俗世が好きで何が悪い!?   作:みども

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観光客 ジョン・ドゥ②

 横浜中華街のはずれにある、とある夫婦が営む土産物店にて。

 そこに雪のような銀髪と白い肌に緋色の目を持つ、儚げな雰囲気に彩られた1人の外国人観光客が訪れていた。

 

「お兄さん、観光客か?」

「絶対外国人だろ?」

 

「肯定します」

 

「へぇ〜、綺麗な髪だねえ」

「日本語うまいよな。どこの出身だよ?」

 

「世界の裏側……此処から見て、世界の裏側です」

 

「ブラジルか?」

「いや、アルゼンチンでしょ!」

 

「要望します。会計をお願いします」

 

「おおっと、悪いなお兄さん! えーと……25,500円だね」

「わはは! 面白い喋り方だねお兄さん!」

 

「同意見を受けます。此方です」

 

「ありがと、また来てくれよな!」

「お兄さん、名前はなんていうんだい!?」

 

「いずれまた。名前はジョン・ドゥと」

 

「おう!」

「またね、ジョンさん!」

 

 ジョン・ドゥと名乗るその外国人観光客が明るい中年夫妻の経営する土産物屋を後にすると、いつの間にか太陽が沈みかけている時間になっていた。

 

 ……寄り道が多かった様子。予想よりも時間がかかり、その分荷物も多くなってしまいました。

 

 ジョン・ドゥを名乗る銀髪は、今しがたの店で購入したものを背囊に片付けると、再び横浜の街に広がる人並みに溶け込む。

 その背後で、特攻服風に改造された魔防隊の制服に身を包む女性が先ほどまでジョン・ドゥがいた土産物屋に何やらただならぬ雰囲気で入店していった。

 それを気にする様子もなく、夕方となってもまるで人波が減らない中華街を歩いていくジョン・ドゥ。

 

 中華街を代表する門を出て人並みから少し外れた場所に足を止めると、上着から端末を取り出しカメラモードを起動する。

 それを中華街の門に向けると、シャッターを切り観光名所を一枚の写真に収めた。

 

 少し外見が目立つが、特に変哲のない外国人観光客。

 周囲にもジョン・ドゥと同じように、この門を写真に収めている人の姿は多い。

 

「美しい光景です」

 

 端末を上着にしまい、再び歩き始めるジョン・ドゥ。

 その背の向こう側では、何かを探すように聞き込みをしながら歩き回る魔防隊員の姿があった。

 

 

 

 外国人観光客ジョン・ドゥを名乗る存在は、人並みから外れると建物と建物の隙間の暗い道に入る。

 人通りは多くとも、この夜が近づくごとに薄気味悪くなるだけで何もない場所を覗いたり近づいたりする物好きはほとんどいない。

 

「──開門」

 

 そこでジョンが片手をかざして文言をつぶやくと、突如としてその場に魔都と現世をつなぐ小さな門が出現した。

 

 それをくぐり抜け、危険に満ち溢れた門の先にある魔都に躊躇することなく足を踏み入れるジョン・ドゥ。

 その姿が魔都に消えた一瞬の後、門も消失する。

 あとは日暮れとともに暗くなる薄気味悪い路地裏が残るだけであった。

 

 

 

 

 

 

 この世界には、人型醜鬼と呼ばれる存在がある。

 適合しない桃を食した女性が稀に変化する、人と醜鬼の間にある存在。

 

 だが、この醜鬼化人間とも言える人型醜鬼は、女性しかならない存在である。

 

 ジョン・ドゥは人ならざる力を行使する存在ではあるが、外見は明らかに男性のもの。

 元人間である人型醜鬼だとしても、適合以前に桃を食して受ける影響は一切ない男であることはありえない。

 

 魔都と現世をつなぐ門を自由に生み出し、醜鬼を操り、人ならざる力を行使する人の形をした存在。

 それは、もとより人ではなく人の形をした醜鬼のくくりに入る存在として魔都に生まれ出た存在に他ならない。

 

 自らをジョン・ドゥと名乗るその人型醜鬼は、現世で入手した様々な品物を詰め込んだ背囊を担ぎ、ある場所へと向かうのだった。

 

 

 

 

 その数分後、ジョン・ドゥが門を作った場所に魔防隊二番組が到着するが、そこはすでに門も、門を作り上げた存在も姿を消した何もない場所となっていた。

 

「クソッ、遅かったか……」

 

 嫌な予感の原因を探るべく門の出現状況を調べ反応があったこの場所に駆けつけた美羅だが、何もない場所を見て一足遅かったことを悟る。

 

 明らかに自然発生ではない、人為的に作られた門。

 そもそも魔都と現世をつなぐ門についての研究も進んでいないこの段階でそう言い切れる根拠は何もなかったが、直感的に美羅は先ほど此処に一瞬だけ発生した小規模な門が自然に生まれたものではないということを感じ取っていた。

 

「何モンだ……」

 

 美羅の問いに答えられるものはすでにこの場にいない。

 彼女の胸中に募る嫌な予感は膨れ上がる一方であった。

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