疾走の馬、青嶺の魂となり   作:乾いた重水

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遅刻しました
アニメですが、やっとスペの宝塚まで見れました。
もっと急がねば


6.夏合宿前の掌編集

 

 

 

 1.猛暑

 

 

 蝉の音が響きだし、夏の訪れを感じる頃。

 つまり、外でのトレーニングが辛くなる季節である。

 馬は暑さに弱いのだ。ならば当然ウマ娘も然り。

 

 

 ここが田舎で標高が高いところであればまだマシだっただろう。

 しかし、残念ながらトレセン学園は東京の府中にある。

 流石ヒートアイランド現象、クッッッソ暑い。だるい。とける。しぬ。すずしいところにいたい。あいすたべたい。めじょまっきーんかってきて。

 暑さのせいで思考もだるだるに融けている気がする。

 

 

 そうだ、コース場の上をドームで囲って空調を利かせればいいんじゃないんだろうか。

 そうすれば豪雨でも練習できるし。日差しもカットできて素晴らしいじゃないか。

 あの理事長に言えばやってくれるかもしれない。ポケットマネーで色々やってくれたし。

 いやでも流石にだめかな……どうかな…………

 

 

「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……………………」

「……ライスシャワーさん、完全に暑さにやられてしまっていますわね…………」

「あれじゃあもうお米というかお粥なんじゃないかなぁ……」

 

 

 粥どころではない。もはや重湯のレベルなのだ。

 あの眩し過ぎる太陽をどうにかしてくれ。日差しが強過ぎる。

 

 

 ん? 太陽……太陽神……ヘリオス…………

 

 

 

 つまりダイタクヘリオスを[自主規制]すれば涼しくなるのでは? 

 

 

 

 そうと決まれば話は早い。早速──

 ……あぁぁ、その気力すら起きない。誰か代わりにやってきて。

 

 

「ライスの目がなんかヤバげな感じになっちゃってるよ!? 本当にアレ大丈夫なの!?」

「……とりあえず首筋と脇下と内股を冷却しましょうか。血液を冷やせば多少はマシになるはずですわ」

「あんなに暑さに弱くて夏合宿大丈夫かなぁ……」

 

 

 

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 2.期末考査

 

 

 前期末考査が無事に終わった。もちろん補習は回避。

 サクラバクシンオーは悲惨なことになっていたが。頭バクシンとは正にこのことか。

 彼女を指導する先生方はさぞかし苦労する羽目になるだろう。なんとか頑張って支えてほしい。

 

 

 全教科返ってきたので、そろそろ順位が発表される頃である。

 幼少期から知識を身につけまくったのだ。国語の記述で少しだけ減点を食らったが、それ以外は満点なのでまあ1位だろう。

 そもそも中1レベルなのだからこの程度当然ではあるが。

 

 

 数日後、順位表が掲示されたとのことなので早速見に行く。

 

 

 

 

 

 第一学期期末考査・中等部第一学年

 五科目総合(500点満点)(上位50名)

 

 

 

 1位  キョウエイボーガン 500

 2位 ライスシャワー   496

 3位 ミホノブルボン   487

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 ……………………は? 

 

 

 …………………………………………は??? 

 

 

 キョウエイボーガン? え? は? 

 え、アイツ? 菊花で破滅逃げしたアイツ? アイツに負けたの? しかも満点? 

 

 

 はああああああああああああああ???? 

 

 

 え、キョウエイボーガンってそんな賢そうな奴だったっけ? 

 これもウマ娘化の影響なの? 天才に変わるパターンもあるの? 

 

 

 …………いや、ミホノブルボンも3位まで食い込んでいるな。ミホノブルボンも馬時代はそこまで賢くなかったはず。それがこの結果なのだ。

 そうなのか、ウマ娘化で極端に頭が良くなるパターンもあるのか。

 これは素直に羨ましい。前世持ちだとどうしてもそこを土台として発達するのだ。

 元から賢い奴は賢い土台から始まるのでそのような人は私よりも有利なのだ。

 

 

 ──いや、これは言い訳か。より解答の正確性を詰めなかった私のせいだ。

 二学期末は絶対満点取ってやる。

 

 

 

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 3.合宿準備

 

 

 夏合宿が近づいてくる。

 合宿場所はメジロ家提携の練習場付き旅館。なんとプライベートビーチも付属している。

 流石はレース界の名家、これがお金の力か。トレーナーも予算が浮いたと大喜びしていた。高級旅館にタダで泊まれるという理由もきっとあるだろうが。

 

 

 メジロ家が気前良く貸してくれた理由は、今回の夏合宿の主目的がマックイーンにあるからだ。

 マックイーンは現在一勝クラス(500万下)。春天への足掛かりとなる菊花賞を視野に入れつつ、9月の函館で一勝クラス突破を狙って行く。

 

 

 副目的はトウカイテイオー。デビュー戦は12月にすることになったので、やや遠いがこちらもしっかりとトレーニングを行う。

 私とゴールドシップは本格化がまだの為、2人のアシストもしながら基礎作りを行なっていく。

 

 

 さて、現在は合宿に持って行く荷物の用意である。

 トレーニング機材は貸し出してくれるとのこと(何とトライアスロン用の服まで貸してくれるようだ)なので、各々私物を準備することになる。

 

 

 とはいえ特に何も無いが。私服とPCとタブレットぐらいのものだろう。

 そんなわけで適当に詰め込んでいたのだが──

 

 

「…………ライスちゃん? ええっと、夏合宿の準備……だよね?」

「? はい、そうですが……」

「……水着、持って行かないの?」

「はい、トレーニング用の水着は向こうが用意して──」

「そうじゃなくて! プライベートビーチついてるところ行くんでしょ!? 私的な水着って持ってないの!?」

「学園指定のものだけですけど」

「それで行く気だったよね!? ぜっっったい、ダメ!!! ああもう、明日空いてるって言ってたよね!? 可愛いやつ買いに行くよ!」

「え、いや、でも、別にそんな──」

「いやもでもも無い! ていうかライスちゃん普段着も可愛げがなさ過ぎるよ! Tシャツとジーパン以外見たことないよ!? ついでに買いに行こう!」

「え、ええ…………」

 

 

 というわけで服屋に連行されることとなった。

 あと決してTシャツとジーパンしか持っていないわけではない。ゲーセンに行くときのためのもっと動きやすいズボンもある。上は知らん。

 まあ、ファッションに無頓着かと訊かれれば「はい」としか答えられないのだが。

 

 

 翌日、ショッピングモールにて私は着せ替え人形と化した。

 いい服は結構なお値段がするのだとこの日思い知らされた。

 総額を脳内で何クレ分かに換算してしまったことは内緒だ。

 服以外にもファッション雑誌を買わされたりもしたが、まあ楽しい日であったことには違いない。

 雑誌に書いてある内容はさっぱり分からなかった。

 

 

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 4.テイオー、尾行

 

 

 ライスシャワー。ボクたちチームスピカのメンバー。

 加入した経緯はちょっとアレだったけど、トレーナーの見抜いた通り強いウマ娘だ。

 トレーナーには一体何が見えてるんだろう。この間だってマックイーンの1kg増を見ただけで言い当てたし。こういうことが出来ないと中央のトレーナーにはなれないのかな。

 ライスシャワーの強みはなんと言ってもその膨大なスタミナとマーク技術。

 トップスピードはボクよりも遅いけれど、徹底的なマークでゴリゴリこちらのスタミナを削ってくる。

 それほど頻度は高くないけれど、マークの練習になったら逃げたくなっちゃう。ゴルシは確実に逃げるけど。

 でも、無敗の三冠ウマ娘になるんだったらマーク対策もしなくちゃいけない。

 さすがにライスほどのマークはしてこなくても、複数人からマークされることだってあるはずだ。

 正直とっても怖いし疲れるけど、頑張ってやらなくちゃ。

 

 

 そんなライスシャワーだけど、そういえば個人的なことをそんなに知らないなぁ。

 確かに、彼女は優しくて、賢くて、謙虚だ。

 でもそれはあくまで客観的な評価であって。

 何の食べ物が好きなのか。休みの日は何をしてるのか。なんでトレセンに来たのか。

 そういうことをボクは一切知らない。本人があまり言わないのもあるけどね。

 

 

 でもある日、はちみーを買いに行こうとしたとき、ライスシャワーを見かけた。

 とてもシンプルで地味な格好だったから逆に目立ったんだけどね。

 どこに行くんだろうと思って、声をかけようかとも思ったけど、それじゃあライスの素顔が見られないんじゃないかって思ったんだ。

 だから、こっそり跡をつけることにした。

 始めはどこに行くかさっぱり分かんなかったけど、ついて行ったら──

 

 

「ゲーム……センター……?」

 

 

 ライスがゲームセンターに入っていったんだ。

 ちょっと意外だなぁと思った。あんまりそういう場所に行きそうに見えなかったから。

 ボクはゲームセンターには行ったことがなかったから、何があるんだろうと思って入った。

 ぱかぷちのクレーンゲームとか、カーレースのゲームとか、良く分かんないブースとかがいっぱいあってワクワクしちゃった。

 

 

 ライスは奥に行って、なんか洗濯機みたいな形の筐体の前に立った。

 よく見たら手袋をつけてて、それで何をするんだろうって気になっちゃった。

 隣の画面でリズムゲームだと分かったけれど。ショッピングモールに置いてある太鼓のやつしか知らなかったけど、こういうのもあるんだ。

 ゲームが始まったんだけど、ライスの動きがすごかった。

 音楽に合わせてボタンをすごい速さで叩いたり、画面を擦ったり。

 あんなに激しく動いてるのに全然ペースが落ちてないし、よく見たら重心が全然ブレてない。

 思わず見入っちゃった。

 ライスはそのまま立て続けに三曲やって、コンティニューして、また三曲やって……

 汗は出てるけど全然疲れてない。本当にすごいスタミナだ。

 その後はゲームを変えて、足のパネルを踏むやつをやってた。そっちでもすっごい足捌きで。

 もしかしてこれってトレーニングの一環なのかなぁ。

 ゲームだったら楽しく出来るし、ウイニングライブの為のリズム感も鍛えられる。結果もすぐにスコアとして分かるし、かなりいいんじゃないかな。

 後でボクもやってみようかな。

 ライスがこんなことをやってるのを知れてよかった。見つかる前に帰ろう。

 

 

 

 




ちなみにライスはトレーニングとか考えてなくて単純にスコア詰めに行っただけだったりします。

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