これからリアルがゴミカスに忙しくなりそうなので、早めに書き上げました。クオリティはお察しです。
今回はサブヒロインである南文香の話。当初は予定してませんでしたが、思い付いたので書いてみました。これで少しはみんなの記憶に残るかも?
9月初頭、まだ夏の暑さが残る頃。
南
「わあ〜可愛いねえ〜!」
家の中、そのリビングで文香が感嘆の声をあげる。その視線の先にいるのは、ゆりかごに寝かされた赤ん坊であった。既に満腹なのか穏やかに眠っている。
ゆりかごを覗く文香の隣には、もう一人の女性が立っていた。
「フフッ、ありがとう文香。わざわざ出産祝いを届けてくれて」
「いやいや、親友の人生における一大イベントだもん。何を置いてもお祝いしたいよ、凛」
文香はそう言って隣に立つ女性ーー友人である
「本当に無事に産まれてくれて良かったわ。予定より早く陣痛が来て、一時はどうなることかと思ったから」
「大変だったね、本当に。母子共に健康に終わって何よりだよ」
「ええ、特に病気なんかも無くて本当に良かった。これからどうなるかは分からないけれど、健やかな人生を送らせてあげたいわ」
「もう〜、気が早いんじゃない?」
そんな会話をしながら笑い合う二人。ゆりかごから離れ、リビング中央にあるソファに向かい合って座る。
そうしていると、キッチンの方から一人の男性が、お盆を持ってリビングへとやって来た。
「お待たせ、烏龍茶を淹れてきたよ」
「あっ、ありがとう、
文香はコップを置いてくれた男性ーー凛の夫である
蓮司は笑みを浮かべながら、凛の前にもコップを置き、最後に自分の分をテーブルの上に置くと、凛の隣へと座る。
「それにしても、学生時代からのベストカップルが、本当に結婚して子供まで作っちゃうなんて、今時中々無いよね〜」
烏龍茶を飲みながら、文香は感心したように言う。その言葉に凛と蓮司は照れ臭そうに笑う。
「私達もここまで長い付き合いになるなんて思わなかったわよ。学生時代の恋愛なんて、あっさり終わるもんだと思ってたから」
「そうだな、俺もそう思ってた。でも一緒に居る内にもっと側に居たいと思えるようになっていったんだよな。そうして思い切ってプロポーズしたわけだ」
「あの時は本当にビックリしたけど、それ以上に嬉しかったわ。それにこうして子供まで設けることができた。こんなに幸せなことはないわね」
心底から嬉しそうに語る二人を見て、文香の顔にも笑顔が溢れてくる。
そんな風にしばらく過ごしていると、時刻は夕方を指していた。文香はソファから立ち上がり、荷物をまとめる。
「もうこんな時間か。私はそろそろ帰るね。これ以上家族の邪魔をしちゃ悪いし」
「そんなことは無いけどね。またいつでも来てよ」
「うん、また美久ちゃんに会いに来るよ」
そう言うと、文香はもう一度ゆりかごの中の美久の顔を見てから、玄関に向かう。その後に凛が見送りに出る。
文香が靴を履いた時、ふと凛が口を開く。
「そういえば文香、最近人がいなくなる噂って知ってる?」
「えっ? いや、知らないけど。そんな噂があるの?」
「うん、私もご近所さんから聞いたんだけど、小さい子供がいる家庭が、ある日忽然と消えてしまうっていう噂があるんだって。その家の中では凄惨な血の跡だけが残されているとか……」
「消えるって……蒸発とかそういうことじゃなくて?」
「もしかしたら何かの事件に巻き込まれたんじゃないかって話よ。でもまあ、記者やってる文香が知らないなら、やっぱりただの噂話ね。もし本当に起こってるなら、文香が知らないわけないし。きっと子供が産まれた家庭に対する注意喚起的な話なんでしょ」
凛はそう言って苦笑する。文香も一緒になって笑うが、内心では嫌な予感を覚えていた。
凛の家を出た文香は、自宅への帰路を歩きながら一人呟く。
「一応、カズキ君達に何か変なことが無いか、聞いてみようかなーー」
★
都内某所・廃工場。
数年前に放棄されたその場所は、人が入り込むことは無い場所だった。
だが、今は複数の気配が存在する。その内部には、巨大な鳥の巣のような物が置かれていた。廃工場周辺に捨てられていた廃材を用いて作られたようで、鉄屑や自転車、木材などが無秩序に組み立てられている。
その鳥の巣の中には、大きな卵が存在する。全長はおよそ八十センチ程で、それが数十個並んでいる。
「フフッ、愛しい私の子供達。早く産まれてきてちょうだいな」
そう言いながら卵を撫でるのは、紫色のドレスを纏った五十代くらいの女性だった。女性は怪しい笑みを浮かべて、卵達を見やる。
「よう、どうやら順調なようだな」
その言葉と共に現れたのは、金髪の青年ーー
女性は胸に手を当てて、頭を下げながら答える。
「これはこれは、九千坊様。我が子達は順調に育っております」
「そのようだな。お前が行動を開始してから一週間、それだけでもうこんなに卵を産み出し、孵化に近付いている。お前はかなり優秀みたいだな」
「お褒めに預かり光栄です。っと、そろそろでございますね」
女性がそう言うと、先程まで撫でていた卵にヒビが入る。ヒビはどんどん大きくなり、やがて殻を一周する。
すると、卵の中からゆっくりと何かが現れる。それは鳥の姿をした異形だった。頭に殻の一部を乗せたまま、卵から這い出てくる。やがて完全に卵から出てくると、翼を広げて雄叫びをあげた。身長は百五十程で巨鳥と言うべき姿をしていた。
その様子を見て、女性は目に涙を浮かべ、口元を覆いながら高らかに叫ぶ。
「ああっ……! 愛しい我が子、ついに産まれたわね! 素晴らしいわ!」
女性は巨鳥に駆け寄ると、頭部に残った殻を取ってやり、その身体を抱きしめる。巨鳥の方も女性を母親として認識しているのか、抵抗することなく抱きしめ返す。
「ハハッ、上手くいったな。これなら残りの卵も問題無く孵化するだろう」
二人の様子を見て満足げに言う九千坊。その言葉に女性は一度巨鳥から離れて、改めて向き直る。
「はい、これで私の子供達が九千坊様のお役に立てます。ですが、まだ足りません。もっともっと子供達を産んであげなければーー」
「そうだな、お前には期待している。もっと多くの巨鳥を産み出し、俺の役に立ってくれよ?」
「御意!」
笑いながら言う九千坊に、女性は跪いて頭を下げる。それを真似て、巨鳥も同じように膝をついた。
新たな邪悪の企みが、動き出そうとしていた。
★
数日後、文香は再び凛の家に向かっていた。もう一度、娘である美久に会いたいと思ったからだ。
一人で道を歩いていると、唐突に後ろから声をかけられる。
「あれ、文香さん?」
文香が振り向くと、そこにいたのは桜井カズキであった。バイクを押しながら、カズキは文香の元へ近付いていく。
「こんにちは、カズキ君。こんなところでどうしたの?」
「まあ、パトロールみたいなもんですかね。ちょうど店も暇してたんで。文香さんこそ何か用事でも?」
「これから友達の家に行くところなの。最近子供が産まれてね、様子を見てこようかなって」
「なるほど、なら俺も途中まで一緒に行って良いですか? まだそっちの方は見回ってないんで」
「いいよ、一緒に行こう」
そう言うと、二人は並んで歩き始める。その間に様々な雑談を交わしていく。
「そういえはカズキ君、最近小さい子供がいる家庭が丸ごと失踪してるって噂、知ってる?」
「ああ、俺も聞いたことがあります。ただ、それが妖怪の仕業なのかどうかは、まだ分からないんですよね。目撃した人もいないみたいで。ダイヤ達の方も上手く情報を掴めてないらしいです」
「そっか……私の友達もそれに当てはまるから、ちょっと心配でね。何も無ければ良いんだけど」
「そうですね、出来ることなら本当に被害が出る前に解決したいところです」
不安げな表情を浮かべる文香に、カズキも真剣な表情で答える。
そうしている内に、凛の家が見えてくる。カズキはそれに気付くと。
「確かあの家が目的地でしたよね。それじゃ俺はこの辺で。また何かあったらお願いします」
「うん、こちらこそよろしく。またね」
そう言って文香は家の方に、カズキは家の前を通り過ぎようとする。
その時、家の壁が激しい轟音を立てて、吹き飛ばされた。
「っ!? なっ、何っ……!?」
「文香さん、下がって!」
文香は思わず動きを止めてしまうが、すぐに駆け寄ったカズキが後ろに下がらせる。
立ちこめる土煙が徐々に晴れていくと、壁が崩された部分が鮮明に見えてくる。
「フフフッ、この家にも私の可愛い子供が居たわね。さあ、お家に帰って生まれ変わりましょうね」
そこに立っていたのは、全身の羽毛が紫色に染まった鳥だった。
いや、正確には上半身が人の形をしているが、腕にあたる部分は巨大な翼になっている。頭部にも大きなくちばしを持ち、瞳は白色。下半身は完全に鳥のものとなっている。
紫色の翼人とも言うべき異形は、その翼でゆりかごに入ったままの美久を抱きかかえていた。
「お前、妖怪か!」
「その子をどうするつもり!?」
カズキは腰にゴクオードライバーを装着して叫び、その後ろから文香も声を荒げる。
そこでようやく二人の存在に気付いたのか、翼人は眉をひそめる。
「あら、無関係な人間が来てしまったのね。まあ良いわ。ーー私は
翼人ーー姑獲鳥は目を細め、くちばしを歪めて笑う。
「生まれ変わる……? 何をするつもりだ!」
「答える義理は無いわね」
カズキの問いにそう返すと、姑獲鳥はくちばしでゆりかごの持ち手を咥え、翼を大きくはためかせて空へ飛び立つ。そのまま翼を動かして、猛スピードでどこかへと飛んでいく。
「っ! 待て!」
風圧から身を守っていたカズキは、すぐに態勢を整え、家の前に停めていたバイクーーヘルスピーダーに乗り込む。そしてすぐにエンジンをかけて、飛び去っていく姑獲鳥を追い始める。
「美久ちゃん! い、いや、まずは凛達の様子を……!」
慌てながらも文香は家の中へ駆け込む。リビングまで向かうと、血まみれで倒れている凛と蓮司がいた。
「凛! 蓮司君!」
文香は叫びながら二人に駆け寄る。二人とも胴体を切り裂かれて、そこから血を流していた。だが幸いにもまだ息はあるようで、わずかに荒い呼吸を繰り返している。
「二人とも、しっかりして!」
「ううっ……文香……?」
文香は凛の身体を抱きかかえ、声をかける。すると、その声で意識が戻ったのか凛が反応を示す。
「文香……美久が、化け物に攫われて……私達もそいつにやられて……」
「さっき私もその化け物を見たよ。とにかく今は喋らないで。すぐに救急車を呼ぶから!」
文香はそう言ってスマホを取り出し、119番へ連絡する。
救急車を要請して電話を切ると、家の中にカズキが入ってきた。
「すみません、奴を見失いました……そこの二人は大丈夫ですか?」
「うん、なんとか意識はあるみたい。今救急車を呼んだところ」
そう言うと、文香は何かを思案するように俯く。その表情には強い怒りと何かを決意するような硬いものが見えた。
「文香さん……?」
それを見たカズキは訝しげに話しかける。そうしていると、遠くから救急車のサイレンが聞こえてくる。それを聞いた文香は、抱えていた凛を静かに寝かせて、立ち上がる。
「カズキ君、悪いけど二人をお願い。私は行くわ」
「えっ……行くってまさか……」
何かを察したカズキは、驚いたように目を見開く。
文香は肯定するために首を縦に振る。
「私はあの妖怪を追う。必ず奴を見つけて、美久ちゃんを取り戻す。私の親友の幸せを奪おうとするなんて、絶対に許せないから」
そう語る文香の瞳には、強い怒りの炎が宿っていた。これまでに見たことのない様子に、カズキは思わず息を呑む。
そうして呆気に取られている間に、文香は家から出て行き、姑獲鳥が飛び去って行った方向に走り出していった。
★
文香はある程度走り抜けた後、電話をかける。
電話の相手は知り合いの記者。それも一人ではなく何人にも対して次々とかけていく。
「どんな些細なことでも良いから、空を飛んでる変なものの目撃情報が欲しいの。お願いします!」
どの記者もいきなりの要求に怪訝そうな反応を返すが、電話越しの文香の声が必死なのが伝わったのが、可能な限り早めに情報を集めてくれることになる。
十分程待つと、複数の記者から情報が届く。それを元に大まかな推測を立てて、姑獲鳥が向かった方向を見極めていき、そちらへ向かって行く。
しばらく進むと、道の片隅に不審なものがあることに気付く。
それは血で刻まれたマーキングのようなものだった。
「これは、もしかしてあの妖怪のマーキングみたいなもの……?」
そう考えた文香は更に先に進みながら、道の方へも意識を向ける。数十メートル進むと、やはり先程と同じような血の跡が残されていた。
「やっぱり……ならこの跡を辿っていけば……!」
文香はマーキングが続く方へと走り出す。やがて街を抜けて郊外まで辿り着き、更に往来から外れた方へと血の跡は続いて行く。
三十分は走ったところで、文香は一つの廃工場へと辿り着いた。数年前に放棄されてそのまま、という風にボロボロになっている。窓ガラスもほとんどが砕け散っている。
文香は割れた窓から、ゆっくりと中を覗き込む。
「さあ、今日もまた私の可愛い子供達をお迎えできたわね」
工場の中には、紫色の服を身に纏った女性がいた。その目の前には廃材で作られた鳥の巣のような物がある。巣の中には、人の身長の半分はあるであろう卵が安置されている。
そこまで確認したところで、文香の耳に泣き声が聞こえてくる。それは幼い子供のものだった。よく目を凝らしてみると、鳥の巣の中には卵だけでなく人間の子供も入っていた。赤ん坊から三歳くらいの子供まで、とにかく幼い子供達が閉じ込められていた。その中には美久の姿もある。
「フフッ、可愛い子供達。もう少し待っていてね。すぐに汚い人間から生まれ変わらせてあげるから」
泣き叫ぶ子供達とは対照的に、女性は穏やかな笑みを浮かべて言う。
そうしていると、卵の内の一つにヒビが入る。そのまま卵が割れると、翼人が中から現れ、鳴き声をあげる。その姿は美久をさらった姑獲鳥によく似ていた。
「あの人、一体何をしているの……!?」
「知りたいか?」
文香が状況を飲み込めずに困惑していると、背後から声をかけられる。驚きながら振り向くと、金髪に鎖の付いた服を着た男が立っていた。その姿を見て、文香は息を呑んだ。
「あなたは、九千坊……!」
「ん? 俺を知ってんのか。ああいや、確か獄王の仲間の女か。前に一度だけ会ってたな」
驚く文香に対し、九千坊は特に動じる事もなく答える。そして、文香と並ぶようにして窓から工場の中を見る。
「アレはな、この世に存在する子供は全て自分の子供だと思ってるのさ。自分の可愛い子供達が、醜い人間に奪われて人間にされたと思い込んでる。だから、自分の手で人間から妖怪に生まれ変わらせてやろうって考えてる」
「生まれ変わらせる……?」
「そら、始まるぞ」
《コカクチョウ!》
九千坊が言うと、女性は黒いアヤカシバレットを起動して自分の胸に突き刺す。すると、美久をさらった時の姑獲鳥の姿へと変貌する。
姑獲鳥はくちばしを大きく開くと、泣き叫ぶ子供を一人、頭から飲み込んだ。
飲み込まれた子供は抵抗できずに姑獲鳥の体内に収まる。しばらくすると、姑獲鳥の下半身から何かが吐き出される。それは巣の中にあるのと同じ卵であった。
「なっ……!?」
「見ての通り、アイツは飲み込んだ子供を卵にする。子供は卵の中で存在を作り変えられて、アイツが望んだ子供ーー翼人として生まれ変わるってわけさ。とはいえ、本来の妖怪の作り方とは違うせいなのか、知能は低いし力も弱い。挙げ句の果てに姑獲鳥と命がリンクしてる。結局は妖怪としての能力の一環でしかないってわけだな」
「……そんなことを、何故私に教えるの」
九千坊が淡々と説明すると、文香は訝しげな視線を向ける。その視線を受けて、九千坊はニヤリと笑う。
「俺はな、人間が俺達の存在に恐怖するのを見るのが好きなんだ。力無き生き物が、絶対的な力を持つ存在に怯え、震え、もがき苦しむ! これほど心が躍る娯楽は無い。今のお前も、奴の在り方に恐怖したろ? そういうのを見るのが好きなんだよ、俺は」
悪辣としか言えない嗜好を語り、九千坊は更に笑みを深める。その姿に、文香は背筋が凍る思いを感じる。それはまさしく、九千坊が求める恐怖の在り方だった。
「さて、ネタバラシもしたことだし、そろそろ次の恐怖を味わってもらうか」
九千坊はそう言うと、文香の腕を掴む。骨が軋む程の力で掴まれ、文香の顔が苦悶に歪む。
「うっ……!?」
「そうらよっと!」
九千坊は力強く腕を振り、文香を工場内に投げ飛ばした。割れた窓から中に放り込まれ、受け身も取れずに地面に叩き付けられる。
「ガハッ!?」
「ん? 何者だ!」
文香が地面に転がると、当然中にいる姑獲鳥が気付く。巣を守るように背にして立ち、翼を広げて威嚇する。
「おい、姑獲鳥。その女はお前の子供を奪おうとしてる奴だ。好きに殺して良いぞ」
窓の外から九千坊がそう声をかける。その顔は心底から楽しそうに笑っていた。
九千坊の言葉を受けて、姑獲鳥の警戒心が最大にまで膨れ上がる。地面に倒れる文香を睨み付け、足で何度も地面を蹴る。
「私の可愛い子供を奪おうとするなんて、絶対に許さない! 今ここで死ねぇ!」
「っ!!」
姑獲鳥が飛びかかってくると、文香は全力で立ち上がって走り出す。ギリギリで攻撃を避けると、そのまま廃工場内を走り出す。
「逃すかぁ!」
怒り狂った姑獲鳥は、目を血走らせながら飛行して文香を追いかける。文香は必死に走るが、その距離は少しずつ縮まっていく。
「ハアッ、ハアッ!」
「待てぇ!!」
息を切らして走る文香、その背後から追いかける姑獲鳥は、くちばしを大きく開いて紫色のエネルギー弾を吐き出す。一発ではなく何発も無差別に打ち出していく。
それは文香の周囲に着弾すると、爆発を起こす。激しい爆炎に巻き込まれながら、文香は逃げ続ける。
しかしそれも長くは続かない。エネルギー弾の内の一発が、文香の間近で炸裂し、大きく吹き飛ばす。そのまま廃工場の壁に叩き付けられる。
「ぐはっ!!」
衝撃と痛みに悲鳴をあげて、文香は地面に倒れる。姑獲鳥は宙に浮いたまま、間近まで迫る。
「さあ、もう逃げられないよ。私の可愛い子供達を奪おうとした罪を悔いながら、地獄に堕ちな!」
姑獲鳥はそう言うと、くちばしにエネルギーを溜め始める。喰い殺すのではなく、完全に消し飛ばすつもりらしい。
だが、文香は必死に身体を動かして立ち上がる。その顔は恐怖に怯えるものではなく、何故か笑みを浮かべていた。
「何がおかしい?」
訝しげに問いかける姑獲鳥、それに対して文香は静かに答える。
「いや、今ようやく仲間の気持ちが理解できた気がしたんでね」
「なに?」
口元の血を拭いながら、文香は姑獲鳥を睨みつける。その脳裏に浮かぶのは、獄王として戦うカズキの姿。その時に彼が見せる、妖怪への強い義憤の感情だった。
「可愛い子供? 人の子供を奪っておきながらよく言えるね。あなたがやってることは他人の幸せを奪い、踏み躙ることだ。私の友達や多くの家族から、子供を奪い、その命まで奪い、自分の醜い欲求を満たしているだけのエゴの塊でしかない」
文香は痛む腕を押さえながら、真っ直ぐに相手を見据えて、言葉を紡ぐ。
「そんな奴が、私の友達を傷付けることが絶対に許せない。地獄に堕ちるべきなのは、あなたの方だ!」
力強く、怒りを持った叫びをあげる。目の前の脅威に屈さず、立ち向かう勇気を持った行動、文香は今、真の意味で妖怪が邪悪であると理解し、戦う決意を固めたのだ。
そんな文香の叫びを受けても、姑獲鳥はより一層苛立ちを募らせる。
「くだらない。人間風情が何を言うのかと思えば、私の子供を奪ったような連中が偉そうに!」
「それはあなたの勝手な妄想でしょうが!」
「黙れ!!」
姑獲鳥は怒りの形相で叫ぶ。そしてくちばしに溜めていたエネルギーを解除し、右の翼を大きく振りかぶる。
「消し炭にしてやろうかと思ったがやめだ! この翼でボロ雑巾のようになるまで切り刻んでやる!」
姑獲鳥の翼は鋭い刃のように硬質化し、文香めがけて振り下ろされる。その瞬間。
「させるかぁぁぁぁ!!」
「右に同じだぁぁぁぁ!!」
「グベェハァ!?」
猛スピードで突っ込んできた二台のバイクが、姑獲鳥に突進して突き飛ばした。姑獲鳥はそのまま廃材の山に突っ込んだ。
二台のバイクは文香の目の前で止まり、乗っていた人間が降りてくる。
黒のバイクーーヘルスピーダーから降りてくるのは、カズキと早苗。白のバイクーーシルバーセンチュリオンから降りてくるのは、ダイヤとレイだった。
「すみません、遅くなりました」
「まさかオレ達よりも先に妖怪の根城を見つけちまうとはな。有能だねぇ」
カズキとダイヤは、それぞれ謝罪と感心を口にする。
その横から早苗とレイが、文香に歩み寄る。
「でも、一人で突っ込むのは無茶し過ぎよ。もう少し遅かったら、間に合わなかったわ」
「『教会』の偵察部隊が、ここを見つけるのが早くて良かったです。もうこんな無茶はしないでくださいね」
「あはは……ごめんなさい」
早苗達からの説教に、文香はバツが悪くなって苦笑する。その直後、身体がふらつき倒れそうになるが、二人に支えられる。
「説教はその辺にしといてやれ。まずはその傷を治してやらねえとな」
そう言うと、ダイヤはフェニックスバレットを取り出して、SMGに装填してから引き金を引く。
《モンスバレット!》
《フェニックス・リザレクション!》
SMGの銃口から放たれた赤い光が、文香を包み込む。すると、全身の傷が瞬く間に塞がっていき、数秒で完全に回復していた。
「これで一安心だな。さてーー」
そう言ってカズキが振り向くと、廃材の山から姑獲鳥が這い出して、こちらを睨み付けていた。
「貴様ら……私の可愛い子供達には指一本触れさせんぞ!」
「みんな、アイツは人間の子供を飲み込んで、卵にしてしまうの。他の子供達が食べられる前に、アイツをなんとかしないと……」
「そういうことか。なら任せてください」
文香の説明を聞き、カズキはゴクオードライバーを腰に装着する。ダイヤもSMGを掲げ、臨戦態勢になる。
「おっと、コイツを倒されるのは困るぜ」
そう言いながら現れたのは九千坊。悠々と歩きながら、姑獲鳥の隣に立つ。
「九千坊……!」
「せっかくだ、少し遊んでやるとするかね」
《クセンボウ!》
九千坊は黒いアヤカシバレットを取り出すと、自らの胸に突き刺す。すると赤黒いエネルギーに包まれ、深緑色の河童の姿へと変貌する。そして、右手に握った刺股の切先を、カズキ達に向ける。
「さあ、始めようぜ」
「上等だ、行くぞ、ダイヤ」
「おうよ!」
カズキは羅刹バレットを取り出してドライバーに装填、ダイヤはウリエルバレットを取り出してSMGに装填、待機音が鳴り響く中、二人は同時に叫ぶ。
「「変身!」」
《ゴクオー・ラセツ!》
《クルセイド・ウリエル!》
そうしてライダーへと変身した二人は、各々の得物を構える。
「俺達が引き付けている間に、文香さん達は子供達の救助を!」
「分かった、気を付けて!」
カズキはそう言うと、ダイヤと共に走り出す。姑獲鳥と九千坊はそれぞれ迎え撃ち、戦闘が始まる。
その間に、文香達は鳥の巣まで向かい、中に放り込まれていた子供達に声をかける。
「みんな、今からお姉さん達と一緒にお家に帰ろう! 分かった?」
素早く、しかし威圧的にならないように気を遣いながら、文香は言う。幼い子供達はその言葉に頷き、一人ずつ抱えられて鳥の巣から出て行く。更に幼い赤ん坊達は、早苗とレイがゆりかごや布団を使って運んでいく。
外へと抜け出す途中、文香は一瞬だけ振り向き、戦っているカズキを見る。
「後はお願い、カズキ君」
小さく呟き、子供達を連れて外へ逃げていくのだった。
★
クルセイドへと変身したダイヤは、九千坊の相手をしていた。トマホークと刺股で鍔迫り合いながら、互いに一歩も引かない。
「これが日本妖怪の幹部クラスってわけか、噂通り強そうだな!」
「そっちは西洋から来た仮面ライダーだろ、面白くなりそうだ!」
軽口を叩きながら、互いに一度距離を取る。
九千坊が口に左手を当てる。すると、口元に水が溜まりだし、やがて大きな球体を形作る。九千坊が左手を下ろしながら息を吐くと、水の球が勢い良く発射される。
その攻撃は、ダイヤの胴体に命中し、大きく吹き飛ばした。
「ぐおっ!? やるじゃねえか!」
なんとか姿勢を崩すことなく耐えたダイヤは、青色の天使が描かれたガブリエルバレットを取り出し、SMGに装填、十字を切る。
《バース・ブレス・ノティス!》
《クルセイド・ガブリエル!》
外套の色と背中の翼が青く染まったガブリエルバレットに姿を変えたダイヤは、SMGを真正面に構える。
それを見た九千坊は、再び口の前で左手を構える。
「どっちの弾が強いか、試してみたいと思わねえか?」
「面白え、乗ったぜ!」
互いに啖呵を切ると、ダイヤは引き金を引き、九千坊は口元に造られた複数の水の球を撃ちだした。
二人の攻撃は、互いの中間地点でぶつかり合い、相殺されていく。驚くべきことに双方の威力も速度も互角であった。
やがて、激しい衝撃により舞い上がった土埃で、互いの姿が見えなくなる。こうなっては撃ち続けることもできず、ダイヤは引き金から指を離した。
「チッ、まさか互角とはな」
「そのようだな、だがこれはどうかな!」
煙の向こうから叫ぶ九千坊の声。それと同時に煙の中から刺股が伸びてきた。
「っ!!」
ダイヤは咄嗟にトマホークの柄を滑り込ませる。
間一髪、身体に直撃する前に受け止めることはできた。だが、刺股の伸縮は止まらず、ダイヤはそのまま後方へ押し込まれていく。やがて、一本の柱に押し付けられ、刺股が柱に突き刺さることで密着し、身動きが取れなくなってしまう。
「くっ……!」
「悪いな、俺の刺股は伸縮自在なんだ」
煙が晴れると、伸び切った刺股の柄を握る九千坊が見えた。そして、またも口元に手を添えて、水の球を作り出す。
「今度は頭を吹っ飛ばしてやろうか!」
そう叫ぶと、水の球をダイヤの頭部めがけて撃ち出す。弾丸と同等の速度で迫ってくる。
しかし、ダイヤは慌てずに両手を背後の柱に触れさせる。そして、手のひらに水を発生させて、柱に強く押し付けた。
すると、ダイヤの背中が触れていた柱が粉々に砕け散る。当然、刺股が刺さっていた部分も砕け、拘束が緩む。ダイヤはそのまま身体を後ろに反らせて、刺股と水の球を同時にかわした。
「なにっ!」
「悪いな、俺は手癖が悪いんだ」
上体を起こしたダイヤは、水に濡れた手をひらひらと振りながら言う。
「お互い小細工は余計だろ、真正面からやり合おうぜ!」
「ハッ、ガキが舐めてんじゃねえぞ!」
そう叫んで走り出した二人は、再び互いの得物をぶつけ合うのだった。
★
一方、カズキは姑獲鳥と戦っていた。
姑獲鳥の振るう翼を、ヘルソードで受け止めて胴体を蹴り抜く。怯んで後ろに下がったところを、ヘルガンを撃って更に追撃する。弾丸が全弾命中し、激しく火花を散らす。
「ぐうっ、人間風情がぁ!」
怒りに満ちた姑獲鳥は、くちばしを開きエネルギー弾を発射する。狙いが定まらないのか、カズキやその周辺に向かって無差別に放たれる。
カズキは自分に向かってくるエネルギー弾のみをヘルソードで次々と切り払っていく。
「ハアッ!」
それを見た姑獲鳥は、翼を使って宙に浮く。そのまま勢いを付けてカズキに向かって突進していく。
そのスピードは凄まじく、避ける間もなくカズキは突進で吹き飛ばされる。
「ぐあっ!」
「喰らえぇ、人間!」
更に姑獲鳥は急降下しながら足で踏みつけようとしてくる。カズキはすんでのところで回避する。
「危ない奴だ、ならこれだ!」
立ち上がったカズキはすぐさま温羅バレットを取り出し、ドライバーに装填。赤い光が集まった右手を銃の形にして、自らの顎下に当てる。そしてそのまま撃ち抜く。
《キジン・センジン・カイジン!》
《ゴクオー・ウラ!》
真紅のボディに黒、白、黄色のラインが走ったウラバレットに変身したカズキは、金棒であるヘルズロッドを両手で構える。
姑獲鳥もその姿には警戒心を覚えたのか、一度動きを止める。だが、痺れを切らしたのか再び猛スピードで突進してくる。
「同じ手が二度通じると思うな!」
「っ!?」
ボディの黄色のラインが光ると、カズキの左腕に犬神と同じアーマーの幻影が現れる。そのまま左腕を突き出し、突進してきた姑獲鳥のくちばしを掴んでしまう。
更に白のラインが光ると、右足に八咫烏の幻影が現れる。カズキはそのまま右足で姑獲鳥の身体を蹴り上げる。
「ぐはぁぁぁぁ!?」
容赦なく蹴り抜かれたことで、姑獲鳥は数十メートルは打ち上げられる。その隙にカズキはドライバーのボタンを二回押す。
《ファイナルバレット!》
《獄王温羅爆裂脚!》
電子音声が鳴ると、カズキの背中から八咫烏と同じ翼が生える。それを使って飛翔すると、姑獲鳥よりも更に高い位置まで移動する。
そして、右足に赤と黄のエネルギーが収束すると、姑獲鳥に向かって飛び蹴りを放つ。
「ハアァァァァァァァァ!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
カズキの放ったライダーキックは、姑獲鳥の胴体を貫き炸裂、致命傷を受けたその身体は跡形もなく爆散した。同じタイミングで、姑獲鳥と命がリンクしていた卵と翼人も、塵となって消えてしまう。
地面に降り立ったカズキの周りには、黒い羽根が舞い、黄色い残留エネルギーがスパークしてから消えていくのだった。
★
半ば膠着状態になっていたダイヤと九千坊、だが大きな爆発が起こったことで隣の戦いが終わったことを察し、九千坊が構えを解く。
「なんだ、姑獲鳥はやられちまったか。残念だなぁ」
そう言うと刺股をしまい、踵を返して去ろうとする。その姿を見て、ダイヤは咄嗟に叫ぶ。
「待てよ、まだ勝負はついてねえだろ!」
「面倒見てた手下がやられたら、もうお前とやり合う必要がねえんだよ。こちとら結構忙しいんでね。続きはまた今度だ」
九千坊はそこまで言うと、悠々と歩き去っていく。そしていつのまにか、その場から姿を消していた。
完全に見失ったことで、ダイヤも気概が削がれ、変身を解く。
「舐めた真似しやがって、妖怪野郎が」
眉間に皺を寄せながら呟くも、その場でため息を一つ吐いてから、文香達の元へと向かうのだった。
★
しばらく時間が経った頃、文香は病院に来ていた。
姑獲鳥から取り戻した美久を抱きながら、とある病室を目指していく。
やがて目的の病室に辿り着く。その表札には『間藤蓮司 凛』と書かれていた。
「文香、美久!」
「美久!」
文香が病室に入ると、ベッドの上に座っていた凛と蓮司が反応する。
二人ともなんとか一命を取り留め、入院することになっていた。
文香はベッドに近付き、凛に対してゆっくりと美久を渡す。
「二人とも無事で良かった。美久ちゃんも怪我一つなく助けられたよ」
そう言いながら美久を渡す。凛は目に涙を浮かべながら、美久を抱きしめる。
「ああ……良かった! 文香、本当にありがとう!」
「私は大したことしてないよ。友達のピンチを助けるのは当たり前のことだしね」
泣きながら礼を言う凛に、文香は微笑を浮かべて答える。
そして、目の前で幸せを噛み締める一家を見て、改めて思う。
この幸福を守りたい、そのために自分にできることをやろう、と。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
今回はサブヒロインの文香の話でした。一応彼女が中心になるように考えて作ったつもりですが、いかがでしたでしょうか。
今回文香がメインになったのは、Twitter改めXのフォロワーから、文香を気に入っていると言われたためです。サブヒロインなのに気に入られてるのか、なら一度くらいメイン回があっても良いかなと。
また、今回の敵役である姑獲鳥も、フォロワーから提案されたものです。この二つのアイデアが合わさり、今回の話が出来上がったわけです。期待に応えられたかどうかは分かりませんけど。
さて、二話連続で本筋に関わらない単発回となりましたが、次回以降は本筋の展開に戻る予定です。第二章は全十話で終わるつもりなので、あと四話程で話を進められたら良いなと思います。
まあ予定は予定なので、簡単に変わる可能性もあります。その時はそういうものだと思ってください。
さて、今回はこの辺で。
次回もお楽しみに!