俗世が好きで何が悪い!? 作:みども
天花との戦いに集中する青羽にも、そして鬼童丸との戦いに挑む京香にも、ココの通信は届いていない。
しかし、もう1つの戦場で戦う彼女たちの仲間である波音には届いた。
「──すぐに向かうわ」
(今の声は波音さん? ──まさか、日万凛たちが!?)
波音がココ達の援軍に向かう旨の声が聞こえた。
つまり波音には援軍に向かえる余裕があるということ。それが示すのは、日万凛たちが負けたということ。
現状、この場にいる者達の中でそのことが聞こえたのは通信機を持つ醜鬼のそばにいる優希だけである。
だが青羽の髪に縛られて口を塞がれている優希にはそれを伝えることはできず、京香達の勝利を信じて戦いを見ていることしかできなかった。
京香と一本角こと鬼童丸の戦いは、接戦となっている。
現状はすべての攻撃を躱し、往なし、反撃する京香のほうが完全に鬼童丸の攻撃を見切って一方的に傷を与えているが、それら一撃ごとは通常の醜鬼が相手ならばたやすくその存在を消し飛ばせる威力ながら強靭な肉体を持つ鬼童丸にとってはかすり傷程度のダメージしか与えられていない。
それに対し、鬼童丸の拳は一撃ごとが直撃すれば京香といえどただでは済まない強力な攻撃である。
無傷でないとはいえ、多少京香の攻撃を喰らおうとも戦闘に支障がない鬼童丸に対し、桃の恩恵を受けていようとも人間である京香の身体にとっては鬼童丸のすべての攻撃が致命傷に等しい。
直撃が許されない中で相手の肉を削りきるという戦いは1つのミスで奈落の底に落ちる綱渡りのような戦いであり、むしろ京香のほうが不利だと言っても過言ではない戦いだった。
おそらく、怒りに囚われたままに振るう我が身を顧みない憎しみの刀で挑んでいたとすれば、盲目になったすきに鬼童丸の攻撃を受けていたはず。
故郷の仇を前に自分自身も少し驚いているほどに冷静に戦えているからこそ、京香は鬼童丸を相手にこの綱渡りの戦いを続けられていた。
一方で天花と青羽の方は。
桃を喰らうことで体力を回復させるだけでなくさらなる強化を果たした青羽は、持ち前の人外の身体能力を活かした肉弾戦を天花に仕掛けていく。
岩にも突き刺さる強度を持つ髪の矢を飛ばし、それを能力による瞬間移動で回避した天花に対し、その転移先をより鋭くなった五感により察知して反撃する間も与えず殴りかかっていく。
「!?」
それも間一髪でかわす天花だが、その移動先に自分が降り立つ頃にはすでに移動先を察知した青羽の拳が迫ってきていた。
(これは……!)
反撃するどころか、相手の死角を探って転移先を定める暇すらない。
瞬間移動でひたすら回避に徹するしかないほどの、息つく間も与えない攻撃。
岩を砕く一撃は、当たれば京香の対峙する鬼童丸同様にただでは済まないだろう。
回避だけにとにかく集中して瞬間移動を繰り返せばなんとか躱し続けられるが、それが限界である。
反撃する暇どころか、能力による瞬間移動でなければ回避する暇もないほどの攻撃を繰り返すことで、青羽は天花の能力が切れるタイミングを狙っていた。
魔防隊員の攻撃ならばともかく、瓦礫程度であれば傷も付かないジョン・ドゥの醜鬼が優希を守っており、かつ仲間達もすでに避難済み。
洞窟の安全などきにする必要はないため、天花に反撃の機会を与えないように強化された肉体を頼りに猛攻を繰り広げる。
(瞬間移動なんてそう何度も使えないはず──疲れたところをねじ伏せる!)
(持久戦が狙いですかお義姉さん……!)
(だから、私はお前の義姉じゃない!)
天花も青羽の猛攻に、その狙いが能力切れを起こさせることだと勘づく。
そして強化された五感で天花の思考の一部を読み取った青羽の攻撃が、さらに苛烈さを増していく。
目で一部会話が成立する中、天花の能力も青羽の猛攻も繰り返され、両者一歩も疲労する様子がない。
瞬間移動という能力を何十、何百回と使用して回避を繰り返す天花も、人型醜鬼としての恩恵を受けているとはいえそれでもこれだけの高速機動による攻撃を繰り返している青羽も。
確かに組長である天花の能力にも限界はある。
それでも彼女は瞬間移動に関しては最大で666回もの連続行使を可能とするほどにその能力の扱いに長けており、持久戦の展開も十分に可能であった。
(この女──!)
(私は瞬間移動連続666回は使用可能です。組長ですから!)
反撃する暇がないならば、相手の持久戦に付き合う。
天花の狙いは京香が鬼童丸を倒すまで、もしくは反撃のチャンスが訪れるまで青羽の猛攻を躱し続けることだった。
さらに、少しずつではあるが、天花もまた幾度も繰り返される青羽の動きに慣れ追いつけるようになってきた。
そうなれば、少しずつ周囲の状況にも気をまわしたり反撃の機会をうかがったりすることができるようになる。
その持久戦は30秒ほど続き──
「そこか──なっ!?」
京香と鬼童丸の間合いが空いたタイミングで、わざとその場所へ転移した天花を追う青羽の蹴りが、京香を狙い飛び上がっていた鬼童丸の脇腹に突き刺さった。
(まずい、誘導された!)
(京ちんと一本角の間合いが空く、この瞬間を待っていた!)
(──任せろ!)
天花だけを見ていたことで、京香と鬼童丸の戦いに意識が向いてなかったことで誘導された青羽。
そこに天花の狙いを即座に察した京香が、蹴り飛ばされた鬼童丸に代わりに間合いに入ってきた青羽に斬撃を叩き込む。
「ぐっ!?」
とっさに狙いに気づいて身を引いたことで重傷は避けたが、決して小さくないダメージに青羽の動きが止まる。
「リズムを崩せた。ありがと」
「一本角は任せろ!」
両組長は一瞬のやり取りの後、崩れたそれぞれの敵に再び向き合う。
京香は蹴り飛ばされた一本角に。
「的を絞らせるか!」
そして、天花は攻撃をかわすために高速移動で離脱しようとする青羽に。
だが、間合いがない天花にとって、もはや動きに目が慣れてきた上に京香の一撃で少しだが動きが遅くなっている青羽を捉えるのは難しいことではなかった。
「その動きは見切りました」
「くあっ!?」
動きを捉えた天花の攻撃により、肩の一部を捩じ切られた青羽。
姿勢も崩れたことで完全に速度が殺され、格好の的となる。
そこに流れるような仕草でトドメを刺すべく構えた天花は──
──想い人のたった1人の大事な肉親を傷つけてしまうことを想像して、手が止まってしまった。
「──!」
それは致命的な隙になる。
天花の攻撃が来なかったことで立て直した青羽が、ビームを放つ。
その強烈な光にさらされてようやく我に返った天花は咄嗟に瞬間移動で回避するが──
爆炎がクレーターを作る中、優希の元に瞬間移動したのは、青羽が絶対に攻撃しない安全圏だという認識からか、それとも脳裏によぎった光景からそばに行きたかったという感情からか。
「……砲撃の速度も、上がってたか……」
優希の前にボロボロになった天花が倒れこむ。
(天花さん……!!)
「──天花!?」
ビームが掠めた天花はもはや戦えるような状態ではない。
直撃こそ避けたが、血だらけとなっている怪我は早急な手当を必要とするのは明白であった。
駆け寄ろうとする優希だが、それはジョン・ドゥの醜鬼が許さない。
青羽と天花による優希の嫁の座身柄の奪還をかけた戦いは、青羽に軍配があがることとなった。