疾走の馬、青嶺の魂となり   作:乾いた重水

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アニメを全速力で履修中のため、もしかしたら間が空くかも知れません。


5.どこ行くねーん

 

 

 

 スピカでのトレーニングにも慣れてきた頃。

 トレーナーの指導はガッチガチに組み上げられたというものではなく、ある程度は自主性に任せたトレーニングを行わせるといったもの。

 

 

 本格化が来ていない現時点では、肉体よりも技術的な面に重点を置いてトレーニングを行なっている。

 ゲート訓練だったり展開予想であったり。

 

 

 あとはウイニングライブの練習。今のうちに歌詞だけでも覚えておいた方がいいとのことだったので、チームメンバーでカラオケによく行った。

 しっかしトウカイテイオー歌上手かったなぁ。普通に歌手としても大成できるんじゃなかろうか。

 テイオーが時折見せるクソガキムーブは微笑ましい顔で見ていたが。

 コイツのダービーからどう変わっていくのかを知っているからだが。トウカイテイオーの成長を近くで見られるというのもこのチームに入った利点だろうか。

 ただ、骨折の可能性を忠告しておくべきなんじゃないか、という思いもある。

 しかしあの挫折を経験しないと成長しなさそうだよなぁ……

 と、いろいろ知っているからこその保護者面をしてしまう。

 前世じゃ一個年上だったはずなのだが……

 

 

 技術トレーニングで後一つやってみたいことがあるのだが、相手にテイオーしか取ることができず、そのテイオーはハチミツで腹を壊したため現在できない。

 別にテイオーでなければならないというわけではないのだが、マックイーンにはまだ手札を喰らわせたくないし、ゴールドシップに関しては脚質が追い込みのため不可能。

 というわけでダンスレッスンを行っている。

 

 

 ──ところで、うまぴょいって何なの? 

 

 

 

 

 そうそう、マックイーンはやはり面白いやつだった。

 野球とスイーツに関してはなかなかに愉快なことになるのだ。

 

 

 まず野球。

 最近は「どういうわけか」死んだ魚のような目でテレビを見ている時間がある。

 口からちょっとここに書けないレベルの罵詈雑言が漏れ出ていて本当に面白かった。

 さらに、「何故か」334という数字に過剰に反応するのだ。

 ボソっと呟くだけで耳を忙しなく動かす様子は実に愉快だった。

 

 

 次にスイーツ。

 コイツ、甘いもの好きなくせにすーぐ太るからあまり食べられないらしい。

 普段からケーキ屋のチラシを見て涎を垂れ流したり、街中のスイーツショップの匂いにふらふら釣られたり。

 この間、カフェテリアでの食事の時テイオーと一緒にマックイーンの目の前でメロンパフェを素知らぬ顔で食べてやったところそれはもう笑えr悲痛な表情を浮かべていた。

 美味しゅうございました。

 

 

 今度チームの部屋でチョコアイスでも食べようか。特に深い意味は無いが。ええ、決して。

 

 

 

 ─────────

 ──────

 ───

 

 

 無事にテイオーが腹痛から還ってきたので、並走トレーニングを依頼する。

 なお、当の本人は懲りずにハチミツドリンクを飲んでいる。

 どんだけ好きなのアレ。ていうかそこそこの値段したよね? どっから金出てるの? 

 ──いや、本人は出さないが所々に育ちの良さが垣間見える時があった。

 なんか「じいや」とかいう不穏な単語を口にしていた気もする。

 前世的に考えて、メジロ家はメジロ牧場の反映。

 じゃあテイオーは何なんだと思ったが、おそらくパーソロン系の影響だろうか。

 じゃあこっちでもテイオーとルドルフは親戚だったりするのだろうか……? 

 でもそれだったらテイオーがカイチョーカイチョーと鳴かずにもう少し親しげな呼び名になるはずだよなぁ……

 

 

「お〜い、ライス〜? 聞こえてる〜?」

「…………あっ、ごめん。考え事してた」

 

 

 テイオーの声で思考の底から浮上する

 マッタクモー、ナニヤッテンノサーとテイオーに言われてしまった。相変わらず半角カナが似合う声だ。

 

 

「……ちなみに、何考えてたの〜?」

「ええっと……」

 

 

 さて、これは言ってもいいものか。

 ……別に親戚関係を聞くぐらいなら問題はないか。

 

 

「……テイオーとシンボリルドルフさんって親戚だったりする?」

「なんで急にそんなことを……え〜っと、まあ一応……? でもかなり離れちゃってるから親戚とは言い難いかなぁ……」

「へぇ……」

 

 

 遠い親戚。

 まあ妥当なラインだろうか。本当に前世通りだったら近い血縁関係をもつウマ娘が千人を超えてしまう場合もあるし。

 大種牡馬というのは大変だなぁ……

 

 

「ていうか、マークの練習でしょ? 早く始めようよ!」

「そうだね。じゃあコースは2000m右回りで」

「オッケー! まあどんなに長くても逃げ切っちゃうモンニ!」

 

 

 そう、やりたかったのはマーク練習である。

 マックイーンを相手にできなかったのは耐性をつけさせたくなかったからだ。

 

 

 さて、本格化が来たテイオーと、まだ来ていない私。

 もちろん簡単に差せるとは考えていないが、まあテイオーの鼻をへし折るぐらいは目指したい所。

 

 

 スタート位置に着き、合図として空のペットボトルを投げる。

 地面についた瞬間、同時にスタートを切った。

 位置取りは、もちろんテイオーの後ろ。

 スリップストリームの利益を最大限受けられるように位置を調整し、テイオーに圧をかけ始める。

 

 

「……っ」

「…………」

 

 

 若干テイオーが加速する。それに合わせて、いやそれ以上に加速し──

 

 

「……!?」

 

 

 ぴったりとテイオーの後ろに張り付く。テイオーが跳ね上げる泥が容赦なく身体にかかるが、完全に無視してさらに圧を強くする。

 

 

「……っ! …………ッッ!」

「…………」

 

 

 テイオーもここまで来るとは予想していなかったのか、若干ブレが生じ始める。

 そのブレを見極め、適切なタイミングで足音や気配によるフェイントをかける。

 内から抜くぞ、右に行くぞ、後ろに下がるぞ。

 時には歩数を調整しテイオーと同じタイミングで足をつけるようにし、唐突に気配を消す。

 一瞬できた意識の隙間を狙い、また一気に圧をかける。

 様々に翻弄しながら進めていき──

 

 

「はあっ、はあっ、はあっ、…………ああっ!」

「…………ふっ!」

 

 

 テイオーの体力がかなり消耗したタイミングで抜かす。

 そのまま差を開けてゴールイン。

 数秒してから、息も絶え絶えなテイオーがゴールに辿り着いて、そのまま地面に倒れ込んだ。

 しばらくテイオーが息を整えて、ようやく口を開く。

 

 

「なに今の!? メチャクチャ走りづらかったんだけど!? ていうか近すぎでしょ!? 急に消えたと思ったらいきなり出てくるし! どこで覚えたのそんなの!?」

「だってそういう練習だし……」

「ワケワカンナイヨ-⁉︎」

 

 

 どこで覚えたのかは勿論言えない。覚えたというより教えてもらったの方が近いが。騎手の方、本当にありがとうございました。

 しかし、マークが無事に上手く出来て何よりだ。

 折角だからと追加で色々やってみたが効果はかなり大きいようだ。

 もう少しブラッシュアップしてより理不尽にしていきたいところ。

 今はテイオーが使い物にならなくなってしまったので、また後日になるだろうか。

 ゴルシがせめて先行できたらよかったのに。

 ……いや、ゴルシは得意なのは追い込みと言っていただけで、もしかしたら先行や逃げもできるかもしれない。

 ちょっと探してくるか。

 

 

「……えっ、ちょっとどこ行くの!?」

「ゴールドシップを探しに」

「えっなんで…………待って同じことやるの!? ていうかゴールドシップって逃げか先行って出来たっけ!?」

「させる」

「怖いよ!?」

 

 

 

 

「むっ、ゴルシちゃんセンサーが逃げろと言っている。マックちゃんちょっと席外すわ!」

「どこに行くんですのゴールドシップ! 待ちなさい! 私のプリンを返してくださいまし!」

 

 

 

 

 ──遠くからマックイーンの声が聞こえる。

 どうやらゴールドシップを追っているらしい。

 つまりそこにゴールドシップがいるのだ。

 というわけで声のする方へ向かうと……

 

 

「あっ、ライスさん! ちょうどいいところに! ゴールドシップを捕まえてくださいまし!」

 

 

 何故か怒り心頭のマックイーンと合流した。

 そして少し先にはゴールドシップが。

 実にちょうどいい。このままマーク練習もさせてもらおう。

 

 

「……! よおライス! 実は今……ヒイッ!」

 

 

 初っ端から圧を全開にして追尾開始。

 状況も相まっていい練習相手になりそうだ。

 

 

「な、何でそんなにコエエんだよライス!? うわぁっ無言でこっちに来るんじゃねぇっ!」

 

 

 ゴールドシップがすぐさま逃げ出す。

 別に殺して食うわけでもないのに大袈裟な。ただマークの練習をしたいだけなのに。

 ゴールドシップが逃げ道上の物体で妨害してきたり、曲がり道の多いルートを通ったりするが、強引に押し通る。

 

 

「う、嘘だろぉ!?」

「…………」

 

 

 どんどんと距離を詰めて、そのままゴールドシップに張り付き続ける。

 

 

「ひいいいいいいいいいいいいいい!!」

「……………………」

 

 

 ゴールドシップは果敢にも逃げ続け、体育館を通り、カフェテリアを通り、etc………………

 

 

「誰かたすけてぇぇぇぇぇぇ………………!」

「………………」

 

 

 

 やがてテイオーのいるコースまで来た。

 

 

「テ、テイオー助けてくれよぉ! なんかめちゃライスが追っかけてくるんだけどぉ!」

「うわぁ、本当にやったんだ……」

 

 

 ほとんど泣きそうになりながらテイオーに泣きつくゴールドシップ。そのままテイオーの後ろに隠れるように姿勢を変える。

 テイオーは諦めたような、哀れむような目でゴールドシップを見た。

 ガタガタと震え涙目でこちらを睨むゴールドシップに、なにも怖がる必要はないと示すために、朗らかな笑顔で優しく声をかける。

 

 

 

 

「ゴールドシップさん、今マークの練習をしてるんだけどね、あと3本ぐらい付き合って欲しいの」

 

 

 

 

 ゴールドシップとトウカイテイオーは抱き合って震え上がった。

 

 

 後にゴールドシップは、「ライスシャワーは恐ろしい鬼だ」と語ったとか語らなかったとか。

 

 

 


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