仮面ライダー獄王(ゴクオー)   作:アカミツ書庫

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 どうも、アーニャです。
 今回は第二章最終回となります。
 散々引き伸ばしてきた物語、いよいよ決着です。
 どのような形になるのか、ぜひ御覧ください。


第十八話 熾天の光

 二体の上級妖怪が融合して生まれた大悪魔――ベリアル。

 その威容(いよう)から放たれる殺気を受けて、カズキとダイヤは身震いした。

 

「――ハッ、コイツは中々強いな。楽しくなりそうだぜ」

「そんなこと言ってる場合か。どう考えても今までの妖怪の比じゃないぞ」

 

 好戦的な笑みを浮かべるダイヤに対して、カズキはあくまでも冷静に答える。しかし、二人共相手からは目を離さない。そんなことができるとは思えなかった。

 ベリアルはしばらくその場で立ち尽くすが、やがてゆっくりと足を前に進め始めた。一歩、前に進んだと思った瞬間――。

 

「ぐうっ!?」

「がはっ!?」

 

 数メートルはあったはずの距離を一息に詰めて、ベリアルはカズキ達の首を掴み、地面に叩きつけた。

 二人は全く反応することが出来ず、受け身を取れずにダメージを受ける。

 

『この力、素晴らしいですね。今まで以上にやりたいことが出来る!』

 

 ベリアルは笑いながらそう言う。その声はスノーとレーナの物が混ざりあったような物になっていた。

 

「ぐうっ……! とんでもねえ力だな……!」

「ダイヤ、タイミングを合わせろ……!」

「おう……!」

 

 首を絞められながらも、カズキとダイヤは動く。二人同時に足を動かし、ベリアルの背中を思い切り蹴り上げた。

 

『グウッ!?』

 

 油断していたベリアルは、背中の痛みに仰け反る。それにより首を抑えていた両腕が緩み、カズキ達は脱出する。それぞれが左右に転がり、立ち上がって武器を構える。

 

「ハアッ!」

「オラァ!」

『小癪な!!』

 

 同時に振り抜かれたヘルズロッドとトマホークがベリアルの眼前に迫る。態勢を戻したベリアルは両腕を交差してその攻撃を受け止める。

 棍棒と斧が炸裂し、激しい火花が飛び散る。そのままの態勢で、ベリアルは後方へと吹き飛ばされる。

 ベリアルは両腕を下ろすと、軽く振って火花を振り払う。

 

『中々良い火力ですね、でも本物の火力ってのはこういうものだよぉ!』

 

 そう叫ぶと、右手で胸の、左手で背中の車輪を掴み、取り外すと同時に投げ飛ばす。

 手のひらサイズの車輪は、一瞬で巨大化してカズキ達に襲いかかる。

 目にも止まらぬ速さで襲いかかる車輪に対応しようとするが、こちらが攻撃するよりも先に車輪が命中してダメージを受ける。縦、横、上下、まさに縦横無尽に暴れまわる車輪に翻弄され、カズキとダイヤは吹き飛ばされる。

 

「うわぁぁぁぁ!!」

「ぐおぉぉぉぉ!!」

 

 激しい爆発を受けて、二人は地面に転がる。

 痛みで苦しむ二人の姿を見て、ベリアルは再び笑い声をあげる。

 

『ハハハッ! 無様ですねぇ仮面ライダー! 色々と手を焼かされてきましたが、ついに終わりの時が来たようですよ』

 

 絶大な力を手に入れたためか、尊大な口調に変わる。両腕を広げてより大きく自分を見せるかのようだ。

 だが、それを黙って見ている男達ではない。まずはダイヤが、全身に力を込めて立ち上がる。

 

「……舐めてんじゃねえぞ、これくらいでやられるわけがねえだろうが! そうだろ、カズキ!!」

「……当たり前だ!」

 

 ダイヤの叫びに応えながら、カズキも立ち上がる。その様子を見て、ベリアルは眉を不愉快そうに寄せる。

 

『全く、虫みたいにしぶといねぇ。さっさと潰してしまおうかぁ』

 

 間延びした口調に変わりながら、ベリアルは両手を前方に包むように構える。

 すると、その両手の中に灰色と桃色のエネルギーが収束し始める。そのエネルギーが、少しずつ球状に形を変えていく。

 それを見たダイヤ達は、すぐさま己の武器を構えて必殺技を放つ準備を行う。

 

《ファイナルバレット!》

《クルセイド・ウリエル・ガトリング!》

《獄王温羅爆発弾!》

 

 ダイヤの持つSMGには白と茶のエネルギーが集まり、巨大なガトリングへと変わる。

 カズキの持つヘルズロッドは金棒の中から突き出した砲身に、真紅のエネルギーを集める。

 

『面白いですね、どっちが勝つか試してあげましょう!』

 

 ベリアルが叫ぶと、両手で作っていたエネルギー球を前方に突き出す。すると、球体の中から灰色と桃色の二色が混ざったビームが放たれる。

 

「カズキ! 気合入れて撃てよ!」

「お前こそな!」

 

 二人の武器からも無数の弾丸と極太のビームが放たれる。

 互いの攻撃は、中央でぶつかり合い拮抗する。どちらかに偏ることなく、ほとんど同威力と言っていいものであった。

 やがて、限界を迎えたことでエネルギーが勢いよく霧散・消失する。その衝撃を受けて、三人は大きく吹き飛んだ。

 

「うわぁ!?」

「ぐっ!?」

『ぬうっ!』

 

 カズキとダイヤは衝撃で変身を解除されてしまう。ベリアルの方は、変身解除こそしないものの、ようやくダメージを受けたのか、息を荒げて肩で息をする程になっていた。

 

「そこまでです、もう良いでしょう」

 

 すると、ここまで黙っていたハヤトがベリアルの前に立つ形で割って入る。

 

「最初の試運転としては十分に力を確認出来ました。ですが、このまま長引かせても貴女達への負担が大きくなります。今回はここまでとしましょう」

『…………』

 

 ハヤトの提案を受けて、ベリアルは無言で変身を解除する。身体が二つに分かれ、スノーとレーナの姿に戻る。

 

「よろしいのですか、兄さん?」

「そうだねぇ、今なら邪魔者を完全に倒せそうだけどぉ?」

 

 スノーとレーナは、それぞれカズキ達の方を見ながら、ハヤトに問う。

 

「ええ、彼らを殺すことはいつでも出来ます。それに、このまま流れで殺してしまうより、きちんとした舞台を整えてからの方が、より深い絶望を味わわせることが出来るでしょう。どうせなら、より完全な形の方が美しいでしょう?」

「まあ、兄さんがそう言うのであれば」

「そうだね、私達がどうこう言うことは無いかなぁ」

 

 ハヤトの言葉に、スノーとレーナも納得して矛を収める。

 だが、それに納得出来ない男が一人いた。

 

「……待てよ!! 敵に情けをかけるなんて、舐めてんじゃねえぞ!」

 

 傷だらけのダイヤが、強く睨みつけながら叫ぶ。激しい怒りを滾らせて、未だ折れぬ闘志を見せる。

 その姿に、ハヤトは薄く笑みを浮かべる。

 

「これは情けではありませんよ。我々がより完璧な存在になるために、ここで貴方達を殺すことは意味が無い。より相応しい形で貴方達を制すからこそ、高みへと到れるのです」

「その高みってのは結局何だ!? いつもいつも曖昧な言葉で誤魔化してんじゃねえぞ!」

 

 淡々と語るハヤト、声を荒げて叫ぶダイヤ。両者の態度は完全なる対比を作り、立場の違いを如実に表す。

 

「――いずれ分かりますよ。おそらく近いうちにね」

 

 そう言うと、ハヤトの身体を闇が包み込む。隣のスノーとレーナも闇に包まれる。

 やがて完全に姿が見えなくなると、三人はその場から消えてしまう。

 

「待て、ハヤト!」

「やめろ、もう遅い!」

 

 走り出そうとしたダイヤ、その腕をカズキが掴んで引き止める。

 傷だらけの二人だけがその場に残され、激しい戦いの跡に寂しい風が吹き込むのだった。

 

 ★

 

 しばらく経って、妖怪が集まる廃墟にハヤト達が現れた。

 ハヤトは廃墟の中にあるバーカウンターに向かうと、そこから赤ワインとワイングラスを持ち出してきた。

 

「一杯やりましょう。我々の目論見が成功した祝いとしてね」

「あら、それは良いですね。私も飲みたいと思っていました」

「そうだねぇ、たまにはお酒を飲むのもありかなぁ」

 

 ハヤトの提案に、スノーとレーナも賛同する。

 ハヤトはテーブルにワイングラスを三つ置き、そこにワインを注ぐ。美しい赤色の液体がゆっくりと注がれ、グラスを満たす。

 スノーとレーナがグラスを取ると、ハヤトも自身の分を取り、顔の前に掲げる。

 

「では、乾杯」

「乾杯」

「乾ぱ~い」

 

 それぞれが口にして、ワインを飲み始める。ハヤトは半分程飲むと口を離し、スノーとレーナは一口で飲み干す。

 

「ふう、この味は人間でも妖怪でも変わりませんね。味覚も元のままであったのは幸運でした」

「『兄さん』は人間としての意思を残していましたね。そんなことができる人間が存在していたとは、私達も知りませんでしたよ」

「そうだねぇ、まさかそんな人間がいるなんて。ビックリしたよねぇ」

 

 酒の味を楽しむハヤト、そんな彼に対して感心を示すスノー達。

 そうして過ごしていると、廃墟の中に何者かが入ってくる気配を感じる。

 そちらに視線を向けると、酒呑童子、女天狗、九千坊が立っていた。

 

「これはこれは。皆さんお揃いで何かご用ですか?」

 

 ハヤトはグラスを置いて三体に向き直る。

 酒呑童子は普段通りの冷たい視線を向けて、静かに口を開く。

 

「貴様、一体何を企んでいる?」

「企む、とは? 何のことでしょうか」

「とぼけるな」

 

 酒呑童子は一歩前に踏み出し、真っ直ぐにハヤトを見据える。

 

「あの人間共を殺さずに撤退したな。いくら矮小(わいしょう)だとしても、奴らが我々にとっての邪魔者であることは分かっているはずだ。何故生かした?」

 

 刺されるような鋭さを持った声で問いかける酒呑童子。

 そのようなプレッシャーを受けてもなお、ハヤトは平然とした表情で返す。

 

「そうですね、お話しておきましょう。赤獅子ダイヤという男は、私と同じくらいの強さを持っています。そんな彼を妖怪にすることが出来れば、我々の戦力を上げることが出来ます。そのためにも、彼自身に力を求めさせるように仕向けたいのですよ」

「そのために同胞共に犠牲を強いるか。あの人間が妖怪になったとして、その穴を埋めるだけの存在になると思うのか? 人間としての生はそこで終わる、人間の強さなど我らには関係ないものだ」

 

 ハヤトの説明を受けても、酒呑童子は懐疑的な視線を向ける。

 だがハヤトは怯むことなく続きを述べる。

 

「彼は私と同じレベルに立つことが出来ます。私のように人間としての魂を保ったまま、妖怪の力を振るうことが出来る。私はそう確信していますよ。そうなれば、これまでの妖怪など比べ物にならない程の強大な存在になれます」

 

 ハヤトの語る言葉には、心からそうなると確信している自信がうかがえた。

 だが、酒呑童子はますます怪訝な表情になる。

 

「ならば余計に問題であろう。奴は妖怪を殺すことに躊躇いが無い。仮に人間の魂を保ったまま力を手にすれば、その力を我々に向けることは容易に想像出来る。そうなればただ面倒が増えるだけだ」

「私がこうして妖怪側に付いています。それでも信用なりませんか?」

「元より貴様のことなど信用していない。なんなら今この場で切り捨てても良いと考えている」

 

 酒呑童子の身体から、わずかに殺気が溢れ出す。目に見える形となった殺気は、赤黒いオーラのように酒呑童子の全身を包み込む。

 それでもハヤトは一歩も引かない。自信に満ちた表情で、堂々と語る。

 

「私が彼を変えますよ。妖怪の力、その素晴らしさを理解すれば彼も考えを変えるでしょう。それを私が徹底的にしつけます。必ずね」

 

 ハヤトは堂々と宣言する。その眼にはいささかの迷いも疑いも映っていない。

 更に、ハヤトは一枚の紙を取り出し、それを見せつける。

 

「信用できないというなら、これを。ここには私が《教会》に居た時に手に入れた《祠》の情報が書かれています。これを貴方に渡します。それでも信用できませんか?」

 

 そう言うと、ハヤトは紙を投げ渡す。酒呑童子はそれを受け取ると、一瞥する。やがてため息を一つ吐き、視線を切って振り返る。

 

「まあ良い、元々貴様の蒔いた種だ。貴様が責任を持て。我々の力は一切貸さない。好きなようにすれば良い」

 

 そう言い残すと、酒呑童子は歩き去って行く。九千坊と女天狗も、その後に続いて出て行く。

 彼らの背中が完全に見えなくなると、ハヤトは息を吐く。

 

「流石に時間をかけ過ぎましたね。釘を刺されてしまうとは。ですが準備は完了しました。明日、全てを終わらせましょう」

 

 ハヤトがそう言うと、スノーとレーナも色めき立つ。

 

「いよいよですね、私達も楽しみにしていましたよ」

「うんうん、最高の大暴れしちゃおうねぇ」

 

 西洋妖怪の三体は、そう言って笑う。その影は人ではない異形の物となり、床に写っていた。

 

 ★

 

 一方、廃墟から出た酒呑童子は無言で歩き続けた。

 その背後にいる九千坊が、両手を後頭部に回しながら口を開く。

 

「なあ酒呑、あのガキ放っておいて良いのか? ロクなことしないぜ、アレは」

 

 その言葉を受けて、酒呑童子は足を止めてから答える。

 

「気にすることはない。奴は恐らく失敗する」

 

 酒呑童子の言葉に、九千坊と女天狗は驚く。

 

「失敗するの? まだ始まってもないけど」

「奴は自惚れが過ぎる。古来より、そういった存在は自ら足元を掬われる。人間だろうが妖怪だろうがな」

「なるほどね、そりゃ言えてるかもな」

「まあ、あわよくば共倒れになってくれれば、御の字というところだろう」

 

 酒呑童子はそこまで話すと、再び歩き出す。そのまま背後の二体に言う。

 

「我々は我々の計画を進める。貴様らも用意しておけ」

「おっと、分かったよ。やることはちゃんとやるさ」

「私達もあの子みたいにならないように、気を付けないとね」

 

 そんな会話をしながら、三体は歩き去って行く。

 その姿は完全に人間、地面に写る影すらも気配を漏れ出さないものだった。

 

 ★

 

 カズキ達は雑貨屋『東堂』まで戻り、なんとか休息を取っていた。

 傷だらけのダイヤは、SMGとアヤカシバレットを取り出し、その力を使う。

 

《モンスバレット!》

《フェニックス・リザレクション!》

 

 SMGから放たれた緑色の光が、ダイヤとカズキを包み込む。すると、二人の全身に残っていた傷が瞬く間に消えていく。

 

「相変わらず便利だなそれ……っ痛!」

「ああ、便利ではあるんだがな。傷はすぐに治るが、痛みはしばらく残っちまうんだ。悪いが耐えてくれよ」

 

 痛みに顔を歪めるカズキに、苦笑しながらダイヤは言う。ダイヤの顔も、残る痛みに耐えるように歪んでいる。

 そんな二人を見かねて、早苗が店の奥から救急箱を持ってくる。箱の中から一つの瓶を取り出す。

 

「ほらこれ、痛み止めよ。普通の薬だけど、無いよりマシでしょ」

「ありがとう、早苗」

 

 早苗の差し出した薬を受け取り、カズキはそれを飲み込む。ダイヤも同じように薬を飲んで、ソファにもたれかかる。

 

「ハァ……しかし、あんなのまで出してくるとはな」

 

 ダイヤは天井を眺めてそう呟く。その頭に浮かぶのは先程まで戦ったベリアルのこと。自分達が圧倒されるほどの強敵の登場に、ダイヤも思わず眉を寄せる。

 

「……あのハヤトって男、お前のことを妖怪にしたいって話だったな。そのためにあんな怪物まで生み出すのか。一体どういうつもりだ?」

「さあね、大方強い妖怪にボコらせて、俺に力を求めさせるとかそんなのだろうけど、なんでそうするのかの理由が分からねえんだよ。なあ、レイ?」

 

 カズキの疑問に、ダイヤも首を振る。そして、後ろに立つレイに向かって声をかける。

 レイは一度頷いてから答える。

 

「ええ、何故そこまでしてダイヤさんを妖怪にしたいのか、まるで分かりません。この人なら妖怪になっても人間としての人格を保てると思っているようですが、そんなことは誰も保証できないはずです。そこまでする理由が、私達には分かりません」

「付き合いの長かった貴方達に分からないなら、どうしようもないですね……」

 

 レイがそう言うと、カズキも困惑の表情を浮かべて答える。

 しばらく無言の時間が流れるが、やがてダイヤが頭を掻きむしってから、勢い良く立ち上がる。

 

「ああっクソ。考えてても埒が明かねえ。オレ達は帰るぜ、邪魔したな」

 

 そう言ってダイヤはズカズカと歩いて、玄関から出ていく。

 その様は、抑えきれない苛立ちが溢れていた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、ダイヤさん!」

 

 レイもそれを慌てて追いかけて玄関から飛び出す。

 カズキ達は二人を黙って見送る。

 

「……相当苛立ってるな、アイツ。それも仕方ないか」

「そうね、まあ無理も無いわ。訳が分からないことばかりだもの」

 

 カズキと早苗は、顔を見合わせて沈黙する。

 先の見えぬ闇が広がり、視界が閉ざされるような感覚を覚えるのだった。

 

 ★

 

 雑貨屋『東堂』を出たダイヤは、ホテルまでの道を無言で歩く。

 その後ろをレイが数歩下がってついて行く。

 しばらく無言のまま歩いていたが、ダイヤが急に立ち止まり、口を開く。

 

「ハヤト……オレを妖怪にして、一体何になるってんだよ」

 

 独り言のように呟くと、ダイヤは振り返る。

 

「なあ、レイ。アイツがまだ人間だった頃、あの時は楽しかったよな。みんなで力を競って、強くなって、妖怪共をぶっ倒して――その繰り返しだった。それが楽しかったんだ」

 

 微笑を浮かべて語るダイヤを見て、レイもまた微笑を浮かべる。

 

「そうですね、あの頃は楽しかったです。世界平和のためだったり、自分の欲求のためだったり――戦う理由はそれぞれでも、みんなが一緒にいて色んなことをしました。今でもかけがえのない思い出ですよ」

「ああ、そうだ。そうなんだよ。それで良かったんだ――なのにアイツは、それをぶっ壊した」

 

 ダイヤは拳を握り、そこに視線を移す。

 かつての思い出、それを打ち壊した惨劇。その二つが脳裏に浮かび、言いようのない怒りが湧いてくる。

 

「オレは、お前や仲間達、それにハヤトが居てくれればそれで良かった。そうすりゃ、オレはずっと戦いを楽しめた。他のことなんてどうでもよくなるくらいに。それだけで良かったのにな……」

 

 拳を下ろして、ダイヤは空を見上げる。

 先程まで出ていた太陽は、雲に隠れて見えなくなる。途端に周囲が薄暗くなる。

 それはハヤトが裏切ったあの日と同じ空模様だった。

 

「どうしてだ、ハヤト。どうしてお前はオレ達を裏切った? どうして妖怪になる必要があった? どうしてオレを妖怪にしようとする? 何も分からない、ダチだったはずなのに。そんな自分が嫌になるよ」

 

 視線を戻して、自嘲するようにダイヤは笑う。

 そこまで聞いていたレイは、一歩前に出てダイヤの頬に右手を添える。

 

「……何も分からないなら、今度こそあの人を倒すしかないでしょう。倒して、負けを認めさせて、全部喋らせるんです。それしか方法はありません。悩んでる暇なんて、無いでしょう」

「……次戦っても勝てる保証はねえぜ? 今度こそ殺されるかもな」

「それこそ戦いが好きな貴方らしくもないですよ。今の貴方は、悩んで考えて、普段使わないくらいに頭を使ってるから、おかしくなるんです」

 

 そう言うと、レイは手を頬に添えたまま、顔を近付ける。

 至近距離まで来ると、軽く背伸びをして唇を触れさせる。一秒にも満たない時間、互いに触れ合わせるとゆっくり元の姿勢に戻る。

 

「貴方は他人のことなんて考えないで、難しい悩みなんて持たずに、己の欲の赴くままに戦えば良いんです。みんな、そんな貴方が好きだったから、一緒に居てくれたんですよ? 私の好きな『王子様』は、そういう人ですよ」

 

 真っ直ぐに見つめて、レイはそう語る。

 ダイヤは目を見開いてそれを聞いていたが、やがていつも通りの不敵な笑みを浮かべた。

 

「愛しの『お姫様』にそう言われちゃ、悩んでるのもバカらしくなるな。そうだな、まずはアイツをぶん殴る! それでもって、アイツの考えをちゃんと説明させる! そのためにはもっと強くならなきゃいけねえ。とりあえず鍛え直しだ!」

 

 ダイヤは大声で叫ぶ。自分の中にある不安、苦悩。それらを吹き飛ばすかのように。

 

「ありがとな、レイ。お前のおかげで目が覚めたぜ」

「どういたしまして。貴方はそうやっておバカっぽく振る舞ってる方が似合いますよ」

「ちょくちょくディスられてるのは気になるけど、それもまたオレの良いところだな。とりあえず走ってくる!」

 

 そう言うと、ダイヤはその場から走り出す。全速力で一直線に。持てる力の限り走り抜けるつもりのようであった。

 レイはその背中を見送り、感心とも呆れとも取れる笑みを浮かべる。

 

「いってらっしゃい。――さて、私も出来ることをしなくては、うん?」

 

 レイは自分のスマホに通知が来ていることに気付く。それは『教会』からのメッセージであった。

 スマホを開いて、メッセージの中身を確認する。

 

《修復完了。至急受け取られたし》

 

「っ! そうですか、ついにですね――ダイヤさん、案外早く勝てるかもしれませんよ」

 

 レイはそう呟くと、(きびす)を返して歩き出す。向かう先は空港である。

 その顔には、何かへの期待が伺える笑みが浮かんでいた。

 

 ★

 

 翌日。

 人々が無数に行き交う街の中に、三人の人影が立つ。

 グレーのスーツを身に纏ったハヤトは、手の中でいくつかの魔石を弄ぶ。

 その背後には、白いゴスロリ衣装を着たスノーと、黒いゴスロリ衣装を着込んだレーナが立つ。二人は街の人々を眺めて、昂る気持ちを抑えるように(つと)める。

 

「……フフッ、これだけの数の人間を、この手で殺せると思うと、流石の私も興奮を覚えてしまいますね」

 

 スノーは珍しく微笑を浮かべ、頬を撫でる。

 その隣に立つレーナも、それに同意する。

 

「そうだねぇ。私も早く、み〜んな食べてあげたいなぁ。考えるだけで濡れちゃうよぉ」

 

 レーナは満面の笑みを浮かべて、舌なめずりをする。

 そのような反応を見せる二人に向かって、ハヤトは振り返って口を開く。

 

「さあ、スノー、レーナ。いよいよです。これまで散々面倒ごとに付き合わせましたが、それも今日までです。思う存分に暴れてください」

 

 その言葉を受けて、スノーとレーナの身体から、特濃の妖気が湧き上がる。これまで抑えていた欲求を解放する時が来たことで、完全なる本気の妖気が溢れ出す。

 

《ベリアル!》

 

「では、行きますよ」

「うん、張り切ってやっちゃおう〜!」

 

 スノーが鳴らしたベリアルバレットに、レーナが手を重ねる。

 すると、二人の身体が赤黒い妖気に包まれて、一つに融合する。

 白い肌に薄布を纏い、胸に小さい車輪、背中に大きな車輪が埋め込まれ、頭部から大きな二本の角を生やした悪魔。大妖怪ベリアルへと変身を果たしたのだ。

 

「頼みましたよ、二人とも。ついでにこれも置いておきましょう」

 

 ベリアルへの変身を見届けたハヤトは、手の中にある魔石を前方に投げる。

 地面に落ちた魔石は、すぐさま妖気を纏って小型の鬼ーー餓鬼が生まれる。 

 大量の餓鬼と、一体の悪魔。文化の垣根を超えて、恐ろしい妖怪がこの場に揃ったのだ。

 

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 突然現れた化け物に、人々は恐怖して大混乱を巻き起こす。

 我先に逃げ出そうとする人々を見て、ベリアルはニタリと笑う。

 

『怯えろ、恐れよ! 私達妖怪が、お前達人間を皆殺す! これは義務でもなければ、使命でもない! 私達の魂に刻まれた――本能だ!!』

 

 ベリアルが高々と叫ぶ。それと同時に大量の餓鬼共が動き出す。

 爪で、牙で、棍棒で。次々と人間を殺していく。妖怪の力は人間を遥かに上回る。髪を撫でるような力でも、人間の身体は耐えられず千切れ飛ぶ。

 ベリアルは、それを全て上回る勢いで命を削いでいく。

 何かを意識する必要すらない。ベリアルが近付くだけで、視線を向けるだけで、殺すという意思を持って行動するだけで、人間は血溜まりへと変えられる。無惨、そんな言葉すら生温いと言える。

 やがて、ベリアルと餓鬼共の周囲には、無数の死体と血溜まりだけが残される。(しかばね)と血が溢れる有様は、まさに地獄と呼ぶに相応しい。

 

『この世の地獄とはまさにこの事ですね。神も仏も有りはしない、有るのは私達妖怪という存在のみ。それが唯一の真実なんだよねぇ』

 

 人間の死体を口に含みながら、ベリアルは呟く。

 そうしていると、一台のバイクが現場に現れる。急ブレーキで止まると、そこから二人の人間が降りる。

 バイクを運転していた男――カズキは凄惨な状況を見て、驚愕と怒りを表す。

 

「お前ら……よくもこんなことを!!」

「落ち着きなさい、カズキ! 怒りに飲まれないで!」

「っ! ああ、分かってる……早苗は下がって、生きてる人を探してくれ」

 

 怒りのままにゴクオードライバーを装着して立ち向かおうとするカズキに、背後に立つ早苗が叫ぶ。その声を聞いて、我に帰ったカズキはなんとか落ち着きを取り戻す。

 対するベリアルは、余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)という風にゆったりと構える。

 

『美しい支え合いですね。でも、それも今から塵と消えます。私達が君達を殺して食べちゃうからねぇ』

「やってみろよ、この前みたいになると思うな!」

 

《ラセツ!》

 

「変身!」

 

《ジゴク・レンゴク・ヘンゴク!》

《ゴクオー・ラセツ!》

 

 カズキは羅刹バレットをドライバーに装填、自らのこめかみを撃ち抜いて変身する。

 ベルト左右に装備されたヘルガンとヘルソードをそれぞれ握ると、ベリアル達に向かって走り出す。

 

「ウオオオオッ!」

『まずは小手調べといきましょうか。餓鬼共、やりなさい』

「グオオオオッ!」

 

 ベリアルが片手を伸ばして指示を送ると、無数の餓鬼がカズキに向かっていく。

 餓鬼の攻撃を避けながら、カズキはアヤカシバレットをそれぞれの武器に装填する。

 

《アヤカシバレット!》

《オニビ・フレイム!》

《ウミボウズ・ウォーター!》

 

「邪魔だ、どけぇ!!」

「っ!?」

 

 炎を纏った刀が、餓鬼の持つ武器を腕ごと切り落とし、水で出来た弾丸が、残った身体をまとめて吹き飛ばす。

 周囲に集まる餓鬼をそうやって薙ぎ倒していく。最後の一体の胴体を袈裟斬りにすると、派手に爆発を起こして消滅する。

 その様を見て、ベリアルは拍手を送る。

 

『アハァ、やるねぇ。餓鬼程度じゃ、もう相手にならないかぁ。やっぱり私達が相手をしてあげないとだねぇ』

「舐めやがって……お前は必ず俺が倒す!」

 

《ウラ!》

《キジン・センジン・カイジン!》

《ゴクオー・ウラ!》

 

 ドライバーのアヤカシバレットを交換して、真紅の鎧を纏った鬼の温羅バレットへと姿を変えるカズキ。

 専用武器のヘルズロッドを両手で構え、下半身に力を込めて駆け出す。

 

「ウオオオオッ!!」

『アハハ、今の私達に勝てるなんて思わないで!!』

 

 激しく火花を散らして、ぶつかり合う両者。

 その戦いを、ハヤトは離れたところから見物する。

 

「今日で全てを終わらせます。仮面ライダーも、ここで死ぬ――だから早く来なさい、ダイヤ」

 

 ★

 

 ハヤト達が暴れ始める少し前。

 ダイヤはホテルの部屋に作られたトレーニングルームに居た。

 特注で作らせた専用の部屋の中で、ダイヤはダンベルをひたすら持ち上げる。

 やがて、満足したのかダンベルを元の場所に戻し、側に置いていたタオルを手に取り、汗を拭う。

 そうやって過ごしていると、部屋の扉が開く。中に入ってきたのはレイだった。

 

「お疲れ様です、ダイヤさん。満足出来ましたか?」

「まあな、とりあえず気分がスッキリはしたよ」

 

 汗を拭きながら、ダイヤは笑いながら言う。

 そして、ふと気になったことを口にする。

 

「ところで、お前は一晩どこに行ってたんだよ。昨日分かれてから戻らなくて心配したぞ?」

 

 ダイヤがそう聞くと、レイは微笑を浮かべて答える。

 

「すみません、ちょっとしたサプライズの用意をしてまして――ようやく完成しましたよ、これがね」

 

 そう言ってレイが取り出したのは、一本の弾丸だった。

 銀色で塗装された弾丸。その正面には、赤い翼を持ち炎を纏った剣を掲げる天使が描かれていた。

 それを見た瞬間、ダイヤは飛び起きる。

 

「そいつは――! ようやく直ったのか、ミカエルバレットが!」

 

 目を輝かせて、レイの手の中にある弾丸に食い付くダイヤ。

 レイは子供をあやすようになだめながら口を開く。

 

「あの時、ハヤトさんに破壊されて使えなくなってしまったミカエルバレット。クルセイドのかつての基本形態にして、貴方と最も相性の良い姿。貴方の要望通りに、直すついでに大幅なパワーアップを施してもらいました。これで今までよりも強い力が発揮されるはずです」

 

 それに、とレイは付け加える。

 

「私達がこの国に来てからのこと、獄王の戦闘データについても、東堂さんから提供していただきました。それを追加するために、今まで留守にしてたんですよ」

「あのオッサンが力を貸してくれたのか、ありがてえな。というか、それならそうと言ってくれれば良かったじゃねえか」

「貴方にはトレーニングに集中して欲しかったですからね。それにこういうサプライズは好きでしょう?」

「まあ嫌いじゃないけどな。とにかくサンキューな、レイ」

 

 ダイヤは喜びが溢れてきて、思わずレイを抱きしめる。

 不意のことでレイも驚くが、笑みを浮かべて抱きしめ返す。

 そうしていると、窓の外からサイレンの音が鳴り響き始める。救急車がサイレンを鳴らして走り出しているようだった。

 それを聞いて、ダイヤはあることを察する。

 

「――どうやら、ハヤトの野郎が何かし始めたみたいだな」

「そうみたいですね、昨日の今日ならそれが一番可能性があります」

「だよな。よし、行ってくる」

 

 ダイヤはミカエルバレットを受け取り、部屋から出ようとする。

 だがその手をレイが掴んで引き止める。

 

「……レイ?」

「ダイヤさん、確かにミカエルバレットは完成しました。理論上は想定通りの力を発揮出来るはずです。ですが、その分貴方への負担は大きくなります。それに、まだ慣らし運転すらしてないんです。それでも行きますか?」

「…………」

 

 レイの言葉に、ダイヤも沈黙する。

 何故レイがこんなことを言うのかは分かっている。色々言ってはくれても、やはり不安なのだ。

 仲間を殺した裏切り者の元に、恋人を送り込むことに不安を感じない者はいないだろう。ましてや相手はまともに戦っても勝てるか分からない実力者である。

 例えそれに対する力があっても、不安を完全に消すことは出来ない。だからこそ、レイはダイヤを引き留めた。ダイヤ自身もそれを分かっている。

 だが、ダイヤは微笑を浮かべて、レイの手に自分の手を重ねて、言う。

 

「悪いな、オレは行くよ。ハヤトの野郎はきっと、オレのことを待ってる。アイツはオレとの何かを成し遂げるまで、止まらねえ。それが一体何なのか確かめるためにも、オレはアイツと戦って勝たなきゃならねえ――お前が言ってくれたことだ」

「…………」

 

 ダイヤはニカっと笑ってそう言う。屈託のない笑顔、それが故に安心感を与える笑顔だ。

 そんな笑顔を見て、レイは観念したように首を横に振る。

 

「……そうでしたね、私が言ったことです。貴方には彼を倒してもらわないといけませんからね」

 

 そうして顔を上げたレイも笑う。そして、掴んでいた手を離して、ダイヤの服を整える。

 

「さあ、行きましょう。過去の全てに決着を付けるために」

「ああ、任せとけ。必ずアイツをぶん殴ってやる」

 

 ★

 

 一方その頃。カズキとベリアルの戦いは、熾烈を極めていた。

 

『ハアッ!!』

「ぐうっ! クソッ!」

 

 ベリアルの拳が、カズキの肩を打ち抜く。その衝撃でカズキは大きく吹き飛ばされる。

 地面を滑り、倒れることは防いだが、息は上がり全身に傷が付いていた。

 

『大口を叩いた割にはこの程度ですか。やはり今の私達に、勝てる訳がありませんね。さっさと死んじゃってよ』

「……誰が死ぬかよ!」

 

 ベリアルの煽りに対して、カズキはヘルズロッドを振り上げて答える。

 渾身の力を込めて、ベリアルの脳天へと振り下ろす。

 

『そんなものに当たるとでも?』

 

 そう言うと、ベリアルは一瞬で姿を消し、その場から離れる。

 振り下ろされた棍棒は、地面を砕くだけに留まった。

 

「何ッ!?」

『遅いですよ、ハアッ!』

「ぐうっ!?」

 

 ベリアルが頭部を狙ってハイキックを放つ。カズキはそれを左腕で受け止める。

 しかし、その力を防ぐことは出来ず、ガードの上から大きく吹き飛ばされる。

 地面を転がり、ヘルズロッドを手放してしまい、丸腰の状態で這いつくばってしまう。

 

「ガハッ……! くそっ、ここまで力の差があるのか……!」

『残念でしたね。私達の力はこれまでの二倍以上です。貴方ごときでは埋めようのない差なのですよ』

 

 そう言うと、ベリアルは右手に灰色のエネルギーを、左手に桃色のエネルギーを表出させる。

 それらを正面で重ね合わせると、力を込め始める。

 

『さあ、これで終わりです。あの世があるなら、そこで反省会でもしててね!!』

「くっ……!」

 

 そうしてチャージされたエネルギーを、ビームにして放とうとするベリアル。動きが鈍ったカズキは、死を覚悟する。

 だがその時、騒がしいエンジン音が鳴り響く。それと同時に、一台の白銀のバイクが飛び込んでくる。

 シルバーセンチュリオンに乗った、赤獅子ダイヤが駆けつけたのだ。

 

「ハアッ!」

『グワァ!?』

 

 ダイヤは、後ろにレイを乗せたまま、バイクごと跳躍する。

 カズキとベリアルの間に入り、空中からSMGを乱射した。

 大量の弾丸がベリアルの身体に命中し、火花を散らして後方に吹き飛ばした。

 その後、地面に着地するとすぐに停車し、二人はバイクから降りる。

 ダイヤは倒れているカズキの元へ歩み寄り、レイもそれに続く。

 

「よう、待たせたな。カズキ」

「……ちょっと来るのが遅いんじゃないか?」

「ヘッ、よく言うだろ。『主役は遅れてやって来る』ってな」

 

 ダイヤの軽口に、カズキも仮面の下で苦笑する。なんとか立ち上がり、ヘルズロッドを拾って、構える。

 それと同時に、煙を振り払ったベリアルが、ダイヤを睨みつける。

 

『赤獅子ダイヤ……不意打ちとはやってくれますね』

「目の前でダチが殺されかかってんだ、仕方ねえだろ? オレは二度とそんなもんは見たくねえからな』

 

 肩をすくめてダイヤはそう答える。

 そして、SMGとミカエルバレットを取り出し、銃床を引いて装填スロットを引き出してから、バレットの起動スイッチを押す。

 

《ミカエル!》

 

「さて、ぶっつけ本番だ。コイツの力を試させてもらうぜ」

 

 ダイヤはミカエルバレットをスロットに装填、銃の中に押し込む。

 SMGから赤と銀のエネルギーが放出され、ダイヤの全身を包み込む。その状態で、ダイヤは右手を動かす。

 引き金を引きながら、いつものように十字を切るーーのではなく、まずは右から左に斜めに振り下ろす。更に今度は逆から、左から右に斜めに振り下ろした。

 十字ではなくクロスーーX(エックス)を弾丸で描くと、右腕を振り切った体勢のまま、左手を軽く口に当てて、音を鳴らす。

 そして、ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら――

 

「――変身」

 

《バーニング・シャイニング・ヴァーテックス!》

《クルセイド・ミカエル!》

 

 地面から炎が吹き出し、ダイヤの周りを包み込む。その中で身体に変化が起こり始める。

 全身を銀色のアンダースーツが覆い、その上から赤色のアーマーが装着される。否、その色は赤というより朱色と言える。

 アーマーには更に白色の線によって、Xのマーキングが施される。胸や腕、足など至る所に。

 頭部は銀色をベースに、赤い鳥を思わせる形になり、複眼がX状に成形される。

 最後に、背中に朱色の外套が装着される。そこには白の翼が描かれている。

 ダイヤは、左手を握りしめると、それを勢い良く振り抜く。

 

「ハアッ!」

 

 それと同時に、炎が吹き飛んでその姿を現す。

 その有り様に、ベリアルですら戦慄を覚えた。

 

『その姿は……!?』

「仮面ライダークルセイド・ミカエルバレット。オレの元々の力にして――オレの新たな力だ」

 

 そう言うと、ダイヤはベリアルに向かって右手を向ける。

 

「さあ、懺悔の用意は出来てるか?」

『……懺悔? そんなもの、するわけがないでしょう!』

 

 ベリアルは叫びながら走り出す。そのまま真っ直ぐにダイヤの元へと向かい、右ストレートで殴りかかる。

 猛スピードで迫る拳。だがダイヤは焦ることなく、左手でその拳を受け止めた。

 

『何ッ……!? 離しなさい!』

「つれないね、女の子の手はそう簡単に離せるもんじゃないぞ」

 

 まさか受け止められるとは思わなかったのか、ベリアルは驚愕して離れようとする。だが、ダイヤの握る力の方が上なのか、ビクともしない。

 

『このぉ……!!』

「おっと」

 

 無理矢理引き抜くことで、ベリアルは手を振り払う。そこから何発もの拳を連続で叩き込む。

 ダイヤはその攻撃を、全て捌いていく。しかも、ただ防ぐのではなく、より少ない力で、的確に捌いている。

 つまり、ベリアルだけが一方的に疲弊していくのだ。

 

『くっ……! これならどう!』

 

 業を煮やしたベリアルは、パンチからキックへと切り替える。先程カズキを吹き飛ばしたハイキックが、ダイヤの顔面へと迫る。

 しかし、ダイヤは慌てない。

 

「そうらよっと!」

『なあっ!?』

 

 ダイヤはその場で、身体を後ろに反らせる。鼻先数センチを、ベリアルの足が過ぎ去っていく。

 攻撃が空振り、その場で一回転するベリアル。その隙だらけな姿に、姿勢を戻したダイヤが迫る。

 

「さあ、今度はこっちの番だぜ!」

『グウッ!?』

 

 ダイヤの放つ拳が、ベリアルの顔面を捉えて殴り飛ばす。数メートルは吹き飛び、地面に倒れる。

 ベリアルはすぐさま起き上がるが、すぐに目前に迫ったダイヤに再び殴られる。

 

「オラァ! ハアッ! オラァ!」

『ガハァ!?』

 

 重い拳が、目にも止まらぬ速さで打ち込まれる。ベリアルはろくに抵抗も出来ずに、一方的に殴られる。

 パワーとスピードが、高い水準にあるからこそ出来る芸当であった。

 遠くからそれを見ていたカズキも、思わず感心する。

 

「凄いな、あの相手を一方的に攻められるなんて……」

 

 その言葉に答えるように、側にいたレイが口を開く。

 

「あのミカエルバレットは、かつてクルセイドの基本形態でした。しかし、ハヤトさんが裏切った日の戦いで破壊されていました。それを《教会》の技術者達に修復・改良させたのが今のミカエルバレットです。更に、日本での戦闘データや、貴方の獄王のデータも組み込んで、よりパワーアップさせたんです。協力してくれた東堂さんには感謝してます」

「おやっさんが……そんなことをしてたんですか」

「ええ、おかげで今のダイヤさんは、貴方のどの形態よりも強いですよ」

 

 そう言って笑みを浮かべるレイは、戦っているダイヤの方へと視線を戻す。

 ダイヤは一度距離を取った後、助走を付けてドロップキックを叩き込んでいた。

 

「ウッシャオラァ!」

『ぐわぁ! よくも、小癪な!』

 

 大きく吹き飛ばされたベリアルは、怒りのままに胸と背中に手を伸ばす。そこから取り外した車輪を勢いを付けて投げ飛ばす。

 巨大化した二つの車輪が迫るが、ダイヤは臆すことなく、両腕に付けられた腕輪を輝かせる。

 腕輪に穴が開き、そこから銀色の棒が二本飛び出す。それはすぐさま大きなトマホークへと変化し、ダイヤの腕に収まる。

 二本のトマホークを構えたダイヤは、車輪に向かって走り出す。

 

「そんなもんに怯むかよ! 行くぜ!」

 

 迫り来る車輪は、片方が真っ直ぐに、もう片方が軌道を変えて大きく回り込む。二つの車輪によって、挟み込もうという魂胆である。

 ダイヤはまず、右手のトマホークで正面から来た車輪を叩く。激しく回転する車輪と、トマホークの刃がぶつかり合い、火花を散らす。

 その隙を狙って、もう片方の車輪が側面から迫ろうとする。

 

「甘いんだよ!」

 

 しかし、ダイヤは左手に握ったもう一本のトマホークを、車輪に向かって投げる。トマホークは回転しながら自由自在に空を飛び、車輪の真上から命中する。

 回転の軸となっていた部分を攻撃されたことで、車輪は回転を止めて爆散する。

 それを確認したダイヤは、手元のトマホークを両手で握り、力を込めて目の前の車輪を両断する。切り裂かれた車輪は爆発を起こし、炎につつまれる。

 空を駆けて戻ってきたトマホークが爆炎をかき消すと、その中からダイヤが現れて、トマホークを受け止める。

 ベリアルはそれを見て、数歩後ずさった。

 

『なんという力……! まさか私達よりも強いって言うの!?』

「当たり前だろうが。オレの、ミカエルの力を舐めんなよ?」

 

 驚愕するベリアルに向かって、トマホークの先端を突きつけて、ダイヤは笑う。

 そうして前に進もうとした時、鋭い殺気がダイヤの全身に襲いかかった。

 

「ッ! この殺気、ハヤトか!」

 

 ダイヤはベリアルの遥か後方に視線を向ける。

 そこには、スーツのポケットに両手を入れて、こちらを見つめるハヤトの姿があった。ダイヤが気付いたことを確認すると、闇のオーラを纏ってその場から消え去る。

 

「野郎……着いて来いって言ってんのか」

『させませんよ!』

 

 ハヤトの方に気を取られているのを隙と判断したのか、ベリアルは再び両手にエネルギーを貯める。

 それはすぐさまビームとなって、ダイヤへと向かっていく。

 

「させるかぁ!」

 

 しかし、その前に立ちはだかるのは、カズキであった。

 ヘルズロッドを盾代わりに構えて、ビームを防ぐ。

 

「ぐっ……負けて、たまるかよぉ!」

 

 最初はビームの威力に押されてしまうが、すぐに気合いを入れてヘルズロッドを振り抜く。 

 ビームは明後日の方向に飛ばされて、ダイヤに当たることはなかった。

 

「カズキ、お前大丈夫なのか?」

「これくらい平気だ。それよりも、お前はあの男の所へ行けよ」

 

 カズキがそう言うと、ダイヤは少し驚いてみせる。

 

「それは……良いのか? お前だってしんどいはずだろ」

「さっきまで休んでたからな、もう平気だ。それに策も考えてある――アイツと決着をつけるのが、お前の望みなんだろ。だったらこんなところで足止めされてる場合じゃないだろ」

「――ありがとよ、ダチ公」

「ダチじゃない、仲間だからな」

 

 フッと笑うカズキ。その言葉を受けて、ダイヤも意を決する。

 背中の外套に描かれた翼が光ると、赤い翼が実体化する。それを羽ばたかせると、空に浮かんで飛び立つ。

 猛スピードで飛び去って行くダイヤを見送り、カズキはベリアルに向かって語る。

 

「さあ、今度こそお前を倒してやるぞ」

『……フン、先程まで私達に勝てなかった貴方が、一人でどうにかなるとでも?』

「ああ、その策を見せてやる」

 

 そう言いながら取り出したのは、海坊主と鎌鼬のアヤカシバレット。その二つを、ドライバーのスロットに装填して、真ん中上部のボタンを押す。

 

《バレットミックス!》

《ゴクオー・ウラ・ウォーター・ウインド!》

 

 ドライバーから電子音声が鳴り響くと、青と緑の光がカズキの身体を包み込む。

 更にカズキは、ドライバーから温羅バレットを取り出して、ヘルズロッドの柄にあるスロットに差し込んだ。

 

《ファイナルバレット!》

《獄王温羅爆砕斬!》

 

 ヘルズロッドに赤黒いエネルギーが集まり、棍棒の棘が長く伸びる。更にそこに、水と風の力が宿り、渦を描き始める。

 カズキはそれを横薙ぎに振り払った。

 

「ハアッ!!」

『ッ! これは……!』

 

 ヘルズロッドから放たれるエネルギー、それは水を纏った風となる。徐々に大きくなったそれは、巨大な竜巻となってベリアルへと襲いかかる。

 逃れる間もなく飲み込まれると、竜巻の回転によって空に浮かび上がる。更に元々の必殺技に備わった攻撃力が、ベリアルの身体を痛めつける。

 

『ぐうっ……があっ!?』

 

 竜巻の頂点から吹き飛ばされて、ベリアルは地面に落ちる。

 

 カズキはその隙を逃さず、次の一手を打つ。

 

《バレットミックス!》

《ゴクオー・ウラ・グランド・ブリザード!》

 

 次にドライバーに装填するのは、塗壁と雪女バレット。更に、ヘルズロッドの柄を90度折り、形態を変える。

 

《カノンモード!》

《ファイナルバレット!》

《獄王温羅爆発弾!》

 

 必殺技を発動させると、ヘルズロッドの銃口に茶と白のエネルギーが収束する。それらが丸い砲弾のような形になったところで、カズキは引き金を引く。

 土でできたところに氷で固められた砲弾、それが立ち上がったベリアルの身体に命中する。

 

『ガハァ……!?』

 

 炸裂した弾丸は、土がベリアルの両足にまとわり付き、地面に固定、更に氷が上半身に広がり、身体を動かせなくなる。

 

『くっ……動きが……! まさか、ここまでやるなんてね……!』

「人間を舐めるな、ということだ!」

 

 カズキはヘルズロッドを投げ捨てると、残る二本のアヤカシバレットをドライバーに装填して、ドライバー上部中央のボタンを二回押す。

 

《バレットミックス!》

《ゴクオー・ウラ・フレイム・スパーク!》

《ファイナルバレット!》

《獄王温羅爆裂脚・炎雷(えんらい)!》

 

 カズキの身体に宿るのは、鬼火の炎と雷獣の雷。右足に炎、左足に雷が収束すると、カズキは空高く跳躍する。

 空中で前方に一回転すると、両足を突き出す形でベリアルへと向かう。

 

「ハアァァァァ!!」

 

 炎雷を纏った両足蹴り、それがベリアルの胴体に炸裂して、大きく吹き飛ばした。

 

『ぐうっ、があぁぁぁぁ!?』

 

 ベリアルは悲鳴をあげながら、地面に転がる。やがて、ゆっくり立ち上がるが、全身に火花とスパークが走る。その姿は最早立つことがやっとという有り様だった。

 

『あっ……ああぁぁぁぁ!!』

 

 ベリアルは内側から吹き出すエネルギーによって、大爆発を起こして消滅した。

 それを見届けたカズキも、変身が自動で解除されて、その場に倒れ込む。

 だがそんな彼を、戻ってきた早苗が受け止める。

 

「早苗……」

「――全く、相変わらず無茶するわね。さっきの重ねがけ、滅茶苦茶苦しいから父さんもやらなかったのに」

「ああ……悪い、またこれしか思いつかなくてさ……」

「もう、分かってるわよ。アンタはそういう男だからね」

 

 苦笑しながら謝るカズキに、早苗も笑顔で返す。

 やがて、カズキの視線はダイヤが向かった方へと向けられる。 

 

「でも、もう俺は動けないな……あとはダイヤに託すしかない」

「ええ、元々のアイツの問題だもの。任せましょう」

 

 そう言うと、二人はダイヤへと思いを馳せるのだった。

 

 ★

 

 ハヤトは街から少し離れた廃工場に移動していた。

 廃工場の中で、穴の空いた天井から差し込む光を眺めている。

 そうして過ごしていると、甲高い高速音と共に、翼を広げたダイヤがやって来た。

 

「来ましたね、ダイヤ。いよいよ私達の決着を付ける時が来ましたよ」

「何が決着の時だ、テメェがのらりくらりと引き伸ばしてただけだろうが」

 

 笑みを浮かべて言うハヤトに対し、仮面の下でダイヤは怒りを表す。

 ハヤトはそれを軽く流しながら、話し始める。

 

「引き伸ばしていたつもりはありませんでしたよ。私は貴方を妖怪にしたい。そのためにも貴方にも力を求めて貰いたかった。そうすれば、私と同じように人の魂を持ったまま、妖怪の力を手に入れられる」

 

 そう言うと、ハヤトは懐から一本のアヤカシバレットを取り出す。そこには赤い鱗を持ち、両手両足が発達したトカゲが描かれていた。

 ダイヤはそれを鼻で笑う。

 

「オレが妖怪みたいなバケモノに成り下がるわけないだろ。そもそもそんなことをして、お前に一体何の得があるってんだよ?」

 

 ダイヤの問いに、ハヤトは真顔になると、両腕をポケットに突っ込む。

 

「私はね、永遠に戦いを楽しみたいんですよ」

「何っ……?」

「戦いは私にとって、最高の娯楽でした。命を賭けた殺し合い、刹那の得物のやり取り。それら全てが私の心を満たしてくれた――それは貴方も同じでしょう?」

「…………」

「特に貴方と戦う時が、一番楽しかった。私と同じ思想を持ち、私と同じ強さを誇る男。貴方こそが、私にとっての好敵手だと思ったのです」

 

 そこまで言うと、ハヤトは右手を前に差し出いて、ダイヤへと向ける。

 

「しかし、人間である以上、いつかは老いて死に絶える。それは絶対に避けたい。だからこそ、私は妖怪になることにしたんです。妖怪は半永久的に生きることが出来る。そうすれば永遠に戦いを楽しむことが出来る」

 

 ハヤトはその瞳に狂気を宿しながら、言葉を続ける。

 

「だから貴方を妖怪にしたいんです。私と共に、永遠に戦い続けましょう。それこそが私の望む『高み』なのです」

「――バカバカしくて耳が腐るかと思ったぜ」

「……なんですって?」

 

 ダイヤは頭を掻いてから、正面から狂気に満ちた瞳を受け止める。

 

「確かにオレは戦いが好きだ。でもそれは人間だからこそ意味があるんだよ」

「どういう意味です? 脆弱な人間であることに拘る必要など――」

「そんなの決まってるだろ。オレには戦いよりも大事なもんがいくらでもある。レイも、死んでいったアイツらも――お前のことだってそうだった」

 

 ダイヤの言葉に、ハヤトは眉を寄せて訝しむ。

 

「オレはお前やアイツらと一緒に、妖怪と戦って、くだらないことで笑って、当たり前の生き方が出来ればそれで十分だった。戦いを楽しむのは、おまけみたいなもんだ」

「――馬鹿な、あれだけ戦いを楽しんでいたのに、それを重要視していない? そんなことがあり得るのですか」

 

 ここで初めて、ハヤトは動揺を見せる。

 ダイヤはあくまでも淡々と語り続ける。

 

「オレはただの人間だ。それが長い人生の中で、楽しみが一つなわけない。戦いも、ダチも、オレを作る要素の一つでしかない。でも、それが等しく大切なんだ。まあ、オレもレイから教えてもらったわけだが」

 

 軽く笑ってから、トマホークを取り出してハヤトに向けるダイヤ。

 それを受けて、ハヤトは眉間に指を当てて、首を横に振る。そして、アヤカシバレット取り出して起動する。

 

《ルシファー!》

 

「そういうことなら仕方ありません。貴方の心をへし折って、私と共に来てもらいましょう」

 

 灰色の堕天使――ルシファーへと変身したハヤトは、自らの周囲に氷を生み出しながら、そう言う。

 ダイヤはハッと笑って、トマホークを振り回す。

 

「要するに力付くってわけだ。脳筋にも程があるな!」

「それを貴方が言いますか」

「良いぜ、なんだかんだ言ってもそっちの方が分かりやすい! 納得するまでぶん殴ってやるよ!」

 

 二人がその場で構えると、次の瞬間にはぶつかり合う。 

 ダイヤのトマホーク、ハヤトが氷で作ったレイピアが、激しい火花を散らす。

 何度かぶつかり合った後、お互いに背後に飛び退いて距離を取る。

 

「私が壊したミカエルバレット、どうやらより強くなって帰ってきたようですね!」

「おかげさまでな! 昔と違うってところを見せてやる!」

 

 そう叫ぶと、ダイヤは二本目のトマホークを取り出す。そして、二本のトマホークの柄を合体させると、両刃剣のような形状にする。

 更に、トマホークを地面に突き刺すと、両腕に付いたリングを腰のバックルに連続でかざす。

 

《ファイナルジャッジメント!》

《クルセイド・ミカエル・ダイナマイト!》

 

 電子音声が鳴り響くと、ダイヤはトマホークを引き抜き、振り被って力を込める。

 

「ダブルトマホークゥ! ブーメラァン!!」

 

 叫ぶと同時にダブルトマホークを投げ飛ばす。銀色の刃が、高速で回転しながらハヤトへと迫る。

 

「くっ! こんなもの!」

「させるかよ!」

 

 ハヤトが避けようとすると、ダイヤが手を動かす。すると、空を飛ぶトマホークがダイヤの意思に従って、自在に動き出す。

 ハヤトの動きを先読みして、逃げる方向から逆に切り裂く。

 

「ぐうっ! やってくれますね!」

 

 ハヤトは氷を盾にして直撃は防ぐ。しかし、その衝撃で吹き飛ばされ、懐から一本のアヤカシバレットを落としてしまう。

 ダイヤはそれを拾って、手に取る。

 

「そういや、こいつをオレに使わせたかったんだっけか。それならお望み通りに使ってやるよ」

「なんですって……?」

 

 ダイヤが力を込めると、ミカエルの聖なる力がアヤカシバレットに流れ込む。

 すると、バレットの色が黒から銀へと変わる。

 

「まさか、妖怪の魂を浄化したのですか……!?」

「なるほど、カズキの使ってた力か。便利なもんだぜ!」

 

《サラマンダー!》

《モンスバレット!》

《サラマンダー・アームズ!》

 

 ダイヤがSMGにアヤカシバレットを装填して起動すると、その四肢に赤いトカゲの両腕と両足を模した装備が装着される。

 

火蜥蜴(サラマンダー)か。この前のシルフだのウンディーネだのノームだのと言い、クルセイド(オレ)への当てつけか?」

「――そんなところですよ。悪いですか」

「そこで開き直るのはダサいだろうよ」

 

 ダイヤがそう言うと、走ってハヤトへと接近する。

 両腕の蜥蜴の爪で、ハヤトを切り裂き、両足で力強く蹴り飛ばす。

 ハヤトはそれを受けて、立ったまま大きく吹き飛ばされる。

 

「くっ! やはり貴方に相応しい力ですね……! 私の見立ては正しかった!」

「知ったことかよ!」

 

 ダイヤは四肢の装備を解除して、SMGの銃床を三回引いて、引き金を引く。

 その後、両手でSMGを構える。

 

《ファイナルバレット!》

《クルセイド・ミカエル・ボンバー!》

 

 赤いエネルギーが放出されると、SMGの形がライフル状へと変化する。その銃口に弾丸が形成されると、ダイヤは引き金を引いた。

 

「喰らえぇ!」

「ぬおぉぉぉぉ!!」

 

 放たれた一発の真紅の弾丸、それがハヤトへと迫る。

 ハヤトはレイピアを中心に氷の壁を形成、それをもって弾丸を受け止める。

 だが、灼熱の炎を纏った弾丸には大した効果はなく、すぐに突破され、右肩を貫かれる。

 

「ぐうっ! これほどとは……!」

「ハヤト、テメェの考えがどんなもんであろうと、オレには関係ねえ。今はお前をぶっ倒す!!」

 

 ダイヤは叫び、今度はSMGの銃床を二回引いてから、引き金を引く。

 

《ファイナルバレット!》

《クルセイド・ミカエル・ストライク!》

 

 ダイヤはSMGを投げ捨てると、背中の外套から翼を広げる。そして、地面を蹴って上空へと舞い上がる。

 廃工場の天井ギリギリまで飛び上がると、そこで停止して翼を大きく広げる。

 天井に空いた穴から差し込む陽の光、それを背中から浴びて宙に浮くダイヤの姿は、まるで天から遣わされた天使のようであった。

 その様を見て、ハヤトは言葉を失う。

 

「……っ!」

「これで、終わりだぁ!!」

 

 ダイヤがそう叫び、態勢を変えて地面に向かって飛び込む。

 ――そう思った時には、キックの構えでハヤトの目前に移動していた。

 

「っ!?」

「ハアァァァァ!!」

 

 瞬間移動と見紛う程のスピードで接近してからのライダーキック。それはハヤトの身体の中心を貫き、通過していく。

 十メートルは飛んでいくと、ダイヤは地面に着地する。そして――

 

「……見事ですね、ダイヤ……ぐわぁぁぁぁ!!」

 

 ハヤトの体内から膨大なエネルギーが溢れて、大爆発を起こした。

 爆炎を背景に、ダイヤはゆっくりと立ち上がり、変身を解除する。

 そんな彼の眼の前に、一人の人物が現れる。

 

「ダイヤさん……」

 

 複雑な表情を浮かべるのはレイ。ダイヤと後ろの炎を交互に見て、重苦しく口を開く。

 

「ハヤトさんは、死んだんですか?」

「――いや、多分死んでねえ。まだ生きてる」

 

 レイの問いかけに、ダイヤは静かに答える。

 

「本気になり切れなかったかな。微妙に手加減しちまった。それでも大分ダメージは与えたとは思うけどな」

「そう、ですか。ならまた戦わないといけませんね」

「ああ、次はちゃんとやってやる。心配すんな」

 

 そう言って、ダイヤは歩いて廃工場を去っていく。 

 レイはその背中をしばらく見つめていた。

 

「……どれだけ理屈を並べていても、親友殺しは辛いはずですよ、ダイヤさん」

 

 そう呟いて、レイも跡を追って去っていくのだった。

 

 ★

 

 全身がボロボロになり、顔も血まみれになったハヤトは、息も絶え絶えといった様子で、拠点まで戻ってきていた。

 だが、最早歩くこともままならず、近くにあったソファに倒れ込む。

 

「ハア……ハア……流石はダイヤ、ここまで強くなるとは……」

「兄さん、大丈夫ですか?」

「うわぁ、ここまでボロボロになってるの初めて見たよぉ」

 

 声のした方へ視線を向けると、そこにはスノーとレーナが居た。だが、二人共ハヤト以上に傷ついており、お互いに片腕を失くしていた。

 

「貴方達も負けたのですか……あの青年も中々やりますね」

「ええ、おかげで私達の命も、あとわずかになりました」

「もう一時間も保たないで死んじゃうねぇ。こんなことになるなんて、考えてなかったよぉ」

 

 普段通りの口調で淡々と語る二人。それを聞いて、ハヤトは少しだけ申し訳なさそうな顔になる。

 

「……貴方達には、悪いことをしましたね」

「――そんなことは言わなくても良いです。どうせ最初から私達を利用するつもりだったのでしょう」

「そしてそれは、私達も同じなんだよねぇ」

 

 そう言うと、スノーとレーナはゆっくりとハヤトへと近付く。

 そして、自分達のアヤカシバレットを取り出して、ハヤトへと差し出す。

 

「このままでは全員が死にます。なので、私達の力を貴方に託すことにしました」

「この中で一番怪我がマシなのは貴方なんだよねぇ。だから貴方に押し付けるのが一番マシってことになったの」

「それは……いや、しかし……」

 

 突然の提案にハヤトも困惑する。

 だが、スノーは有無を言わせる気は無かった。

 

「貴方が私達を利用して、自分の望みを叶えようとしていることくらい、最初に会った時から知っています。それでも私達は貴方に従うことが、我々の利益になると判断したのです。そして今も」

「私達にとって一番大切なのは、妖怪が繁栄することなの。そのためには貴方を利用するのが一番良いって思ったんだよ」

「そういうことです。もしも、ほんの僅かにでも罪悪感とやらを感じるのであれば、最後まで責任を背負いなさい――ルシファー」

 

 二人の言葉を受けて、ハヤトは覚悟を決める。

 二本のアヤカシバレットを受け取り、自らの身体に突き刺した。

 それと同時に、スノーとレーナの身体が崩れていく。

 

「――ありがとう、そして申し訳ない」

「全くです、貴方のような半端者に期待を賭けるなど、私も焼きが回りました」

「私は楽しかったけどねぇ。まあそれもここまで。バイバイ」

 

 そう言って、最期に笑みを浮かべた二人の身体は、塵となって消えていった。

 それを見届けて、ハヤトは改めて決意する。

 

「私の望み、妖怪としての役割――どちらも叶えなければなりませんね」

 

 そう言って立ち上がるハヤトの背には、新たに手に入れた灰と桃の翼が生まれていた。

 

 ★

 

「なんだ、パイモンとリリスが死んだのか」

 

 同じ頃、どこかの路地裏で九千坊がそう呟く。その手には、無惨に潰された人の頭蓋が握られていた。

 

「ええ、それであの半端者に力を託して消えたみたい。まるで三文芝居みたいね」

 

 自らの手の上に乗せたカラスを撫でながら、女天狗が答える。その口元には血で飾られていた。

 また、その足元にはぬらりひょんを封印している《祠》の残骸があった。ハヤトから聞いた情報を元に、実際に確かめに来たのだ。

 

「まあ、仕方ねえな。人間なんかに情を持つような奴が悪い。人間は利用するのが一番楽しいってのに」

「言えてるわね。今もこうして、新しい玩具を作ってるわけだし」

 

 そう言って笑う二体。悍ましい妖怪の本性が現れた会話だった。

 ふと、九千坊が思い出したように聞く。

 

「そういや、酒吞はどこに行った? 俺達に《祠》を押し付けてまで」

「さあ? どこかの街に行くとは言ってた気がするけど」

 

 ★

 

 一方その頃、酒吞童子はとあるビルの屋上に立っていた。

 かなりの高さを誇り、眼下の街を一望できる。そんな場所で酒呑童子は思案していた。

 

「我らが主、ぬらりひょんの封印。あれは肉体のみを封じている物。これではただ復活させたところで、魂の無い木偶人形が出来上がるだけだ。なんとかして魂を取り戻す手段を見つけなければならない」

 

 そう一人で呟く酒呑童子。その手の中には、二本のアヤカシバレットが握られていた。

 一本は九本の尾を持った巨大な狐、もう一本には無数のガラクタをつなぎ合わせたような巨大な怪物が描かれていた。

 それらを手の中で弄びながら、酒呑童子は眼下の街を見つめる。

 

「この街に、我らに似た気配を感じた。それが役に立つ物であれば良いが――」

 

 そう呟く酒呑童子が見つめる街。

 それは、街の至るところに水路が張り巡らされ、その中心に巨大な風車が付けられたタワーがそびえ立つ街。

 自然とエコロジーが調和した美しい街――『水都』と呼ばれる街であった。

 




 ここまでお読みくださり、ありがとうございます。

 今回は詰めに詰め込んで、過去最高の約24000文字という大長編になってしまいました。
 読むのがしんどくなってしまったのなら申し訳ないです。ですが、これでやるべきことはやりきったかと思います。
 第二章では、二号ライダーである赤獅子ダイヤが中心となって物語を展開していました。書いていて楽しいキャラでしたが、それと同じくらいしんどいキャラでもありました。自分の思う理想的な個性を詰め込んで、予定にない行動や展開を生むこともありました。
 もちろん、主人公である桜井カズキも、負けないくらいに個性を生めたかなと思います。第二章では少し影が薄くなった感じもあるので、次の章ではもっと主人公らしく活躍させたいですね。
 キャラの話では、スノーとレーナは今章で退場となります。今作では初めてのレギュラーキャラの退場ですね。悪役として十分に役割を果たしてくれたと思います。もちろんもっと輝かせてあげたかったとも思いますが、これはこれで良かったかと。

 ちなみに、最後の酒呑童子のシーンは、いわゆる劇場版への前フリとなります。公式でもたまにやってるアレです。一応コラボ作品の予定です。
 いつ投稿されるのかについては――私も分かりません。私が書くわけではないので。投稿が始まったら、お知らせしようと思います。

 あと最後に、今年の更新はこれで最後になると思われます。設定資料くらいは出るかもしれませんが、獄王本編の更新は無いです。
 第三章以降の話、設定、キャラクターなどを大幅に見直そうと思います。そのためにしばらく時間をいただきます。また、他のやりたいことをやっておこうかと。

 長くなりましたが、いつも今作を読んでいただき、ありがとうございます。
 読者の皆様が居てくださるからこと、私も頑張ろうと思えます。
 それでは今回はこの辺で。
 次回もお楽しみに。
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