仮面ライダー獄王(ゴクオー)   作:アカミツ書庫

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 どうも、アーニャです。
 五ヶ月ぶりの本編更新です。
 楽しんでいただけると幸いです。


第十七話 堕天の闇

 『教会』が保有する訓練施設。『教会』に所属する妖怪と戦う戦士達が日夜訓練を行っている場所である。

 だが今そこは、血みどろの地獄絵図と化していた。無数に地面に横たわる死体によって。

 そして、その光景よりも凄惨な戦いが、すぐそばで起こっていた。

 

「ウオオオオッ!!」

「――――ッ」

 

 甲高い金属音と共に、男の叫び声が周囲に響き渡る。

 銀色のトマホークを握りしめ、地面を滑るのは仮面ライダークルセイド。その姿は三つの形態のどれでもない、紅色に染まるものであった。

 クルセイドの視線の先には、人型の黒い身体に、氷の欠片がこびり付いた姿の堕天使ルシファーが立っている。彼の手には氷で作られた長剣が握られていた。

 クルセイドはトマホークの先端を相手に向けながら、怒りに満ちた声をあげる。

 

「どういうつもりだ、ハヤト!! なんで妖怪に成り下がった!! なんでアイツらを殺した!! どうしてこんなことになったんだ!?」

 

 怒りと悲しみ、動揺と恐怖。様々な感情が混じった声で叫ぶクルセイド。

 彼らの周囲に横たわる数々の死体。それは彼らと苦楽を共にした仲間達であった。ある者は頭部を砕かれ、ある者は胴体を真っ二つにされ、ある者は身体の内側から生えた氷によって全身を貫かれる。全てがルシファーによって殺害された。

 そのような惨状を生み出した張本人であるルシファーは、動じることもなく無表情で答える。

 

「理由ですか、簡単なことですよ。私は人間を辞めた。ならば人間だった頃の繋がりは不要になる。特に彼らは妖怪を倒すエキスパートです、敵は殲滅しておくのが戦いの鉄則でしょう?」

「……ふざけんなよ、アイツらはダチだっただろう! そんな簡単に切り捨てられるものかよ!!」

「言ったはずです、私は最早人ではない。人の心も既に捨てているんですよ」

「――テメェ!!」

 

 激昂したクルセイドはトマホークを振り上げて斬りかかる。それをルシファーは長剣で受け止めてから弾く。そしてがら空きになった胴体に向かって、長剣による突きを繰り出した。

 

「ガハッ……!」

 

 急所に当たった突きにより、クルセイドは後方へ大きく吹き飛び、地面に転がる。

 ルシファーは剣を振り払って消滅させる。そして所々が荒れている翼を広げると、正面に氷の塊が形成され始める。

 氷塊は徐々に大きくなると、球状になって完成する。

 

「終わりですよ」

 

 ルシファーが呟くと、氷塊が発射される。それは猛スピードで突き進み、ようやく立ち上がったばかりのクルセイドの身体に命中した。

 

「ガアッ……!?」

 

 氷塊が命中すると、クルセイドの全身が凍り始める。抗う暇もなく全身が凍結してしまい、立ったまま氷漬けになる。

 やがて、勢いよく氷が砕け散る。その衝撃により体内へとダメージが通る。クルセイドは力なくその場に崩れ落ちて、変身が解除される。

 クルセイド――赤獅子ダイヤは、全身傷だらけになりながらも、意識は保っていた。その眼前で、一本のアヤカシバレットがこぼれ落ち、真っ二つに割れてしまう。

 

「なっ……」

「ダイヤさん!!」

 

 驚愕するダイヤの元に、パートナーであるレイ・キリエが駆け寄ってくる。彼女に支えられる形で、ダイヤはなんとか身体を起こす。

 対するルシファーは、突如変身を解くと、人間の姿へと戻る。変わらぬ無表情でダイヤ達を見つめると、何も言わずに(きびす)を返した。

 

「待て! まだ話は終わってねえぞ!」

 

 満身創痍の身体を引きずりながら、ダイヤは叫ぶ。その声を背中で受け止めると、ルシファー――ハヤトは足を止めて、振り返らずに口を開いた。

 

「話すことなどありませんよ。私は妖怪として生きていく。それが私の選んだ道です」

「なら、なんでオレ達を殺さない!?」

「――貴方はまだ強くなる。私が《高み》に辿り着くために、貴方という障害が必要なのです」

 

 そう言うと、ハヤトは歩き去っていく。その背中は段々小さくなり、やがて闇の中へと消えていく。

 その光景を見届けたダイヤは、拳を握りしめて地面に打ち付けた。

 

「――ああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 暗雲が空を覆い、雨が降り始める。

 大雨によって何もかもが流されていくなか、ダイヤの慟哭が、虚しく響き渡るのだった。

 

 ★

 

 目が覚めると、見知った天井が見えた。

 それを確認したことで、ダイヤは自分が夢を見ていたことを自覚する。下着のみを身に着けたまま、ベッドに寝転がっていた。カーテンの隙間から、朝日が差し込んでいる。

 ゆっくりと身体を起こすと、先程まで寝ていたベッドが揺れる。眠気を払うように頭を掻くと、一つため息を吐く。

 

「嫌な夢だな……せっかく良い部屋に泊まってるってのに」

 

 そう呟くと、自嘲(じちょう)の笑みを浮かべる。

 その言葉通り、ダイヤが居る場所は日本に滞在するために宿泊しているホテルであった。それもただのホテルではなく、高級ホテルのスイートルームを長期プランで予約していた。

 

「あの時のことを夢に見るとは、オレも歳を取ったか?」

 

 ベッドに座ったまま、更に独りごちるダイヤ。

 夢で見たのは、半年前にハヤトが裏切った日のこと。無二の親友だと思っていた男が、唐突に自分達を裏切った。あの時ほど現実が理不尽だと思ったことはない。

 最悪の目覚めを迎えて意気消沈していると、浴室の扉が開く。中から出てきたのは、レイだった。シャワーを浴びてきたのか、濡れた髪をタオルで拭きながら、バスローブを着ている。

 

「おはよう、レイ」

「おはようございます、ダイヤさん」

 

 ダイヤが声をかけると、レイも笑顔で応える。そしてそのまま化粧台へと向かい、鏡の前で身だしなみを整え始める。

 ダイヤはベッドから降りると、下着姿のままキッチンへ向かう。そこで二人分のコーヒーを淹れると、カップを持ってレイの元に向かう。

 

「ほらよ、夜明けのコーヒーだ」

「あら、ありがとうございます」

 

 ダイヤがカップを置くと、レイは笑顔を浮かべて受け取る。コーヒーを一口飲むと、ほろ苦い味わいが口の中に広がり、頭を覚醒させる。

 ダイヤもコーヒーを飲むが、その表情は変わらず複雑なものであった。

 

「どうしたんですか、ダイヤさん。貴方らしくもない難しい顔ですけど」

「らしくないは余計だろうが」

 

 レイの言葉に苦笑を浮かべるダイヤ。再びコーヒーを飲むと、一息吐いてから答える。

 

「夢を見たんだよ。あの時、ハヤトがオレ達を裏切った日の夢をな」

 

 それを聞いた途端、レイの表情が強張る。カップを持つ手が一瞬震え、視線を伏せる。

 

「……あの時のことは、私も忘れられません。なんであの人が裏切ったのか、みんなが死ぬ羽目になったのか、今でも納得できません」

「オレもだよ。アイツは《高み》を目指すとか言ってた。それにオレにも妖怪になれって言ってきやがった。まるで分かんねえよ、アイツの考えてることが。昔のアイツは、そんなに変じゃなかったのにな」

「何が変えてしまったんでしょうね、彼のことを……」

「……さあな」

 

 ダイヤはコーヒーを飲み干すと、カップをテーブルの上に置く。そしてレイの背後へと移動すると、そのまま後ろから抱きしめる。

 

「っ、ダイヤさん……?」

「なあ、レイ。オレはアイツに――勝てると思うか?」

 

 静かな口調で問いかけるダイヤ。その言葉にレイは少し驚く。

 ダイヤがここまで直接的に弱音を吐くのは、初めてのことであったからだ。

 

「アイツの考えを知るためには、アイツに勝たなきゃならないだろう。そうでもしないと、今のアイツは話すらしないだろうからな」

「……そうですね、私もそう思います」

「でも、正直言って怖いんだよ。オレはアイツに一度負けた。あの時からは強くなったつもりだが、それでも勝てるかどうかは分からねえ。戦いは好きだが、死ぬのは怖い。もしアイツのことを何も分からずに死んでしまったら、最悪だ」

「……」

 

 顔を伏せながら語るダイヤの頭に、レイの左手が乗せられる。そのままゆっくりと頭を撫でながら、レイは答える。

 

「大丈夫です、貴方は強いですから。きっと勝てます。それにもし負けてしまったとしても、貴方は死にません。殺しても死なないくらいにはしぶといですから」

「――ひでぇ言い草だなぁ」

 

 レイの言葉を受けて、ダイヤは顔を上げて身体を離す。その顔には苦笑が浮かんでいた。

 

「お前にそう言われたら、平気な気がしてきたぜ。ありがとな、レイ」

「お礼を言われるようなことじゃないですよ。私は貴方と共にいたい。それには貴方を支えることも含まれますから」

 

 そう言うと、二人は揃って笑いだす。

 束の間の平穏な時間であった。

 

 ★

 

 その日の午後、雑貨屋『東堂』にて。

 桜井カズキはいつものように店番をしていたが、そこにダイヤ達が現れた。

 

「で、そんな話をした後に、なんでウチに来てるわけ?」

 

 床を箒で掃きながらカズキは聞く。その表情には「またか」という呆れた色が浮いていた。

 

「なぁに、単に暇だったから遊びに来ただけさ」

 

 棚に置いてある小さな卓上ランプを手に取りながら、ダイヤは言う。しばらくランプをあれこれ触った後、棚に戻した。

 それを見て、カズキはため息を吐く。

 

「あのなぁ、ここは遊び場でもないし、喫茶店とかでもないぞ。何も買わないなら帰れよ、客じゃないなら追い出すからな」

「なんだよ冷てえな。ダチなんだから少しくらい良いだろ?」

「だから友達になった覚えは無いっての」

 

 やいやいと言い争う二人の男を尻目に、レイは別の棚を物色していた。やがて、とあるマグカップが目に留まる。

 それは、赤と紫色で花柄が描かれた二個一組のマグカップであった。

 

「これ、可愛いですね」

「ああ、それはペア用のマグカップですね。特に性別の指定は無いですけど、男女ペアによく売れてますよ」

「なるほど、それは良いですね。私もこれをいただけますか?」

「もちろん、すぐに包みますよ」

 

 レイが持ってきたマグカップを受け取り、慣れた手つきで会計と包装を済ませるカズキ。

 そんな二人を見て、ダイヤは少し不愉快そうに片眉を上げる。

 

「おいおい、なんかお前ら仲良くないか?」

「そうか? そんなことないだろ」

「ええ、普通ですよ、普通」

「そうかぁ?」

 

 ダイヤは腕を組んで、首をかしげて不服そうに言う。

 その直後に店のドアが開く。そこから入ってきたのは、東堂早苗、東堂健児、南文香であった。健児が買い物袋をいくつか抱えていることから、買い物から戻ってきたようだ。

 

「ただいま、ってダイヤ達じゃない。来てたのね」

「どーも、早苗ちゃん、文香ちゃん。今日も可愛いね。オッサンも元気か?」

 

 ダイヤは先程までとは打って変わって、笑顔を浮かべて三人に声をかける。

 その変わり身の早さに、カズキとレイは同時にため息を吐いた。

 

「……仲が良いというより、アイツに苦労させられる者同士としてのシンパシーって感じですよね」

「ええ、そうですね」

 

 カズキとレイは顔を見合わせ、苦笑する。

 そうしていると、荷物を奥の部屋に運び終えた早苗達が戻ってくる。

 そのタイミングで、レイのスマホが甲高い着信音を響かせた。

 

「っ! レイ、出たのか?」

「ええ、そうみたいです。少し待ってください」

 

 ニヤリと笑いながらダイヤが聞くと、レイはスマホを取り出して届いたメッセージを確認する。その様子を見て、カズキ達にも緊張が走る。

 

「確認しました。ビル街で妖怪が一体現れたそうです。すぐに向かいましょう」

「よっしゃ、暴れさせてもらうぜ!」

 

 ダイヤは嬉々とした笑みを浮かべて、店から飛び出してバイクのエンジンをかける。その後ろにレイが乗ると、すぐに全速力で走り出した。

 少し遅れて、カズキと早苗も店から飛び出した。

 

「おい、待てよ! 早苗、俺達も行こう!」

「ええ。父さん、文香、店の方は任せたわよ」

 

 そうしてカズキと早苗もバイクに乗って駆け出して行った。

 店の中に残されたのは、文香と健児の二人だけとなった。

 

「私、接客なんてしたことないんだけどなぁ……」

「……まあ、店は閉めておこう」

 

 途方に暮れて呟く文香を気遣って、健児は静かにそう返すのだった。

 

 ★

 

 カズキ達が店から飛び出す少し前。

 高層ビルの屋上に二つの人影が存在していた。

 一つは黒のスーツに身を包んだ茶髪の青年――ハヤト。もう一つは小柄で背中の曲がった老人のような人物だった。老人の手には黒いアヤカシバレットが握られている。

 

「ここから見る景色は素晴らしい。高所から見下ろしていると、まるで自分自身が大物になったかのような錯覚すら覚える。そう思いませんか?」

 

 ハヤトは眼下の景色を見下ろしながら、隣に立つ老人へと問いかける。老人はそれを聞いて、ヒイヒイと笑い声をあげる。

 

「お前さんがそんなことで満足するタマには見えんがね。そんな錯覚を味わって、なんだと言うんだ?」

 

 老人の言葉に、ハヤトは表情を変えることなく答える。

 

「その錯覚を確実なものにしたいのですよ。私が高みを目指すのは、ただそれだけに他ならない。私が全ての事物の頂点に立ちたい。それを実現する力が、今は我が手の中にある」

「それがお前さんが妖怪になった理由かい。人の心を失わない程の執念とは恐れ入るね」

「貴方こそ長年生き延びてきた実力は確かでしょう。私はその力に期待をしているのですよ。ノーム」

 

 ハヤトがそこまで言うと、老人――ノームは再び笑い、手の中のアヤカシバレットを弄ぶ。

 

「ヒイヒイ、そりゃ怖いねぇ。しっかり期待に応えさせてもらおうかね」

 

《ノーム!》

 

 ノームがアヤカシバレットを起動する。そこから自身の胸へと突き刺す。

 赤黒いエネルギーが全身を包み込み、数秒で霧散する。そこに立っていたのは小柄の老人ではなく、二メートル程の大柄な怪物であった。全身が土と岩で構成され、特に両肩には半球型の岩がまるでキャノン砲のように付いている。

 

「土の精霊たるノームの力、しかと見物させてもらいますよ」

「ならばじっくりと見物し、堪能するが良いさ。このノームの真髄を!」

 

 そう叫ぶと、ノームはビルから飛び降りる。数秒で地面に降り立つと、衝撃で土煙が発生する。

 周囲にいた人々が困惑する中、ノームは彼らへと視線を向けて、右拳を振り上げて勢いよく地面を殴りつけた。

 すると、地面が隆起して波のように動き出す。それは周囲に散らばる人々へと向かっていった。

 地面の隆起に巻き込まれた人々は、激しく身体を打ち付けられて空中へと飛ばされる。当然受け身など取れるわけもなく、何十人もの人間が重力によって地面に叩きつけられて死んでいく。

 あるいは、波のような地面に飲み込まれてそのまま地中へと沈んでいく。そうなってしまえば生き埋めになり、助かることはない。

 

「さあ人間共、大地の恐ろしさを教えてやろう!」

 

 ノームはそう叫ぶと、次々に地面を殴り続ける。一度殴る度に地面の隆起が周囲に広がっていき、人々の命を奪っていく。

 無惨に散っていく人の命。だがそんな状況を許さない者がいた。

 

「やめろぉぉぉぉ!!」

 

 猛スピードでヘルスピーダーを走らせて、大きく叫びながらカズキが突っ込んでくる。隆起する地面が障害物となるが、それを器用に避けながらノームへと接近していく。

 そのままノームへ突進を仕掛ける。だがノームの両腕に受け止められてしまう。激しく回るエンジンよりも、ノームの力の方が上であった。

 

「くっ!」

「ヒイヒイ、随分と血気盛んなガキだね。今どきの若いのはみんなこうなのかね?」

「うるさい! お前のせいだろうが!」

 

 怒りに満ちたカズキに対し、余裕たっぷりという態度を見せるノーム。そのまま腕に力を込めて、ヘルスピーダーのフロント部分を潰そうとする。

 カズキはすぐさまバイクから飛び降りて距離を取る。それを見たノームはヘルスピーダーを投げ捨てる。遠くの地面へと叩きつけられて、バイクの部品がいくつか飛び散る。

 

「今時の機械も悪くないが、この程度でワシを殺すことはできんよ」

「だったら直接倒すだけだ!」

 

 そう言いながらゴクオードライバーを取り出し、腰に装着するカズキ。

 その直後に、バイク――シルバーセンチュリオンから降りたダイヤが歩いてくる。

 

「おいおい、ちょっと熱くなりすぎなんじゃないか? 少しは落ち着けよ、カズキ」

「――そうだな、少し頭に血が登ってた。悪い、ダイヤ」

 

 笑いながら嗜めるように言うダイヤの言葉に、カズキは息を整えながら答える。身体から余分な力を抜き、自然体で構え直す。

 ダイヤもその隣に立ち、クルセイドSMGを取り出した。

 

「まあ怒るのも無理ないけどな。目の前で人がゴミのように()られてちゃ、いい気分はしねえだろう?」

「ああ、コイツは絶対に許せない」

 

 不敵な笑みを浮かべながら言うダイヤ、カズキもそれに同意する。

 ノームはそんな敵意を受けても、一切気にする素振りを見せない。

 

「ヒイヒイ、人間など数え切れないくらい殺してきたんだ。今更そんなことで怯むわけがないだろう」

 

 そう言って、ノームは両腕を大きく広げて構える。

 カズキ達もアヤカシバレットを取り出して起動する。

 

《ラセツ!》

《ウリエル!》

 

「行くぞ、ダイヤ!」

「ああ、ぶっ潰してやろうぜ」

 

 アヤカシバレットをそれぞれのアイテムに装填、変身ポーズを取ってから叫ぶ。

 

「「変身!」」

 

《ジゴク・レンゴク・ヘンゴク!》

《ゴクオー・ラセツ!》

《クロス・フェイス・グレイス!》

《クルセイド・ウリエル!》

 

 解放されたエネルギーがスーツと装甲を形成し、変身が完了する。

 獄王に変身したカズキは、その直後に走り出す。その勢いのままにヘルソードを引き抜き、ノームに向かって振り下ろした。

 

「ハアッ!」

「効かぬわ!」

 

 振り下ろされたヘルソードを、ノームは左腕で受け止める。岩のように硬い腕に阻まれて、刃は止められてしまう。

 カズキは後方へと飛び退き、ヘルソードを構え直す。

 

「ちっ、岩みたいに硬いな!」

「このノームの身体は土の力を宿すもの。固められた土は鉄にも勝るんじゃよ。そんななまくら刀で傷つけることなどできないね」

 

 ノームはそう言うと、拳で地面を強く叩く。すると、先程と同様に地面が波のようにせり上がってカズキ達へと襲いかかった。

 

「うおっ!?」

「こいつはヤバそうだな!」

 

 カズキは揺れに足を取られて、その場で膝を突く。対するダイヤは翼を広げて、空へ飛んで難を逃れる。

 そうしている間に、地上に残るカズキに向かって波打つ地面が迫りくる。

 

「まず一人。このまま生き埋めにしてやろう!」

「ならば、これを使う!」

 

 カズキが取り出したのは、鬼火バレット。それをドライバーから展開したマガジンに装填し、ドライバー上部中央のボタンを押し込む。

 

《バレットミックス!》

《ゴクオー・ラセツ・ファイア!》

 

 電子音声が鳴り響いた途端、カズキの全身が炎に包まれる。

 そのまま土石流が直撃するが、カズキの身体が炎のように実体を無くし、すり抜けていく。

 

「なんだと!?」

 

 突然起こったことに驚愕するノーム。

 その目の前で、カズキの身体が炎から実体に戻り、ドライバーから鬼火バレットを取り出した。

 

「鬼火バレットの力で物理的な接触を無効化した。簡単に殺せると思うなよ」

「ハハハ、やるじゃねえかカズキ!」

 

 淡々とカズキが語ると、上空からそれを見ていたダイヤが笑う。

 ダイヤは翼をはためかせると、トマホークを両手で握り、ノームを見据える。

 

「次はオレの番だな!」

 

 そう叫ぶと、ダイヤは急降下してノームに接近する。落下の勢いを利用して、豪快に切り裂こうとする。

 ノームは避けようとするが、それより先にダイヤのトマホークがその身体を捉えた。

 重い一撃がヒットしたことで、大きく火花が散り、ノームは後方へ吹き飛んでいく。

 

「ぐあっ!?」

 

 地面に倒れたノーム、しかしすぐに立ち上がり、怒りに満ちた顔でカズキ達を睨む。

 

「生意気なガキ共め……このワシを舐めたことを後悔させてやるぞ!」

 

 そう言うと、ノームの両肩が光を帯び始める。それはまるで、キャノン砲のようであった。

 やがて光が一瞬消えると、両肩から土の弾が二つ放たれる。砲弾に似たそれは、一直線にカズキとダイヤに向かっていく。

 当然、黙って当たるわけが無く、二人は左右に飛び退くことで土の弾を避ける。

 目標を外した土の弾は、そのまま飛んでいき、近くにあった建物の壁に大きな穴を開けた。

 

「おいおい、なんて威力だよ」

「あんなものが当たれば、タダじゃすまないな」

 

 ダイヤは土の弾の威力に感心し、カズキは冷静にその危険性を悟る。

 その間にも、ノームは両肩に力を込めて、次弾を放つ準備をする。

 それを見て、カズキはダイヤに問いかける。

 

「また撃たれると厄介だな。どうやって奴を倒す?」

「そうだな、さっきみたいに横に避けてから、挟み撃ちにしちまうのが良いんだろうな。でも――」

 

 ダイヤはトマホークを一回転させて、仮面の下でニヤリと笑う。

 

「真正面から受け止めてやる方が、面白そうだと思わねえか?」

「……策もへったくれもないな。でもまあ、俺もちょっと苛ついてたところだ、そっちの方がスッキリしそうだな」

「話が分かるじゃねえか!」

 

 バン!とダイヤに背中を叩かれて、カズキは少々痛みに顔を歪める。だが、すぐに気を取り直し、温羅バレットを取り出して起動する。

 

《ウラ!》

《キジン・センジン・カイジン!》

《ゴクオー・ウラ!》

 

 温羅バレットに変身したカズキは、金棒型のヘルズロッドを構える。

 その隣でダイヤも、トマホークを構える。

 それと同時に、チャージが完了したノームが笑いながら叫ぶ。

 

「真正面から挑むとは愚かな、死ねぇ!」

 

 土の弾がノームの肩から放たれる。空気を切る激しい音を響かせながら、二発の土弾がカズキ達に向かってくる。

 それにも臆することなく、カズキ達は己の武器で土弾を受け止める。激しい火花を散らしながら、土弾が回転を続ける。

 

「フッ……! 負けるかよ……!」

「ああ、舐めんなよ人間を!」

 

 全力で力を込めて、歯を食いしばり、二人は武器を振り下ろす。

 土弾は中央で半分に切り裂かれ、それぞれの背後へと飛んでいく。やがて地面に落ちると、元の土へと戻っていく。

 

「なんだと!?」

 

 その光景に、ノームは驚愕する。己の渾身の攻撃を真正面から破られるとは思わなかったからだ。

 立ち尽くすノームの前で、カズキとダイヤが武器を投げ捨てる。

 

「さあ、地獄に堕ちる時だ!」

「あの世で懺悔しておけよ!」

 

 二人は叫ぶと、地面を蹴り空高くへと飛び上がる。

 そして、空中で蹴りの態勢に入り、ノームへ向かって急降下する。

 

《獄王温羅爆裂脚!》

《クルセイド・ウリエル・フィニッシュ!》

 

「ハアアアアッ!」

「オラァァァッ!」

 

 エネルギーを纏った二人のキックが、ノームの胸部に直撃する。

 ノームは悲鳴をあげながら、大きく吹き飛ばされる。

 

「グワァァァァッ!? ワシが死ぬ、だとぉ……!?」

 

 やがて、地面に落下したノームは、己の末路が信じられないというような言葉を残し、爆散した。

 その爆炎を背景に、カズキとダイヤは勝利を確信したのだった。

 

 ★

 

 戦いが終わり、カズキは変身したまま、周囲の様子を確認する。

 ノームが暴れたことで、多くの人々が殺された。周囲の建造物も少なからず破壊されており、死ぬことは免れても、大怪我を負い苦しむ人々も見受けられた。

 それらを確認して、カズキは大きくため息を吐いた。

 

「……もっと早く、俺達が来ていればこんなことには」

「やめとけ、そんな風に考えるのは」

 

 重苦しく呟くカズキを見かねて、ダイヤが口を開く。

 

「遅かろうが早かろうが、妖怪が暴れ出した時点で人は死ぬ。あいつらは人を殺すことに長けてる。どれだけ頑張っても、救えない命ってもんがあるんだよ。キツイのは分かるが、割り切れ。死人に引っ張られたら、今度はお前が死んじまうぞ」

「……ドライな奴だな、お前は」

 

 仮面の下で複雑そうな表情を浮かべて、カズキは言う。対するダイヤは、同じく仮面の下で苦笑する。

 

「長い事殺し合いやってると、人の生死ってもんにある程度耐性ができるもんさ。その上、オレ達はあいつらが出てこないと動けない。出来ることは一秒でも早く殺して終わらせることくらいだろ?」

「お前、戦いを楽しむとか言って、長引かせたりするじゃないか」

「それとこれとはまた別さ。戦いは楽しい、妖怪はムカつく。趣味と実益を兼ねてるってやつだ」

「なんか微妙に違う気もするけどな……」

「そうか? まあなんだ、言いたかったのはあんまり落ち込みすぎるなよってことだ。どうしても出来ないことだってある」

 

 そう言って笑うダイヤ、それを見てカズキも少し微笑む。わずかに気が楽になり、空気が緩む。

 その直後、悍ましく凍えるような殺気が、二人を包みこんだ。

 

「っ!? これは……!」

「ああ、忘れるわけがねえ……お前の殺気か、ハヤト!」

 

 カズキは鳥肌が立つのを感じながら、ダイヤは怒りを滲ませながら、街中の方へと視線を向ける。

 そこには、ハヤト・レンヴィが涼しい顔で立っていた。冷たい視線を二人に向けながら、ハヤトは口を開く。

 

「なんだか面白いことを話していますね。流石、共に生きた仲間達が死んだ時も、涙を流さなかった男です」

「ハッ、そいつらを殺した張本人がよく言うぜ。お前が全部ぶち壊したんだろうが!」

「その時に言ったはずですよ。私が高みに行くためには、彼らは邪魔だったのです。ならば殺すしかないでしょう?」

「そんなのがダチを殺す理由になるかよ!」

 

 ダイヤはトマホークを握りしめ、ハヤトに向かって走り出す。一瞬で距離を詰め、その首を落とさんとする。

 

「させません!」

「乱暴なのは嫌いだよ!」

 

 突如二人の間に、怪人態になったスノーとレーナが割り込んでくる。ハヤトを守るように妨害しようとしてくる。

 

「邪魔だどけぇ!!」

 

 だが、ダイヤはトマホークを高速で振り回す。勢いよく回転するトマホークの刃が、二体の身体を吹き飛ばした。

 

「くうっ!」

「きゃあ!」

「喰らえっ、ハヤト!」

「やれやれ、野蛮なのはいかがなものかと思いますよ?」

 

 目前にトマホークが迫る寸前、ハヤトは黒いアヤカシバレットを取り出し、自らの胸に突き刺す。

 

《ルシファー!》

 

 黒い堕天使、ルシファーへと姿を変えると、左腕でトマホークの刃を受け止めた。

 

「クソッ!」

「そうやって常に真っ直ぐに挑むのは貴方の美点ですが、今はそれではいけない」

 

 ハヤトがそう言うと、地面から氷の柱が突き出し、ダイヤを大きく打ち上げた。

 

「くおっ!」

「ダイヤ!」

 

 吹き飛ばされたダイヤを見て、カズキは大きく飛び上がる。空中でダイヤを受け止めると、そのまま一緒に地面に降り立った。

 

「大丈夫か?」

「ああ、悪いな」

 

 地面に降りた二人は、それぞれの武器を構える。ハヤトは腕を軽くさすりながら二人に対峙する。その時、吹き飛ばされていたスノーとレーナが戻ってきた。

 

「むう、やはり単純な力では私達が劣りますね」

「そうだねぇ、分かりきってたことではあるけどねぇ」

「仕方ありません、貴方達は三百年間、まともに戦闘をしたことがないのでしょう。だがそれを補う手段が、今ようやく完成しますよ」

 

 スノー達はハヤトを挟むように両側に立つ。ハヤトが右手を掲げると、先程ノームが爆散した場所から光の球が現れ、ハヤトの元へと飛んでいく。

 

「あれはまさか――」

「ノームの魂か!」

 

 カズキとダイヤが驚く間もなく、魂がハヤトの右手に収まる。

 それを確認すると、スノーとレーナも、これまで回収してきた魂を取り出した。

 三つの光球は、それぞれの手から離れて浮き上がる。空中で光球が一つに纏まり、一本の弾丸が生み出された。

 

「成功ですね。これでようやく次の段階に進めます」

 

 ハヤトの手に落ちたアヤカシバレット。そこには二本の角を持った悪魔が、二人並んで描かれていた。

 

「スノー、レーナ。手筈通りに頼みます」

「分かりましたよ、兄さん」

「そんじゃ始めようかぁ」

 

 ハヤトからアヤカシバレットを受け取ったスノー、レーナは共に前に踏み出す。スノーが右手でバレットを起動すると、電子音声が鳴り響く。

 

《ベリアル!》

 

 起動したアヤカシバレットを、差し出されたレーナの左手の上に置き、手を重ねる。そこから手を重ねたまま、腕を顔の高さまで上げる。

 すると、重ねた両手から赤黒いエネルギーが溢れ出し、二人を包み込む。そのエネルギーはどんどん大きくなり、二人の身体の倍近くまで膨れ上がる。

 やがて、収束していたエネルギーが弾け飛ぶ。

 そこに居たのは、白い肌に薄布を纏い、胸に小さい車輪、背中に大きな車輪が埋め込まれ、頭部から大きな二本の角を生やした悪魔。その顔は悪魔と思えない程に整えられていた。

 

「二体の妖怪が、合体したのか……!?」

「おいおい、コイツはなんの冗談だ?」

 

 目の前で予想外の現象を見せられ、カズキ達も驚愕する。

 その様子に満足げに、ハヤトは笑う。

 

「これこそが、三体の妖怪の魂をベースに、二体の上級妖怪が変身する新たな姿。大悪魔ベリアルですよ」

『オアアアアアアアアアアッ!!」

 

 ハヤトの宣告に応えるように、大悪魔――ベリアルが吠える。

 その咆哮は、空気を震わせ、大地を揺るがす。圧倒的な力を感じさせる怪物が、ここに降臨した。

 

 

 




 ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
 今回は色々あって、かなり時間がかかってしまいました。これ以上の遅れは無理だと判断して、なんとか投稿できました。
 とりあえず第二章はあと一、二話で終わらせたいと思っていますので、頑張っていきます。
 
 それでは今回はこの辺で。
 次回もお楽しみに。
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