大きな船。船長は? オレは……持ち場は?
船が一気に傾き、甲板が壁のように……オレは滑り落ち、右手で間一髪何かにつかまる。
そこに、二人滑り落ちてきた。
葉波と岡野。
どちらかしか助けられない……どっちを?
オレの手が伸びる。
はっ、と目が覚める。
全身が冷や汗で濡れる……なんて夢だよ。
ハンモック。筋肉痛が全身に走り、頭が重い。
そうだ、嵐の海から船を指揮して南硫黄島のメガフロートに避難し、何とか入港して……
今何時だ?
丸一日半ぶりにケーコをつけると、もう一八四〇。といっても、寝たのは一一二〇は過ぎていたはずだ。
腹減った。寝る前に少しだけ牛乳を飲んだが、ぜんぜん足りない。
集まっている簡易宿舎にいくと、みんな大体起きて食べ終えていた。ケーコに没頭してるのもいるし、雑誌を読んでいるのもいるし、しゃべってるのもいる。
みんな食われてるかなと覚悟していたが、葉波たちがちゃんと取っておいてた。
「あれだけマストで頑張って、一休みもせず船を動かし続けてくたくただろ? この餃子も食え!」
「このチャンプルーも元気出るぞ!」
「さすが“嵐の長谷川”!」
「ありがと、おかげで命拾いしたわ! 長谷川君に交代するまで死ぬ覚悟してたの」
「やっぱここのメシはうまいよ、もっと食えよ!」
とどんどん詰めこまれた。
南硫黄島メガフロート群には沖縄系、韓国系が多いから、食べ物も日本食から離れている。でもおいしい。そういうのを安里や李の家でご馳走になることもあるけど、うまい。どちらも雑穀や海産物、肉をうまく使ってる。
でも岡野に言わせると、
「ここだけじゃない、海の食べ物って……うちの食事も給食や学食も、本土とはぜんぜん違う変なのよ」
「悪かったな……好き嫌いは食べ物がなくなって四日間、一度の雨だけで過ごしてから言ってくれ」
「由、バカを自慢しないの。おいしいんだけどな」
葉波はちょっと恥ずかしそうだ。あれ以来オレも葉波も、(オレは船酔いの時以外)何も食べ残せなくなってしまった。
「ううん、おいしいよ。でも……食卓の調味料から違うの。ここも、うちや学食も塩、普通の醤油、これ……」
「魚醤(ニョクマム)。魚を発酵させてるの。東南アジアで使うわ」
「韓国でも、実は古代ローマでもね。醤油よりずっと歴史のある調味料よ」
「それに、この唐辛子味噌(コチジャン)」
「中国でも似たようなのがあるわ」
「と小エビの塩辛に酢でしょ? 本土では醤油とソースが主で、塩コショウ、化学調味料、七味、あとラー油と粉チーズがよくあるわね。ここの組み合わせは……ちょっと調べさせて……やっぱり中華、韓国料理店、それも日本人向きじゃない本格派よ」
「本土ってそうなってるんだ……メガフロートはアジア中、いや世界中からだし、素材がいいからね」
メガフロートには失業対策、移民先という面もある……そうなると少子高齢化の日本より、元々人口が多いアジア各国からの移民が多くなる。日本領海では日本語中心で補助的にニュイン、だけは一応守られてるけど。
「でも、ちょっとそれぞれの故郷とも味が違ってるんじゃない?」
「まあね。オヤジは最近外食するたびに伝統の味じゃない、って文句いうよ。でも寒い韓国と、この暑い回帰線じゃあね」
「みんなで新しい味を、世界を作ってるのよ」
「おーい! 君が今朝のお子様船長かい、映像見たけどたいしたもんだ!」
とそこのお兄さんにも嵐の話を聞かれ、
「ほら、うちのキムチと鰍魚湯(チュオタン)も食えよ!」
「なに? このお団子」
「ドジョウ」
「え!」
葉波に岡野がまた聞いてる。さすがにあの脳直結ケーコも、味覚で検索するのは無理なようだな。
「健康にもいいのよ、いっぱいどうぞ」
野菜がたっぷり入った、山椒の辛味がきいたさっぱり熱々スープにすり身のドジョウとご飯。うまい! かっと吹き出る汗が暑さをふっとばし、つかれきった体に染みこんでいく。
「メガフロートの水田ではアゾラ、アイガモ、ドジョウ、鯉を同時に育てるのが標準で、すごく豊富な食材なの」
「ほら、鯉の甘辛煮とアイガモのローストもどう?」
「飽きても世界中から来た、いろいろな味つけで目先を変えられるしね」
「鯉にドジョウ、水田の魚はアジアの味!」
「海に、アジアに乾杯!」
「海に国境はない!」
「ほら、これも飲みなよ! おねえさんがお酌してあげる」
「ノンアルコールだけどね、もちろん」
どこからか女の子が……年上のお姉さんも……集まってきた。あ、やっぱり酒だよ。
「ねぇねぇ、この映像本当? こんな小さい子がこの台風、ほとんど帆だけで乗り切ったの?」
「うそでしょこれ、三角波がわかるの?」
「すごい迫力! 本物の船長さんみたい」
「ここの上手回し素敵! こんな可愛い顔して」
などとちやほやされてかなり気分はよかった……でもケーコで見たらオレもミスがけっこうあったから、それを思いだすと恥ずかしい。けど気持ちいい。でも忘れちゃいけない、それはみんながついてきてくれたからだ。でも気持ちいい。頭がくらくらする。
帰ると、稲……ネイも多いけど……刈りの準備が本格的に始まっていた。
とっくに合鴨は繁殖用以外食肉処理された。美香が大泣きしていた。水田のドジョウや鯉も収穫か水路へ、アゾラは緑肥や飼料にされている。
より南ではもっと早く稲刈りを終わらせ、遺伝子改良麻やトウモロコシ、キャッサバなどの植えつけが始まっている。
期末テストが終わると休む暇もなく稲刈り、そして夏休み。
そろそろあちこちから、出稼ぎの臨時労働者が集まる頃だ。
大人がどんどん忙しくなる。例の講座のこと、親に言わないと……
「あのさ」
「お兄ちゃん、何さぼってるの? 宿舎整備しなきゃいけないんだから、手伝えって!」
「勘弁してくれよ、もうすぐテストなのに」
着がえて出かけると、年寄りと子供が忙しく働いていた。大人は農業メガフロートで機械のメンテナンスなどをしているのだろう。
空き屋やホールなどを片づけ、出稼ぎに来た人たちが数日暮らせるよう寝床やトイレを整備する。
「ここは中国、あっちは?」
「フィリピンからは今季三十人ぐらい来るよ。去年の苦情一覧は……」
「ほらこっち手伝ってくれ。死人を引き起こせ、ほー」
「お嬢さんはこっち、炊き出しの準備を手伝ってくれ。もしジェンダーがなんだでやりたいならあっちでもいいがね」
と、李ばあちゃんが岡野に、足場の遺伝子操作強化竹を担いでいるおれたちを指さす。
「い、いいです」
ふん。結構運動神経いいくせに。こっちのほうが気持ちいいんだぞ?
ちなみに見た目ほど重くはない、一度昔使っていた、同じぐらいの強度の鉄パイプを持ったことがあるけどその半分もない。
遺伝子改良竹は実に便利だ。こういう高強度、大収量の製紙用、植林用、飼料用など何種類もある。滅多に実をつけないから制御もしやすい。
だいぶいい汗を流し、
「さて、そろそろ今日は一段落するか。ガキどもは勉強だろ、ちゃんとメリハリつけろよ」
「はいはい」
「はい、は一度!」
ああもう……大人だらけの世界ってこれだから。でもクズな先輩よりはずっとましなんだが……
クズな大人もたまにいるけど、それは告発すればちゃんと調べて処理してくれる。情報公開があらゆるところで徹底しており、ネットワークの騎士団が人間とはまったく別な視点で監査してくれている。
でも本土よりはましか、
「本土って老人ばかりなんだって?」
「どこからそんな話が出てくるの? もうすぐテストよ、早く帰るわ」
ふ、と少し赤くなった岡野の表情が和む。日焼けがひどいんだな、気の毒に。
「これ、夏休みに行きたいんだ」
と、オレは画面向こうのオヤジと目の前のオフクロに、例のパンフレットを見せた。
「いいじゃないか? 集中的に勉強できるならいい機会だ」
「でもいいの、お父さんのところに行かなくて」
「毎年毎年、砂漠で穴掘りするのもなんだろう? 会うだけなら今から戻って稲刈りを手伝うよ、美香たちを迎えに行くついでに」
相変わらず鷹揚というかおおざっぱというか、これで関東地方に匹敵する面積の砂漠を、森と農地に戻してきた人物とは到底思えない。
「美香もそっちへ行く予定だったの?」
「ああ、それに」
「で、その授業って」
突然オフクロが話を切り替えた。なんだ?
「パンフを見ると、理系の研究や高等技師に通じる講座みたいだな。でも内容は基礎的だって。勉強時間はすごく長いけど」
一日十時間以上時間割が組まれている。休みがほとんどない。
「基礎的? 簡単? 本土で遊びたいんじゃないの?」
オフクロがちょっと嫌そうな表情。
「いや、数学とかの基礎は意味が違う。この講座、宇宙関係や上級の技師には必須だな」
「え、じゃあ絶対やる!」
宇宙と聞いたら。
「それに、成績が良ければ国費上級学校にも」
オヤジのひとことでオフクロの目の色が変わり、
「じゃあ行きなさい! とにかく真面目にやるのよ? 向こうでの受け入れ先は……あ、寮があるのね」
向こう? あ、本土でやるのか。それも見てなかった。
「それに、この講座を受ける条件は?」
オヤジが急に真面目になってきた。
「英語をもう少し……」
実はかなりきつい。ニュイン……ネット生まれの国際共通語でコンピュータ言語であり、簡略化した英語とラテン語が中心……と船乗り言葉は大丈夫なんだが、古典英語の単位が少々足りないのだ。何で英語なんてやるんだ、自動翻訳もあるのに。
急いで短篇二つとソネットをいくつか、暗記暗唱しなければならない。期末テスト一発の選択講座で助かった、もしできればだが。
「ならそれがんばるんだな。稲刈りには帰るよ、あとは」
「わかった」
と大人同士の話から離れ、繭に戻ってテスト勉強を始めた。
宇宙に行きたい、だからあの講座を受けたい。今までにないほど勉強した。
でも……無性に悲しい。親は行かせてはくれるけど、でも……なんていっていいかわからないけど、もっと別のことを言って欲しかった気がする。無性に腹が立つ……勉強にぶつけるのがいいんだろうけど。
常駐ソクラテスがまた『なぜ』『なにがほしい』と聞いてくるだろう。
オヤジと仕事をしたいのも確かなのに……
テスト勉強はいつのまにか岡野、葉波、美香の四人でするのが普通になった。美香は小さいので暗唱を確かめたり絵を描いたりケーコで遊んだり、だが。小さい頃は暗記暗誦が多くて退屈だったな、そういえば。読書や計算が好きだったからまだ救われるけど。
岡野も美香はかわいがってくれているようで、ほっとする。オレの悪口で仲がいいんだろうが……麻美は女の子たちに人気があるから、そっちで遊んでいる。前は美香といつもいっしょだったけど、最近は……
葉波は得意な社会とコンピュータ、オレはいつもならお返しに数学と理科だが、今回は岡野が葉波に教えている。
岡野の英語と理数は大したもので、もう国際義務教育水準……相対性理論と量子力学も理解しているらしい。オレは航海術に時間をとられて、まだ微分積分と古典力学で四苦八苦している。航路をちゃんと数学的に出すのと、勘と、コンピュータで出すのがどう違うか、分かりそうで分からないんだ。何か肝心なことがわかってない気もするんだけど。
で、オレは岡野に英語を聞くしかないのだが……
「なあ」
「え?」
「すまない、ここ教えてくれ」
「あ、ここはね……」と、葉波が割りこんできた。そのほうが岡野にはいいからか。優しいな。
「で、この関係代名詞に……そういえば明日の午後、おじさんが帰ってくるのよね」
「ああ」
「半年ぶりでしょ? 楽しみ?」
「うるさい」
「バカ」
と、岡野が突然機嫌を損ねた。何かしたのか?
「あ……メール。悪い、ちょっとテスト勉強休んで、うちの収穫手伝ってくれない?」
葉波が軽く片手拝みした。
相原家は週のうち二日は大農企業で大規模な食糧生産、残り二日は自分たちの林畑でメガフロート住民用や加工用の野菜や果物を作っている。オレの家に庭として割り当てられている土地も半分以上は葉波の家に任せ、代わりに野菜など現物を市場に行く必要がないほどもらっている。
「うんハナ」
「わかったよ」
まあ、少しは体を動かすのもいい気分転換だ。
「じゃ、ヨット借りてくる。えまちゃんはこれに着がえてて」
ジャージとオレンジの麦藁帽子を渡す。
オレはのびをして英語のテキストをしまい、クロゼットルームに向かおうとして……ちょっと岡野とぶつかったようになり、間が持たなくなった。
「のぞかないでよ」
「しねーよ」
意識させるなよ、我慢してるのに。
「この間お風呂のぞいたじゃない」
「見てねぇよ、悲鳴あげるからだバカ、虫ぐらいで」
本当はまだ目に焼きついているんだが……
「あんな大きな……見たことないわよ」
「由……」
葉波が後ろから……
「ちょ、ちょっと待って」
「問答無用!」
と、一発しばき倒され、こっちで着替えなさいとクローゼットに放り込まれた。
「のぞかれたらびくびくしないで見せてやればいいのよ、減るもんじゃないし。それで堂堂と見たり、襲ったりする度胸なんてないから。お姉ちゃんがね、おととし由が……」
葉波の声。くそ、バカにしやがって。
しかし……あれは……昔は平気でみんな一緒に風呂でも何でも入ってたのになあ……昔の自分がうらやましい。
路上電車で埠頭に向かい、予約してあった小型のヨットに乗ると、う……また気持ち悪い、けど……やらなきゃ……
「面舵少々、よーそろ……」
「よーそろ……うぷっ」
んん……気持ち悪い……頭が重い、また……少し波をかわして縦揺れ、うう……
「もうすぐだから我慢して!」
「わかってるって」
船尾を見るオレの目に、全く酔わないけど少し寂しそうな岡野の目が映った。何もできないのが情けないのか? なら一から航海術を習え、一年ぐらいしたら舵は無理にしても……う、大きなうねりをよけ、それを利用して上手回し……舵を返し、首をすくめて反対舷に回る帆桁をよけ、波を頭からかぶる。岡野のケーコ、また故障しないだろうか?
「もうすぐ、そこだから」
目の前に細長く広がる第二農場。ヤシの葉が防波堤の上から見える。
「第三埠頭にいくよ、取舵一杯」
「了解、上手回し……おっと」
ちょっと大きな縦揺れ。葉波が素早く三角帆を操作して不安定を逆用し、埠頭に入って手早くもやって上がった。
「大丈夫?」
と、百合姉が背中をなでてくれる。ああ……ほっとする。憧れてたのは百合姉の結婚式までのはずだけど……
「由!」
葉波の怖い声。
しかし百合姉、手伝って大丈夫かな? もうおなか大きいのに。
「岡野さんもごめんなさいね」
と、葉波の母ちゃんが声をかけてきた。
「いえ、皆さんにはいつもお世話になっていますし」
岡野は相変わらず大人相手には……いつものオレ相手の毒舌、録音して聞かせてやりたいよ。
「さて、今日はこっちのキュウリと」
さ、やるか……
「うわ、なんか森みたい……あ、犬に、ニワトリも!」
岡野はびっくりして見回している。
「主にここの居住者用で、各戸の庭や家庭菜園、個人経営の農場があるんだ。トロピカルフルーツの木が多いね」
葉波の父ちゃんが籠を渡し、案内する。
「虫除けちゃんと塗った?」
オフクロが岡野の背中を軽くなでた。
結構広い農場に、色々な果樹や野菜が混じっている。
ここは日光が強いから、多少日陰があったほうが野菜も葉焼けしないし、色々、木も混ざって植わっていると連作障害も土壌流出もない。土が失われる怖さは、毎年の植林でいやというほどわかっている。
今は普通農地でも輪混作が推奨されている……二十世紀後半は単一作物が農業の主流だったそうだが、連中がいかにバカで狂っていたか、同じ人類として恥ずかしい。
リヤカーがいっぱいになって、葉がついたままのスイカを切ってむしゃぶりつく……相変わらずうまい。砂漠のスイカもうまいけど、やっぱりこれが好き。
それからオレは自分の家の庭に割り当てられているところを見、ちょっと雑草を抜いたりした。
そういえば最近、あまり庭を見てなかった……まあ、ほとんどは相原家に任せているんだけど。
葉波たちが、雑種犬のバックと夢中で遊んでいる。
熱帯の虫とは共存できないからだけど、ちょっと自分の庭といっても遠いよな……犬ともあまり会えないし。小さい頃は毎晩遊びにきてたけど、今は正直面倒くさい。
「この犬はここで放し飼いなの? だいじょうぶ?」
「生存公役で何人かがまとめて世話をしてるよ」
「結構自然と遠いのね、ここ」
「本土のほうがもっとひどいんじゃなかったか?」
「やーね、いつの話よ。今は人口も減ったし、みんな自然と触れ合えるようにしてるわよ」
「オレたちだって、毎日海に触れてる。いつでもここの庭でも公園にでもいけるし……今度公園も見るか?」
「公園って、居住メガフロートにはないんでしょ?」
ちょっと遠い目で、防風林と防波堤の向こうを見ようとする……海は見えない。
「独立のメガフロートだ。虫が出るからメガフロート内は街路樹程度、あとは……そうだな、防波堤周辺の防風林でも……あ、悪い」
その防風林を見ていたときに、岡野は海に落っこちたんだ。確か去年、基礎医学生理学でやった修正PTSDメカニズムは……
「そろそろ思い出して直面していいんじゃないか?」
「なにさぼってるの、由。今度はこっちのトマト手伝ってよ、一個そのまま食べていいから」
「へいへい、ありがとな」
葉波に引っ張られ、また暑い日差しの中を歩いている……なんだろう、この気分は。いつ葉波は春おじさんを思い切るのだろうか、そうしたら……いつか……。
少し後ろをついてくる岡野の、ちょっと寂しげな目も妙に胸を騒がせる。
そろそろテストが始まる。休み時間も遊びではなく、勉強している人が多い。
古典学園漫画では期末テストが全てだったようだが、今は公文式を参考に完全習得の積み重ねが原則だ。単位は普段の小テストでちゃんと満点を取るまでやり直すことのほうが肝心だ。
期末テストはあえて難問にチャレンジするだけだが……基礎問題は全問正解じゃないとダメだから辛い。
古典英語でちゃんとやらなきゃいけないけど、もちろん数学や物理でミスをしたら例の講座など無理だ。
できない部分が絶対ないよう、きちんと潰しておかなければならない。
常駐ソクラテスが、しつこく『比の定義を本当にわかってる?』とか聞いてくる。コンピュータに言われるのもむかつくが、これは一応人間以上の知性の一部だ……
……みんなどこに行くんだろう。
もうすぐオレたちも十五歳……半分の時間は働きながら二十代前半までかけて、義務教育と仕事に関係ある講座、単位として認められる仕事というお定まりコースか、それとも高等学校……より専門的なコースに挑戦するか……そして国費上級学校……
オレも葉波も成績では一応挑戦できると思うけど。
岡野はどうするんだろう。いつまで海で暮らすんだろうか。海になじもうとしないんだから……
なんだか泣きたくなるけど、とにかく勉強しないと……