疾走の馬、青嶺の魂となり   作:乾いた重水

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17.決意

 

 

 

 なぜそこにいる。

 

 

 なぜ沈んでいない。

 

 

 なぜ━━私を見る!? 

 

 

 

「さあ直線コースに入りますが、先頭はミホノブルボン! しかしライスシャワーがすぐ後ろにいます! さらに後ろからは━━キョウエイボーガン!? キョウエイボーガンです!」

 

 

 

 マズい。

 マズいマズいマズい! 

 このままでは確実に抜かれる! 

 

 

(━━クソッ、仕方ない!)

 

 

 ブルボンからマークを外し、ボーガンから逃げるように進路を変更する。

 

 

 そのままブルボンを抜かすが、まだ足りない。

 まだ逃げなくてはならない! 

 

 

 

 

 だが、離れない。

 離せない。

 

 

 

 真っ直ぐ私を睨みつけ、追いかけてくる。

 

 

 

 キョウエイボーガンが口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「━━私がただ沈むだけだと思ったか? あの時の俺のように?」

 

 

 

「違う! 違う!!!」

 

 

 

「このレースに全力を懸けているのはお前だけじゃない!」

 

 

 

 

「私はあらゆる手を使って勝ちを模索して来た!」

 

 

 

 

「俺は、私は、決してくだらない馬なんかじゃない!!!」

 

 

 

 

「俺を愛してくれたあの人の為に!!」

 

 

 

 

 

 

「私は勝たなくちゃならないんだよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時、会場にいたほぼ全ての人が、一条の矢を幻視した。

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━っ、キョウエイボーガンが一気に上がってきた!! 

 そのままミホノブルボンをかわし、ライスシャワーに並んで━━抜けたーっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 抜かれた。

 

 

 

 ああそうか、お前もそうだったのか。

 

 

 

 私と同じならば言ってくれればよかったのに。

 

 

 

 成程、完全に掌の上だったということか。

 

 

 

 私は負けるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━負ける? 

 この私が? 

 このレースで? 

 キョウエイボーガンに? 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━━━ふざけるな。

 ふざけるな!!! 

 あってはならない! 

 そんなことがあってはならない!! 

 

 

 

 

 

 

 

 私は黒い刺客だ! 漆黒のステイヤーだ! ライスシャワーだ!! 

 

 

 

 

 たかが策を弄された程度で負けるような弱い馬ではない!!! 

 

 

 

 

 このレースで、この菊花賞で━━

 

 

 

 

 

 

「━━私の勝ちを譲るつもりは無い!!!」

 

 

 

 

「━━いやライスシャワーが差し返す! ミホノブルボンは来ないのか!? お互いに先頭は譲らない! 残り200メートル!!」

 

 

 

 

 

 

「「はああああああああぁぁぁぁっっっっ!!!」」

 

 

 

 

 周囲から音が、色が、余計なもの全てが消えていく。

 ただあるのは地面と、ゴール板と、私と、ボーガン。

 

 

 

 抜かし、抜かされ、並び、並ばず。

「コイツに勝つ」以外の意識は消え失せた。

 

 

 

 

 

 勝つのはキョウエイボーガン(決意)か、ライスシャワー(運命)か。

 

 

 

 

 

「凄まじい競り合いです! 完全に並んだ! 後続とは6バ身近くの差がついています! 淀の舞台を制するのはどっちだ!? 横並びになって今ゴールイン!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 凄まじいうねりが観客席に生まれている中、私もボーガンもターフに倒れ込んだ。

 マトモな呼吸すらおぼつかない。

 

 

 

 ━━ああクソ、ボーガン、お前、本当に、

 

 

「お前、ふざけんなよ、マジで……」

「……はは、は、あんだけ、やったのに、ここまで、僅差に、なるとは、ははは…………」

「お前も、私と、同じなら、先にそう言えよ、クソ野郎」

「すまんね、ここだけはどうしても、勝ちたかったんだ」

 

 

 息も絶え絶えになりながらボーガンを睨みつける。

 本当にやってくれたな、お前。

 

 

「……よお、久し振りだな、ライスシャワー号。あの時の以来じゃないか」

「ああそうだなキョウエイボーガン号。まさかお前がそうだとは思ってなかったよ、本当に」

「随分と人間生活をエンジョイしてるみたいじゃないか、ええ? 私が散々メタ張って来てるってのに」

「それだけやっておいたくせに、完全に抜くことすら出来なかったみたいだけどな」

「それを言うな悲しくなる。本当お前マジで強いよ、何食ったらそうなるんだよ」

「そっちこそステイヤーじゃないくせによくここまで喰らいついたな、何してきたんだよ」

 

 

 お互いに軽口を叩きあう。

 まさかこんな形で同類に会うことになるとは。

 

 

 

「ていうかライスお前完全に素が出てるじゃねぇか、隠さなくていいのか?」

「お前相手なら別にいいだろ。いつ私がそうだと気付いた?」

「お前の描いたあの絵だよ。んなもん一発で伝わるわ」

「じゃあ接触してこいよ」

「やだ。菊花賞で勝たなくちゃならないのになんで言わなきゃならないんだよ」

「お前本当にこの……そういやこっちに来たってことは死んだのか?」

「おう、32まで生きたぞ。ちなみに俺等の世代で一番長く生きたぞ」

「マジ!?」

「マジマジ。

 そうそう面白いことがあってな、ナイスネイチャってまだ生きてたんだけどさ、あの馬33歳の時に3500万稼いでな。いやーあれは凄かった」

「待って何したんだよ気になる」

 

 

 

 私が知らない話をキョウエイボーガンが持ってくる。

 何をしていたのかは気になるところではあるが、相槌を打って聞いていた。

 

 

「……で、どっちが勝ったんだ?」

「そりゃ私だろ。お前に負けたらステイヤーの名が廃る」

「は? 最後に抜け出したのは私だろうが」

「じゃあ掲示板見てみろよ」

 

 

 

 掲示板には当然写真判定が付き、ディスプレイにはゴールした瞬間の映像が何度もリプレイされている。

 

 

 

 リプレイを見て、自分の感覚的に━━

 

 

 

 

「「やっぱり私の勝ちだな」」

 

 

 

 

 

 

「「━━あ゛?」」

 

 

 

 

 

「おやおや老いぼれて目が腐り落ちたようだなキョウエイボーガン。あれはどう見たって私の勝ちだろ」

「テメェこそ娯楽のやりすぎて目がいかれたんだろ、どっからどう見たって私だろうが」

「は? お前みたいな[規制済]に私が負けるはずがないだろバカかお前」

「あ゛あ゛!? んだとお前この[検閲済]! [放送禁止用語]!」

「[侮辱的発言]! [ちくわ創星神]! [自主規制]!」

「██████! [暴言]!」

 

 

 

 

 

「━━ええ、たった今写真判定が出ました!」

 

 

 実況の声に従い、罵詈雑言の嵐を止め掲示板を見る。

 

 

 

 

 

 

  〉同着

12

 

 

 

 

 

「「再審を要求しまぁす!!!」」

 

 

 

 私達は声高に主張した。

 

 

 

 

 ━━━━━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━

 

 

 

 結局あの後判定が変わることはなく。

 初のG1での同着となってしまった。

 私は未だに納得がいっていない。

 絶対に私が勝ってただろあれ。もう一回やり直せ。

 会場の空気がエライことになっているが気にしてはいけない。

 

 

 さて、いい加減地下バ道に行かなくてはならないのだが。

 

 

 

「ボーガン、いつまで倒れてんだよ」

「いや〜ジジイに3000メートルはキツイって。足動かん」

「今はウマ娘だろうが。後が差し支えるから早く立て」

「待って急に引っ張らないであ痛った!」

「……肩貸そうか?」

「いやお前のチビな体格じゃ意味ないだrゴッフぅ!?」

「歩け」

「はい……」

 

 

 

 

 色々と後始末をしたあと、インタビューへと向かう。

 とはいえ変な質問は少なく。

 悪意のある質問は正論でねじ伏せ。

 次走の話に移ったのだが。

 

 

 

「次走ですが、私もボーガンも有馬記念を予定しています」

「待って私何も言っていないんだけど!?」

「今回同着という優劣がつかない形になってしまったので、そこで改めて再戦という形で━━」

「話聞いて? 私まだ出るとか何も決めてないんだけど? 勝手に私の次走を決めないで?」

「同着かましといて何を言っているのやら」

「手札フルオープンした後にあなたに勝てる算段が思い浮かばないから嫌なんだけど!?」

「500メートルも短いんだから十分そっちの方が有利でしょう。それともこのまま逃げるおつもりで?」

「やってやろうじゃねえかこの野郎! (即答)」

「皆さんちゃんと言質取りましたね? というわけで有馬記念で決着をつけることになります」

「━━あっ待って今のナシでオフレコでお願い待ってホントウ待ってお願いだからああっ」

 

 

 

 

 

 




一応ボーガンはウマ娘というゲームの存在自体は知っていました。
多分あの人に色々とおしえてもらったんじゃないかな(捏造)

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