俗世が好きで何が悪い!? 作:みども
魔防隊の任務で最も重要なものは?
魔都の資源である桃の管理?
人を脅かす醜鬼の駆逐?
2つの世界をつなぐ門の監視及び管理?
──否である。
魔都防衛隊──略して魔防隊。
彼女たちの任務の中で最も重要な任務は、魔都災害の被災者の救助活動である。
人命第一。
それが魔防隊魂である。
いかなる事情があるとしても、魔都災害の被災者を救うこと。
それを教えられた優希は、事情さえ理解できればたとえ人型醜鬼になったとしても人間である青羽たちを保護できると思っていた。
だからこそ、青羽たちに魔防隊に保護を求めるべきだと提案したが──
「魔防隊は敵だよ!」
「優希を奴隷扱いしたし、組織の構造上絶対に敵ね」
「……私たちはある研究機関を襲おうと思っているの。魔防隊は必ず立ち塞がる、戦いは避けられない」
青羽も、ココも、波音も、和やかだった雰囲気が一変して、三者揃って魔防隊を戦うべき『敵』と言い放った。
そこにはほとんどの日本国民が魔防隊に抱く、自分たちを魔都の脅威から守ってくれる頼もしい存在というものはない。
もはや醜鬼が人間に向ける敵意そのものといっても過言ではない剣呑なものだった。
(さっきまで和やかだったのに、なんでいきなり!? せっかく姉ちゃんと会えたのに……どう動けばいい? とにかく情報が必要だ、話題を変えないと……!)
「姉ちゃんは……なんで俺が魔都にいるってわかったの?」
青羽たちの豹変ぶりに焦った優希は、ひとまず話題をそらす。
優希が青羽と出会ったのは、いずれも京香の能力により奴隷の形態をとっていた場面である。
容姿という意味ならば今の青羽たち以上に人間離れした自分のことがなぜわかったのか。
これはこれで気になる疑問だったが、答えは簡単。
「弟の気配を感じ取ったのよ。姉だからね」
先ほどまでの剣呑な雰囲気が和らぎ、姉の表情を見せる青羽。
それに当てられたのか、ココと波音の雰囲気も和らぐ。
その変化に内心で胸をなでおろした優希は、魔都での邂逅で『特徴は世界一のイケメン』と言われたことを引き合いにそれではわからないよと茶化したのだが、本気で優希のことを世界で一番愛している青羽は自慢げに優希の容姿を1兆点のイケメンだと褒め称え、ココと波音にも同意を求めた。
……優希は確かに整った容姿だが、世界一のイケメンというのはさすがに無理がある。
ココたちから完全な棒読みでお世辞の同意をいただいた優希は、喜び抱きつく青羽の横で2人に申し訳ないと内心で平謝りをした。
直後、優希の腹が空腹を訴える音を鳴らす。
それを聞いた青羽は愛する家族の元気な姿に安心するような優しげな表情となり、優希の食事を持ってくるとほとんどがジョン・ドゥの現世より持ち込んでいる食料を貯蔵している蔵へと向かった。
「弟はおにぎりとソーセージを一緒に食べるのが好きなのよね〜♫」
鼻歌交じりに幸せオーラを満開にしながら蔵に入る青羽。
弟の好物も全て覚えている姉は迷うことなくおにぎりとソーセージを幾つか手に取り、新たな住人が加わったことで物資の確認・整理と補充をしていたジョン・ドゥが作業している棚より邪魔だどけと友達を押しのけてお茶をとって戻っていった。
なかなかの暴君ぶりだが、いつもの事なのでとジョン・ドゥは何事もなかったかのように作業に戻る。
お腹をすかせた優希が、ジョン・ドゥの自分の持ってきたご飯を幸せそうに食べてくれる姿を想像しながら戻った青羽だったが。
そこで見たのは、お腹をすかせてご飯を待っている愛しい弟の姿──ではなく。
一体この短時間で何があったのかと突っ込みたくなる、魔都で取れるキノコの幻覚作用に当てられ食材と間違えたココと波音を抱き寄せているおかしくなった弟の姿だった。
──閑話休題。
「──すみません、変になって!」
「こっちこそ悪い」
「アクシデントよ、気にしていないわ」
正気を取り戻した優希は、波音とココに深々と頭を下げて謝罪する。
事故とはいえ、子供に見せられないことをしでかした件については心底申し訳ないと思っている様子。
2人もわざとではないことを承知しているので、多少の恥ずかしさはあったものの彼の謝罪を受け入れ許した。
「……気を取り直して、次はこいつら紹介するわ」
優希の方もおにぎりとソーセージで腹も満たしたことだしと、青羽が指を鳴らして同居する特殊個体の醜鬼たちを呼び出す。
武器を扱う蜘蛛のような形態をとる波音の相棒の醜鬼、アクラ。
熊のような姿に強力な再生能力と体表の硬化能力を持つココの相棒の醜鬼、熊童子。
そして月山大井沢事件で多くの命を奪った一本角が特徴の青羽の相棒の醜鬼、鬼童丸。
「醜鬼の中でも強い力を持つ特殊な個体よ。私はこいつを鬼童丸と呼んでるけど、魔防隊では一本角だっけ?」
「熊童子だよ」
「アクラ……」
「こいつら、姉ちゃんたちには従うんだ……」
熊童子も鬼童丸も現世において大きな魔都災害を起こした個体である。
魔防隊員としてその情報を知っている優希にとっては恐怖の対象ともなる特殊個体の醜鬼。
人間に対して本能的に敵意を抱き襲ってくるのが醜鬼であるというのが常識だった優希は、これらを乗りこなし従わせている青羽たちに驚きが隠せない。
これらの醜鬼は魔都で発生した個体。ジョン・ドゥの作るロボットのような通常醜鬼たちと違い、それぞれに自我がある。
人型醜鬼となっているからこそ、力でねじ伏せて従わせれば主と認めある程度の命令は聞く。
飼い続けるには餌も必要だし、命令するにも回数や内容次第では従わないこともあるが、通常の醜鬼たちと比べそれを補って余りある強さがあるため、便利な存在であった。
隠れ里の地下洞窟、波音やココたち、そして醜鬼の特殊個体。
これであらかた紹介したと判断する青羽。
「ざっと、こんなところかしら」
(名前どころか存在すら忘れるのかよ……)
(彼の紹介は後回し……いえ、忘れているわねこれは)
そして隠れ里の住人たちにとって様々な現世の物資を届けてくれる恩人であり青羽にとっては友達であるはずなのに、もはや後回しどころか素で忘れられているという誤った名前で紹介する以上に雑な扱いをされているジョン・ドゥ。
ココと波音はあと1人紹介しておく仲間がいることを目で青羽に訴えたが、スルーされる。
面倒になったので、2人もジョン・ドゥのことは優希が会ってからでいいだろうと口にするのはやめた。
一方、青羽たちのことを知りたがっている優希は、紫黒や壌竜の姿がないことを気にしつつも、醜鬼を従えている姿に以前京香が青羽に問いかけたことについての疑問が浮かびそのことについて尋ねた。
「そういえば、前に姉ちゃんが『お前が総大将か』って問いかけに答えたよね、『半分正解だけど』って。アレどういう意味?」
青羽が初めて京香たちと対峙した時、京香に問いかけられた言葉。
醜鬼たちの総大将であることが半分正解。
その意味は、青羽が人型醜鬼たちのリーダーであり、ジョン・ドゥの作る醜鬼たちのリーダーであり、そして力で従わせた鬼童丸らのリーダーであるということ。
魔都に自然発生し存在する、黄泉醜鬼たちを従えているわけではないから、『半分正解』が答えだった。
そしてもう1つ、京香への返答に続けた言葉がある。
「『魔都について全然分かっていない』とも言っていたけど、それはどういう意味が?」
「まさに、私たちが
「それを聞かせて欲しい!」
人型醜鬼となった理由。
青羽たちは、人型醜鬼という存在が何なのか、何故人型醜鬼となってしまったのか、何故魔防隊を敵視するのか。
日本政府が隠す陰陽寮と魔都の闇の部分について、優希に語り始めた。