こんな明日はいかが?   作:ケット

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第11話

「ヒーローなんて……なろうとしないで、バカ! なんでそんなに、似てるのよ……だいっきらい!」

 夢か、ただ思い出しただけか? 寝た気がしない、体中が痛い。

 一応台風を乗り切って、総員起こしからそのまま当直、それも強風と大雨が残って視界がきかない中、大型船航路と中小メガフロート群の見張りで……張りつめていた気力が尽き、手すりにすがって寝棚に向かう途中、甲板に出ていた岡野にぶつかり、そこでいきなり……あいつ、泣いてなかったっけ。

 くそ、オレは夢中で、なんとなく船の危険がわかって、必死でなんとかしただけだ。ヒーローも何も、死にたくないだけだ。ジョンソンさんがオレの言葉を信じてそこをチェックしてくれて、みんながいて……。全員の技量といつもの整備がなかったら、オレ一人がいくら頑張っても船は沈んでいた。

 思い出して全身が震え、手のひらがじっとりと汗ばむ。台風の名残りでいきなり制御を失ってぶつかってきそうになった船があった。見張っていたオレが怒鳴って、一等航海士がうまく帆を活かしてかわし、それっきり姿を見ていない……あの船は大丈夫だろうか?

 そういえば似てるって、向こうでの彼氏かな? それもなんとなく気になるけど、それより……うわ、ずっと寝てたんだ……しまった、当直、急がないと。だれも起こしてくれなかったのか……?

 体を洗って着替え、船員食堂に行く。途中で窓から外を見た。うねりは大きいけれど感じは悪くない。灰色の空、複雑な色の海、海鳥。

 むしろ船尾斜め後ろからの風で、ちょうどいい進み方だ。

 相模湾メガフロート群、富士山、それに東京湾と相模湾に刺さる光の柱が見える。

 もう野島崎が見える……ここからがいちばん危ない。

「ぎりぎりだぞ、十分前には持ち場につくように」

「申しわけありません、サー。おはようございます」

「おはよう」 

 嵐のあとは、みんながオレを見る目が少し違う。そして、そんなときは残念ながら、誇ることもできないほど疲れている。

「まったく、五回は助けられたな」船長が笑っている。「入港が思ったより遅くなるから、今夜は船で泊まって明朝退船後、直接学校に向かいなさい」

「はい、ありがとうございます」

「みなさんも最後まで油断せず、しっかりと船内を片づけて準備をしておくように」

「はい!」

 当直の実習生が声をそろえた。みんな台風との戦いで疲れきっていたが、でもこうなると元気になる。やっと本土上陸、楽しい夏休みが待っている。オレはわざわざ勉強しに来たんだが……。

 東京湾に近づくと、ふだんテレビで見る、渋滞した道路のように船がひしめく。

 相模湾沖の畜舎メガフロートに大量の穀物や飼料を降ろし、少し楽になってそのそばにある下水処理人工干潟メガフロートをかすめる。穀物は船を転覆させる、爆発物より怖い積み荷だからほっとする……と「ほっとするな、ここからが危険だ」と怒鳴られる。くそ。

 少しのんびり、蒸し暑い台風の余波に汗だくになってあちこち片づけ、荷揚げの準備。

 見張りも一瞬も油断できない。まるで鯨のように、大きなタンカーが突然すぐ横にあらわれる。特に潜水タンカーはたちが悪い。

 いくら電子機器、管制システムがあっても最後は見張りだ。視界があまりに悪い今こそ。

 混み合う野島崎を通ったときには、もう日が沈むところだった。さて、夜間の入港と荷下ろしで今夜は徹夜か……台風のあとで死ぬほど蒸し暑く、きつい夜になりそうだ。

 夜といっても、東京湾中央部を宇宙から照らす日光の柱で、せいぜい夕方ぐらいの明るさだ。まず東京湾面積の三割は埋める入り組んだメガフロートと他船をよけ、横浜に入港する……危険な操船が続く。去年は何も知らずに気負い立っていたが、今年はやることが多くて押しつぶされそうだ。実習生、下っ端以下のオレでもこうなんだから、上級船員やまして船長なんてよく生きてるよ。

 

 朝、台風の影響もあって荷役が長引き、退船手続きが遅れて講座に遅刻しそうだ。

 挨拶もそこそこにふらふらでタラップを駆け下り、高さの違いがわからずに思いきり転んだ。最後の最後でみんなに笑われたな。

 岡野が手をさしのべてくれた。待っていてくれたのか。

「どうしたの? 遅刻するわよ」

 暖かく柔らかな手を握った瞬間、なぜか電気のような感覚が走り、起きそこねそうになった。

 バカな、何度かキスしてるじゃないか……陸酔いだ、過労だ……

「お世話になりました、よい航海を!」

「船ではどんなに揺れても、酔っても転ばなかったのに」

「潮汐(しお)に慣れてないんだ」

 それ以上の説明はしたくない、船員としては恥だから。今後メガフロート生まれの船員が増えたら、それでバカにされるだろうな。

 まあ、今だけはなんだか仲良く出かけた。寮に荷物は届いているはずだけど……

「そうだ、あなたの家で暮らしてたとか、だれにもいわないでね」

「当たり前だろ。案内頼むよ」

 路線はケーコに案内してもらってもいいけれど、やはり岡野についていったほうが確実だな、去年も似たような特進講座を受講したらしいし。なにしろ、大人なしで本土で行動するのは初めてだ。駅の乗り換えすらなにもわからない。

 しかしひどい混雑もあったもんだ、人間が体力の限界まで詰めこまれている。

「ちょっと、なんだよこの混雑」

「ここじゃ当たり前よ」

「二十世紀の映像じゃおなじみだけど、人口減ってるんじゃ」

「燃料税で車が減って、電車に集中したから同じことよ。それに」駐輪車両をあごで指す拍子に、キスしそうになる。「電車に自転車とかを乗せる人も多いし」

「確か駅に降りたらすぐ自転車や」

「それ、人気ないの」

 そう、話しながらもものすごい圧力で体が押しつけられる。岡野の熱さにドキドキする……何かが脳を煮る。

 オレは必死で、ドアに手を突っ張って彼女が楽に息ができるスペースを作った。

「余計なことしないで」

 親切にしたり助けたりすると、泣きそうな、怒ってるような……

「うるせ……降りるぞ」

「え? 駅ちがうわよ?」

 なんか、変な気がした。雨はやんだけど、風は強い……外海はまだ荒れているはずだ。

 かなりすいてるホームに何人か降りると、いっしょに降りた酒臭いおっさんが、おおいかぶさるような千鳥足で岡野につかまろうとした。

 何となく、危険を感じてかばうと、もう一人オレたちと共に降りた同僚? に連れられておっさんは去った。このへんも港並みにがらが悪いのか?

「もっと近い電車ないの?」

「地下鉄までちょっと歩くけど、いい?」

 急ぐ道で、ちょっとコーヒー……もちろん掌紋電子マネーのデポジットで、カップを専用のリサイクル箱に入れれば半分戻る……を飲む。徹夜の肉体労働で頭も全身も重い。そしてめちゃくちゃに蒸し暑い。

 台風のあととはいえ、亜熱帯の海上よりひどい……居住区全体を完全空調しているメガフロートがいかにいい環境か。

 第二次関東大震災後整備されたとは思えない、雑然とした道を歩く。古い感じの土塀や建物に、何とも言えない気分になる。

 ふと雨がもう乾いた路面を見ると、変な、ネズミ花火の腐ったようなのが転がっていた。

「なんだ? これ」

「ミミズよ、見たことないの?」

「いっつもいじってるよ、土の中のミミズは。バカだよな、土の中にいればいいのに。こんな熱いアスファルトで、陽に焼かれてのたうちまわって干からびて死んでいくなんて」

 なんとなく、気持ち悪い言葉を並べたくなる……嫌がれよ、という気になる。小さい頃葉波に、ミミズでさんざん泣かされたっけ。あのころのあいつは男の子みたいで、どうにもかなわない……

「バカ? バカはそっちよ」

 岡野の、軽蔑のまなざしにびっくりする。

「え?」

「あなたたち人間より、このミミズのほうがよっぽど賢い、っていってるのよ」

 あなたたち?

「どういうことだ?」

「この道路は確かに、今回はアスファルトだったからこのミミズは死んだわ。でも、大航海時代の犠牲と同じ英雄よ。

 半年後、この子の甥が旅立つときここは土かもしれない。そうだったら、新大陸を発見するのと同じよ」

 おいおい、アスファルトがころころ土になったりするのか? 第一、大航海時代って侵略と虐殺、生態系と文化の破壊じゃないか。

「ちょっと、そんな簡単に土なんて」

「ああ……ごめん、それ自体わかってないんだ。ここも」と、ミミズが死んでいるすぐ脇をつま先でつつき、「少し掘れば土よ。ここはどこだって、少し掘れば土なの、発泡コンクリートの厚板で、その下は海のメガフロートと違って!」

 なんか……足元が崩れるようなショックで、なぜか座りこんでしまった。

「バカ。だからあなたたち人間より利口なのよ、リスクがあっても生息域を広げようとしてるんじゃない! 今住んでいる所だっていつ埋められたり毒を流されたりするかわからないんだから。もちろん一匹一匹は考えてない、雨が降ったら穴が詰まるから出る、って単純なプログラムに従ってるだけだけど、全体としては人間より賢明なの。

 人間だってそうすべきなのよ。いくらコンピュータの化け物が助けてくれるといっても、それが本当に文明を維持するに十分賢いかはわからないのよ。もちろんいくら端末を配って人間を教育しても、民主主義でも。唯一の安全策はR戦略、多産多死なの。一つのバスケットに全部の卵を入れるな。人類だけが宇宙にいけるんだから、遺伝子と文明の種を宇宙中にまくべきなのよ! じゃなきゃ、何でこんな破壊的な種が生まれたのよ」

「多産多死、ってそのせいで人口が爆発して、下手すりゃ」

「少なくとも、人類の初期は“産めよ増やせよ地に満ちよ”って戦略で間違ってなかったのよ、種を維持するためには。たとえアフリカが砂漠化してもヨーロッパで生き延び、ヨーロッパが氷漬けになってもアメリカには仲間が、ってできるんだから。でもこれだけ文明が発達し、人口が増えすぎたら生物として、個体を増やす戦略は間違い……文明自体の子供を、別の星に送るべきなの! 個々の文明を制御するのは当然だけど、それが失敗することを前提にして」

「そうはいうけど、ロケットだってそんな速いのはできないしワープなんて」

 岡野の、強烈にのめりこむ表情は怒ってるのより魅力的かもしれない。

「必要ないの、遺伝子と情報だけでいいのよ! これ、受信して」

 ケーコに、通販のサイトのURLが送られてくる。開くとおもちゃのガラス球……閉じていて水が満たされ、中には水草や魚など。光合成と呼吸、食い食われ腐って循環、か。

「いろんな生物の代表選手を入れて、凍らせたこれをあっちこっちの星に打ち上げる。水のある惑星を探して中身を解凍してまくようプログラムし、ついでにその近くの安定した衛星にあらゆる情報を置いておけばいいの。そうすれば生命は勝手に進化して、知的生命が進化したらその情報を拾って好きにするし」

 ちょっと待て。

「逆に、もしそんなの送りこまれたら地球の生物全部、とんでもない怪物と伝染病に襲われるってことじゃないか! 人にされたら嫌なことはやるな、って」

「合格ね。もちろん、向こうに文明があれば攻撃とみなされて反撃されるリスクがあるから着水前に探査し、生命があるようなら着水はしない。知的文明の先住者がいたら連絡し、遺伝子も文明データも情報源として活用してもらう……隔離された実験室でも、地球型生命のスペアがあるならありがたいわ」

 あれ? この口調……ちょっと検索してみるか……あれ?

「おい、なんかそれ、ホントの計画みたいに話してるけど……ネットにも見当たらないぞ?」

「まだ実行されるかはっきりしないもの。百億にマクドナルドだけで精一杯なの、まだ」

 言い捨てて、さっさと先に行ってしまう。

 何でそんな情報を知っているんだ? どれだけの力があるんだ、あの体内ケーコ。

 ひょっとして、もう異星文明を探査してるんじゃないか? 円卓自体、その協力で……いろいろあらぬ事を考えてしまう。

 そういえば、ケーコをいじったの自体がひさびさだ……メールチェック、いやもう学校に着いてしまう。放課後でいいか。

 

 講座が行われるのは、都心のお茶の水だった。半公営化されている予備校を利用するらしい。

 かつては受験でみんないやというほど勉強した。二十一世紀初頭は二極化で、一部だけが勉強する社会になりかけた。学制改革の後には誰もが、まず世界最低水準と国で定められた学力を身につけるのはしっかりやらされる。

 また公立、私立、予備校などの区別もあまりない。どこでも単位は得られるし、特に理系は国際的に定められたテストをクリアすれば単位になる。

 もちろん優れた学校は高い競争率と授業料があるが、受験は弊害を防ぐためテスト内容を厳しく監視され、階層社会化を防ぐため、公的奨学金が予備校の類も含めて充実している。また一人一人、コンピュータ上に指導プログラムがあるから独学もできる。

 オレたちはメガフロートに巨大な学校があるから、そこでどのクラスになるかが中心……だったけど、そろそろ考えなければ……国費上級学校を目指すやつもいるし、オレや葉波もちょっと背伸びすれば……

「おか……」

「岡野、よ。ひさしぶりね、木田」

 いきなり、入口で出くわしたデブの男子が岡野に声をかけようとして、彼女ににらまれた。知り合いか?

「岡野、そうでし……だったな。で、こいつは?」

 もう一人のチビが、オレを上から下までじろじろ見る。二人とも着崩した感じで、なんだか軽い。こんな服じゃマストに上れないぞ?

 ああ、おかものか。そうだな、ここはみんなおかものなんだ。

「よろしく、オレは長谷川由」

 差しだした手を、二人は無視して岡野に話しかけた。いきなりオレに軽蔑の視線が向く。

「だれこいつ?」

「関係ないわ。野村くんも元気だった?」

「そりゃもう」

 悪かったな。なんか嫌な感じだ。オレ、何かしたのか?

 

 教室にはいると、大人がまったくいないことに驚いた。

 日本の新学校制度では生涯学習の大人も多い。欧米では元々生涯学習が盛んだったからその影響もあるけど、二〇〇〇年代に爆発した歴史認識問題とやらで、アジア諸国との軋轢をなんとかするために、もう学校を卒業した大人も含めてもう一度ちゃんと近現代史を教える、と国策で始まったのだ。

 それまでの義務教育では、いろいろあって近現代史はやっていなかったらしい。そこを責められたから、逆に歴史をもう一度教えた……いろいろな立場から。

 オレたちには歴史は見方によっていろいろな面があることは常識だが、当時の大人や老人はどの立場の人も大きなショックを受けたらしい。が、再教育が浸透すると、被害を受けたアジア諸国の政治的な誇張と事実、アメリカの罪、そして日本のいい面悪い面を全部受け止めて、悪いこと、誤っていたことはきちんと認め、反論すべきところは堂々と反論できるようになっていった。

 円卓騎士団事件以降、原則としてすべての情報を公開して自分で考えるようになったし。

 ついでに第二の義務教育は日本の生存公役制度、新学校制度の重要な核になったのだ。民主主義を維持し、かつ文明を制御するには、基礎的な環境学などを全員に、半ば強制的に学ばせる必要があったこともある。

 そういうわけで、オレにとって大人と子供が一緒に勉強するほうが当たり前だった。

 でも、ここには大人がいない。みんなオレと同い年ぐらいだ。そういう講座なんだな。

 

 ガイダンスはぎりぎりだった。あいつらは岡野を待っていたのか?

 まずわかってたとはいえびっくりしたのが、講師陣の豪華さだ。ノーベル賞・フィールズ賞受賞者がいる。どういう講座なんだろう、と改めて首をひねる。

「この講座は、“1足す1は2”“ゼロで割っちゃいけない”“分数のかけ算はひっくり返してかける”などの“なぜ”にちゃんと答える。それに納得できない者が集まったはずだ。だが簡単なことじゃない、“1足す1は2”の証明はこの教科書の後半にやっと出てくる」と、分厚い洋書を叩く。「まずみんな、自分が何も知らない、わかってないことを学ぶんだ。そして一番根本から、一つ一つ本当に理解していけ。講座が終わるときには、自分が何をわかっていて何をわかっていないかは知ることができるだろう」

 オレも納得できない組だったから、それは嬉しいんだが。

 昼休みに誰かを誘おうとしたが、なぜか無視された。岡野は木田たちといるし、こっちからは声を掛け辛い。ここの連中って知り合いが多いのか?

 一人だけの知り合いとは話せないし、しかもみんなおかものだ。こうして一人で食べるなんて、たぶん初めてだ……

 昼からの、科学基礎はケーコ可か……ありがたい。

 座ろうとしたら椅子を引かれた。そいつの机を蹴りつけて座った……まあ海でもその手の歓迎はよくある。

 そして、

「地動説を疑え」

 いきなりの先生の言葉にびっくりした。

「そこの君?」

 さっき岡野と話した木田が当たる。

「でも地動説は科学的真理、常識ですよ」

「証明してみろ」

 みんな呆然。何人かはピンと来たような表情をする。

「はい、地球を一周すればわかります」

 オレにとってはそれが当たり前だ。現に村上たちは、船で地球を一周したんだ。

「どこかの悪魔に騙されているのかもしれない、単に次元がねじまがっているのかもしれない」

「オッカムの剃刀」

「それだけじゃ証明にはならない」

「宇宙からの写真」

「国家の陰謀かもしれない」

「そういう考え方は非科学的で、非生産的」

「非科学的という言葉を使うときは、気をつけなきゃいけないんだ。逆にそれを盾にして突拍子もないことをいえばいい、という罠にも気をつけろ」

 ふと、帆船が水平線から見えるのを思いだした。

 ケーコに図を表示し、いくつか計算してみる。

「はい、これを回覧します」

 と、その図を送信する。平らな海と、球形……円弧を描く海では遠くから船が見えるとき、微妙に違う。

 そうか、本当に平らなら少しでも高いところなら、どんなに遠くても小さくなるだけで船は見えるんだ。

「ほう、確かにそうも思える。が……」

 と、こんな感じで根こそぎ常識をひっくり返された。いかにオレたちが、自分で考えずに教えられたことをうのみにしていたか……。科学っていったい何なんだろう?

 葉波と砂漠で過ごすより、家でぶらぶら遊ぶよりこっちのほうが楽しいかもしれない。いつもの授業、そして暗記と要領中心の試験勉強とは次元が違う。

 ついでに宿題も。複素数という計算法も初めてだ。三角関数は知っているけど、具体的な数値を出そうとするとものすごい計算量になるんだよな……。

 ただ、どうせならクラスのみんなとも仲良くやっていきたいけど。

 

 放課後……といってももう六時、寮生活についてのガイダンスが始まった。近くの大学……このへんはものすごく大学が多い……の学生宿舎を借りるらしい。

 とにかく宿題が多いから、寄り道の余裕はない。寮についてすぐ食事……やっぱりみんな話しかけても無視するし、岡野はさっきの二人と話していてなんか近づけない。

 部屋は六人部屋。繭じゃなくて二段ベッドか、はじめて見たぞ? こんなボロがよく第二次関東大震災をもちこたえたもんだ。

 風呂は狭いし大人数だから大変だけど、清水(せいすい)(注:真水のこと)使い放題は半年ぶりだ。

 久々にケーコが使えるから、葉波と……いや、なんかそんな気にならない。同室の連中も宿題やってるし、オレも気合い入れてやるか……ネットラジオのゲームサントラチャンネルを聴きながら。

 よし、〈波高し〉が入った。この三日まともに寝ていないから、頭は疲れ切っているけど、この曲は結構きくんだ。

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