今回は難産でしたが、その分の読み応えはあると思います。
それではご覧ください。
妖怪共の溜まり場、そこには女天狗と九千坊がいた。二体は椅子に座って向かい合いながら、談笑に華を咲かせていた。
「というわけで、獄王を利用して祠を見つけ、ぶっ壊してきたってわけだ」
「やるじゃない。これで残りの祠はあと六つね。この調子なら、案外早く終わりそうね」
笑いながら語り合う二体。目的が順調に果たされていることに、上機嫌であった。
「まだ油断はできん。これからはより慎重に事を運ぶ必要がある」
そんな空気を打ち消すような冷たい声が部屋に響く。二体が入り口に目を向けると、そこには酒呑童子が立っていた。
「なんだよ酒吞、せっかく良い空気だったのによ」
「そんなことは分かっている。だが、事が上手く運ぶ時こそ、足元を掬われるものだろう。追い詰められた人間は、何をしてくるか分からん。警戒は決して怠るべきではない」
「そうは言ってもねえ。人間に出来ることなんてたかが知れてるじゃない。私達には関係ないと思うけど?」
「我らとて不滅であれど不死身ではない。これまで多くの同胞が人間の、特に獄王などと言う者に葬られたことを忘れるな。今の我らには、更なる力が必要だ」
酒吞童子の説教に、二体は顔を見合わせて辟易する。
元来妖怪としての使命に真っ直ぐな酒吞童子は、自分達の立場が有利になっても、決して気を抜くことはなかった。おかげで二体は面倒を受けることが多かったが、彼にとってはどこ吹く風であった。
「分かった分かった、気は抜かねえよ。それで何をするんだよ?」
両手を挙げて降参を示しながら、九千坊が問いかける。すると酒天童子は、背後の入り口の方へ視線を向ける。
「入ってこい」
酒天童子がそう言うと、入り口から一人の女性が入ってくる。
黒い長髪を携え、頭には衣笠を被り、そこから垂れた布で顔を隠している。服装は紫を基調とした着物で、小ぶりの木箱を両手に抱えている。
女性は部屋に入り、三体の前まで歩くと、その場に跪き口を開く。
「皆様、お久しぶりでございます。酒呑童子様が配下、
「あら~妖妃ちゃん久しぶり。五百年ぶりくらい?」
「恐れながら女天狗様、五百六十八年ぶりにございます」
女性――文車妖妃は口元に笑みを浮かべながら答える。そして立ち上がると、酒呑童子の隣まで移動した。
「んで? そいつを使って何をする気だよ、酒吞」
九千坊の問いに、酒呑童子は淡々を答える。
「我らの力を更に引き上げるために、この文車妖妃の力を使う。此奴が集めた力を我らの同胞に分け与えることで、より強力な力を手に入れるのだ」
「ほほう、確かにこいつなら出来るだろうな。だが、そんなことをする必要があるのか?」
「無論だ。手っ取り早く戦力を整え、人間の狼藉を完全に排除する。そのために必要なことだ」
有無を言わさぬ口調で酒天童子は答える。その瞳は冷たく鋭く、一切の反論は聞かないという態度を示していた。
仕方なく九千坊はお手上げというように、両手を挙げる。
「分かった分かった、お前のやり方に文句は言わねえよ。で、俺らは何をすりゃ良いんだ?」
「我らは此奴の護衛を行う。獄王が現れれば容赦なく叩き潰せ。以前のように、遊びで済ませるようなことはするなよ」
そう言って二体を睨みつける酒呑童子。睨まれた九千坊と女天狗はバツが悪そうに笑う。
「なんだよ、バレてたのか」
「もう、相変わらずそういうところは耳が早いわね」
「貴様らの考えることなど、何もせずとも理解できる。我を舐めるなよ」
その時三体のやり取りを見ていた文車妖妃が、クスリと笑った。三体は思わずそちらを見る。
「失礼致しました。お三方のやり取りが微笑ましかったもので、つい」
「……くだらないことを言わずに、さっさと役目を果たしてくるがいい」
「ええ、承知致しておりますとも」
そう言うと、文車妖妃は一礼してから部屋を後にする。その後を追う形で、幹部の三体も部屋から出ていくのだった。
★
雑貨屋東堂のシャッターは降りたままになっており、そこには『本日臨時休業』の張り紙が貼ってあった。
南文香はそれを確認すると、建物の裏に回り、住居側の玄関の方へと向かう。そちらに備え付けられたインターホンを鳴らし、要件を伝えて中に入る。
一ヶ月程通い、それなりに慣れ始めた室内を歩き、店内と直通するリビングまで向かう。そこには家の主である東堂健児がソファに座っていた。
「こんにちは、南くん。コーヒーで良いかな?」
「こんにちは健児さん。それでお願いします」
会話を交わしながらソファに座り、健児が淹れたコーヒーを口に含む。ふと、室内を見回すといつもいる二人がいないことに気付いた。
「そういえば、カズキ君と早苗ちゃんはどうしたんですか?」
「ああ、二人なら今頃街に出てるよ。まあデートだな」
「へえ~羨ましいですねぇ。一応今日もそれっぽい情報持ってきたんですけど、タイミングが悪かったですかね」
そう言って、再びコーヒーを飲む文香。向かいに座る健児も微笑を浮かべながら。
「まあ、二人とも仲が良いからね。たまにはそういうことも良いだろう」
「あれ、そういえば健児さん的には娘さんが男性と遊ぶことはOKなんですか? 確か一人娘でしたよね?」
文香の問いに、健児は少し困ったように頭を掻きながら答える。
「それは、話せば少し長くなるんだがね。あの子は十年前に母親を亡くしている。そのせいか、自分が強くあらねばならないと思うようになったらしくてね。誰に対しても強気な態度で高圧的に接するようになってしまった」
その言葉に文香は初めて早苗と会った時のことを思い出した。確かにあの時の早苗は、かなり高圧的な態度であった。当初はただ関わらせたくないからそういう態度を取っていたのかと思っていたが、それだけではない理由があったらしい。
「そんなことを中学生の頃から続けていたわけだから、必然的に関わってくれる友達というものも少なくなってしまってね。あの子が本心をさらけだせるような相手がいなかった。少し前までは親である俺に対しても、完全には心を開いているとは言えなくなってしまったよ」
健児は自分のコーヒーカップを手に取り、半分ほど飲んでいく。文香は黙って続きを待つ。
「だが、カズキと出会ってからは少し変わった。早苗はカズキを巻き込んだことに罪悪感を抱いていた。しかし、カズキの明るさと優しさが、そんな罪悪感を少しずつ解きほぐしていった。それに影響されてか、早苗の心境にも変化があったらしくてね、ここ一年で随分態度が柔らかくなったよ。街の人々とも会話できるようにもなったし、君を受け入れるのもかなり早かったよ」
そう言って嬉しそうに笑う健児。その顔はまさしく娘を心配しながらも、優しく見守る父親だった。
しかし文香は、あることを疑問に思う。
「お母さんが亡くなったって、ご病気か何かだったんですか?」
「いや、そうじゃない。十年前、早苗の母親、俺の妻にあたる女性なんだが、彼女は――妖怪に殺されたんだ」
「それは……すみません、失礼なことを聞いて」
「いや、構わないよ。とにかく、そういうことがあってね。俺が先代の獄王として戦っていたのも、それが理由の一つだった。親子揃って復讐に囚われていたわけだ」
自嘲するように語る健児に、文香はかける言葉を見失う。それでも気にせず、健児は語り続ける。
「今となっては、それだけでは戦えないと思い知らされたよ。俺は肉体の限界を迎えて戦えなくなり、早苗も必要以上に意固地になってしまった。だが、カズキと出会って、良い方向に向かうようになっていると思うんだ。だからかな、カズキと早苗が仲良くしていることは、むしろ微笑ましいんだ」
健児はそう笑いながら、残りのコーヒーを飲み干す。最後まで聞いた文香は、コーヒーカップを見つめながら、物思いに耽る。
「どうしたのかな?」
「いえ、なんだか改めて凄いことが起こってきたんだなって。皆さんのこれまでを考えると、私は少し安易に踏み込んでしまったのかもしれないと思いました」
「気にしなくても良いよ。俺達はたまたまそうなっていただけだ。どんな理由であれ、共に戦ってくれる人は心強いものだ」
そう言うと、健児は壁の時計に目をやる。時刻は午後二時を過ぎていた。
「さて、二人は今頃楽しんでいるかな」
その言葉に、気を取り直した文香も頷く。
「そうですね、楽しんでいてくれたら良いですね」
★
渋谷の街は、いつ何時でも人々の賑わいが続いている。
そんな街中でカズキと早苗は並んで歩いていた。カズキは少し浮かない顔をしているが、早苗は周囲の建物や風景を見てテンションを上げていた。
「たまには良いわね、街の方に出てくるのも」
「――そうだな、店があるのは静かな所だから、こういう騒がしい所は新鮮な気持ちになる」
早苗の言葉に静かに答えるカズキ。その様子に早苗は呆れたように息を吐く。
「アンタね、いつまでクヨクヨしてんのよ。確かに祠を短期間に二つも破壊されたのは厳しいわ。でも、それはアンタのせいじゃない。アンタは十分に出来ることをした。それで良いじゃない」
「早苗……でも……」
「過ぎたことを悔やんでもしょうがないわよ。アタシに言わせればアンタは真面目すぎるわ。もっと肩の力を抜いて、気楽に構えなさい」
そう言って早苗は、両手でカズキの頬を挟んで無茶苦茶に動かす。やがて無理矢理笑顔を作ると、満足そうに自身も笑う。
「ほら、今日はそうやって笑う日だから。アタシがアンタを楽しませてあげるわよ」
そう言って、早苗は先へと歩きだした。その背中を見て、カズキも微笑む。
「――そういうことなら、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
その後、二人は街中を巡って行くことにした。
服屋に行けば、互いに似合うと思う服を選び合い、ああでもないこうでもないと言い合う。ゲームセンターに立ち寄れば、対戦ゲームで互いに鎬を削る。本屋に向かえば、流行りの本について感想を言い合い、自分達の好みの本を買ってみたりした。
しばらくして、二人は喫茶店に立ち寄った。外に面したテラス席に座り、ケーキやコーヒーを頼み、舌鼓を打つ。
「うーん、ここのショートケーキ美味しいわね。噂になってるだけあるわ」
「そうだな、こっちのモンブランも中々だった」
そう言って笑う二人。特にカズキの方は街に出た頃の暗い表情から、普段の表情に戻っていた。その顔を見て、早苗も安堵する。
「元気になってきたじゃない。連れてきた甲斐があったわ」
「そうだな、少しだけ気が晴れたよ。ありがとう」
「まあ、アンタに落ち込まれたままじゃこっちも困るからね。これくらいのフォローはするわよ」
「厳しいなぁ」
カズキは苦笑しながら、椅子から立ち上がる。
「どこ行くの?」
「ちょっとトイレにね」
「ん、いってらっしゃい」
カズキは店の中へと入っていく。残された早苗は背もたれにもたれかかる。
「これで少しは立ち直ってくれれば良いんだけどね」
そう呟いて、コーヒーを飲み干す早苗。ふと、往来の方に目を向ける。
街中ということもあり、多くの人々が行き交う往来。まさしく獄王が守るべきありふれた日常というものであった。
そんなことを考えていると、空から何かが降ってくることに気付く。何かと思い上を見上げると、それは紙のようなものだった。
「何……? 紙が降ってる……?」
思わず呟く早苗。思わぬ現象に眉をひそめる。
周囲の人々も何事かと歩みを止めて、空を見上げている。
大量に降り注ぐ紙。そのうちの一枚が手元に落ちてきて、そこに何かが書かれていることに気付く。怪しいとは思うが、何が起きているのか確かめないわけにもいかない。早苗は恐る恐る紙を手に取り、慎重にその内容に目を通す。
紙は和紙のような質感で、書かれているのは十行ほどの文章であった。内容は恋愛について語るようなものであった。
「なんなの一体……」
突然降って湧いた意味不明な事象に、早苗は困惑の声をあげる。周囲の人々も同じように紙を手に取り、困惑の表情を浮かべている。
次の瞬間、紙が光り輝き、身体から何かが吸われるような感覚に襲われる。吸われた何かは紙に集まり、さらに紙からも抜け出し、空へ飛んでいく。
全身から力が抜け、椅子から転げ落ちる。立ち上がるどころか指一本動かすことすらままならない。そのような状況に陥り、早苗は我が身に起こったことを悟る。
「これは……生命力を、吸われている……!? まさか、あの紙を見たせいで……!」
なんとか首を動かし、周囲の状況を確認する。同じように紙を見た人々が地面に倒れ伏している。その数は数十人を超えるだろう。非常に危険な状況だと実感し、早苗に緊張が走る。
「早苗!」
そう叫びながら、店の中からカズキが飛び出してくる。素早く早苗に駆け寄り、その場で抱え起こす。
「早苗、大丈夫か!?」
「え……ええ……正直、かなりキツイわね……全身から無理矢理力を吸い取られたわ……意識を保つことすら、苦しい……」
息も絶え絶えという風に呼吸を乱している早苗を見て、カズキの胸中に焦りと怒りが湧き上がってくる。
「これも妖怪の仕業か、待ってろ、すぐに元凶を叩いて――」
「おやおや、意識を残した方がいらっしゃるとは。現代の人間も、中々頑丈にできているようですね」
この状況に似合わない落ち着いた女性の声。カズキが声のした方を見ると、そこには衣笠を被り、紫の着物を身に纏い、木で作られた小箱を持った女が立っていた。宙空に浮いていた光――生命エネルギーがその女の持つ小箱へと吸い込まれていく。その様を見て、カズキは察する。
「お前がこんなことをした妖怪か――!」
「その通りでございます。我が名は文車妖妃、ここら一帯の人間の生命力は、私が奪わせていただきました」
「生命力、だと? そんなものを一体どうやって――」
「私が書き上げた
「――ふざけるな!」
嬉々として語る文車妖妃に、カズキは怒りを爆発させる。早苗を寝かせてから、往来に飛び出しドライバーを装着する。
その姿を見た文車妖妃は、驚いたように目を開く。
「そのドライバー、そうですか、貴方が獄王でしたか」
「そうだ、お前を倒してみんなを救う!」
そう叫び、カズキはアヤカシバレットを取り出し、ドライバーに装填する。発生したエネルギーを指先に集中させ、自らのこめかみに当てる。
「変身!」
《ジゴク・レンゴク・ヘンゴク!》
《ゴクオー・ラセツ!》
こめかみを撃ち抜くことで展開されたエネルギーが、カズキの全身を覆い、銀のアンダースーツに赤と黒の装甲を纏った仮面ライダー獄王へと変身させる。カズキはすぐさまヘルソードを引き抜き、文車妖妃へと走り出す。
しかし、その場へと辿り着く前に突如飛んできた火の玉によって吹き飛ばされる。
「ぐうっ!?」
装甲を焦げ付かせながら地面を転がるカズキ。攻撃が飛んできた方を見ると、そこには着物を着流した白髪の青年――酒吞童子が立っていた。
「酒吞童子……!」
「獄王、貴様に文車妖妃を殺されるわけにはいかん。死ぬのは貴様の方だ」
酒吞童子は冷徹に告げる。そんな彼の背後から、さらに二人の人影が現れる。
「ハハハ、相変わらず物騒な物言いだなぁ、もっと気楽に行こうぜ?」
「全くね、ほら、獄王くんが怖がっちゃってるわよ?」
金髪に鎖が付いた服を来た九千坊、紅白の山伏服に下駄を履いた女天狗。妖怪の三幹部が一斉に目の前に現れるという状況に、カズキは戦慄した。
「何故お前達がここに……!」
「知れた事。我らの使命を果たすためだ。そのためにも、此奴を倒させる訳にはいかん」
「まあそういうことだ。運が悪かったと諦めな?」
「可愛い子を殺しちゃうのは心苦しいけど、殺さない理由も無いのよねぇ。ごめんねぇ」
三体が並び立つと、それぞれが黒いアヤカシバレットを取り出し、側面のボタンを押す。
《シュテン!》
《クセンボウ!》
《ニョテング!》
電子音声が鳴り響くと、酒呑童子は自身の胸の中央に、九千坊は右胸に、女天狗は服をはだけて左胸に、アヤカシバレットを突き刺す。
体内に取り込まれると、それぞれの全身を赤黒いエネルギーが包み込む。球体になったエネルギーが消失すると、人型から異形の姿へと変わる。
酒吞童子は赤黒い筋肉質な肉体に、大剣と瓢箪を持った角の生えた鬼に。
九千坊は深緑色の肉体に甲羅を背負い、腰から鎖を何本も垂れ下げて手には刺又を握る河童に。
女天狗は黒と白のツートンカラーの肉体に、背中から漆黒の翼を生やし手には羽扇を握った天狗に。
妖怪三幹部の真の姿が、今ここに集っていた。なんとか立ち上がったカズキは、武器を構えて対峙するが、この危機的状況に内心焦りを隠せなくなる。
「妖怪共の幹部が揃い踏みとは……相当大事なようだな、そこの妖怪は」
「強がるな、声が震えているぞ。貴様ごときには過ぎた力ではあるが、万全に万全を期すのが我らのやり方だ」
酒吞童子は大剣を肩に担ぎながら歩き出し、ゆっくりとカズキへと向かっていく。対するカズキはジリジリと後ろに下がるも、数歩下がったところで足を止めて、ヘルガンを撃ち出す。
放たれた弾丸は酒呑童子の無防備な肉体に命中する。だが、微塵も効いた様子が無く、歩みを止めることはできない。その光景に驚きながらも、今度はヘルソードを振るいながら正面から突っ込んでいく。
振り下ろされた剣は、酒呑童子の持つ大剣により防がれる。弾かれた剣をすぐに引き戻し、何度も打ち付けるが、次々と大剣がその攻撃を阻む。恐るべきはその速度であり、片手で大剣を振るっているとは思えない程の速度で、全ての攻撃を弾き返していく。
「クソッ、なんで当たらないんだ!」
「人間の動きなど止まって見える。鎧を身に纏ったところで何も変わりはしない」
焦るカズキと対象的に、冷徹に語る酒吞童子。やがて瓢箪の口をカズキに向けると、火球を産み出し発射する。火球はカズキの胴体に命中し、大きく吹き飛ばした。
「ぐあああっ! これならどうだ……!」
火の粉を払いながら、カズキはイヌガミバレットを取り出し、ドライバーに装填する。
《ゲキコウ・ライコウ・ホウコウ!》
《ゴクオー・イヌガミ!》
「ウオオオオッ!」
「おっと、次は俺にやらせろよ」
イヌガミバレットに変身したカズキは、鉤爪を展開して走り出す。それを見た九千坊が前に進み出る。
犬神のパワーから繰り出される鉤爪の連打。それを九千坊は刺又を巧みに動かして弾いていく。さらに爪を重ねて突き出されても、刺又の柄によって受け止められる。力を込めて突き刺そうとしても、より強力な力で抑え込まれビクともしない。
「くっ……ううっ……!」
「おいおい、こんなものか? ちょっと期待外れって感じだなぁオイ」
心底呆れたように呟く九千坊。すると、刺又を振るい鉤爪を振り払う。態勢が崩れたところに刺又を突き出し、胴体を攻撃して吹き飛ばす。為す術もなく吹き飛ばされたカズキは、空中で一回転して地面に叩き付けられる。
「ぐあっ!!」
「あらあら、すっかり弄ばれてるわね。でも、まだまだこれからよ」
女天狗はそう言うと、羽扇を振るい風を巻き起こす。最初は小さなつむじ風だったが、一瞬にして巨大な竜巻へと変化、カズキを巻き込みはるか宙空へと打ち上げる。
「うわぁぁぁっ! クソッ!」
《テンクウ・カックウ・シンカク!》
《ゴクオー・ヤタガラス!》
カズキはなんとかヤタガラスバレットへ変身し、翼を広げて態勢を整える。そんな彼に向かって、女天狗も翼を広げて飛び上がる。
空中で剣と扇がぶつかり合う。カズキは素早く移動しながら剣を振るうが、女天狗はそれを上回る速度で飛び回り、一方的にダメージを与えていく。羽扇も見た目以上の鋭さを持っており、カズキのスーツを次々と切り裂いていく。
やがて、女天狗の一閃がカズキの翼を切り裂き、地面へと叩き落とした。
「ぐうっ!!」
「うーん、確かにこの程度じゃ張り合いないわね。もう少しやってくれると思ってたんだけど」
無様に土を舐めるカズキに対し、優雅に降り立つ女天狗。ここまでの戦闘で完膚なきまでに叩きのめされたことに、カズキは恐怖を覚える。
(嘘だろ……ここまで力の差があるなんて……! まるで戦いにすらなっていない……!)
「我らより弱いのは当然のことだ。だが、この程度の奴に同胞達がやられてきたとはな。やはり全体の底上げを考えなければならんか」
酒吞童子が吐き捨てるように言う。それを聞いて、カズキは死にものぐるいで立ち上がる。
「まだだ……まだ終わってないぞ……!」
「くだらん、いい加減興ざめだ。貴様になど、最初から興味が無いと言うのだ」
不愉快極まりないという風に眉を寄せ、酒呑童子は瓢箪を構える。九千坊と女天狗も、それを見て己の得物を構える。
それぞれの得物に禍々しいエネルギーが集まり、輝き始める。それは大気を震わせ地面を揺らすほどの力を見せる。カズキは反射的に武器を盾代わりにして構える。
妖怪達が得物を振るうと、解き放たれたエネルギーがカズキに向かって襲いかかる。一瞬の拮抗すら許されず、カズキは飲み込まれた。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
激しい火花を散らして、変身が解除される。全身がボロボロの傷だらけになったカズキは地面に倒れ、荒い息を吐く。最早戦う力は残されていなかった。
対する妖怪達は、カズキに向かって歩き出す。すでに虫の息の相手だが確実にトドメを刺すつもりだ。
だがその直前、一台のワゴン車が往来に突っ込んできた。車は周囲の瓦礫に当たり、妖怪達に向かって飛ばしていく。妖怪達は飛んでくる瓦礫を弾き飛ばしたり、破壊するなどして防いでいく。
その間にワゴン車はカズキの目の前で停止する。後部座席の扉が開くと、中から文香が現れ手を伸ばす。
「カズキ君、早くこっちに!」
「文香さん……! ううっ……!」
カズキは力を振り絞って立ち上がり、なんとか車に向かって歩き出す。文香に引っ張られて後部座席に乗り込むと、力尽きて倒れ込む。文香は急いで扉を閉めて、運転席に向かって叫ぶ。
「乗りました、行ってください!」
その言葉を聞いた運転席の健児は、アクセルを全力で踏み急発進させる。ワゴン車は一気に最高速に達し、戦場から離れていった。
瓦礫を振り払った妖怪達は、追いかけることもなくその様子を見ていた。
「逃げられちまったな。良いのか、追わなくて?」
「――捨て置け。あそこまで痛めつければ、しばらくは動けまい。今のうちに我らの目的を果たす方が重要だ」
九千坊の問いに、酒呑童子は静かに答える。そして背後に控えていた文車妖妃の方へ振り向く。
「首尾はどうだ?」
「この辺り一帯の人間の生命力は、全て集まりました。数にしておよそ二百程でしょうか。これだけあれば、他の皆様にも十分な力を分け与えることが出来るかと思われます」
「ならば良い。至急同胞共を集め、力を分け与えることとする。お前達にも動いてもらうぞ」
酒吞童子の言葉に、九千坊と女天狗は肩をすくめる。
「ったく、仕方ねえな」
「はいはい、分かってるわよ」
そう言うと、三体はその場から去っていく。一人残った文車妖妃は、カフェのテラスで倒れたままの早苗へと視線を向ける。
「――貴方も愛を知る者なのでしょうね。ですが、愛とは儚く散りゆくもの……貴方の死で、それが証明されるのですよ」
憐れむような、あるいは蔑むような口調で呟き、文車妖妃もその場を去っていく。
後に残されたのは、戦闘の余波による破壊の跡と、力無く倒れる人々だけであった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
今回はかなりのハード展開となりました(当社比)。皆さんは満足いただけたでしょうか。
こぼれ話としては、酒吞以外の幹部の怪人体は当初はもっと早く出す予定でした。しかし、予定通り行かないのが世の常というもので、今回まとめて登場することになりました。その分、迫力は出せたかと思います。
正直なところ、今回も予定通り行かない形になっていますが、表に出したものが全てであるので仕方ないと飲み込むことにします。
予定と言えば、次回はいよいよ、仮面ライダー獄王の山場になる予定です。ご期待いただければと思います。
次回もお楽しみに。