ギリギリの月一更新達成です。
今回は夏の風物詩、夏の水着回です。嘘は言ってない。
ぜひお楽しみください。
8月某日。真夏もまだまだ続き、嫌というほど暑苦しく感じる時期。
雑貨屋『東堂』の奥、リビングに二人の男が居た。
一人は黒髪黒目の青年、桜井カズキ。彼はソファに座り、テーブルの上に置いたノートPCで作業を行っていた。パソコン作業のためか、ブルーライトカット仕様の伊達眼鏡をかけている。
もう一人の男は明るい茶髪に赤いバンダナ、赤いジャケットを羽織った青年、赤獅子ダイヤ。彼はもう一つのソファに寝転がりながら、タブレット端末を弄っていた。
「『水都名物・水都タワーが、テロリストにより破壊。復旧にはしばらくの期間が必要であると考えられる』ねえ。これまた随分派手にやったもんだな、おい」
タブレットに表示されたニュースを見ながら、ダイヤはそう呟く。向かいに座るカズキは、何も言わずに作業を続ける。
「『また、街に溢れた怪物達は事件解決直前に消えていたという。一部の市民の間では、見慣れない異形の存在が怪物を倒していたという噂が流れているが、真偽の程は不明である』と。お前確かこの街に行ったんだよな? これってお前のことか?」
ダイヤはそう言いながら、視線を横に向ける。そこでカズキは手を止め、眼鏡を外してから答える。
「ああ、おやっさんに頼まれてな。それにテレビジャックで大々的にやってたからな。
「うわぁ、マジかよ、すげえ面白そうじゃん! オレも行きたかったなぁ! なんで誘ってくれなかったんだよ?」
ソファから身体を起こし、笑みを浮かべながらダイヤは言う。それを見て、カズキは呆れた表情を浮かべながら答える。
「お前みたいな危ない奴を、余所の街に連れていけるわけないだろ。それにあの時、お前はレイさんと追いかけっこしてたから、どのみち行けなかっただろう」
「なるほど、そりゃそうだ。行けるわけねえわな!」
ダイヤは笑いながら、ソファにもたれかかる。
その様子を見て、カズキは肩を揉みながら問いかける。
「で? まさかそんな話をするためだけにウチに来たわけじゃないんだろ? 用件はなんだ?」
「おっと、そうだった。忘れるところだった」
そう言うと、ダイヤは手に持っていたタブレット端末を再び操作する。
「お前さ、次の週末暇か?」
「まあ、別に用事は無いけど」
「そっか、なら良かった。おっと、出た出た」
ダイヤはしばらくタブレットを弄っていたが、目的のものを見つけると、タブレットの画面をカズキの方へと向ける。
カズキがその画面を覗き込むと、そこにはとある海水浴場の紹介が書かれていた。
「ここ、知ってるか? ここらで一番人気のビーチなんだとさ」
「ああ、知ってるよ。テレビでもよく紹介してるしな。それがどうかしたのか?」
「そんな難しい話じゃねえよ。みんなでここに遊びに行こうぜって、誘ってるんだ。それだけだよ」
「みんなって、誰だ?」
「決まってるだろ。オレとお前、レイに早苗ちゃん、お前んところのオヤジに、あと文香ちゃんだ。六人で海に行こうじゃないか」
そう言って笑うダイヤに、カズキは目を丸くする。やがて一つ息を吐くと、淡々を答える。
「まさかお前からそんな提案が出るとは思わなかったな。てっきり戦い以外のことには興味が無いのかと思ってたよ」
「バカ言え、オレは楽しいことはなんでも好きなんだぜ。気の合う連中と海で遊ぶ、中々楽しそうだとは思わねえか?」
そう言われて、カズキは少し考える。そして、たまには息抜きをするのも悪くないかと思い、微笑を浮かべる。
「まあ、そう言うのも悪くないかもな。海なんて滅多に行かないし、たまには良いか」
「よし、決まりだな! 近くにホテルもあるみたいだし、そこに泊まって一泊二日だ! 金はこっちが出してやるから心配すんな、『教会』ってのは金払いだけは良いからな!」
「それはありがたいな」
カズキが納得すると、ダイヤはすぐにタブレットを使ってホテルの予約を入れていく。楽しみにしていたのか、淀みない手付きで進めていく。
「ところでカズキさんよ、お前はさっきから何してんだ?」
「店の帳簿を付けてるんだよ。大事なことだからな」
「おおっ……真面目だなぁ……」
★
土曜日。カズキ達は予定通りに海水浴場へと来ていた。
そこはテレビで紹介される程に人気の場所であった。近くにある高級ホテルからの利便も良く、海水浴場自体も広々としており、かなり遊びやすいようになっていた。
カズキとダイヤは水着に着替ると、適当な場所にレジャーシートとビーチパラソルを設置し、他のメンバーが来るまで待機していた。
「海に来るなんて、子供の頃以来だな。こんなに暑かったか……?」
額の汗を拭いながら呟くカズキ。着ている水着は黒と緑のグラデーションがかかったトランクスタイプの物で、上半身には白いパーカーを羽織っている。
「夏なんてこんなもんだろ。まあ
そう言うのは隣に座るダイヤ。こちらは布地の少ない赤いブーメランパンツを履いている。全身の筋肉を惜しげもなく晒すスタイルだった。
「……お前、よくそんなの着れるな。一応ここ公共施設だろ」
「別に全裸なわけじゃなし、構わねえだろ? オレは自分の身体に自信があるから、見られたところで問題ないしな」
「まあ、お前の身体が鍛え上げられてるのは認めるけどさ。俺より筋肉多いし」
ドヤ顔で語るダイヤに、呆れ顔で返すカズキ。
実際、カズキの方は引き締まっているが筋肉は目立たない、俗に言う細マッチョという体型をしているのに対し、ダイヤは全身の筋肉がしっかり発達して目立っている。二の腕や太ももは太く、腹筋はシックスパックに割れている。水着のチョイスも、それぞれの体型にマッチしているものであった。
「でも、もしそれでトラブルが起こったりしたら、俺は他人のフリするからな」
「ひでぇなぁ、オレ達ダチだろ?」
「だからお前と友達になった覚えは無いっての」
そんな会話を交わしながら暇を潰す二人。
しばらくすると、こちらに近付いてくる気配を感じて振り向く。
「ごめん、待たせたわね」
そこに立っていたのは、水着に着替えた早苗だった。
身に付けているのは、パステルグリーンのビキニであった。豊満なバストが強調される上半身と美しくも程よい肉付きを持った下半身。普段の衣装では隠されている部分が大胆にもさらけ出されており、最大限に魅力を引き出していた。
「おっ、早苗ちゃん、その水着似合ってるねぇ。やっぱりビキニは良いもんだ、なあ?」
早苗の水着姿を見たダイヤは、笑顔でそう言いながらカズキに振る。
しかしカズキは、その言葉に反応せず、無言で早苗を見つめていた。しばらくすると、立ち上がると同時に早苗の方へと歩きだし、自分が羽織っていたパーカーを無理矢理早苗に羽織らせた。
「きゃっ、ちょっと何?」
いきなりの行動に早苗は少し不満げな声をあげる。対するカズキは頬を赤らめながら、たどたどしく答えた。
「いや、その、あんまり露出が多いのは良くないというか……ほら、日差しも強いし、変な奴に目を付けられて欲しくないし、一応恋人として何かあると嫌だなって……」
「……っ! アンタねぇ……」
言い終わる頃にはカズキの顔は真っ赤に染まっていた。対する早苗も、その真意を聞いて同じように顔を赤らめる。二人はそのまま何も言わずに向かい合っていた。
「ハハァ、相変わらずお熱いようだな、お二人さん」
「うるせえ!」
「理不尽!?」
二人の様子を見てからかうように言うダイヤ。だが照れが限界まで至っていたカズキは、すぐさま履いていたサンダルを手に取り、その顔面へと投げつける。サンダルは見事にダイヤの顔面に命中し、その身体を砂浜へと打ち倒した。
「痛え……ちょっとからかっただけじゃねえかよ……」
「それは貴方が悪いと思いますよ、ダイヤさん」
倒れたダイヤの近くに誰かが現れる。それはレイであった。
普段はツインテールにしている髪を下ろし、紫色のビキニの上から同じく紫色のレースタイプのパレオを纏っている。さらに頭の上に大きめの幅広帽子を被り、さらにその上にはハイビスカスのアクセサリーが付けられている。
早苗以上に豊満な身体は、薄手の布越しでも存在感を主張しており、そのスタイルの良さを補強していた。
早苗がセクシーなら、レイはゴージャスというべきスタイルであった。
「おほぉ、これまた豪勢じゃないか。良いね良いねぇ」
「気に入ってもらえて良かったです。早苗さんや文香さんと一緒に選んだ甲斐がありましたよ」
倒れたまま見上げる形で、ダイヤは両手でサムズアップする。レイは髪を掻き上げながら微笑み、ダイヤを助け起こす。
そんなことをしてるうちに、遅れて三人目の女性がやって来る。
「ね、ねえ、早苗ちゃん、レイちゃん! やっぱりこの水着無理があるんじゃない!?」
そう叫びながら現れたのは、文香だった。顔を赤くして自分の身体を腕で隠すようにしている。
着ている水着は、ワンピースタイプのものだった。ただし胸元だけは独立しており、しっかりと強調されている。色は明るめのオレンジで、可愛らしさと女性らしさが同時に存在する絶妙なバランスが整えられていた。
しかしそれは、文香の性分には少し合わなかったらしい。
「私、もう26なんだけど、こんな可愛らしいのはちょっと恥ずかしいというか、あんまり合わない気がするんだけど!?」
「何言ってんの。文香は可愛いんだから問題ないでしょ。自信持って堂々としてなさいよ」
「そうですね、よくお似合いですよ。私と早苗さんの見立ては間違ってなかったみたいです」
「うぅ~……カズキ君、助けて!」
恥ずかしがる文香だったが、早苗とレイから褒められて更に縮こまり、カズキに助け舟を求める。
「いやまあ、普通に可愛いと思いますよ。文香さんらしいというか」
「ああ、めちゃくちゃ良いと思うぜ。ベリーベリーキュート、ってやつだな」
カズキも素直に褒め称え、聞かれてもないのにダイヤも褒め言葉を述べる。ついに文香は耐えきれなくなったのか、その場でしゃがみ込み頭を抱える。
「ううっ……私としてはもっと大人っぽいのが良いと思ってたんだけどなぁ……」
「それも悪くないけど、今回はキュート担当よ、諦めなさい。――そういえば父さんは?」
文香の肩を軽く叩いた後、周囲を見回しながら早苗が言う。それに対してカズキが答える。
「ああ、おやっさんなら部屋で休んでるって言ってたよ。海は若い者達だけで楽しんでくれってさ」
「そう。全くせっかく海に来たっていうのに、仕方ない親父ね」
「まあ、おやっさんもそれなりに歳だからな。難しいところもあるんだろう」
そんな風に談笑していると、ダイヤが一声かける。
「よし、全員揃ったところでそろそろ遊ぼうぜ。まずはスイミングだ、沖まで競走だオラァ!」
「フフッ、待ってくださいよ~!」
そう言うと、真っ先に海へと走っていく。その背中を追いかけて、レイも走っていく。
残されたカズキ達は、ため息を吐いてから顔を見合わせる。
「で、どうする?」
「まあせっかく海に来たんだから、泳がないわけにはいかないわよね」
「海の中ならこの水着も気にならないよね……私も行くよ」
「ならさっさと行きますか。あのまま放っておいたら、マジで水平線まで泳ぎかねないしな」
そう言うと、カズキ達も海へと向かって走りだすのだった。
★
それからしばらくの間、カズキ達は海での遊びを満喫していた。
ビーチバレーでは二対二に分かれてチームを変えながら遊んだ。特にカズキとダイヤが戦っている時は、あまりに激しい試合のために他の海水浴客がギャラリーと化していた。
スイカ割りを行えば、カズキが正確無比な動きで割って見せたり、ダイヤとレイが勢い余ってスイカを粉々に消し飛ばすなど、話題に事欠かない。
海には当然海の家がある。そこで買ったかき氷を互いに分け合って食べる早苗と文香を、カズキが微笑ましく見ていた。その隣ではダイヤが焼きそばの大食いにチャレンジしており、一皿食べ終わるごとにレイが黄色い歓声をあげる。
そんな風に自由な時間を楽しんでいると、気付けば時刻は夕方を過ぎていた。沈む夕日が水平線に重なり、幻想的な風景を生み出している。
「いや~遊んだ遊んだ。中々楽しかったなぁ」
「お前ははしゃぎ過ぎだけどな。でもまあ、楽しかったのは同意だよ」
砂浜に座り込んで空を見上げるダイヤに、隣で立つカズキが答える。二人とも笑顔を浮かべている。久々に恥も外聞もなく騒げたことは、互いに良い息抜きになったらしい。
「今回は礼を言っておこうかな。誘ってくれてありがとうな」
「へえ~、お前が礼を言うとはな。もっと感謝してくれても良いんだぜ?」
「調子に乗るな」
そんな風に軽口を叩き合う二人。あとはホテルに戻ってディナーを食べるのみ。
そう考えていると、騒がしい人の声が聞こえてくる。どうやらそれは悲鳴であるようだ。声のする方へと視線を向けると、海水浴客達が何かから逃げるように走っていた。
「おい、まさか――」
「いや~そんなことは無いと思うけど――一応行ってみるか?」
最悪の考えに至り、カズキは顔を引きつらせる。ダイヤも苦笑しながら立ち上がると、二人は悲鳴の聞こえる方へと走り出す。
ごった返す人々を避けながら砂浜を駆け抜ける。しばらく走ると、砂浜の中心で叫んでいる二人組が現れる。
「オウオウオウ! 人間共はさっさと失せやがれ! 今からこのビーチは俺たちのもんだ!」
「そうよそうよ! 死にたくなければ消えなさい! 消えなくても殺しちゃうけどね!」
一人は金髪に小麦色の肌をした男、もう一人はピンクのビキニを着た女だった。二人の周囲には数十体の餓鬼がおり、近くにいる人間達を威嚇して追い払っていた。
その光景を見たカズキは怒りの形相を浮かべて、拳を強く握る。隣のダイヤも呆れたように肩をすくめる。
「あいつら……ふざけた真似をしやがって……!」
「なんでよりによって今日来ちまうのかねぇ。マナーがなってないぜ、全く」
二人がそう呟くと、男女の方もその存在に気付く。
「ああ? まだ人間がいやがったのか。どうやら死にてえみてえだな!」
「そうね、私達の愛の巣に入り込む人間は、手足をもいでご馳走にしちゃいましょう!」
《テナガ!」
《アシナガ!》
男女はそう叫ぶと、黒いアヤカシバレットを取り出して、それぞれの胸へと突き刺す。赤黒いエネルギーに包み込まれると、人間の姿から異形の存在へと変貌する。
男は腕が異様に長くなった妖怪――手長へと変貌、女は逆に足が異様に長くなった妖怪――足長へと変貌した。
真の姿を表した二体の妖怪は、餓鬼達に命令を飛ばす。
「さあ行け、お前ら!」
「やっちゃいなさい!」
その言葉を受けて、餓鬼達が大挙してカズキ達の元へ走り出す。
カズキは一つため息を吐くと、ゴクオードライバーを取り出――そうとした時に気付く。ドライバーをホテルの部屋に置いてきたことに。
「あっ、しまった……!」
「おいおい、お前もかよ」
そう言ってくるダイヤの方を見ると、ダイヤも手ぶらであった。彼もまた部屋にSMGを置いてきたらしい。
そうこうしてるうちにも餓鬼達はこちらに向かってくる。どうしたものかと思っていると。
「カズキ!」
「ダイヤさん!」
名を呼ぶ声に振り向くと、ゴクオードライバーとクルセイドSMG、アヤカシバレットが投げ渡される。カズキ達はそれを受け取ると、投げ渡してくれた相手を見る。
届けてくれたのは当然早苗とレイだった。息を切らしているところを見ると、異変に気付いて相当急いで持ってきてくれたらしい。更にその後ろでは、文香と健児が一般人の避難誘導を行っている。
「早苗、ありがとう!」
「サンキュー、レイ!」
カズキとダイヤは礼を言いながら、変身準備を行う。
仲間達が全力でサポートしてくれているなら、自分達が負ける訳にはいかない。いつも以上に気合いが入るのも当然であった。
《ラセツ!》
《ウリエル!》
「「変身!」」
《ジゴク・レンゴク・ヘンゴク!》
《ゴクオー・ラセツ!》
《クロス・フェイス・グレイス!》
《クルセイド・ウリエル!》
二人が変身を完了すると同時に、餓鬼達が殺到する。多数の餓鬼に飲み込まれるように、二人の姿が見えなくなる。
次の瞬間、眩い閃光と激しい爆発が巻き起こり、餓鬼を消し飛ばす。
その場に立っていたのは、鬼を模した黒と赤の戦士、天使を模したホワイトとブラウンの戦士だった。
仮面ライダー獄王、仮面ライダークルセイド。人々を守る戦士がここに参上した。
「さあ、お前達を地獄に送ってやるよ」
「さあ、懺悔の用意はできてるか?」
各々の武器を構え、宣言する二人。対する妖怪達も、臨戦態勢を整える。
「仮面ライダーって奴らか! コイツらを倒せば一気に頭領の座まで行けるだろうな!」
「なにそれ素敵! しっかり手足もいで殺してあげなきゃ!」
そう叫び、走り出す手長と足長。カズキは冷静に相手を見据え、隣のダイヤに話しかける。
「一体ずつやろう。俺が手長の方をやる。お前は足長を頼む」
「あいよ、任された」
会話を終えると、二人は同時に走り出す。そのまま妖怪達の目前まで迫ると、左右に広がり距離を取る。妖怪達もそれぞれを追いかける形で離れていく。
★
カズキを追いかける手長は、三メートル以上ある腕を振り回してその身体を捕らえようとしてくる。カズキは砂浜を全力で走り、腕に捕まらない距離を保ち続ける。
「ハハハ! 逃げるだけしか出来ないのか!」
「……」
煽るように叫ぶ手長の言葉に、カズキは無言で答える。その態度が癪に障ったのか、手長は額に青筋を浮かべる。
「チッ、無視してんじゃねえよ!」
叫びながら腕を全力で伸ばして、カズキを叩き潰そうとする。両腕を重ねて地面に叩きつけると、激しい砂埃が巻き上がる。それでも手応えを感じた手長はニヤリと笑う。
だが、砂埃が晴れるとそこには誰もいなかった。
「何っ!? 奴はどこだ!?」
叫んで辺りを見回す手長。その顔に突如影が差す。何事かと空を見上げると、太陽を背にする形で中空を舞うカズキの姿があった。カズキはクルリと一回転すると、ヘルソードを地面に向けて構える。
「ハアッ!」
そのまま重力に従って落下する、同時に構えたヘルソードで手長の腕を突き刺す。重ねられていたために両方の腕が串刺しになる。
「ギャアアアアアア!?」
「お前、動きが単調過ぎるぞ。どう動くのか簡単に予測出来たぜ」
腕を串刺しにされ、悲鳴をあげる手長。更に地面に固定される形になったため、簡単には逃げ出せないようにされる。
その間にカズキはヘルガンを取り出し、ドライバーから取り外した羅刹バレットをスロットに装填する。
《ファイナルバレット!》
《獄王羅刹消却弾!》
「コイツで終わりだ!」
電子音声が鳴り響き、ヘルガンの銃口に赤黒いエネルギーが収束する。
十分にチャージされたところで、カズキは引き金を引く。球状に収束したエネルギー弾が放たれ、手長の胴体へと向かっていく。
「うっ、うおおおおおおっ!?」
動けない手長は当然避けることができず、エネルギー弾が直撃する。大爆発を起こしてその姿が見えなくなる。
「……呆気なかったな」
思わずそう呟くカズキ。必殺の一撃が直撃した以上、生半可な妖怪では耐えられるわけもない。そう判断したカズキは警戒を解き、歩き去ろうとした。
だが、背後から殺気を感じてすぐに振り向く。そこには無傷で立っている手長の姿があった。
「何っ……!?」
「ふう~、あの程度で俺を殺したつもりか? 舐められたもんだぜ」
驚くカズキを見て、手長はニヤリと笑い首を鳴らす。そして長い両腕を振り回して、再びカズキへと襲いかかる。
「クソッ!」
《ゲキコウ・ライコウ・ホウコウ!》
《ゴクオー・イヌガミ!》
カズキは咄嗟にイヌガミバレットへと変身し、その腕を受け止める。鉤爪型の手甲でなんとか猛攻を防いでいく。
「これは中々厄介だな……」
じわじわと体力を削られながらも、カズキは打開策を考えていくのだった。
★
一方、ダイヤと足長の戦いも、消耗戦に入り始めていた。
《ファイナルバレット!》
《クルセイド・ウリエル・ガトリング!》
「くたばりやがれっ!!」
SMGが変化したガトリングを振り回し、足長の胴体を滅多打ちにしていくダイヤ。放たれる弾丸はその全身を隈なく撃ち抜き、爆発させる。
だが、次の瞬間には無傷の状態で現れて、長い足を使って踏みつけようとしてくる。
「アハハハハ! 私を殺せるなんて思わないことね!」
「鬱陶しい女だ、しつこい女はモテねえぞ!」
悪態を吐きながら、ダイヤは距離を取る。その間に現状で何が起こっているのかを考える。
通常の妖怪なら確実に倒せる威力の必殺技を、既に何度も叩き込んでいる。にも関わらず、次の瞬間に相手は無傷で現れる。
幹部クラスの強力な妖怪ならば、普通に耐えられることもあるだろう。だが今戦っている相手からは、それ程の力を感じられない。ならば考えられる可能性は――。
「倒すのに何かギミックが必要なタイプか。厄介だな」
ダイヤは仮面の下でしかめ面になって呟く。
妖怪は人智を超えた存在であるために、ごく稀にそういう特殊能力を持つ者も現れる。そういった場合、条件を満たさない限り不死身である。
そして、ダイヤはこういったタイプを苦手としていた。正面からのぶつかり合いを好むダイヤにとって、余計な思考にリソースを使わされることは不愉快であるからだ。
故に、ダイヤは目の前の不愉快な相手を、すぐさま殺すために思考を回す。
「足長、確か足が異様に長い巨人だったか。ただそれだけのはずだ、ギミックはコイツ単体の能力じゃねえな」
そう言いながら、カズキと手長が戦っている方に視線を向ける。そちらでも同じように苦戦を強いられているようだった。
「そういや伝承だと、手長と足長はセットだったな。そして今も二体同時に現れた――そういうことか、カズキ!」
何かに気付いたダイヤは、大声で叫びカズキを呼ぶ。呼ばれたカズキはすぐさま近くまで走り寄る。
「どうした、何か良い作戦でも思い付いたのか?」
「ああ、多分な。だがその前にコイツらの動きを止めないとな」
問いかけるカズキに、肩をすくめて答えるダイヤ。そうしていると二人の前に手長と足長が立ちはだかる。
「動きを止める、か。やっぱりあのリーチが面倒なんだがな」
「そうだな、だからちょっと「火」を貸してくれないか?」
「火? ――ああ、良いぞ。ならそっちは「岩」を貸してくれ」
「OK、上手く使えよ」
互いに背中を預けながら、それぞれのアヤカシバレットを取り出すと、互いに左手で後ろに放り、右手で受け取る。
カズキが受け取ったのはゴーレムバレット、ダイヤが渡されたのは鬼火バレットであった。
《バレットミックス!》
《ゴクオー・イヌガミ・ロック!》
《モンスバレット!》
《オニビ・フレイム!》
カズキがドライバーにアヤカシバレットを装填すると、その両腕が岩に包まれて巨大な腕を形成する。またダイヤがSMGにアヤカシバレットを装填すると、赤い炎が生み出されトマホークへと移される。
互いのアヤカシバレットを交換し、新たな力を得た二人は、目の前の妖怪へと突撃する。
「ハアアアアッ!」
「そんなこけおどしで!」
カズキは岩で出来た腕を振るい、手長の腕と掴み合う。互いの手を握り潰さんと力を込める。
しばらく拮抗していたが、やがてカズキの方が力を増していく。元よりパワーに優れた犬神、そこに頑丈な岩の力を扱うゴーレムの力が加われば――。
「ウオオオオッ!!」
「な、何ぃ!?」
カズキの両腕が、手長の腕を握り潰す。自慢の腕を破壊されて痛みと驚愕に悲鳴をあげる手長。その隙にカズキは手長を投げ飛ばす。
致命傷を与えても復活するのなら、そこに至らない程度のダメージで動きを止める。地面に叩きつけられた手長は、痛みに悶えて動けなくなる。
「さあ、燃えていくぜ!」
「そんなもんが効くかしら!」
その横でダイヤは炎を纏ったトマホークを振り回し、足長に向かっていく。
足長は自慢の足でダイヤを踏み潰そうとする。それを避けて、ダイヤは炎を纏ったトマホークをふくらはぎに叩きつける。
「その程度で――!? キャアアアアッ!?」
足の皮膚は鉄よりも硬く、簡単に傷付かないことはダイヤも試していた。だから足長は、トマホークで殴られても大したダメージは無いだろうと思い込んでいた。
だが実際は、トマホークの刃がふくらはぎに突き刺さっている。その周囲の皮膚は、炎により溶かされていた。
「どんなに硬いもんでも、燃やして溶かせば関係ねえ!」
ダイヤはそう言うと、トマホークを更に押し込み、足長の足を切断する。間髪入れずにもう片方の足の切断、足長を地面にひれ伏せさせる。
「ガハッ!?」
「自慢の足が無くなった気分はどうだ、お嬢さん? まっ、妖怪だから手を抜くつもりはなかったんだ、悪く思うなよ」
トマホークを肩に担いで、ダイヤは言う。
赤獅子ダイヤという男は、女好きである。暇さえあれば女性の尻を追いかけ回す。それでいて女性を危険な目に合わせることには否定的な部分もある。
だが、戦いの場においてのみ、その信条はかなぐり捨てられる。
一歩でも戦いに足を踏み入れた者には、老若男女問わず全力で相手をする。それがダイヤの信念であり相手への敬意である。
また、妖怪はダイヤにとって情け無用で戦える貴重な存在、上っ面だけの性別など何の意味もない。
それゆえに、側から見れば残酷とも言えるような所業でも、一切の躊躇なく行える。それが赤獅子ダイヤという男だった。
「よっしゃカズキィ! 同時に決めるぞ!」
「そういうことか、分かった!」
ダイヤの合図に、カズキも同意する。一箇所にまとめた妖怪達を前に、必殺の構えを取る。
《ファイナルバレット!》
《獄王犬神粉砕拳・
《クルセイド・ウリエル・オニビ・フィニッシュ!》
カズキがドライバーのボタンを二回連続で押すと、岩で造られた巨大な犬が現れる。その犬の上にカズキは飛び乗り、妖怪へと向かっていく。
ダイヤは背中から翼を生やすと、空高く飛び上がりそこから急降下する。
そこからカズキは犬ごと宙に舞い、岩が形を変えて巨大な拳に変化する。ダイヤの右足には燃え盛る炎がまとわりつき、巨大な足に変わる。
「ウオオオオオオオオッ!!」
「オリャアアアアアアッ!!」
そのまま二人のパンチとキックが炸裂、手長と足長を同時に叩き潰し、爆散させた。
爆炎から飛び出したカズキとダイヤは息を吐き、変身を解除する。
「なるほど、二体の別々の妖怪じゃなくて、二体一組の妖怪だったのか。だから片方ずつ倒しても、もう片方が生きてればすぐに復活したってわけか」
「そういうこと。だから二体同時に倒さないといけなかったってわけだ。上手いこと合わせてくれて助かったぜ」
二人がそう話していると、遠くから早苗達が呼ぶ声が聞こえてくる。カズキはそちらを向き、軽く手を振る。
「せっかくの休暇が台無しになる前に終わらせて良かったよ。さて、早く戻ろうぜ、まだ楽しめることはあるんだろ?」
「おうよ、あそこのホテルのディナーはめちゃくちゃ美味いらしいぜ」
そう言いながら、二人はホテルの方へと走っていくのだった。
★
海水浴場の端の端。岩礁地帯で人の出入りが制限されている区間。
そこに立つ一人の少女がいた。白髪のショートカットで赤い瞳を持つ少女。服装は環境に合わせたのか、黒地に水色のラインが入った競泳水着、更にその上に水色のパーカーを羽織っている。
「獄王とクルセイド、『兄さん』の手を煩わせるだけあって中々の実力者ですね。面倒な能力を持った妖怪でも難なく倒せるとは」
そう一人で呟く少女――スノーはこれまでの戦いを見物していたようで、そんな風に分析していた。
そんな彼女の近くで、もう一人の少女が座り込んでいた。
「まあ確かにビックリだねぇ。そりゃ仲間がたくさんやられていくわけだよぉ」
そう言う少女は黒髪をサイドテールにまとめ、ピンクのワンピース型の水着を纏っている。スノーと同じ西洋妖怪の幹部――レーナであった。
レーナは岩礁にいたヤドカリを掴み、目の前まで持ち上げる。
「でも私達なら余裕でしょ? あれくらいじゃこんな風にグシャ、ポイッだよ」
レーナは笑いながら、ヤドカリを握り潰す。手を開くとバラバラになった死骸が地面に転がる。
その様を見て、スノーはため息を吐く。
「例え我々との実力差が離れていようとも、油断をすれば足元を掬われかねない。妖怪という種族の弱点はそこにあると、私は考えています」
「それでも変わらないのが私達でしょ? 本気を出せばいくらでも料理できる。そう思ってるのが大半だよねぇ」
「ええ、だからこそ我々が策を練らなければ――」
二人が言い合っていると、近くの水面から何かが飛び出してくる。それは紅白に色分けされた水着を着た女天狗だった。局部のみを隠し他は全て曝け出した姿は、マイクロビキニと呼べるものであった。女天狗は近場の岩礁に飛び乗り、優雅に足を組む。
「あらあら、二人してこんなところで喧嘩? ちょっと風情が無いんじゃない?」
「女天狗……貴女まさか遊びに来たのですか?」
「ええ、たまには海で息抜きしたって良いでしょ?」
髪を掻き上げながら笑う女天狗に、呆れ顔でスノーは言う。しかしすぐに気を取り直し、本題に戻る。
「とにかく、今回は手下を貸していただきありがとうございました。ですが倒されてしまったのは申し訳ないです」
「ああ、別に構わないわよ。いつも適当に二人でイチャついてるだけで、あまり役に立ってなかったしね。むしろ整理が出来て良かったわ」
酷薄に言い放つ女天狗、その様にスノーは少しだけ寒気を覚えた。
「――貴女の手下でなくて良かったと、今心底から思いましたよ」
「あら、私は役に立つ子には優しいわよ。貴女たちにもね――パイモン、リリス」
その名を呼ばれた瞬間、スノーとレーナの雰囲気が変わる。それまでに纏わせていた柔らかい雰囲気が消え、冷たく凛としたものに変わる。
「その名は今は呼んでほしくないですね、今の私は『スノー』です」
「私も同じかな。『レーナ』って名前、気に入ってるんだよね」
女天狗を見上げながら言う二人。その視線を受け止めて、女天狗は肩をすくめる。
「そういうことなら、そういうことにしておきましょうか。名前っていうのは妖怪にとっても大事なものだからね」
笑ってそう告げる女天狗。彼女はその背中から漆黒の翼を生やし、宙に浮く。
「それじゃ私は先に帰るわ。貴女達の活躍を楽しみにしてるからね」
そう言い残し、女天狗は飛び立って去っていった。その背中を見送り、スノーとレーナは力を抜く。
「やはり古参の妖怪というのは、扱いが難しいですね。年の功というのか、何をするのか分かりません」
「それを言うなら、私達もそこそこ古参だけどねぇ。まあ千年と三百年じゃ結構差があるかぁ」
「そこを比べることにあまり意味はありませんがね。とにかく、今日は戻りましょう。仮面ライダーへの対策を考えなければなりません」
「はいはい、ちゃんとやりますよぉ」
そう言って、スノーとレーナも姿を消すのだった。
後に残るのは、潮騒の音と潰れたヤドカリの死骸だけだった。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
冒頭で書かれた別の街の話は、放仮ごdzさんの『ボイロ探偵W』にウチの桜井カズキがゲスト出演させてもらった時の話です。良ければそちらもお読みください。
今回は平成一期特有の夏のギャグ回、アニメにありがちな夏の水着回でした。まあギャグ要素はほとんど無かったんですが。
ちなみに女性陣の水着については以下の通りです。
早苗…シンプルなビキニ。セクシー枠
文香…大人向けワンピース。キュート枠
レイ…セレブ的パレオ。ゴージャス枠
女天狗…局部のみを隠したマイクロビキニ。エロ枠
スノー…競泳水着。ぴっちり枠
レーナ…フリルが付いたワンピース。ロリ枠
また、ヒロイン達の水着イラストをリア友に描いてもらいました。
【挿絵表示】
本当はもうちょっと楽に書けると思ってたのに、何故かすごく時間がかかってしまった。なんでこうなるのか、もう少し精進したいものです。
それでは今回はこの辺で。
次回もお楽しみに!