俗世が好きで何が悪い!? 作:みども
隠れ里の洞窟の奥。
鬼童丸とともに侵入者を待ち構えていた青羽の元に、2人の組長がたどり着く。
未だに説得を試みようとする優希を下がらせて、京香たちと戦おうとした青羽だが、京香が自由に動けない状況では戦えない現状は不利という認識の2人の組長はこの場での青羽との交戦を避けて、天花の能力により優希を確保してすぐさま近くに撤退した。
その際に天花がわざわざ優希にバックハグしてきたので、それを見た青羽の表情が豹変し弟もいた場所に全力で殴りかかったが。
天花がすぐに能力で優希もろとも離脱したので難を逃れたが、直撃していれば人間ミンチが二丁出来上がるところであった。
「青羽、今のは優希を傷つける危険性のある攻撃です。瞬間移動の能力については事前に説明したはず──」
「うるさい! いいからドローンと醜鬼ですぐに優希を捜して! あの女マジで許さないッ!」
「了解しました」
「優希の匂い──! あっちか!」
「……ドローン、不要では?」
若干──いや、かなり冷静さを欠いた状態の青羽は、優希の匂いを感じ取るとすぐさまそちらに鬼童丸を走らせる。
文明の利器を上回る弟限定の索敵能力を発揮する青羽に冷静にツッコミを入れながら、ジョン・ドゥも通信機を携える醜鬼に後を追わせた。
「見つけた!」
正確には嗅ぎつけたなのだが。
それはともかく、ブラコンならではの人間離れした人型醜鬼の嗅覚により優希を連れていった京香たちの位置を即座に把握した青羽は、文字通り岩肌をぶち抜きながら一直線に鬼童丸を走らせて到達。
能力の代償によりなぜか天花も一緒に優希の指を舐めていた京香の元にたどり着き、ようやく自由に動けるようになり刀に手をかけた京香と弟の指をまだしゃぶろうとしている天花に鬼童丸をけしかけた。
「見つけた!」
「もう来たか!」
「……れろ」
「て、天花さん!?」
「あんたらよくも人の弟を舐めまわしやがって、マジでしばき倒す! 殺せ鬼童丸!!」
「待って姉ちゃん! 本当にお願い──いや、殺気強すぎるよ! マジで本当に、頼むから待って! お願いだから話を聞いて! 頼むよ!!」
「優希──」
一触即発、戦いは避けられない状況だったが、そこは弟にとことん甘い姉である。
必死の命乞いにも聞こえるほどの優希の懇願に、青羽は馬にしている鬼童丸も引いているように見えたほどの殺気を収めた。
「昔から、その必死のおねだりには弱いわ……」
主人が殺気を収めたことを受け、鬼童丸も牙を収める。
優希から何か聞いていたのか、それとも人型醜鬼の殲滅が目的ではなかったのか、青羽の反応を受け2人の魔防隊の組長も臨戦態勢を収めた。
優希は末端どころか寮の管理人という所属の上では部外者であるから陰陽寮の件を承知していなくても不思議はないが、日本政府の傘下にある魔防隊の一部隊を束ねる立場──すなわち魔防隊の幹部に当たる京香と天花が矛を収めたのは青羽たちには少し意外に感じるところがあった。
人型醜鬼の存在は、魔都を研究対象とし国益に利用している日本政府の隠したい闇の部類である。
民主国家の体制上、国民に不信感を抱かせることを国是とすることが容認されるはずがないため、逃げた上に一度この事実を公表しようとしてきた隠れ里の人型醜鬼たちの存在は問答無用で殲滅にかかってきてもおかしくない立場にいる人たちなのだが。
優希は京香や天花のことを信用しているらしく、陰陽寮の抱える闇の部分について知らない立場にいると確信している様子。
両者が矛を収めたところで、優希は青羽に自分が京香の奴隷とされているのは合意の上であることと人型醜鬼の殲滅を目的にはしていないことを、そして京香と天花には青羽たちの正体と陰陽寮の件について説明した。
「陰陽寮……醜鬼の研究までは知っていたが」
「京香さんたちもやはり知らなかったんですか」
「モデルの湯野波音──データ上では彼女も魔都災害の被災者として現在も行方不明者として扱われている。保護したという情報もなかったはずだ」
「救助したはずの魔都災害の被災者が、軽傷だったはずなのに専門機関の病院で亡くなったって話もたまに聞くからね。怪しいと思うことはあったけど……」
実際、京香と天花も疑いの目を向ける対象としていたが、陰陽寮の実態と人型醜鬼の存在に関しては一切関知していなかった。
それどころか一度は陰陽寮に保護されたはずの波音が最初から行方不明者となっていたり、魔都災害で怪我をした人が命に別条はないはずなのにその後に死亡したことにされて存在を消されたなど、魔防隊の幹部としての立場から得られる政府の『表の情報』の不自然な点も上がってくるほど。
聞けば聞くほど魔都を利用しようとしている日本政府の闇は深い。
優希の話を聞き、事情を理解した京香たち。
正義感の強い京香に至っては、腹に据えかねたのか魔防隊の組長という立場にありながら同じ日本政府の傘下組織である陰陽寮に対する敵対宣言まで言い放つほど。
「話が本当なら陰陽寮は潰してやるぞ。信じろ」
当然、青羽たちの醜鬼を利用した暴動を止めるための発言だが。
表情からしてあながち嘘でもないらしい。できることなら本気で殴り込みをかけそうな気迫がある。
「私たちは私たちのやりたいようにやる。邪魔するやつらは潰してね」
「……醜鬼を使っての暴走を止めるつもりはないと?」
だが、それでも青羽の意思は変わらなかった。
京香たちの意思がどうあれ、やはり彼女たちは魔防隊の所属。彼女たちと会うのがもう少し早ければ説得できたかもしれないが、日本政府が国民よりも国益をとった姿を見せつけられた時点で、人型醜鬼たちは日本政府への信用を完全に無くしていたのである。
「組織の歯車2つ。信じても意味ないわ」
そもそも、日本政府には都合よく情報や人間の記憶を変えてしまう能力を駆使する人材もいる。
隠蔽され、握りつぶされれば、結果は変えられない。
青羽たちの説得は不可能だと判断したらしい京香と天花。
ジョン・ドゥとの約束で一般市民に危害を加えるつもりはないとはいえ、現世に醜鬼を使ったテロ行為を行う計画を持つ青羽たちは危険な存在である。
魔防隊に所属するものとして、いかなる事情があってもそういった行為を容認することはできなかった。
「陰陽寮は潰す。私たちのやり方で」
「ならば腕ずくでお前たちを止める」
「魔防隊なら全員そうするよ」
「京香さん……!」
交渉決裂。
どちらも陰陽寮の抱える闇を知った今、それを容認できないとする者同士でありながら、手段と立場の違いから両者の戦いは避けられなかった。
「今日で決着だ一本角!」
「さーやろっか。七番組の組長と──あんたは六番組よね?」
刀を抜く京香。
さすがに肉親同士で戦わせるわけにはいかないと判断したのか、『無窮の鎖』を使うつもりはない様子。
しかし、京香は能力を使わずに素手で醜鬼を打倒する唯一の存在である。舐めてかかっていい敵ではない。
そして天花の方は──
「お義姉さん。私は優希くんとお付き合いをする、六番組組長の『出雲 天花』です」
「────」
煽るつもりなど微塵もない本心からの言葉と笑みで、敵に向けるには絶対にありえないのだが青羽に対しては最大級の挑発となる言葉で名乗った。
「青羽、冷静に──」
「……ぶっ潰す」
ジョン・ドゥがなだめようとしたが、バックハグに指ぺろときて、一方的に義姉呼ばわりに彼女宣言と色々重なりすぎてしまった。怒りを収めるのは無理そうである。
「戦いが始まるわ、下がってなさい優希……弟をお願い」
「了解しました」
京香が無窮の鎖を発動しないため生身の無力な人間でしかない優希を髪で保護してジョン・ドゥの通信機を携えた醜鬼の方に託し、鬼童丸とともに京香たちと対峙する。
──そして、その様子を密かに見ている存在があった。