仮面ライダー獄王(ゴクオー)   作:アカミツ書庫

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 どうも、パルデアチャンピオンのアーニャです。
 そしてすまないね、『また』なんだ。
 前回の最後から続いていますので、忘れた方はぜひそちらもお読みください。
 それでは、どうかお楽しみください。


第四話 妖怪の山・前編

 突如現れた妖怪・酒呑童子。彼はゆっくりと歩きながら、目の前にいる者を見ていた。その視線の先には、立ち上がるカズキがいた。

 その姿を一瞥(いちべつ)すると、酒呑童子は口を開いた。

 

「獄王、我ら妖怪に歯向かう人間の守護者。幾分か前に殺したはずだが――」

「…………」

 

 対するカズキは無言で構える。喋らないのではない。喋ることが出来なかった。目の前にいる強敵から、一瞬たりとも気を抜けないからだ。

 

「生きていたのか、それとも成り代わりか。まあ、どちらにせよ再び現れたのであれば、もう一度始末するのみ」

 

 そう言うと、酒呑童子は右手の大剣を肩に乗せるように担ぐ。そのまま歩き続け、カズキの元へと接近してくる。

 カズキは視線を正面に向けたまま、背後にいる早苗達に声をかける。

 

「早苗、南さんを連れてここから逃げてくれ。今すぐに」

「馬鹿言うんじゃないわよ、アンタ一人で奴と――」

「今ここで全員死ぬのが一番マズイんだ! いいから早く逃げろ!!」

 

 怒鳴るようなカズキの叫びに、早苗は口をつぐんだ。そして考える。

 確かに今の自分達に出来ることは何もない。冷静になれば分かることである。それを忘れてしまうほど、今の自分は焦っているのだと、早苗は痛感した。そしてそれは、目の前の男も同じであるとも。

 早苗は一息吐くと、落ち着いた声音で喋る。

 

「――分かったわ、アタシ達は逃げる。殿は任せたわよ」

「ああ、とにかく遠くへ、ここから離れてくれ」

「言われなくてもよ。――アンタも必ず生き延びなさいよ。死んだらあの世まで引っ叩きに行くから」

「それは困るな。――大丈夫、必ず生き延びてみせるよ」

 

 互いに微笑を浮かべながら――顔こそ見えていないが――そう言葉を交わす。そして早苗は地面に置いていたジャミング装置を手早く回収し、隣にいる文香(あやか)の手を引く。

 

「さあ、逃げるわよ。ここにいたら危ない」

「え、ええ。でも……」

「今は死なないことだけを考えなさい。大丈夫、アタシと一緒なら安全だから」

 

 この状況をまだ飲み込めていない様子の文香だったが、無理矢理手を引っ張られてその場から動き出す。そうして二人は逃げ出して行った。

 それを背中で感じ取ったカズキは、一つ大きな息を吐いて呼吸を整えた。

 

(二人はきっと大丈夫だ、俺がアイツを抑え込むことができればーー)

 

 そんなカズキの内心を知ってか知らずか、酒呑童子が口を開く。

 

「女共は逃げたか。まあ特段興味があるわけでもない、構わんがな」

「…………」

 

 ゆっくりと近付いてくる酒呑童子、それに対してどう動くべきか思考するカズキ。

 やがて、両腕の爪を展開しながら、カズキーー獄王・イヌガミバレットは走り出す。そのスピードは目を見張るものがあり、一気に接近して急所を貫くつもりだった。

 酒呑童子は慌てる様子もなく、大剣を無造作に振り下ろす。その動きは本気など微塵も感じられず、緩慢とも言えるスピードだった。

 だが、その動きを見た瞬間、カズキは全力で右に向かって跳んでいた。生物としての直感が、命の危機を伝えてきていた。

 瞬間、振り下ろされた大剣は風を切る轟音と共に地面を抉った。一撃でアスファルトが数メートルに渡って砕け散り、中心部分は一メートルはあろうかという深さの穴が空いた。

 

「――――ッ!!」

 

 カズキは戦慄した。一撃の威力だけでなく、そのスピードにも。

 ゆっくりに見えていたのは動きが遅いからではない。全神経を集中させてようやく知覚出来たが故の現象。つまりは()()()()()()()()()()

 地面を転がり、回避と同時に距離を取る。およそ十数メートルの間があるが、微塵も安心することは出来なかった。

 

(冗談じゃない、パワーとスピードを高いレベルで兼ね備えているなんて、悪い話にも程がある――!)

 

「なんだ、威勢良く向かってきた割には簡単に逃げるのだな。以前ならもっと果敢に挑んできたものだが」

 

 内心で焦るカズキを見透かすように酒呑童子は言う。

 それには答えず、カズキはヘルソードと白い肌の女が描かれたアヤカシバレットを取り出す。そしてアヤカシバレットを剣の柄部分に装填する。

 

《ユキオンナ!》

《アヤカシバレット!》

《ユキオンナ・ブリザード!》

 

 そうすると、カズキの周囲に円錐型の氷の結晶――氷柱が複数現れる。その数、十本。

 カズキはヘルソードを右肩の上に大きく引くようにして、構える。

 

「ハアッ!」

 

 気合いの声と共に剣を突き出す。すると周囲に浮いていた氷柱が全て同時に、酒呑童子に向かって発射される。

 氷柱はかなりの勢いを持って迫っていく。しかし、酒呑童子は焦ることもなく左手の瓢箪の栓を抜いた。開いた注ぎ口から溢れ出すのは、酒であった。

 酒呑童子は瓢箪を持ち上げ、中に入っている酒を口に含む。隙間から溢れるのも構わず、豪快に。やがて、ある程度酒を溜め込むと、正面に向かって吐き出した。

 大量の酒が霧のように宙を舞う。そこに間髪入れず、開いたままの口からいきなり火を吐き出す。火はすぐに酒と反応し、業火へと変わる。その業火は迫り来る氷柱をいとも簡単に溶かし尽くした。

 

「なっ……なんだと……」

「この程度か? つまらんな」

 

 驚くカズキに対し、期待外れとでも言うように吐き捨てる酒呑童子。

 次の瞬間、軽く地面を蹴るとカズキの目前まで迫っていた。あまりの速さに呆気に取られてしまうカズキ。そんな彼に容赦なく、大剣が振り下ろされようとしていた。

 

「――――ッ!!」

 

 あと少しで斬られる、というところでギリギリ反応できたカズキは、ヘルソードで大剣を受け止める。その瞬間、とてつもない重量と力を感じ、思わず歯を食いしばる。

 

「ぐっ……ううっ……!!」

 

(なんてパワーだ……イヌガミの力でも受け止めるのがやっとだなんて……!!)

 

 片手で剣を下ろす酒呑童子、両手で受け止めるカズキ、互角になってもおかしくないはずの状況でも、一方的に押されているのはカズキの方であった。

 そんな状況で、酒呑童子は瓢箪の口をカズキの方へと向けた。

 

「……ッ!?」

 

 何が起こるのかと疑問に思うカズキ、その刹那には瓢箪から巨大な火球が吐き出され、胴体に直撃していた。

 

「があっ……!?」

 

 至近距離で直撃をもらい、なすすべもなく吹き飛ばされる。爆発と熱によるダメージにより、装甲も一部溶けてしまっていた。

 数メートル吹き飛び、地面に転がる。なんとか立ち上がることは出来たカズキだったが、その間に酒呑童子は第二波を構えていた。

 

「クソッ……だったら、ウォォォォォォォォ!!」

 

 傷付いた身体に鞭打ち、大きく息を吸って吠える。イヌガミバレットの持つ能力の一つ、破邪の咆哮である。

 咆哮の波動は瓢箪に作用し、収束していたエネルギーが霧散する。それを見て、酒呑童子は片眉を上げた。

 

「ほう、我の力に干渉してかき消したか。中々面白い力を持っているようだな」

 

 感心したように呟く酒呑童子。それでも怯むことなく、大剣を引き摺りながら歩き始める。

 カズキはこれ以上の戦闘は不可能だと判断し、右腰のホルスターからヘルガンを取り外す。

 

《ヌリカベ!》

 

 続いて取り出したのは、巨大な壁に手足が生えたような妖怪が描かれたアヤカシバレット。それを鳴らし、ヘルガン側面から引き出したマガジンに装填、内部に戻す。

 

《アヤカシバレット!》

《ヌリカベ・グランド!》

 

 電子音声が鳴り響くと、銃口を正面に向けて引き金を引く。放たれたのは灰色の土を纏った弾丸。それは酒呑童子の足元に着弾する。

 すると、突如地面が隆起し始める。警戒して数歩下がった酒呑童子を囲むように、灰色の土が次々と盛り上がり、動きを制限していく。

 やがて、灰色の土はドーム状に固まり、酒呑童子の周囲を覆い尽くした。

 しばしの間、その光景を興味深そうに見ていた酒呑童子だが、やがて一つため息を吐くと、大剣をゆっくりと身体の左側へと構える。

 

「所詮、ただの目眩しか。少しはやるかと思ったが、期待外れのようだな」

 

 そう呟き、大剣を一閃する。横一文字、そう表現出来るほどの正確な動きで正面の壁を切り裂く。さらにそこでは止まらず、自身の身体を回転させて周囲の壁も切り裂く。

 剣の軌道は寸分違わず同じ、一切のズレが無い美しいものであった。そのダメージにより、灰色の壁は完全に消滅した。

 剣を振り切った体勢を解いた酒呑童子は、正面を見る。しかしそこには、すでにカズキの姿は無かった。どうやら視界を完全に塞がれている間に逃げられたようだ。その事実を認識すると、酒呑童子は呟く。

 

「――逃げたか。まあ良い、あの程度の輩ならば、いつでも始末出来るだろう」

 

 そして、酒呑童子はその場で跳躍、一飛びで遠く離れたビルへと飛び、それを連続で行って、姿を消したのだった。

 

 ★

 

 一方、なんとか逃走したカズキは、路地裏で壁を支えにして歩いていた。すでに変身は解けていたが、その姿は全身がボロボロであり、頭部や頬から血を流していた。

 

「ハア……ハア……とんでもない強さだった……」

 

 脳裏に浮かぶのは、酒呑童子の圧倒的な強さ。今の自分では決して勝てないだろうと思わされる程の力の差。

 恐怖に思わず左腕が震える。それをもう片方の腕で無理矢理抑える。

 

「クソッ……ううっ!」

 

 身体が痛み、壁に背を預けてその場に座り込む。最早歩くことすら困難な程に、肉体は疲労していた。

 

「カズキ!」

「桜井さん!」

 

 そんな時、聞き覚えのある声が聞こえて来る。走り寄って来たのは早苗と文香であった。

 

「二人とも……無事に逃げられたんだな、良かった……」

「そんなこと言ってる場合!? こんなに無茶して……早く家に戻るわよ、すぐに治療するから!」

「私も手伝います!」

 

 二人に肩を担がれ、ゆっくり歩き出す。

 (はた)から見れば情けないとも言える姿であったが、カズキはホッとする気持ちを覚えながら、帰路に着くのであった。

 

 ★

 

 戦場から離れた酒呑童子は、高層ビル群を飛び回った後、今度は地上の架道橋を歩いていた。姿は人間態に戻っていたが、白髪の着物を着た男という出立(いでた)ちは、この場に随分とミスマッチであるように見える。最も、周囲には誰もいないのでそれを気にする者は存在しないが。

 

「へぇ〜、あなたが自分から人間に興味を持つなんて、珍しいじゃない」

 

 誰もいないと思われたトンネルの中で、声をかけてくる者が一人。

 酒呑童子が振り向くと、そこには紅白に色分けされた山伏のような服を身に纏い、群青色の髪を持った若い女性――女天狗(にょてんぐ)が立っていた。彼女は琥珀色の瞳を輝かせ、楽しそうに笑みを浮かべていた。

 

「女天狗、何の用だ」

「あら、用が無かったら話しかけちゃダメなの?」

「貴様が用も無く話しかけてきたことなど無いだろう。さっさと用件を言え」

 

 吐き捨てるように言う酒呑童子。そのような対応を受けても、女天狗は笑みを絶やさずに続ける。

 

「別に? あなたが珍しいことをしてるから、様子を見に来ただけよ。そんなにあの人間が気になった?」

「――我らの同胞を狩っている者を、気にかけることが何か問題か?」

 

 無表情を崩さず、酒呑童子は答える。己の感情を表に出さず、相手に心の内を悟らせないようにするのは、彼の癖であった。

 それを理解している女天狗は、怯むことなく会話を続ける。

 

「その割には逃がしちゃったじゃない。放っといていいの?」

「あの程度の輩、いつでも首を落とせる。我らにはそれよりも優先すべきことがある」

 

 淡々と語る酒呑童子。その言葉通り、彼の興味はすでに獄王には無く、己の目的へと向けられていた。

 その言葉を聞いて、女天狗は何かを思い出したように手を叩く。

 

「そうそう、忘れてたわ。私の可愛い手下ちゃんが、例のモノを見つけたそうよ」

 

 その発言に、酒呑童子は初めて女天狗の方を振り向いた。その顔には少々の怒りが滲み出ていた。

 

「貴様、ふざけているのか? 我らの目的を忘れていたなどと、戯言(たわごと)を抜かすのか」

「ちょちょ、待って待ってよ。軽い冗談じゃない、本気にしないでよ」

 

 流石にやり過ぎたと思ったのか、女天狗は慌てて取り成す。

 その様を見て、一つため息を吐いてから、酒呑童子は問いかける。

 

「それで、どこにあったのだ」

「街外れの山の中、ですって。詳しい場所はいつも通り人間を使って調べるそうよ。多分、2〜3日中には見つけられるんじゃない?」

「なるほど。――人間ごときの手を借りねばならぬのは、何度考えても忌々しいな」

「まあ、仕方ないじゃない。私達には見えないんだから。食糧や器だけじゃない使い道があるだけ、マシだと思いましょ」

 

 不愉快そうに呟く酒呑童子、肩をすくめて薄く笑う女天狗。

 やがて、酒呑童子はゆっくりと歩き出した。そして振り向くことなく背中越しに口を開く。

 

「その件は貴様に任せる。貴様の部下が見つけたものだ、好きにさせるが良い」

「あら、そう? なら好きにさせてもらうわ」

 

 女天狗の答えを聞くと、酒呑童子は何も言わずに歩き去って行った。

 その背中を見送ると、女天狗も振り向いて歩き始める。

 

「――せっかくだし、少しくらいつまみ食いしたって良いわよね? 何しろ好きにして良いって言われたんだから」

 

 そう呟くと、舌舐めずりを一つしてから、背中から翼を生やし飛び去って行った。

 

 ★

 

 目が覚めると、見慣れた天井だった。

 目をゆっくり動かして周囲を確認すると、見慣れた机やテレビが見える。どうやら自分の部屋らしい。そうすると、今自分が寝かされているのはベッドだろう。

 そこまで確認すると、カズキはゆっくりと身体を起こした。全身が痛むが治療を施されたのか、大分マシになっていた。頭に触れてみると、包帯が巻かれている。出血もしっかり止まっているようだ。

 そうしていると、部屋の扉が開き、早苗が入ってきた。

 

「良かった、目が覚めたみたいね」

「早苗か、お前が看病してくれたのか?」

「ええ、見様見真似だけどね。父さんにも手伝ってもらって、なんとか収まったって感じよ」

 

 早苗はそう言うと、椅子をベッドの側まで動かし、そこに座る。ちょうどカズキと向かい合う形になる。

 

「……随分無茶したわね」

「……何も言い返せないな。正直、まともな戦いにすらならなかったよ」

 

 カズキは自嘲気味に笑って言う。そんな彼を見て、早苗は真剣な表情のまま続ける。

 

「やはり、妖怪達の幹部は強いわね。アンタもこの一年で相当経験を積んだはずだけど」

「ああ、今のままじゃどうやっても勝てないだろうな。どうにか対策を考えないと――」

 

 そう言って悩むカズキを見ると、早苗の心に小さな不安が宿る。

 強い妖怪との戦いが続けば、必然的にカズキが傷付くことが増える。彼一人に負担を押し付けてしまっている現状で、更なる重荷を背負わせることになる。

 そして目の前の彼は、そんなことを分かった上で無茶をする。一人で苦しみや痛みを抱え込み、何でもないと笑ってみせる。それを想像するだけで、早苗の心は不安に呑まれそうになる。

 そんなことを考えていると、膝の上に置いた拳を思わず強く握りしめる。それを見て、カズキは口を開く。

 

「どうした? 早苗」

「……ごめんなさい、アンタばかりに戦いを押し付けて」

 

 顔を伏せ、消え入るようなか細い声で呟く早苗。いつもの余裕に溢れた態度が嘘のようだ。カズキは改めて向き直りながら聞いている。

 

「本当なら、アタシや父さんが戦っているべきだったのに。いや、今すぐにでもそうするべきなのに。それが出来ないばかりに、アンタに全てを押し付けて……」

「早苗」

 

 諭すような、落ち着かせるような優しい声音でカズキは言う。早苗は思わず顔を上げる。

 

「前にも言ったろ、俺は戦えることをむしろ感謝してる。俺のように妖怪に怯え、苦しめられる人々を出来る限り救えるんだから」

 

 そう言ってカズキは微笑む。

 

「俺は人を殺す妖怪が許せない。それに苦しめられる人々がいることも放っておけない。だから獄王の力が必要なんだ。この力で、俺は山ほどの人を守りたい」

 

 脳裏に浮かぶのは一年前の出来事。

 初めてこの街にやって来た時に起きた惨劇。それを引き起こした一匹の妖怪。目の前で崩れ落ちた異形の戦士。それらに対する憤りが、カズキにとっての戦う原動力であった。

 二度とあんな悲劇を見ないように――そう思って今日まで戦ってきたのだ。

 

「……敵わないわね、アンタには」

 

 その真っ直ぐな正義感に、何度救われてきたのだろうか。きっとこれから先も、迷い苦しむ度に彼の真っ直ぐさに引っ張られて、立ち直ることになるのだろう。

 そう思いながら早苗も微笑む。

 

「アンタに頼りっぱなしになるのなら、せめて負担を減らせるようにヘコむのはやめないとね!」

「その意気だ。やっぱりお前はそうやって自信たっぷりに振る舞ってる方が似合うよ」

「あら、その自信はアンタの活躍に左右されるんだからね。きちんと働いてもらうわよ、仮面ライダーさん?」

「ハハハ、そいつは責任重大だな。なら、さっさと怪我を治さないとな」

 

 笑いながら語り合う二人。特に早苗の方は先程までの不安が解消され、朗らかに笑っていた。

 そうしていると、部屋のドアがノックされた後に開かれる。入ってきたのは文香であった。

 

「桜井さん、大丈夫ですか?」

「ええ、なんとか」

 

 カズキの返答にホッと胸を撫で下ろし、文香はベッドへと近付き、カズキ達を真正面から見据える。

 

「桜井さんが休んでいる間に考えてみました。私も協力させてください」

「っ! それは、本当に良いんですか?」

 

 思わず問いかけるカズキ。それに対して、文香は胸に手を当てながら答える。

 

「私はただの人間ですが、あんな惨劇を見てしまえば、黙っていられません。それに私はジャーナリストです。良くも悪くも真実を知り、誰かに伝えることが使命だと考えています」

「……その誰かが、アタシ達だけだとしても?」

 

 次いで問いかけるのは早苗。椅子から立ち上がり、文香を真っ直ぐに見つめる。

 

「ーーええ。ジャーナリストとしても、あんなものは人に知られるべきではない。余計な混乱を生むだけです。ならば、その真実を正しく扱ってくれる人のために動くことが、私のやるべきことだと思います」

「…………」

 

 決意の込もった文香の言葉に、早苗は沈黙する。そのまましばらく黙っていたが、数分経ってようやく口を開いた。

 

「……分かったわ、あなたにも手伝ってもらう。精々死なないようにしながら、妖怪の情報を持ってきて欲しい」

「っ! はい、よろしくお願いします!」

 

 早苗の言葉に、文香はパァッと顔を輝かせる。そのまま手を取り、強く握手を交わす。

 突然の行動に戸惑う早苗であったが、振り払うのも悪いと思ったのかなすがままになっていた。

 そんな二人の様子を見ながら、カズキはこれから先の戦いにもわずかな希望を見出し、安堵するのであった。




 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
 そして申し訳ない、また次回に続く形になりました。
 本来なら1話に収める予定でしたが、あまりにも長くなったので分割することにしました。これも遅筆の弊害ですね、精進します。
 続きは今年中に更新予定です。のんびりお待ち下さい。
 
 それでは今回はこの辺で、感想・お気に入り登録などもぜひよろしくお願い致します。
 次回もお楽しみに!
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