう言うと、ドラキュラは走りながら拳を握る。

 対するカズキは、あくまでも冷静に、ヘルズロッドの柄にあるスロットに、アヤカシバレットを装填した。

 

《オニビ!》

《アヤカシバレット! オニビ・フレイム!》

 

 鬼火の力が発動すると、ヘルズロッドの全体が炎に包まれる。カズキはそれを構えて、刺すように突き出した。

 

「ハアッ!」

「グオオオオッ!?」

 

 ヘルズロッドの先端が、ドラキュラの腹をぶち抜く。真っ直ぐ突っ込んだドラキュラに避ける術はなく、自らの勢いも相まって大きなダメージを受けた。

 更に、先端部分が爆発し、ドラキュラは全身を焼かれながら吹き飛ばされる。

 

「あがっ……こんな、こんなはずでは……」

「いい加減見苦しいぞ。お前のような妖怪が、これ以上生き恥を晒すな」

 

 冷たく言い放つカズキは、ドライバーから温羅バレットを取り出すと、ヘルズロッドのスロットに装填する。

 真紅のエネルギーがチャージされると、柄を九十度展開。金棒部分が左右に開き、砲身が現れる。カノンモードへと変形したヘルズロッドを構える。

 

《カノンモード!》

《ファイナルバレット!》

《獄王温羅爆発弾!》

 

 砲身に集められたエネルギーが、引き金を引くことで解き放たれる。赤と白のエネルギーで構成されたビームが、ドラキュラへと向かっていく。

 ドラキュラは避けようとするも間に合わず、ビームによって胴体を貫かれた。

 

「ぐああああああっ!? ば、馬鹿なぁぁぁぁ!!」

 

 断末魔の悲鳴をあげて、ドラキュラは爆散した。

 しかしその焼け跡から、無数のコウモリ達が飛び去っていく。その様子にカズキは眉をひそめた。

 

「今のは間違いなく命中したはず、それに能力も封じていた。なのにどうしてコウモリが現れた……?」

 

 目の前の奇妙な現象に、カズキは疑問を覚えずにはいられなかった。

 

 ★

 

 所が変わり、ダイヤとドラキュラの戦い。

 ドラキュラが連続で放ってくるビームを、ダイヤは走りまわって避け続けていた。

 周囲の障害物も容易く貫通するビームを相手に、流石のダイヤも攻めあぐねていた。

 

「そらそら! 逃げてばかりでは勝てないぞ! その程度か、仮面ライダー!」

 

 ドラキュラは目からビームを放ちながら、高笑いする。自分の優位が絶対的であることに、余裕を持っているようだ。

 対するダイヤは、分厚い柱を見つけてその影に隠れ、一度息を整えていた。

 

「チッ、調子に乗りやがって。だが、連発してくれたおかげで、ようやく勝ちの目が見えてきたぜーー!」

 

 舌打ちしながらも、何か策を思いついたのか仮面の下でニヤリと笑う。

 一瞬、ビームの勢いが収まったタイミングで柱から飛び出す。そのままドラキュラへと向かって走り出す。

 ドラキュラは一瞬驚いた表情を見せるが、すぐにニヤリと笑い、瞳にエネルギーを収束、ビームを放った。

 真っ直ぐ迫ってくるビームにも、ダイヤは臆する様子は無い。左手に握った新たなアヤカシバレットを、右手に持ったSMGのマガジンへと装填する。

 

《ラファエル!》

《ソレス・ディフェンス・ジャスティス!》

《クルセイド・ラファエル!》

 

 電子音声が鳴り響くと、クルセイドの姿が変わる。

 装甲の色が緑色へと変わり、風を模した模様が描かれる。背中にはまたも緑色の翼が生えてくる。

 クルセイド・ラファエルバレットに変身したダイヤの目の前に、緑色の竜巻が巻き起こる。竜巻は激しく荒れ狂い、向かって来たビームを打ち消した。

 

「なにっ!?」

 

 まさかビームが打ち消されると思っていなかったのか、ドラキュラが驚愕の声をあげる。その隙に、ダイヤは走り抜ける。

 

「テメェのビーム、真っ直ぐにしか出せねえみてえだな。軌道さえ分かれば、防ぐのなんて容易いんだよ!」

 

 今度はダイヤが楽しそうに笑い、叫びながら走り寄る。再び握ったトマホークで、ドラキュラへと斬りかかる。

 ドラキュラは、今度もマントで防ごうとする。しかし、トマホークに緑色の風がまとわりついた瞬間、振り下ろされる速度が上昇、その勢いでマントごと肉体を引き裂いた。

 

「な、なにィィィィィ!?」

 

 予想外の展開に、今度こそ心底から驚愕するドラキュラ。シンプルなゴリ押しで防御を破られたことが、余程恐ろしいらしい。

 そうして動きが止まり、ガラ空きの腹部に向かって、ダイヤは蹴りを放つ。これも風で強化されており、十数メートル先まで吹き飛ばす。

 地面を転がるドラキュラ、その表情は悔しさと恐怖で歪んでいた。その様に、ダイヤは歯を剥き出しにして更に笑う。

 

「おいおい、さっきまでの余裕はどこに行った? この程度かよ、コウモリ野郎」

「ぐうっ……おのれぇ……!」

「だがまあ、さっきまでのビーム連打は地味に面倒だった。褒めてやるよ、オレをあそこまで追い詰める妖怪は、早々いないぜ?」

 

 そう言いながら、ダイヤは右手首の銀色のリングを、腰に付けられたバックルにかざす。すると、二つの間でスパークが走り、エネルギーが放出される。

 

《ファイナルジャッジメント!》

《クルセイド・トマホーク・ブレイク!》

 

 電子音声が鳴り響き、トマホークに緑色のエネルギーが収束していく。それを大きく振りかぶり、ダイヤは叫ぶ。

 

「必殺! トマホォォォク、ブゥゥゥメランッ!!」

 

 気合いと共に放り投げられたトマホークは、風を纏いながら高速回転。そのままドラキュラへと向かっていく。

 立ち上がったドラキュラの胴体を一閃。そこから引き寄せられるように戻り、背後から一撃。更に軌道を変えながら、左右からの一撃。最後に脳天ごとぶち抜く上からの一刀両断。累計五回の攻撃を加えると、トマホークはダイヤの手に戻った。

 

「がああああああっ!! 馬鹿なぁぁぁぁ!!」

 

 断末魔の叫びと共に、ドラキュラは爆散する。その跡からは大量のコウモリ達が飛び立つのだった。

 

 ★

 

 戦闘を終えたダイヤは、変身を解除して息を吐く。何気なく腕を伸ばしていると、同じく変身を解いたカズキがやって来た。

 

「おっ、カズキ。そっちも終わったのか」

「ああ、アンタも終わったらしいな。……また随分と派手に荒らしてくれたみたいだが」

 

 そう言ってカズキは周囲を見回す。その言葉通り、戦いの余波で周囲は荒れ果てていた。カズキの方もそれなりの被害があったが、ダイヤの方はそれ以上に酷かった。

 しかし、ダイヤは肩をすくめるだけで。

 

「おいおい、戦ってる途中にそこまで気にしろってか? くだらねえ、興が削がれるってやつだぜ」

「ただ妖怪を倒せば良いって訳じゃないだろ。市民の生活をなんだと思ってるんだ!」

「へっ、それこそ運が悪かったってやつだろ。熱くなるなよ、素人(アマチュア)君」

「テメェ……!」

 

 二人の口論はどんどん加熱していく。最早どちらから手が出てもおかしくなかった。

 そんな時、この場に似つかわしくない冷静な声が響く。

 

「おやおや、人間らしい醜い争いだな」

『っ!?』

 

 その声に、カズキとダイヤは揃って身構える。声の主は先程倒したはずのドラキュラだったからだ。

 

「ドラキュラだと……!? さっき倒したはずじゃ……」

「クククッ、お前達が戦っていたのは私の分身だ。コウモリを使い、寸分違わぬ分身を作り出す。それが私の能力だよ」

「……なぁるほどね、まんまと化かされたってわけだ」

 

 カズキは驚愕し、ダイヤは不愉快そうに眉をひそめる。

 ドラキュラは愉快そうに笑い、二人の前に立ち塞がる。

 

「それで、テメェの目的はなんだ?」

「もう分かっているだろう? お前達の力を調査するためさ。分身との戦いで全力を出してくれたおかげで、お前達のことはよく理解できたよ」

「なんだと……!」

 

 ダイヤの問いに、ドラキュラはそう答える。カズキも驚愕してしまう。

 

「そして、私を産み出した方からの命令でもある」

「なに……?」

 

 続けてドラキュラが告げた言葉に、ダイヤが反応するーー

 ーーその瞬間、世界が凍った。

 そう錯覚するほどの、おぞましい殺気がカズキとダイヤに襲いかかる。

 それを受けた瞬間、ダイヤは上空に視線を向ける。

 理由は、この殺気を知っていたから。今回で受けるのは二度目だった。最初に受けたのは、忘れもしないあの日。全てが変わってしまったあの日の記憶。

 

「ーーどうやら、私の頼みは果たしてくれたようですね」

 

 その言葉は、上空に浮かぶ人物が発したものだった。

 整えられた茶髪に、氷のような冷たさを感じさせる瞳。仕立ての良いグレーのスーツを纏った青年だった。宙に浮かんでいることを除けば、ただの人間にしか見えなかった。

 

「なっ……誰だ?」

 

 突然現れた人物に、カズキは困惑する。警戒が薄いのは、見た目には普通の人間にしか見えなかったからだ。

 しかし、隣にいるダイヤは違う。その人物を見た瞬間から、目を見開き呼吸すら忘れたように硬直している。今まで見たことのない様子に、カズキは訝しむ。

 やがてダイヤは歯を食い縛り、大声で叫んだ。

 

「……ハヤトォォォォォォォ!!!!」

 

 その形相は、これまで見せたことのない怒りの形相だった。この世で最も許せないものを見た時のような、荒ぶるマグマを思わせるような、とてつもなく激しい怒りを見せていた。

 ダイヤは地面を蹴り、宙に浮かぶ男へと飛び掛かる。トマホークを握りしめ、勢いよく振り抜く。

 トマホークが男にぶつかるーーその寸前、二つの影が飛び出し、トマホークを防いだ。

 一つは白髪でショートヘアーの少女、もう一人は黒髪でサイドテールの少女だった。二人の腕が、トマホークの刃と柄を押さえ込み、男への直撃を防いでいた。

 

「なにっ……!?」

「全く、荒っぽい人ですね、聞いていたよりも」

「そうだねぇ、でもぉ『兄さん』に手を出すのは、良くないなぁ」

 

 驚愕するダイヤを他所に、そんな会話をする二人。やがてトマホークを押し返して、弾き飛ばす。抵抗できず、ダイヤは地面に叩きつけられた。

 

「ガハッ……!」

「ダイヤ!」

「ダイヤさん!」

 

 生身で倒れるダイヤに、カズキと離れて見ていたレイが駆け寄る。その後ろからは、早苗達もやって来ていた。

 

「随分と冷静さを欠いていますね、貴方らしくもないですよ、ダイヤ」

 

 二人の少女を控えさせながら、宙に浮かぶ男が言う。

 その言葉に、ダイヤはすぐさま起き上がり、男を睨みつける。

 

「ハヤトォ……! 何故だ、何故裏切った……!」

「えっ……?」

 

 ダイヤの言葉に、カズキは困惑する。目の前の男達には、自分が知らぬ因縁があるらしい。

 対する男ーーハヤトは、表情一つ変えずに答える。

 

「知れたことですよ、私が目指すのは、ただひたすらに『高み』だ」

「なんだと……意味が分からねえんだよ、どういうことか説明しやがれ!! ダチを殺して、オレ達を裏切って、妖怪にまで成り下がりやがって!! お前は一体何を考えてんだよ!!」

 

 ダイヤは怒りのままに声を荒げる。それでもなお、ハヤトは淡々と告げるのみであった。

 

「知らなくても良いことです。貴方に告げることは何も無い」

 

 そう言うと、ハヤトは懐から黒いアヤカシバレットを取り出した。

 それには羽根が激しく崩れた天使のような何かが描かれていた。

 

《ルシファー!》

 

 アヤカシバレットを起動して、自らの胸に突き刺す。赤黒いエネルギーが全身を包み込むと、その姿が人から妖怪へと変わる。

 大まかな姿は人型であった。全身に氷の破片のようなものがこびり付いてる。背中からは所々がボロボロになった翼が生え、頭上にはひび割れた天使の輪のようなものが浮かんでいた。

 その姿はまさしく堕天使ーールシファーというべきものであった。

 

「私は私のやり方がある。貴方とは根本から違うのですよ」

 

 そう呟くと、ハヤトーールシファーは翼をはためかせ、突風を巻き起こす。更にそこに乗せて、吹雪も発生させる。

 カズキ達はなんとか身を守るが、周囲は一瞬にして氷漬けにされていた。その様子に戦慄を覚える。

 

「なんて力だ……!」

「これが『兄さん』の力です、驚きましたか? 人間」

「もうこのまま、全員やっつけちゃっても良いんじゃなぁい?」

「スノー、レーナ。今回はここまでです。そろそろ行きますよ」

「分かりました」

「はぁい」

 

 無表情に淡々と告げる白髪の少女ーースノーと、人を食ったような笑みを浮かべる黒髪の少女ーーレーナは、ルシファーの言葉に迷うことなく従う。

 ルシファーは最後にダイヤと、その隣にいるレイに視線を向ける。しかし、何も言うことはなくそのまま消え去っていった。

 

「さて、では私も消えるとしましょうか」

 

 最後に残ったドラキュラも、身体をコウモリへと変えて消え去った。

 後に残されたのは、カズキ達のみだった。

 そんな中で、ダイヤは拳を握り、俯きながら身体を震えさせる。

 

「オオオオオオオオッ!!!」

 

 やがて、堪えきれないというように大きな叫びをあげる。

 その様を、カズキは複雑な面持ちで見ていた。

 




 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
 またまたやりたいことを詰め込んだら、結構な長さになってしまいました。読み応えだけはあります。
 そんなこんなで、今回はかなり話が動きました。クルセイドの第三のフォームに、久々となる獄王の活躍、そして新たなる敵の登場です。
 振り返るとこれまで余裕たっぷりだったダイヤの感情が、初めて動いた回となりましたね。まあ今後も色々動かす予定ですが。その辺も楽しみにしててください。

 それでは今回はこの辺で。
 次回もお楽しみに!
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