疾走の馬、青嶺の魂となり   作:乾いた重水

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46.青いエンジン

 

 

秋天の日。

私はゲーセンにいた。

秋天にはうちからは誰も出ない。

ビワハヤヒデが出るし、どうせ屈腱炎回避して勝つだろうから、後で結果だけ見ればいいかと思ったのだ。

 

 

全国大戦で進行マスを稼ぐ。

あっこの野郎ハイセ◯スナンセ◯ス投げやがったふざけんな!

お前後でTeri◯maの刑だからな覚悟しろよ。

お互いに中指を立て合いながらゲームに興じる。

 

 

キリのいいところで切り上げ、休憩。

時刻は午後4時。

もう秋天は終わったか、とスマホを開いた。

そこにあった勝者の名は。

 

 

 

 

「ツインターボォ!!?」

 

 

 

 

ゲーセンで大声を出してしまった。

マジかよターボ。

何があった。

何したお前。

まさか逆噴射しなかったのか。

クソがマジで見とけばよかった。

次はジャパンカップらしい。

帰ったら絶対に動画見る、と決めてまた筐体に戻った。

今日がイベント最終日なのだ。

早く完走しないと。

動画は後でも見られる。

 

 

次のジャパンカップは見に行く価値があるかもな、と思いながら私は黒譜面を投げた。

 

 

道化師外し忘れて自爆した。

 

 

 

 

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私の次走はステイヤーズステークスだ。

12月にあるのでまだ先だけど。

 

 

菊花賞はブライアンが勝った。

勝ったには勝ったが、どこか焦り、あるいは恐れを持っているように感じられた。

大丈夫だろうか。

 

 

ブライアンが菊花賞を勝ったので、姉妹揃っての無敗三冠が達成されたことになる。

学校にマスコミが押し寄せ、姉妹の実家にも取材が行き、テレビでは特番が組まれ、トレーナーが過労で倒れた。

まあいつものことだ。

いつも倒れられても困るが。

 

 

素晴らしいことに4年中3年も無敗三冠が出たのだ。

魔窟か何かだろうか。

どっかの誰かが1年穴を開けたのだが。

テレビやネットでそのことが言われるたびにボーガンと一緒に指差して嘲笑するのはとても気分がいい。

なお穴を開けられた側のウマ娘は凱旋門賞で2着だった。

あと20cmだった。惜しいなぁ……

 

 

そんな「穴あき」の世代にも注目は来る。

未だに走り続けているのがだいぶ減って来ている癖に、引退していないのが私・ブルボン・バクシンオーとかいう、他世代からしたらなかなかに理不尽な面子が揃っている世代なのだ。

 

 

テレビの突撃取材が来たことがある。

まず無敗二冠ウマ娘のブルボンにカメラが向く。

次に面白そうな気配を感じ取った私がその場に現れる。

さらに何かやらかそうとしている私を感知したボーガンがついて来る。

そして揃った92クラシック組。

ブルボンが記者を起点に爆弾を投げ付けた。

 

 

「今なら無敗三冠を取れると思います」

「は? お前外国で成績いいからって図に乗るなよ」

「よしブルボンちょっとターフに出ろ、私が引退したからって鍛えるのをやめたと思うなよ」

「いいでしょう、条件はダービーと同じで構いませんか?」

「「異議なし」」

「ではそれで。私が勝ちますが」

「あ゛? その腐り落ちた認識機能に現実突きつけてやるよ」

「はっ、お前がクラシックディスタンスで私に勝てるわけないだろうが」

「黙ってろマイラー、口にダート突っ込むぞ」

「すいません一応これ取材なんです。もう少し穏便に出来ませんか?」

「「「レースこそ最も穏便な手段ですが」」」

「……ハイ、ソウデスネ……ちなみにレースを撮影しても?」

「ご自由に。先頭に立つ私をキチンと映してくださいね」

「「は?」」

 

 

結果は不明、ほぼ同着だった。

キチンと測る機械が無かったのが悔やまれる。

体感では絶対に私が少し出ていたはず。

絶対に。

絶対にだ。

 

 

なお一番の勝者はテレビ局である。

 

 

 

 

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ジャパンカップ。

 

 

私はターボを応援しに来ていた。

というか今回のジャパンカップ、非常に観客が多い。

やはりツインターボ人気か。

さすがツインターボだ。

また、今回はトレーナーが「絶対に勝てる」と断言していたのもあるだろう。

果たして東京の2400を走り切れるのか。

 

 

一般客として応援するのは場所取りがしんどいな、と思っていたのだが、杞憂に終わった。

ターボに応援しに行くと話したら、カノープスに混ぜられたのだ。

というわけで今横にカノープスの面々がいる。

 

 

「感謝していますよ、ライスシャワーさん」

 

 

突如南坂トレーナーに礼を言われた。

 

 

「あの時のオールカマーで、ターボさんは何か壁を突き破ったように感じます」

 

 

「そして、その突き破る原動力の一つがあなたです」

 

 

「あの時から1年━━ターボさんは“燃料タンク”を身につけました」

 

 

ああーー恐ろしい。

永遠に逆噴射しないツインターボ。

それは、きっと。

 

 

「あなたの春天よりはマシですが、それでも“酷いこと”になるのは保証しますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

━━ジャパンカップは、ツインターボが10バ身の差をつけて勝った。

 

 

 

 

最後に若干のスタミナ切れが見られたが、もはやそれすらどうでもよかった。

今までに聞いたことのないような歓声。

ただ私やブライアンが圧倒するのでは生まれ得ないもの。

ツインターボでしか、この歓声は生み出せないだろう。

 

 

「……次は有ですか?」

「ええ。このまま秋シニア三冠を取りますよ」

「おお怖い。有を回避してよかった」

「それはこちらのセリフです。ブライアンに加えてあなたも対処しないといけなくなってしまう」

 

 

 

 

 

 


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