俗世が好きで何が悪い!? 作:みども
洞窟の入り口で戦うココ達と、朱々&サハラ。
持ち前の能力により打撃が効かないココにとって、肉弾戦が主体の朱々とサハラは脅威たりえない存在。
どちらも強化できる時間に制限がある能力であることをジョン・ドゥからの情報提供により知っているため、このまま相手のタイムアップまで戦いを長引かせれば勝てると考えていた。
「道中で決めたフォーメーションSで行くよ!」
「S!?」
「……?」
だが、そんなココに対し朱々とサハラは想定外の行動に出る。
突然朱々が謎の作戦“フォーメーションS”なるものを言い出し、困惑するサハラを掴むと、巨体を生かした跳躍で距離を取りそのまま背中を向けて逃走を開始したのである。
「さよなら!」
「──
勝機がないと見るや逃げるのは決して間違った選択肢ではない。
ジャンプ1つで距離をとった朱々はそのまま体を小さくして、着地の際に起こした砂埃の中に消えていった。
その様子を唖然として見つめるココに、ドローンを通じて様子を見ていたジョン・ドゥが醜鬼の携えた通信機越しに朱々のセリフを参考にした提案をする。
「若狭 サハラの強化は2分、残りは30秒もありません。ここはフォーメーションMでいきましょう」
「フォーメーションMって、
冷静に考えれば、強化の時間制限のある相手がわざわざ敵前逃亡を選択をしてくれたのならば、罠の可能性とあるので背中を見せないよう警戒しつつもむやみな追撃は行わないほうが正しい選択なのだが。
その会話を拾った朱々が砂埃の中から煽り文句を飛ばしてきた。
「フォーメーションMって、それ
「んだと、テメエ!!」
熊童子とココという短気かつ背中を見せた相手に追撃を仕掛けずにはいられないコンビだったのが災いして、朱々の挑発にたやすく乗ってしまったのでおる。
「待ってください、ココ。罠の可能性が──」
「うるせえ! 煽っといて逃げられると思ってんのか! 追うぞ熊!」
「……念のため醜鬼を集めておきましょうか」
罠の可能性を警戒し、巨大化した朱々にも対抗できるように合体醜鬼を作るための醜鬼を集めつつ、通信機を持つ醜鬼にココ達を追跡させるジョン・ドゥ。
一方、挑発に乗って砂埃の中に突っ込んだココと熊童子の目には、まだ強化の時間が残っている中で必死に走るサハラの姿だけが映り、いつの間にか朱々の姿が見えなくなっていた。
「1人だけでも逃げる気か!? だが逃がさねえぞ! まずは1人だ、ぶっ倒せ熊!」
二手に分かれて1人だけでも逃げ切る作戦と見たココだが、熊がサハラを喰らおうと口を開けた瞬間にサハラが足を止める。
そして突然こちらを振り向き、熊めがけて手のひらサイズまで小型化した朱々を投げつけたのである。
──!?
突然喉を通り腹の中に入ってきた異物に、驚く熊童子が思わずサハラに牙が届く前に口を閉じてしまう。
直後──
(Sはさよならじゃない、
熊童子の腹の中で朱々が自分の体を巨大化させ、内側から熊の肉体を破壊して出てきた。
「今度は膨らめ!
「熊!?」
バラバラになった熊から放り出されたココ。
相棒として可愛がってきた熊童子が砕けたことに、ショックから放心してしまう。
「チャンス!」
その隙に熊童子の破片の中から、ココの体液でも躱せない鋭い犬歯を掴んでまだ少しだけ強化時間が残るサハラが飛び込んできた。
「熊の牙!? それはまずい──」
「ココッ!」
「はあ──ッ!」
ジョン・ドゥが即座にドローンを急行させてその軌道に割り込み機体を犠牲にして間一髪サハラの掴む牙を少しだけそらすが、それが限界だった。
軌道がそれたことで急所には刺さらなかったが、ココの脇腹に直撃した熊童子の牙は人型醜鬼といえど無視できない重傷をココの体に与える。
(……負けた!? アタシが……?)
岩肌の床に落下したココはすぐに立ち上がることができず、砕けた熊童子は肉片となり、通信機を携えた醜鬼も巨大化した朱々によってココの隣に潰された状態で叩き落とされた。
「アンタは、恋する乙女を刺激した!」
サハラは強化の時間が切れたが、巨大化している朱々に今のココは戦える状態じゃない。
「負ける理由には十分っしょ!」
そう言って人差し指を突きつける朱々に反論できる者はいなかった。
「ゴメン、青羽姉……アタシ、負けちゃった……」
ココにできたことは、持ち手の醜鬼が潰されたがかろうじて無事だった通信機に向かって負けたことを伝えることだけだった。
人型醜鬼であるココの再生力ならば、急所はかろうじて外したこの怪我は時間さえあれば再生することができる。
そして極めて高い再生能力を持つ熊童子も、時間さえあればこのバラバラにされた肉体でも修復できる。
しかし、それでも朱々がココを拘束するほうが早いだろう。
「大人しくしてもらうから」
京香時間が切れたことで力が抜けて倒れこんだサハラに手を貸すとともに、今のうちにココを拘束するために朱々が手錠を手に近づいてくる。
陰陽寮で開発された特別製のこの手錠は醜鬼捕獲用の代物であり、表向きには熊童子のような殲滅が極めて困難な特殊醜鬼を無力化するための道具である。
朱々は知らないが、実際には人型醜鬼の捕縛及び拘束用としても用いられているのでここにも十分に効力を発揮する道具である。
「や、やめろ……!」
手錠からなんとかして逃げようとするココだが、傷が深すぎて動けない。
陰陽寮で散々見て、散々拘束を受けてきたその手錠は、ココにとって忌むべきものであり怒りを向ける理不尽であり、そして精神的にも身体的にも耐え難い苦痛を味わったあの施設の中で過ごす日々を思い起こさせる恐怖だった。
もうあんな場所に捕まりたくない……!
目を瞑るココ。
そのココのもとに、数体の醜鬼が守るように地面から姿を現す。
「なっ!? 何よこいつら、邪魔!」
たちまちココを守るようにして続々と出てきた醜鬼が合体し、巨大な醜鬼となる。
熊童子と比べれば雑魚が集まっただけの頼りない存在ではあるが、サハラが能力を使えなくなっており朱々も少なくない疲労をしている中ではココ達の再生の時間を稼ぐくらいはできる援軍だった。
「醜鬼を使って時間を稼ぎます。今のうちに立て直してください」
「──すぐに向かうわ」
通信機から聞こえた仲間の声。
戦いに集中しているのか青羽の声はなかったが、まだ負けていないことを知りココの表情に笑顔が戻る。
「──へっ、少しヘマ打っただけさ。すぐに直すから……!」
「この醜鬼、邪魔だよ……!」
インターバルには入っているため戦えなくなったサハラを回収した朱々は、ジョン・ドゥが時間稼ぎのために繰り出してきた巨大化醜鬼にかかりきりとなっている。
その間に再生を急ぐココ。
そして、そこに