疾走の馬、青嶺の魂となり   作:乾いた重水

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2.好奇心は猫を……?

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 すごい。人間の脳みそすごい。

 いやもう信じられないぐらい頭に情報が入ってくるし素早く理解もできる。

 馬時代とは比べ物にならない思考速度。

 

 

 なるほど、これが成長が遅くとも地上の王足る所以か。

 実に素晴らしいものを手に入れたぞ。

 

 

 などと貪欲に知識を漁って数年が経ち。

 周りの人間からやれ天才児だの神童だのと揶揄われるようになってしまった。

 

 

 例え馬であっても前世という人格(この場合馬格か?)形成を既に経ているのだ。何も知らなければそりゃあ賢い子供に見えるだろう。

 

 

 あと知識を求めすぎたせいもあるかも知れない。

 だって…………どんどん覚えるの楽しいんだもん……

 そうやって覚えてたらめっちゃ褒めてくれるから余計に勉強しようってなるんだもん……

 

 

 私は悪くない。断じて。

 私を生まれ直させたこの世界が悪いのだ。ありがとう世界。

 

 

 両親も舞い上がったのか数学やらピアノやら英語やら色々と教えてくれた。めっちゃ楽しかったです。

 

 

 母親は特にレースについてよく語ってくれた。

 ウマ娘というのは馬よりも走りたいという欲求が強いのだろう。自分の娘が非常に賢かったら私だって競馬のコツやらなんやかんや教えていた筈だ。

 

 

 さて、レース関連の話を聞いたところ、どうやらレースに出るにはトレーニングセンター「学園」に行かねばならないらしい。

 まだ学校に行ったことがないのでどういう場所なのかよく分からないが、おそらく栗東トレセンとか美浦トレセンとかがウマ娘用に変質した場所だろう。

 

 

 と思ったがどうも違うらしい。

 中央競馬に当たる中央トレセンは一つのみ存在し、栗東や美浦は寮に変わっているようだ。

 栗東と美浦はかなり離れていたと思うのだが、何故かどちらも中央トレセンの近くにあるのだ。

 その栗東やら美浦やらは地名ではないのならば一体なんなんだ、と言いたくなったが黙っておくことにした。

 

 

 その中央トレセンだが、存在するのが中等部及び高等部(英名ではJapan Umamusme Training Schools and ”Colleges”であるため大学部も存在するようだが……?)、つまり小学校を卒業してからの入学となる。

 なんと生まれてから入るまで12年もかかるのだ。馬ならとっくに種牡馬入りして、なおかつその産駒が走っている頃だ。いやほんっっっと成長遅いな。

 

 

 それまでの馴致はどうするのかといえば、専用のクラブスクールに通うなり自分自身で鍛えるなどする必要がある。

 

 

 ちなみに、ウマ娘に騎手を乗せる訳には行かないので、当然レース運びは自分の頭で考える必要がある。

 レースの最後の方となると頭が上手く回らなくなるため、馬時代と比べて位置取りやスパートのタイミングがかなり難しくなっている。

 これを子供の脳みそに処理させるのはなかなかに酷なことだと思うのだが、これは馴致で頑張って鍛えるしかない。

 

 

 では今の内から筋肉を鍛えまくればいいではないかと思ったのだが、幼少期に鍛えすぎると筋肉によって成長阻害が起きるらしい。

 

 

 つまり今出来るのは基礎的な身体作り、知識収集、低酸素状態での思考回路強化ぐらいである。

 

 

 まあ知識収集全ツッパなのだが。まだ小学校にすら入っていないのに肉体を鍛える必要はないだろう。

 

 

 というわけで勉強頑張るぞー! 

 

 

 

 

 

 

 あと言い忘れていたのだが、この世界ではレースの後で何故か踊るらしい。

 

 

 本当になんで……? 

 

 

 

 

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 しばらく経ったあと、親がPCをくれた。

 

 

 楽   し   い

 

 

 いやぁインターネットでの情報収集やらゲームやらが楽しすぎる。

 人間め、私がせっせと走っている間にこんなに楽しいことをやっていたのか。羨ましいぞ。

 

 

 ちなみにしっっっっかりとネットリテラシーも身につけたので問題は無い。何も面白そうだからとホイホイ突っ込んでいくほど弱っちい精神は持っていない。

 ちゃんと情報の真偽も複数のソースから確認している。

 どこかのサイトで見かけたヤバい人間とは違うのだ。

 

 

 とりあえずこちらの世界のレース映像を片っ端から見てレース勘を保ち続けている。

 馬時代は走るだけだったが、他者の目線からレースを見るというのは新鮮で、やはり興奮するものだ。

 

 

 それとウイニングライブ。

 初めはなんでする必要があるんだと思っていたが、見てみるとこれはこれでいいものじゃあないか。

 

 

 センターに立てるのが勝ったウマ娘だけというのも競争心を煽るようによくできている。

 

 

 ライブ映像にもどっぷり浸かってしまった。

 

 

 

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 この世界でも、レースに勝つと賞金が貰える。

 ウマ娘は娯楽や酔狂だけで走っているわけではないので当然である。

 

 せっかくなので試しに前世の総賞金と比較してみようかとURA(前世のJRAに当たる組織らしい)のサイトから計算してみた所──

 

 

「──8おく8885まんえん……?」

 

 

 なんか前世よりもかなり増えてね? 

 しかも出走手当抜きでこの金額。

 前世は確か7億2949万7200円だったから、さらに+1億5000万強増えている。

 

 

 というか、一般人の平均生涯年収が3億に届かないぐらいだったので──

 

 

 

 ──前世通り頑張るだけで一生遊んで暮らせるじゃん。

 

 

 この日、私の走る理由が増えてしまった。

 

 

 

 

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