テイオー(競走馬) ←(写真を見る)なんだこのイケメン!?
参考画像: https://cdn.netkeiba.com/img.db/v1.1/show_photo.php?horse_id=1988101025&no=7692&tn=&tmp=no
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東京優駿。
またの名を、日本ダービー。
オフトラが全てを懸けるレース。
ブライアンに喧嘩を売りに行くレース。
さて、そんな当のオフトラ本人は━━
「ハ~ナ~シ~テ~ェ……」
「嫌ですもう少しだけお願いします」
テイオーをがっちりと抱きかかえていた。
なんでだよ。
その様子をバッチリ動画に撮っている私が言えた事ではないが。
後でTwitterに上げるか。
「デ、デレナイ……」
「ドリームに行った人に負けるようなヤワな鍛え方してないんで」
「ライス、キタエサセスギダッテ~」
「いやテイオーもマックイーンも嬉々としてトレーニングさせてたよね?」
「ム~……」
しばらくしてテイオーが諦めた。
オフトラのなすがままにされている。
「……なんでずっと抱きしめてくるのさ」
「いやぁ……こう、三冠ウマ娘を吸ってそれっぽいのを得ようと……」
「それっぽいのって何!?」
まあ、願掛けのようなものだろう。
倒すべきブライアンだが、当然のようにNHKマイルを勝った。
だが問題が一つ。
NHKマイルでかなり抑えていた。
体力を温存し、半バ身程度と無駄に差をつけずに勝っていた。
これでは消耗を期待することはできない。
しかもブライアンは大外枠、8枠17番。
東京競バ場はかなり外側不利とされているが、ブライアンであれば問題はないだろう。
そして外にいるということは、檻を形成しづらいということ。
皐月賞ではあんな檻からも逃げ出した。
何より、他のウマ娘たちに若干諦めの空気が漂っている。
おそらく、今回も檻に閉じ込められるとは考えない方がいいだろう。
要するに、ほぼ真正面からやりあうしかないということ。
「いや〜キツイでしょ……」
「まだ時間はあるし、もう少し考えを詰めようか……」
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「……やっぱこれしかないか」
「そうだな」
全員の意見が一致した。
「ライス、オフトラにできるんだな?」
「勿論。ただブライアンだしデバフは望めないと思う」
「それでもやるしかねぇ」
時間が近づく。
一つのレスを投稿して、スマホを置く。
「準備はできた?」
ライスさんが尋ねる。
「……ええ、なんとか」
「ならよかった」
控室のドアノブに手を掛ける。
ああそうだ、とライスさんが呼び止める。
「何ですか?」
「━━━━━━━━━━、━━━━━━━━━━━━━━━━」
「……っ」
「わかったか?」
「━━わかりました」
さて、それじゃあ━━
「━━行ってきます」
444:イッチ
ちょっと命懸けてくる
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『さあバックストレッチに入りまして先頭は依然アイネスサウザー、その後ろにメルシーステージ。注目のナリタブライアンは中団前の方。そのすぐ後ろにはオフサイドトラップがピッタリとついています』
ザザッ、ザザッ、ザザッ、ザザッ、と二つの足音が重なる。
目の前の黒い髪が揺れる。
この距離を保ち続けろ。体力を使うな。
そのことだけ考えろ。
今は必要じゃない情報は考えるな。脳をも温存しろ。
もうすぐ第3コーナー。
ブライアンはいつ仕掛ける?
同時に行く? でもブライアンの末脚に並べる?
━━いや、並んでみせる。
600だ。
それまでにブライアンが仕掛けなかったら行こう。
緩やかに坂を下る。
6のハロン棒が近づいた時、ブライアンが動いた。
フェイントを警戒する必要はない。
どうせ他の誰も視界に入ってないんだから、わざわざ騙す必要はない。
今は無理に抜かすな。
だが抜かされるな。
並び続けろ。
一人、また一人と抜かして行く。
ブライアンのギアも一つずつ上がって行く。
上がれ。
上がれ上がれ上がれ!
死ぬ気で並ぶんだ。
最後に少しでも抜かせばいい。
坂を登り切り、残り300の平坦な直線。
そして、前に誰も居なくなった。
いるのは横のブライアンだけ。
「ああああぁぁぁぁぁっっっっっっっっっ!!」
全力で脚をぶん回す。
まだか。
ゴールはまだなのか!?
速度の限界が近い。
でも、ここで超えなきゃどうするんだ。
ブライアンが、こっちを見た。
━━私を見た。
怪物が、深く踏み込んで前に飛び出す。
まだ上がれるのか。
でも私だって、まだいける筈だ。
追いつこうと更に前傾して━━
ぶちぶちっ
脚から嫌な音がした。
━━嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
ここで、こんな時に。
少し前のブライアンに、三女神の幻影が重なって見えた。
私は邪魔だとでも言うように、脚が鈍くなる。
「く、そがっ……っ」
私にやる冠はないってか。
クソどもめ。
これで終わりか。
━━━
「何ですか?」
「本当に勝ちたいのなら、たとえ脚がもげたとしても走り続けろ」
「……っ」
「わかったか?」
「━━わかりました」
━━━
ああ、そうだ。
まだ脚はもげてない。
なら走れる。
なあクソ女神。
私を止めたきゃ、脚ぐらい取ってみせろよ。
私は、案外しぶといぞ。
「━━━━━━━━━ッ!!!!」
声にならない咆哮を上げる。
内からの衝動に突き動かされる。
全身がひび割れて行く感覚。
自分がどうやって前に進んでいるのか、自分でもよくわからない。
ゆっくりと流れる時間の中、ブライアンの背中が近づく。
でもその姿はすぐにボヤけてくる。
いや、これでいい。
何も見るな。
この流れを止めるな。
ただ前に進むんだ。
何も感じない脚で、何も見えない視界で、何も聞こえない世界で、走り続ける。
前に行くんだ。
前に、前に、前に。
『━━━━━━! ━━━━━━!』
走れ。
前に。
まえ?
前ってどっちだっけ?
どこに行けばいいんだっけ?
でも走らなきゃ。
進んで、進んで、すすんで、すす━━
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白い。眩しい。
思考に靄がかかっているみたいだ。
ぼーっと白を眺める。
ゆっくりとピントが合ってくる。
白い天井。白い照明。視界の端には白いカーテン。
それと同時に思考も晴れる。
ここはどこだろう。
いや、とにかく起きなきゃ。
そう思っても、身体がうまく動かない。
「起きたか」
聞き覚えのある声がする。
声は近くからするのに、なぜか遠く感じる。
目を向けると、ライスさんが居た。
「……おはよう、ございます」
「ん、おはよう」
「……ここは病院ですか?」
「そこ以外にどこがあると思う?」
「……確かに」
ライスさんは手に持っていた本を置き、こっちを見つめる。
「どれぐらい寝てたんですか?」
「2日」
「…………」
「ゴール板過ぎた後も速度を落とさず、そのままバランスを崩してぶっ倒れて転がって、なお地面に這いつくばって前に進んでた。んで救護班に回収されてここに運ばれて今に至る」
あの時、前に進むことしか考えていなかった。
多分意識もなかっただろう。
「……結果は」
「?」
「ダービーの結果は、どうだったんですか」
「ああ…………」
ライスさんが遠くを見つめて、
「負けたよ。ハナ差だった」
「……そう、ですか…………」
虚無感に包まれる。
頭の中で事実を反芻する。
しばらくして、悔しさが込み上げてきた。
病室の中、私の泣き声だけが響いていた。
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包帯で巻かれた脚を見る。
もう走れないのだろうか。
「さーて」
ライスさんが呼びかける。
「来年の予定を決めなくちゃな」
「……え?」
「え?」
「いや……私走れるんですか?」
「え、うん」
マジですか。
正直ほとんど諦めてたのに。
「今年いっぱいは治療とリハビリに専念しなくちゃいけないけど。来年は多分大丈夫らしい。全く頑丈な奴め」
若干羨ましがるような声で言った。
「ま、とにかく……怪我人同士がんばろう」
そう言えばあなたも脚やってましたね。
というか、この状況って。
「……あの」
「?」
「私もライスさんも怪我で休養じゃないですか」
「そうだな」
「ウチのチーム現役全滅ですけど大丈夫なんですか?」
「……………」
「……大丈夫なんですか??」
「多分……多分? テイオーとマックイーンがドリームにいるし大丈夫でしょ……大丈夫だよな?」
……トレーナーの胃が無事であることを願う。
「あ、そうだ」
「はい?」
「はい、チーズ」
「えちょ待っ」
慌ててピースと笑顔を作る。
「てかそれ私のスマホじゃ」
「そうだよ」
そう笑ってスマホを投げ渡す。
「オフトラのこと心配してる連中がいるんだろ? ちゃんと無事だって報告してやれ」
「……はい!」
まったく、気の利く。
掲示板でスレを探す。
いつのまにか2つも完走していて申し訳なく思う。
文章を打ち、画像を添付して送信。
364:イッチ
ただいま起きました
心配かけてごめんね
[画像]
365:レース好きの名無し
!!
366:レース好きの名無し
大バカ野郎が帰ってきたぞ!
367:レース好きの名無し
何やってんだバカ野郎!
クッソ心配したんだぞバカ!
368:レース好きの名無し
マジで不安だったんだからなこの大バカ野郎!
それはそれとして無事でよかった!
369:現地勢
ガチで夜寝れなかったんだからな!?
無事でよかった……
後