疾走の馬、青嶺の魂となり   作:乾いた重水

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27.殻

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ晴れの良バ場となりました第107回天皇賞(春)」

 

 

 

 

「一番人気はやはりこのウマ娘、『ターフの上の名優』メジロマックイーン。8枠14番での出走です」

 

 

 

 

 マックイーンさんの名前が呼ばれる。

 

 

 

 

 あの人、気迫が凄い。

 

 

 

 

 遠くにいるのにビリビリと肌に来る。

 

 

 

 

 仕上がりも完璧。

 

 

 

 

 そりゃあ黒い人もベッドであーだこーだと対策を練るわけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲートインですが……なかなか入りませんね。瞑想……でしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 マックイーンさんは目を閉じてゲート前に立ち止まっている。

 

 

 

 

 やがて顔を上げ、ゆっくりとゲートに入っていった。

 

 

 

 

 

 

「2番人気を紹介しましょう、『黒鬼』ライスシャワー。2枠3番です」

 

 

 

 

 黒鬼。

 

 

 

 

 いやもう私としては「鬼じゃなくて悪魔だ!」と大声で主張したいのだが。

 

 

 

 

 この呼び名には一応原因があって。

 

 

 

 

 先週、ライスシャワーさんに「写真撮ってくれ」とお願いされて、露出多めのトレーニングウェアを着た写真を撮ったのだけれど。

 ライスさんがTwitterにそれを投稿した。

 

 

 

 

 そしてエゲツなく絞られた身体に凄まじく反応が付いた。

 

 

 

 

 いやあ撮った私が一番実感したよね。

 何だあの筋肉。

 金剛力士像とか言われててクッソ笑ったぞ。

 

 

 

 

 そしていつの間にか鬼に名称が変わった。

 目黒記念とかのアレも原因だろうな、きっと。

 

 

 

 

 ちなみにスレ民には私が撮ったってことは一瞬でバレた。

 まあ私しか撮る人いないしね。

 

 

 

 

 今スレを見ると、実況が黒鬼呼ばわりしたことに沸いている。

 君たち、もうすぐ始まるぞ。

 

 

 

 

 

 

 全員がゲートに入り━━

 

 

 

 

 

 

「マックイーンの三連覇か、ライスシャワーが勝利をもぎ取るか、はたまた。

 ━━さあ天皇賞春、今スタートです!」

 

 

 

 

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 マックイーンが強化されているなら、やることは一つ。

 

 

 

 

 得意分野で全て押し通す! 

 

 

 

 

 スタートしてすぐにマックイーンの後ろをマーク。

 マックイーンはチラリと後ろを見て、「やはり来ましたわね」と微笑を浮かべた。

 それを見て「来てやったぞ」と獰猛に笑み返す。

 

 

 

 

 メジロパーマーが相変わらず先頭、その少し後ろにマックイーン、続いて私。

 

 

 

 

 ずっとポジションをキープしていると、横からチラチラと視界に入ってくる奴がいた。

 

 

 

 

 マチカネタンホイザだ。

 

 

 

 

 正直かなり鬱陶しい。

 耐え切れなくなって思わず「失せろ!」と怒鳴りつけてしまった。

 途端にビビり散らした様子だったが、今度は静かに私の後ろについていた。

 意外とやるじゃないかお前。

 

 

 

 

 私達の圧によってか、パーマーがさらに加速。

 あの時よりもさらに早いペースでレースが進んでいく。

 

 

 

 

 その状態を保ったまま、三コーナーの終わりまで来た。

 

 

 

 

 その状態を保つしかなかった。

 

 

 

 

 あの時よりもさらにハイペースになるのは想定済み。

 であれば、少しでもスタミナを温存しておかないと差し切れない。

 マックイーンの無尽蔵とも言えるスタミナでも、限界はあるはずだ。

 故に、マークをしながらスリップストリームを使うのが得策。

 

 

 

 

 それをマックイーンは許容した。

 小細工があろうとも叩き潰す、真正面から迎え撃つ。

 

 

 

 

 そんな意思を感じる。

 

 

 

 

 こいつならやってしまえるのではないか、との思いがチラつく。

 

 

 

 

 だとしても、勝たせるつもりは毛頭ない。

 

 

 

 

 その余裕ごとぶっ潰す! 

 

 

 

 

 パーマーが垂れ始めたのを合図に、私達は一気に加速し始めた。

 

 

 

 

「間もなく最後の直線、一気にメジロマックイーンとライスシャワーが上がってきた! 少し遅れてマチカネタンホイザ、……」

 

 

 

 

 

 

 お互いに目が合った。

 

 

 

 

 

 

 ━━行くぞ! 

 ━━かかって来なさい! 

 

 

 

 

 

 

「「はああああああああぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 追いつき、追い越し、追いつかれ、抜かされ、また追いつき。

 

 

 

 

 何度も交わし交わされ、そのたびに差は縮まり。

 

 

 

 

「縮まってたまるか」と再び離しにかかる。

 

 

 

 

 あまりにも暴力的なスピード。

 歓声が消え、色が消え。

 

 

 

 

 何も考えず、「負けてたまるか」という意思のみで脚をぶん回す。

 

 

 

 

 

 

 ゴール板が近づいて。

 

 

 

 

 魂の奥底から勝利を求めた時。

 

 

 

 

 何か、殻を破るような感覚を覚えて。

 

 

 

 

 グン、と身体が前に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━ライスシャワーがわずかに抜け出してゴールイン! やはり鬼は強かった──!」

 

 

 

 

 

 

 ゆっくりと周囲の音が聞こえ始めた時、

 

 

 

 

 視界がぐらりと歪んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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425:レース好きの名無し

 起き上がらんぞ

 

426:レース好きの名無し

 大丈夫か

 

427:レース好きの名無し

 動いて

 

428:イッチ

 全員走り終わったの確認したら直ぐに向かいます

 アレ多分ヤバい

 

429:レース好きの名無し

 ふぁっ!? 

 

430:レース好きの名無し

 待ってくれ壊れるほどは出して欲しく無かった

 

431:レース好きの名無し

 イッチ頼む

 

432:レース好きの名無し

 終わったか? 

 

433:レース好きの名無し

 無事であってくれ

 

434:レース好きの名無し

 イッチ行った! 

 

435:レース好きの名無し

 トレーナーはよ

 

436:レース好きの名無し

 マックイーン頑丈だな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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