俗世が好きで何が悪い!?   作:みども

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序章
観光客 ジョン・ドゥ①


 魔都で生まれる桃は、食した人類に異能の力を与える。

 ただし、能力の恩恵を受けられるのは女性のみ。

 そして、厳正な調査に基づき適合する桃を食べることによってのみ、十全な恩恵を受けることができる。

 

 日本政府の傘下にある組織、主に魔都にのみ存在くる桃や醜鬼に関する調査を行う機関“陰陽寮(おんみょうりょう)”。

 魔都で得られた桃は、基本的にこの組織で管理されている。

 陰陽寮の厳正な管理によって桃の流通が制御されているのは、日本による利益の独占──ではなく、もっと重大で深刻な隠された理由があった。

 

 桃は、男性が食しても腹すら満たされない何の意味もない存在。

 しかし、恩恵を受けられる女性が食した時、もしもその桃が適合しなかった場合、その姿は人から逸脱した怪物に変化する。

 

 醜鬼と人の間にあるその存在は、人型醜鬼と呼ばれている。

 この人型醜鬼の存在を日本政府は秘匿しており、発生を防ぐためにも桃の流通を制御していた。

 

 

 

 

 

 

 無数の人々が行き交い賑わいを見せる都市、横浜。

 その中でもひときわ有名であり、世界中から観光客が集まる場所、横浜中華街。

 

 その中華街に無数に並び立つ建物と建物の暗い隙間に作った門をくぐり、現世に到着。

 暗闇から出れば、そこは人類が行き交う活気あふれる街が広がる。

 

 先ほどまで魔都にいた存在は、単眼鏡を背囊にしまい建物と建物の隙間から人々が行き交う中華街の通りに出ると、すぐに周囲を行き交う人並みに紛れ込んで行った。

 

 一切の異色がない銀髪に、雪のように白い肌とメラミン色素が欠乏しているように見える緋色の瞳。

 まるで先天性白皮症に見られるような、美しくも儚げな印象を与える外見は、黒髪黒目の黄色人種が大半を占めるこの島国では非常に目立つ。

 

 しかし、ここは多くの人が行き交う日本を代表する観光地の1つでもある横浜中華街。

 外国人観光客は珍しくないため、周囲に比較して浮く外見をしているその存在も人混みに容易に紛れることが可能だった。

 

「……さて、先ずは」

 

 上着の内ポケットから端末を取り出して地図アプリを起動。

 目的地を定めたソレは、人混みに紛れた現世、人間側の世界でやるべきことを片付けるために中華街を歩きだした。

 

 

 

 

「…………」

 

 魔都に存在する、魔防隊二番組寮。

 鬼門に位置する故に醜鬼の発生・襲撃が頻発する激戦地を任せられている魔防隊二番組長の上運天 美羅は、この地では決して珍しくない百体の醜鬼からなる群れの襲撃を迎撃・殲滅した後に、わずかな違和感を感じていた。

 

 ただ百体の醜鬼が襲ってきただけ。

 秩序もなく、人間に対する敵対の本能に従い襲来してきた雑魚醜鬼たち。

 特に不自然な点はないが、ただの勘だが普通の襲撃とは違う気がした。

 

 まるで試されているような、誰かに見られていたような感覚。

 

 その違和感を感じた先に目を凝らしたが、そこには誰もいない不気味な平地が広がっているだけ。

 何ら不審な点はなかったが。

 

「そういや、少し前にりうさんのところにも百体の醜鬼の襲来があったな……」

 

 ふと彼女の頭に浮かんだのは、2週間ほど前に魔防隊発足期からの最古参である『冥加(みょうが) りう』が率いる魔防隊一番組の寮にも同様に百体の醜鬼たちによる襲撃があった一件。

 一番組の管轄下では珍しい大規模な襲撃だったため、本部から他の組にも通達があった。

 

 醜鬼たちにも、一応は生存本能がそれに類するものがある。

 危機的状況になれば、周囲の醜鬼と合体し巨大化するなどの傾向が見られるのだが、今回襲来した醜鬼たち、そして一番組に襲来した醜鬼の群れは全滅するまでただ襲撃してきてただ戦っていただけ。

 普段の醜鬼の群れと行動パターンが異なる、醜鬼というよりも醜鬼の肉体を与えられたロボットを相手しているような、無機質で単調な印象を受ける群れだった。

 

 数もきっかり百体。

 一番組の時も同様で、合体などもない通常の醜鬼がきっかり百体。

 そして1週間ほどの感覚を隔てて、同様に逃げることも合体することもなくただ全滅するまで襲いかかってくるだけの百体の醜鬼の群れによる襲撃が、五番組と八番組の寮、そして各組から集められた隊員たちで構成される桃の一大生産地の洞窟に設けられた拠点に対して起きていた。

 

 偶然で片付ければ偶然かもしれないが、何かキナ臭い。

 まるで、魔防隊の力を測るために各拠点を襲撃しているようにすら思える。

 

「チッ……」

 

 どうにも嫌な予感がして落ち着かない。

 帽子をかぶりなおした美羅は、その嫌な予感を確かめるために、寮へと足を向ける。

 

 

 

 ──そして、戻った先で一瞬だが寮の近郊にて魔都と現世を繋ぐ門が生まれていたことを知る。

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