俗世が好きで何が悪い!? 作:みども
……あれ? 俺、どうしたんだっけ。
──そうだ、姉ちゃんと再会して、そして捕まったんだ。
──でも、いつの間に意識を失っていたのだろう。
暗い深海の底にいるような感覚から、急激に浮上するような感覚が走る。
水面に出ると、まぶたの上から光が差し、それを感じて和倉 優希は目を覚ました。
最初に視界に入ったのは、採掘場の中のような、岩肌に囲まれた無機質な部屋の天井だった。
「……ここは?」
……知らない天井だ。
こういう場面で出てくる下手な感想を思いながら、まだ覚醒しきっていない頭で記憶を探りつつ言葉を紡ぐ。
眠りが浅かったせいか、比較的短時間で記憶を思い出す。
日万凛と朱々から魔都災害の被災者に偽装した人型醜鬼の襲撃を受けたという救援要請を受け、京香と出撃した優希。
その先で待ち構えていた実の姉である青羽と交戦になり、捕まった。
「──そうだ、みんなは!?」
記憶が蘇った優希の意識は、危機的状況に陥っていたと思われる日万凛と朱々、そして自分が捕まったことで1人になってしまった主人である京香の安否に向けられた。
寝かされていたベッドから飛び起きて、目に付いたドアに手をかける。
それとほぼ同じタイミングで、外の警戒のために外に出た青羽に代わり優希の容体を見ておくように頼まれていたココが、同じドアを開けようとして手が空を切った。
「えっ──!?」
「──うわ!?」
直後、部屋から飛び出してきた優希と正面衝突の事故を起こし、その結果偶然という名のラッキースケベによりココが優希を押し倒すような格好になってしまった。
「い、一体何が……ってええ!?」
「いてて……起きてたのかよ」
「優希が起きた気配が──」
そして運悪く、優希が意識を取り戻した気配を感じ取ったブラコンの青羽が急行して事故現場に到着。
そこで本当に事故の結果こうなってしまったのだが、はたから見ればココが優希を押し倒しているように見える光景を見てしまった。
「あ、青羽姉! いま丁度こいつが──って何で!? いてててて! ギブギブギブ!!」
「私の弟を押し倒すとはどういう事!」
すぐさま誤解した青羽により、状況を理解できていない優希をよそにココにロメロスペシャルの制裁が下される。
完全に冤罪であり、さすがに酷い誤解だったので部屋のそばで事故の一部始終を目撃していた波音が宥めに入った。
「その誤解は美しくない。目を覚ました彼が扉を開けるのと、ココが様子を見るために扉を開けようとしたタイミングが重なって事故を起こしただけ。押し倒したわけじゃない」
「……そうなの?」
「そうだよ! 私も正直何が起きたか分かってないんだ! お願いだから下ろして!」
「悪かったわココ!」
波音の説明もあり、なんとか誤解が解けた様子。
謂れのない制裁から無事ココは解放された。
「…………」
一方、混乱が未だに治らず人型醜鬼たちのやりとりを見ていることしかできなかった優希は。
ココに対する一方的かつ冤罪でしかない制裁を与え、誤解が解けたら強引に水に流す嵐のような姿に、姉の面影を見た。
「その性格……やっぱり、姉ちゃん……?」
優希の言葉に、青羽は優しい笑みを浮かべ、その体を抱きしめる。
「久しぶり。立派になったわね、優希!」
その言葉は、その抱擁は、どんな姿になっていようと優希に彼女がかけがえのない大切な家族であることを教えてくれるものだった。
6年前、死んだと思っていた。
6年間、心にあいた穴は埋められなかった。
「本当に……生きていたんだ……!」
「私がくたばるわけないでしょ!」
その穴が、埋められた。
年甲斐もなく、優希は涙を流す。
──感動の、姉弟の再会の瞬間だった。