俗世が好きで何が悪い!? 作:みども
洞窟の入り口では、迎撃のために出陣したココと熊童子が、他の組員たちを洞窟に行かせるために残った朱々とサハラと戦っていた。
「『
サハラの能力『怒れる羊』は、指定した時間で自身を強化するというもの。
指定できる時間は1分から60分であり、短ければ短くなるほど強化の度合いは高まっていく。
使用後は最低3分間のインターバルが必要となるが、シンプルに戦闘向きの非常に扱いやすい能力である。
今回指定した時間は2分間。
今回の彼女たちの目的は人型醜鬼の殲滅ではなく優希の奪還なので、他のメンバーの元にココたちを行かせない足止めが役目のはずなのだが、サハラの性格なのか自分を短時間の強化にして一気にけりをつけるつもりの様子。
「サハラの能力は指定時間中の自己強化です。短時間の強化は好都合、能力切れまで時間を──」
「そんなみみっちいことしてられっかよ! あたしらと力比べだ!」
「…………」
通信越しにジョン・ドゥからサハラの能力についての情報を聞かされたココだが、こちらも性格なのか防戦に回って相手の能力の時間が切れるのを待てばいいのに真正面から殴り合いを挑んでいった。
敵はサハラだけではない。体力の消耗を抑えられるならば抑えるべきなのだが、そういう合理的な判断を感情の赴くままに時として捨てるのもまた人間なのだと、そしてその最たる例が青羽が教えてくれた友達という関係なのだと思い至ったジョン・ドゥは、それ以上の野暮な忠告をするのはやめて戦いをココに任せることとした。
「ココ乱舞!」
人型醜鬼となったことで、ココの身体能力はただ桃を食べた普通の女性よりも遥かに高いものとなっている。
そのためしっかりとした戦闘訓練を受けている魔防隊員を相手にしても、力任せの攻撃だけで押し込むことも可能である。
実際、2分間という短く強力な強化時間を選択したサハラも、ココの振り回す拳を受けてその予想外の重さに押されていた。
「どーしたどーした!」
(速っ……重っ……! でも、あらっぽすぎて無駄に動きが多い!)
しかし、やはり人型醜鬼となる前は喧嘩くらいしかしたことがないココと、黄泉醜鬼を相手に命懸けの危険な任務をこなしそのために日々戦闘訓練で自身を鍛えている魔防隊員であるサハラ。
両者の格闘戦の技術には大きな隔たりがあり、力任せに拳を振り回し大ぶりで隙の多いココの攻撃を往なしたサハラが即座にその懐に入り込む。
「そこを狙うよ〜!」
完璧なタイミングで放たれる、脳震盪を起こして相手を無力化するために顎を狙って繰り出されたサハラの拳。
だが、それは完璧にココの顎を捉えたはずだが、その表面に纏う体液によって滑り、躱された。
「!?」
「隙あり!」
その強靭な肉体は、あくまで人型醜鬼となった副作用。
ココが桃から得た能力は、滑りやすいであったり怪我を治すであったりと様々な効果を与えた汗などの体液を自在に操作する能力である。
これにより特に打撃を主体とする相手の攻撃を滑らせていなすことができるため、格闘戦を主体とするサハラのような相手はココにとって非常に相性が有利な相手である。
ここはサハラや朱々の能力を知らされているが、サハラたちの方はココたちの能力を把握できていない。
完璧にとらえたはずの攻撃を躱されたことに驚くサハラを、その隙を見逃さずココが蹴り上げる。
人型醜鬼となったココの怪力によってボールのように高く蹴り上げられたサハラ。
「熊!」
サハラの能力は、どこまでいっても単純な身体能力の強化に過ぎない。
空を飛べるわけではない彼女に空中での回避行動など取れず、そこをすかさず狙って飛びかかってきた熊童子の牙が迫る。
「──おっと!」
だが、その熊童子を掴み取る巨人の手があった。
熊童子の巨体がまるでハムスターのように見える、巨人の手の持ち主。
朱々の能力は『
身体が大きければ強い。
この上なくわかりやすい理屈である。
当然体が大きければそれに備わる質量も大きくなり、その巨体を構成する筋肉量、その巨体を支える骨などもより巨大で強力なものとなる。
生物の巨大化はそんな単純なものではないが、その辺りの理屈は他の能力と同様『魔都の桃が与えた恩恵だから』としか説明のしようがないので省略。
「バキバキに砕いてやる!」
さて、巨体の熊童子が手のひらに収まるモルモットのように見えてしまうほどに巨大化した朱々が、その怪力で熊童子を握り潰そうとする。
じたばたと逃げようとする熊童子だが、朱々の巨大な手に拘束されて逃げられない。
だが、そこは熊童子。
特殊な個体であるこの醜鬼は高い再生能力とともに自身の肉体を強靭にする能力を持っており、これにより朱々の怪力でも潰せなかった。
「ここまで硬いとか……!」
それならばと、握りつぶすのを諦めて熊童子を地面に叩きつける朱々。
さらに追い打ちとばかりに、巨大な足で踏み潰しにかかった。モルモットに対する扱いではない。
しかし、それも洞窟の岩肌に亀裂を走らせるだけで熊童子には傷1つ与えられなかった。
「傷1つ付いてない……!」
2人の攻撃はココにも熊にも傷1つ与えられなかった。
「無駄無駄! 打撃は効かないよ」
ココも熊童子も、それぞれ単純な自己の強化のために武装の必要性が薄く格闘戦を主体とする朱々とサハラにとって、相性の上で最悪の類と言える相手だった。
「お前たちにとって、あたしと熊は相性最悪ってことさ!」
自分たちの優勢に、自信をあらわにするココ。
半分勝った気でいるが、巨大化にしろ強化にしろ時間制限がある上にココに対して有効的な攻撃手段を持たない朱々とサハラが相手である。
ココの方はこのまま時間を稼ぐ戦いを続ければいいのだが、やはりそういう戦いは性に合わないのか、わざわざ2人を挑発した。
「あたしと熊もさっさと大暴れしたいんだ! 決着つけようか!」
「危ない連中はここで止める!」
「それが魔防隊だよ!」
それが2人の魔防隊としての使命感に火をつけることとなる。