俗世が好きで何が悪い!? 作:みども
洞窟の入り口に出てきたココと熊童子らを朱々とサハラに任せて洞窟内部に侵入を果たした両組の長と副長たち。
そして中腹までたどり着いた一行を出迎えるように、開けた場所にて朱々に怪我を負わせた武器を扱う特殊な醜鬼アクラをはじめとする醜鬼の一群が待ち構えていた。
特殊な個体の醜鬼を背後において、強力な人型醜鬼から優希の奪還をするのは困難を極める。特に今は主戦力の1人である京香が能力の代償により自由に動けない状況。
組長の2人を優希の元へ行かせるためにここで一行は再度戦力を分散することとなり、両組の副組長同士であり血の繋がった姉妹でもある日万凛と八千穂がアクラたちと対峙することとなった。
「この敵は東で倒す。良いな日万凛!」
「組長たちが挟撃されないよう、しっかりとね!」
「…………」
ただし、この場所にはアクラの周囲にいる個体の他にも洞窟内部に隠しているジョン・ドゥ配下の通常醜鬼たちが潜んでおり、またあらゆる物に潜り込む能力『
現状、東姉妹は波音らの存在に気づいていない。
ジョン・ドゥからあらかじめ魔防隊員たちの能力や戦闘スタイルなどの情報を波音は聞いている。
彼女の能力は何にでも潜れるが、激しく動く物体に潜るのは苦手のため、銃器を駆使して戦う東姉妹は正面から相手取るには相性の劣る敵である。アクラ達を囮して姿を潜ませて、奇襲で仕留めるのが基本的な方針となる。
敵の両組長はそれぞれ、時間を操る能力と他者の能力をコピーできる能力を持つ。
時間操作は強力な反面使用者への負担が大きいが、仮にコピーにより2人ともこの能力を駆使できる場合、奇襲を何度も見破られる可能性が高い。
1人ずつ確実に仕留めるのではなく、数の有利を活かして2人を一度に倒せる機会を狙って潜伏を続けていた。
一方で波音の存在を知らない東姉妹は。
妹との共同戦線というシチュエーションが嬉しくてたまらない八千穂が上機嫌になる横で、日万凛が早速コピーする能力を身体を武器に変える能力『
「蜂の巣じゃあ!」
それを八千穂の号令のもと、先手必勝とばかりに槍しか持っていないように見えるアクラに対してアウトレンジからの攻撃を敢行した。
それに対し、アクラが槍を振り回して器用に銃弾を弾く。
アクラの背後にいた個体は無事だったが、この銃撃に周囲の通常醜鬼たちは次々に貫かれ倒れていく。
それでもアクラには傷1つ付いていない。
外見からして普通の醜鬼とは異なる存在。そのくらいのことはするだろうと予測済みのようで、2人に動揺はない。
しかし銃弾を弾くといっても、機関銃の放つ弾丸の嵐はアクラでも防戦が手一杯でこの状況では動けそうにない。
ならばとアクラが隠し持つ弓を取り出そうとした時、先ほどまで余裕だった八千穂の表情が突如として切迫したものに変わった。
(……能力を使用した? アクラの弓──じゃない)
一瞬、アクラの弓矢による攻撃が引き金になり能力を行使しなければいけない状況になったのかもと感じた波音だったが、その予測とは裏腹に八千穂は唐突に背後を警戒する。
「日万凛! 後方に醜鬼が潜んでおる!」
「えっ!?」
それはアクラの弓矢など眼中にない、後方からの奇襲を警戒する動き。
それを見た波音は、自分たちが奇襲を仕掛けそれが成功した時間を能力で戻されたのだと確信する。
(気づかれた……? いえ、時間を戻したのね。これがジョン・ドゥの言っていた『時間操作』の能力……)
日万凛の方は何が何だかわからない様子で、突然後方を警戒し始めた八千穂に困惑している。
銃撃をアクラに続けながらも八千穂の呼び掛けで日万凛が後方にも意識を向けると、意識がそれた隙をつこうと隠してあった通常醜鬼たちが姿を現し東姉妹に襲いかかる。
「背後からなんていやらしい!」
「……ッ」
すぐさま振り向いた日万凛によってそれらは瞬く間に蜂の巣にされたが、後方の奇襲がこの通常醜鬼たちを指していたのだと思い込んでいる日万凛に対し、八千穂は警戒を解いていない。
おそらく、最初の奇襲を成功させた時に姿を現した波音を探している。
日万凛の方は時間操作を使っている様子は見られないが、使えないという確証がないのでもう少し様子を見ようと判断し潜伏を続ける波音。
その波音を必死に探していた八千穂だが、よくわからないポージングをとった直後に今度は背中を狙い隠していた弓矢を使って攻撃してきたアクラに反応して日万凛の襟を引っ張り飛来する矢から庇った。
「八千穂! これは──」
「黙っとれ! いいから私様の後ろにいるのじゃ!」
姉の行動に現状の把握が追いついていない日万凛に、さほど動いていないのにかなり疲労が重なっている様子の八千穂が怒鳴りつける。
(そういうこと……)
ジョン・ドゥからの情報では、日万凛がコピーしてることを確認できた能力は京香の『
そして現状、時間操作の能力をあつかっているように見えるのは八千穂の方のみ。その発言も妹を守ることに必死であり、そちらも使えという趣旨の発言はない。
2人の様子を見て、波音はジョン・ドゥからもたらされた情報と照らし合わせ、日万凛の方は『東の辰刻』を使えないのではないかと推測した。
そして、八千穂はかなり疲れている。何度も能力を使用したのだろう。
トリガーはおそらく、先ほど見た謎のポージング。
周囲を警戒している様子から、まだ波音が潜む先を把握できていない可能性が高い。
つまり、八千穂が疲労して能力が使えない状況を狙って奇襲を仕掛ければ極めて厄介な時間を巻き戻すという相手の切り札を奪うことができる。
(情報戦で優位に立つ、美しいわ。──やって、アクラ)
ジョン・ドゥからの情報提供のおかげで、有利に立ち回れる。
八千穂の余裕がない表情から能力を使えてもあと1度か2度だと判断した波音は、アクラに攻撃を指示。
数だけは豊富にいるジョン・ドゥの駒である通常の醜鬼たちも四方八方から続々と姿を現して、2人を囲い込むように襲いかかっていく。
そしてこの状況で奇襲の機会を狙うべく、密かに接近する。
「下がって!」
無数の醜鬼たちが迫り来る中、体力がつき能力が使えない状況に追い込まれた八千穂を守るようにたち、両腕を機関銃に変えて撃ちまくる日万凛。
その弾幕が多数の通常醜鬼たちを撃ちぬき、槍を振り回して銃弾を弾くアクラが余計な跳弾をばら撒いたせいでさらに醜鬼の群れに被害を広げ、勝機と見て接近していた波音にも流れ弾を飛ばしてくるというアクシデントを招いた。
(──ッ!)
強力な八千穂の能力に注視するあまり、日万凛の方を見誤っていた。
アクラに悪気はなかったとはいえ、この状況では近づけないと一旦下がる波音。
それに合わせて群れの消耗にしかならないと判断したのか、ジョン・ドゥの操る醜鬼たちも下がり、両腕の機関銃からの射撃を防ぎきるのはさすがに困難だとアクラも一旦距離をとった。
その間に息を整える八千穂と、今度は姉を庇うように立つ日万凛。
「その汗でどれだけ自分を守ってくれたのか分かるわ」
醜鬼はまだまだ数がいる。
アクラの方も武器は十分にある。
波音自身はまだ無傷で敵に見つかってもいない。
対して東姉妹の方は、八千穂は疲労困憊でまだ能力が使えず、日万凛もアクラの矢で擦り傷とはいえ負傷している。
状況は圧倒的に波音たちの方が優勢だが、日万凛は自分を守るために戦ってくれた八千穂のため、優希を助けに向かっている組長たちのため、自分たちを先に行かせてくれた仲間たちのためにも、一歩も引くつもりはなかった。
「今度は自分の番! 妹だって姉を守れるんだから!」