俗世が好きで何が悪い!? 作:みども
魔都の桃を食べるには政府へ申告し、審査に合格した申請者が専門機関の立会いの元で桃を食べることができる。
なぜ、そういった審査が必要なのか。専門機関の職員の立会いが必要なのか。
表向きには能力が万が一危険なものであった場合の対策、などとされているが──
魔都災害に遭遇した人の中には、当然のことながら醜鬼に襲われた際に魔防隊の救助が間に合わないこともある。
自力で逃げ延びようにも、醜鬼は人間をはるかに上回る身体能力を持つ。土地勘もない魔都で闇雲に逃げ回ったところで、すぐに引き裂かれることになるだろう。
──では、その被災者の前に魔都の桃があったら?
能力を得れば、醜鬼を追い払える可能性がある。
その僅かな希望にすがった彼女は、能力を得たが、同時に日本政府が秘匿する異形に変化するという『アタリ』をひいてしまった。
陰陽寮において、人型醜鬼は貴重な
魔都を有益なものとして国民に宣伝するためには、醜鬼以外の闇は隠す必要がある。
その存在は徹底的に秘匿され、確保した人型醜鬼は軟禁され治療のための研究と称され、人としての尊厳を踏みにじる非道な扱いを受ける実験動物にされる。
それこそ、守るべきはずの人の命を奪いかねない傷をつけることも平気で行われるほどに──
「そんな……」
波音とココから人型醜鬼の境遇を聞いた優希は、動揺を隠せなかった。
醜鬼や魔都の桃を研究する機関である陰陽寮の存在は、京香から聞いたことはある。
その役目は醜鬼を研究し魔都災害の対策に役立てたり、魔都の桃の研究を重ねより安全な実用を目指すための機関という話だった。
だが、その実態はまさに危険に満ちた魔都という存在をその犠牲者をさらなる犠牲者として踏みにじってまで資源として利用しようとする、青羽たちの言う通り『魔都の闇』と言えるものだった。
現世で騒ごうとも、政府は桃の能力を駆使し民衆を操作し世論を操作し握りつぶす。
それどころか、人型醜鬼たちは現世にいては陰陽寮の研究対象にするため政府が主導する『人狩り』にあう。
だから魔都に逃げるしかなかった。
未だに陰陽寮には多くの人型醜鬼が捕まっている。
青羽たちは醜鬼の戦力を集め、彼女たちを解放してこの魔都の闇、政府の隠し事を白日のもとに晒すために、陰陽寮の襲撃を計画していた。
青羽たちが魔防隊を敵視する理由も分かった。
魔防隊も陰陽寮も、日本政府の傘下機関である。
政府が人型醜鬼たちを人間ではなく醜鬼と認定すれば、魔防隊は陰陽寮を守るために青羽たちの前に立ちふさがる『敵』なのだから。
だが、現世に醜鬼の軍勢を従える青羽たちが乗り込めば、魔防隊との戦いで確実に大きな被害が発生する。
人々を魔都災害から守る組織の一員としてそれだけは何としても思いとどまらせようと、京香のような話のわかる魔防隊の幹部に話し協力を仰げば陰陽寮のことを平和的に解決して人型醜鬼たちの治療も安全な手段で模索できるようになるのではと、優希は説得を試みるが──
「魔防隊も総組長あたりなら陰陽寮の実態を知っていて当然では? トップがそれでは下に話しても意味がないわ」
「国のためにあたしらに泣けって方針のところは敵なんだよ! どこも信用できない!」
非道な扱いを受けてなお一度は人として実力行使ではなく事態の発表という手段に出たところ、政府にそれを冷酷に握りつぶされた経験のある波音やココは話を聞いてくれなかった。
「でも、人に戻る手段だってやっぱり魔防隊のみんなに協力してもらったほうが──」
「大丈夫よ、優希! 当てはあるの。私たちは自力で体を治す方法を見つけてみせる!」
ならばと青羽の説得を試みるも、やはり彼女も魔防隊を信用してくれそうにない。
それでもせめて実力行使だけは阻止するために何とか説得しようとする優希だが、遮るように蔵の方からジョン・ドゥが出てきた。
「魔防隊が到来しています。何らかの手段で、隠れ里の位置を捕捉されたと推測します」
「!」
魔防隊が来た。
その言葉を聞いた優希は、突然現れた外見は明らかにアルビノみたいだけどまともな人間であるジョン・ドゥに対して「誰?」という疑問を浮かべる余裕もなかった。
「説明の途中なのに……全員に伝えて! 決められた通りに動けって!」
そして、魔防隊の接近を聞いた青羽は前哨戦と言わんばかりに迎撃するつもりの様子。
「──前哨戦よ」
隠れ里を舞台に、魔防隊と人型醜鬼たちの優希を賭けた戦いが始まろうとしていた。