俗世が好きで何が悪い!?   作:みども

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青羽の弟②

 東家の本邸への偵察では何ら成果を得られないまま、青羽たちへ届ける物資を用意して魔都に戻ったジョン・ドゥ。

 隠れ里に向かうと、普段にも増して上機嫌となっている青羽が出迎えた。

 

「フンフンフーン♪ お、ジョイマン・ディーじゃない! またいろいろ持ってきてくれたんだ!」

 

「訂正を要求します。ジョン・ドゥ、貴方がつけた名前のはずです」

 

 何度も繰り返してきた挨拶を交わす。

 他の隠れ里の住人はジョン・ドゥの名前を覚えてくれているのだが、なぜか名付けた張本人だけが毎回のように間違えるのである。

 むしろわざとではないかと思われるかもしれないが、彼女は素で間違えている。いつものことなのでジョン・ドゥの方もあまり気にしていない。

 

 お馴染みとなりつつあるやり取りをしてから、青羽の後についてきた隠れ里の住人である銭函(ぜにばこ) ココと湯野(ゆの) 波音(なおん)に物資を満載した背囊を渡す。

 2人はこの隠れ里を作った住人たちの中でも古参のメンバーであり、そして陰陽寮に実験動物として飼われていた過去がある日本政府の隠す闇の被害者と言える人たちである。

 

「ありがとな、お前がいてくれてほんと助かるよ。……余計なモンまで大量に持ち込むのはどうかと思うけど」

 

「観光雑誌1つをとっても私たちの心の娯楽になる。美しい心遣いよ」

 

 礼を言いながら中身を漁り、やっぱり必要なものもどうでもいいものが満載された中身を見て若干引いているココ。

 一方で波音の方はそんな無駄なものでも住人たちの笑顔につながるものもあるので、実態はジョン・ドゥの趣味によるものだが無駄なものを買い込むのも心遣いだと思っている模様である。

 

 ココに荷物を渡したジョン・ドゥは、魔防隊の戦力調査の結果や八雷神という存在について話す前に、普段にも増して上機嫌な様子の青羽にその理由を尋ねた。

 

「上機嫌と推測します。何か吉報がありましたか?」

 

「あ──」

「それは──」

 

 ジョン・ドゥとしては単なる好奇心で尋ねただけだが、余計なことを聞くなと後ろの2人が止めようとした。

 ココと波音が何故このような反応をしたのか、それは直ぐに知ることとなる。

 ジョン・ドゥに疑問を投げかけられた青羽は、見るからに嬉しそうな表情となって詰め寄ってきた。

 

「聞きたい? 聞きたい? 聞きたいわよね? わかったわ、そこまで聞きたいなら聞かせてあげる!」

 

「…………?」

 

「やべ……私らちょっと用事が──」

「不味いわね。少し外す──」

 

「2人も丁度いいわ、聞かせてあげようじゃない!」

 

「げっ、捕まっちまった……お前、恨むからなジョン・ドゥ」

「面倒ごとに巻き込まないで欲しかったのだけど。美しくないわ」

 

「…………」

 

「聞いてJD・権兵衛! 優希が魔都(こっち)に来ていたの!」

 

 訳を話したくて話したくてウズウズしていた青羽が、散々このことを聞かされていたココと波音も捕まえて、ジョン・ドゥに対して上機嫌な理由を語りだす。

 要約すると、6年前の魔都災害に被災してから離れ離れとなってしまっていた青羽の弟である『和倉 優希』が魔都に来ており、魔防隊にいたということ。

 弟との再会が嬉しかったせいで、これほど上機嫌になっていたのである。

 

「──それが本当にかわいくてね! やっぱり優希は世界一のイケメンだって改めて思ったわ!」

 

 ……因みにこの後二時間以上に渡って、延々と弟の自慢を聞かされることとなった。

 

 

 

 

 

 

 長話に付き合うことは、別にジョン・ドゥにとっては苦痛ではないが、興味のないことを延々と聞かされることにココと波音は辟易としていた。

 ジョン・ドゥが持ち込んだ物資を隠れ里の住人たちに配ってくるという名目のもと、途中で2人は避難。

 残りの自慢話はジョン・ドゥが1人で延々と聞かされることとなった。

 

 青羽が上機嫌だったのは、世界で一番カッコよくて世界で一番愛しているという弟の優希と再会できたこと。

 その優希だが、現在は魔防隊七番組の組長の奴隷にさせられているとのこと。

 その話を聞いたジョン・ドゥは、七番組にいた京香の使役していた奴隷のことが思い浮かび、それが青羽の実弟である優希であると確認する。

 世界一のイケメンという話だが、ジョン・ドゥが確認したのは無窮の鎖による形態であり本来の姿は確認していないので、その情報からは判別できなかったが。

 ……知ったところで、醜鬼であるジョン・ドゥに人間の美醜感覚は分からないので結局判断できないが。

 

魔防隊の連中(あいつら)……私の世界一カッコよくて世界一愛しくて世界一可愛い優希を奴隷にしてこき使うとは、本当にいい度胸しているわ」

 

「研究機関にとらわれるよりは──」

 

「そんなことしたらマジでしばき倒す!」

 

「……この話題は切り上げるべきと判断します」

 

 奴隷云々のくだりではそれまでの上機嫌が一転、怒りをあらわにする青羽。

 暗い境遇の話題よりも明るい方向に話を移そうとするジョン・ドゥだが──

 

「魔防隊ならば(つがい)候補に難儀することは──」

 

「……今何て?」

 

「……優希も青羽との再会を希望すると推測します」

 

「うん、ジャックは分かっているわ! その通り!」

 

 さらなる地雷を踏み抜き、あまり掘り下げるのはやめたほうがいいと判断した。

 訂正して話題を逸らすと、上手くハマったらしく途端に上機嫌になる青羽。

 何となくだが、このやり取りからジョン・ドゥも弟について語る青羽をどう誘導すればいいのか粗方理解することができた。

 ……名前は相変わらず間違えられているが。

 

 そして青羽の機嫌を直すためにジョン・ドゥが出任せで言ったこの言葉に、青羽がある行動を起こすことを決める。

 ……元々決めていたので、ジョン・ドゥに言われなくても実行するつもりだっただろうが。

 

「優希だって私に会いたいって思っているはずだもの。だから、今から優希を取り返そうと思っているわ!」

 

 優希を取り戻す。

 それが意味するところは、魔防隊と事を構えるということである。

 

 一度決めた事は曲げない、特に今回の優希奪還に関しては絶対に曲げないだろう事を承知の上で、ジョン・ドゥは問いかける。

 

「……魔防隊と事を構えると?」

 

「いずれぶつかる事になる相手よ。ジェシカも来てくれたこのタイミングが好機だわ!」

 

「魔防隊側の戦力が把握しきれていません。存在を明かす事になれば、陰陽寮襲撃計画にも支障が出る可能性があります」

 

「それでも私はやる。優希をこれ以上、魔防隊の好きにさせる事はできない」

 

 ジョン・ドゥもわかっていた事だが、青羽の考えは変わらない。彼女の決心は固かった。

 青羽もジョン・ドゥが合流するこの機会を散々我慢してきたのだろう。これ以上後回しにするつもりもない様子。

 説得は無駄と判断し、ジョン・ドゥは頷いた。

 

「……了解しました。襲撃に使用する予定だった群れを温存しています。自分も参加します」

 

「ありがとう。さすが、持つべきものは友達よね!」

 

「友達ならば名前を間違えないでください」

 

「やってやるわよ! 見てなさいよ、魔防隊!」

 

 ……聞いてない。

 

 そして、ジョン・ドゥの帰還とともに戦力の整った青羽たちは優希を奪還するため、そして魔防隊と開戦するために動き出した。

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