俗世が好きで何が悪い!?   作:みども

32 / 37
時間を少し巻き戻し、洞窟中腹の戦い(波音&アクラVS日万凛&八千穂)の場面からになります。


神の降臨編
神の降臨①


 戦いの場において、敵の情報を知ることで情報戦において優位に立つことは、非常に重要なことである。

 特にそれが戦いが始まる前の段階で一方的に知っている場合には、大きなアドバンテージを獲得できる。

 

 以前、六番組と七番組による魔都交流戦と雷煉ら八雷神が率いる醜鬼の群れが襲撃を仕掛けたときの戦いにおいて、この場に集う魔防隊員達は戦闘を通してその情報の多くを開示していた。

 それを観察し、手を煩わされることも存在を把握されることもなく情報を獲得した存在がいたことも知らず。

 

 雷煉らを利用し労せずして六番組と七番組の隊員の能力など多くの情報の入手に成功していたジョン・ドゥの情報提供により、人型醜鬼の陣営は魔防隊側の戦力や能力を把握していた。

 特に能力の性質上、奇襲攻撃にて真価を発揮する波音にとって、それを相殺できる時間操作の能力を駆使する八千穂は天敵と言える存在である。

 もしも相手側の能力を知らずに戦っていれば、東姉妹に敗北した可能性は極めて高かった。

 

 隠れながら冷静にその様子を見た波音は、能力を使うたびに汗が出るなど能力の反動が表情に隠しきれない八千穂の様子を見て、そう何度も使える能力ではないことを察知する。

 八千穂たちに見つからないように死角に隠れつつ、通信機を携えた醜鬼を通じてそのことをジョン・ドゥに伝える。

 

「あの時間操作の能力、そう多くは使えないみたいよ」

 

「では此方の醜鬼を使い八千穂の能力が切れるまで日万凛に対し奇襲を仕掛け消耗させます。それまでは潜伏を続けてください」

 

「完璧な作戦ね。美しいわ」

 

 波音からの情報も合わせて、ジョン・ドゥは醜鬼たちを使い日万凛に対し奇襲攻撃を繰り返すことで八千穂に能力を行使させ、能力切れを誘発させる持久戦となる作戦を立てる。

 日万凛に対する奇襲が成功すれば、八千穂が能力を行使できなくなる合図にもなる。

 そのタイミングでまだ日万凛には存在を知られていないはずの波音に奇襲を仕掛けてもらい、撃破するという作戦である。

 

 幸い醜鬼はまだいる。

 壁の中や地面の中、天井の中などそこらじゅうに潜伏しており、また通常の醜鬼ではありえないことだが器用で知能のあるアクラだからこそ使える武器もジョン・ドゥの操作する醜鬼ならば扱うことができる。

 これらを駆使した奇襲攻撃ならば、波音が出ずとも八千穂に能力が切れるまで時間操作を行わせることは可能である。

 

 この作戦をもとに、アクラと波音が一度退いたことで一息ついていた姉妹に対し、ジョン・ドゥの操る醜鬼たちの息もつかせぬ奇襲攻撃が開始されることとなる。

 

 最初の分断と後方からの奇襲攻撃に際して、その存在を八千穂に確認されてしまったが、アクラと醜鬼の軍勢を用いて幾度も分断と奇襲を繰り返すことにより、日万凛を守るために八千穂に能力を使わせていく。

 波音たちからは、ここぞという奇襲を仕掛ける最適のタイミングで未来を知った八千穂がすぐにその対応に動くため、不自然なほど焦った様子で唐突にこちら側の意図を察知され防がれる、というように見える。

 あらかじめジョン・ドゥからその能力の予測を聞いていなければカラクリがわからぬままに攻撃を仕掛けて隙を晒してしまっていたかもしれないが、時間操作の能力の説明を聞いていた波音はその不自然なほど完璧な奇襲の対応のカラクリを把握していたので、冷静にチャンスをうかがい続けることができた。

 

 

 

 

 

 一方の八千穂の方は、最初に防いだ奇襲攻撃から波音の存在こそ把握できていたが、その際は日万凛を守ることに精一杯で物に潜るという波音の能力を確認できていなかったこと、前回の襲撃の際にアクラの中に潜んでいたことを朱々が見ていたのだが事前に七番組との間で敵の容姿などの情報を共有しきれていなかったこともあり、波音の潜伏先をつかめていなかった。

 

 その中で機会を窺い潜伏を続ける波音にかわって、アクラが次々と武器を振り回して引きつけつつ数だけは多いジョン・ドゥの作った醜鬼の軍勢が地面や崖の下、壁の中など四方八方から襲いかかってくる。

 奇襲対策として八千穂考案の背中を合わせる万全の布陣で戦う姉妹だが、しかしその足元から奇襲を仕掛けて鋭利な爪によって日万凛の足を切り落とされる。

 すぐに八千穂が能力で時間を戻して足元に潜む醜鬼を潰すが、今度は足元への注意にそれた隙に天井から奇襲を仕掛けて日万凛の頭を潰してくる。

 それも能力ですぐに時間を戻し上下から醜鬼の奇襲を受ける場所を離れれば、分断したところにアクラの投槍が八千穂を狙いそれを守ろうと腕を盾に変化させ駆けつけようとした日万凛の背中を捨てられたアクラのボウガンを拾った醜鬼の放つ矢が貫くという事態になる。

 本来本能に従って動く獣のような醜鬼とは思えないほど統制された連携や奇襲攻撃、武器を扱うという今までに無い行動に翻弄され、八千穂は日万凛を守るために時間操作の能力を使い切ってしまった。

 

(ま、マズい……東の辰刻はしばらく使えぬ……!)

 

 時間操作の能力『東の辰刻』は非常に強力な能力だが、反面燃費が非常に悪く一度の使用で大きな疲労を伴い使用できる回数が極端に少ないという欠点がある。能力自体も直接的な相手に対する攻撃となる能力ではないため、殲滅戦などには向いておらず誰かを守りつつ大量の醜鬼と戦うという状況では追い込まれやすい。

 そして本能のまま生きる通常の醜鬼と違い、ジョン・ドゥの操る統制された醜鬼の群れが繰り返す奇襲攻撃から日万凛を助けるために能力の行使を迫られる場面が何度も発生し、繰り返し使用した能力の反動から八千穂に限界がきた。

 

「八千──」

 

「──足元じゃ!」

 

「──ッ!」

 

 妹を守るために無理をしたことで、もはや眩暈すら起こすほどの極度の疲労に襲われついに膝をついた八千穂。

 背中を合わせていた姉の突然の異変に日万凛が気を取られそうになる中、未来を知っている八千穂は足元からの奇襲に対応するように叫ぶ。

 直後に天井から覗いている醜鬼の視覚情報をもとに、日万凛の脚を切り裂くべくその足元から別の醜鬼が腕を出して必要最低限の動作故に最速となる奇襲攻撃を仕掛けた。

 

 しかし、八千穂の必死の警告もあり日万凛はすぐさま反応し回避に成功。

 すかさず能力によりライフルに変えた腕から放つ正確無比かつ優れた貫通力を持つ弾丸により、地面に体を隠している醜鬼の頭を撃ち抜き奇襲を防いだ。

 

 だが、それまでの背中合わせの布陣が崩れた状態は、敵に背中を晒しているということ。

 地面の奇襲に気を取られた日万凛の背中を狙い、アクラの落としたボウガンを拾った醜鬼が放つ矢が迫る。

 さらに崖から姿を現したアクラが八千穂の背中に向けて槍を投げつけてきた。

 

「させるか!」

「させぬわ!」

 

 お互いがお互いの背中を狙う敵に向けて銃弾を放ち、その飛道具から姉妹を守るために相手の腕を引っ張る。

 ライフルの徹甲弾が手の一本を貫いたアクラはすぐに崖下に撤退。日万凛の背中をボウガンで狙った醜鬼は、奇襲とはいえその出現場所をあらかじめ知っていた八千穂の銃撃に額を貫かれた上に、躱されたことで空振りとなって飛んできたアクラの槍に腹部を貫かれて絶命した。

 

 血の繋がる姉妹のなせる技か。

 鏡合わせのような動作でお互いを狙う凶刃からお互いを庇い、姉妹の命を狙う敵を弾丸で打ち抜いた2人。

 お互いがお互いを引っ張ったことで揃って地面に伏した2人の頭上を、その命を狙った矢と槍が飛んでいく。

 

 だが、まだ終わっていない。

 東の辰刻で知った未来にはまだ上からの奇襲が残っている。

 

「上じゃ日万凛!」

 

 足元からの奇襲を仕掛ける際の目として利用していた、天井に潜伏している醜鬼。

 八千穂の動きから足元の奇襲だけでなくボウガンを駆使した奇襲も防がれることを察知したジョン・ドゥが、目として利用していた醜鬼を使ってすかさず上からも奇襲を加えてきた。

 

 だが、それも知っている。

 そしてこのタイミングで死角となる上からの奇襲がある。

 それを予測した八千穂が日万凛に伝え、それを聞いた日万凛は上を向く暇もないと髪を一房ライフルに変え、八千穂のとっさの言葉に込められた奇襲を仕掛ける方向とその標的に自分がなっているという意味を汲み取り、姉を信頼して背中を狙って降ってくる的に向けて銃弾を撃ち込んだ。

 

 その弾は日万凛を狙う醜鬼の爪を構えた腕を肩を超えるまで貫き、衝撃により醜鬼の態勢が乱れ落下までの時間が少しだけ伸びた。

 だが落下地点は八千穂の真上。ならばと姉の方に狙いを変えてその質量で潰そうと操作するジョン・ドゥ。

 しかしそんなことはさせないと、少しだけ伸びた時間で体を反転させて上を向いた日万凛の構える腕の機関銃が、落下する醜鬼に鉛玉の雨を叩き込んだ。

 

 無数の銃弾に貫かれ、醜鬼の体が砕け散る。

 絶命した醜鬼はもはやその死体を質量による武器にすることもできず、破片となって降り注いだ。

 

「やった、八千穂──」

 

 八千穂が能力を使い切って守ってくれた奇襲攻撃をすべてしのいだ。

 そう確信して八千穂の方を向いた日万凛。

 

 だが、彼女の言葉は最後まで紡がれることなく途切れる。

 ──潜んでいた醜鬼は倒したはずの地面から出てきた剣に肩を貫かれたことによって。

 

 足元からの奇襲。ボウガンによる奇襲。天井からの奇襲。

 それらをすべて防ぎきったが、能力切れにより知ることができなかった未来があった。

 

「ひ──」

 

 妹が目の前で剣に貫かれるという光景に衝撃を受ける八千穂だが、もはや動けなくなるほど疲労が募った体では能力は使えない。

 妹の名前を叫ぶことしかできないがそれすらも許されず、崖下に潜んでおり横から現れた醜鬼に殴られ、その体がボールのように飛んでいく。

 

「うぐっ──!?」

 

 岩壁に叩きつけられた八千穂が見た最後の光景は、自分を殴り飛ばしたであろう無線機らしき魔都には存在しないはずの文明の利器を携えた醜鬼と、最初の奇襲攻撃で日万凛を襲っていた異形の醜鬼たちとは違う人とほぼ変わらない姿をして血に濡れた剣を持つ波音が立つ姿だった。

 

(日万凛ッ……)

 

 壁に叩きつけられた衝撃で肺から空気がなくなり朦朧とする中で見たその光景を最後に、八千穂の意識が途切れた。

 

 

 

 

 

 繰り返す奇襲攻撃の中、八千穂が膝をつきその後の奇襲を時間操作で妹を守るのではなく互いの連携で凌ぎ始めた光景を見て、波音は八千穂の能力が途切れたことを見抜いた。

 手傷を負ったアクラが一時撤退する中で、密かに地中を通り2人の足元に移動する。

 その上ではジョン・ドゥの嗾けた醜鬼が機関銃によってバラバラの肉片に変えられ、天井からの奇襲も失敗した光景が映る。

 

 もしもまだ能力が使えるなら、下からの奇襲を警戒するはず。

 だが、八千穂の方は姉の言葉を汲み取り頭上からの奇襲を凌いだ妹の姿に疲れ果てながらも嬉しさをにじませる表情が浮かぶのみ。

 妹を思う姉の表情は弟を愛する青羽のことを知る波音としては傷つけたくはなかったが、それでも魔防隊は敵だと割り切りその表情から今度こそ能力を使い果たしたことを確信し、油断しきった日万凛の肩に地中から剣を突き立てた。

 

「ひ──」

 

 物にひそめるという波音の能力をしっかりと確認できていたならば、すでに潜伏していた醜鬼を倒した足元からの奇襲はないという先入観からくる油断はなかったかもしれない。

 ジョン・ドゥが八雷神による七番組寮の襲撃の際の戦闘の光景を見ていたことで、情報戦において人型醜鬼たちが獲得していた優位が波音の勝利に大きく貢献した。

 

 波音の護衛となる醜鬼たちはほぼ使い切ってしまったので最後は通信機を携えた連絡要員の醜鬼まで使わなければならなかったものの、魔防隊六番組及び七番組の副組長同士という大きな戦力を相手に主力となるアクラや波音自身はほとんど消耗することなく勝利することができた。

 

「うっ……八千穂……」

 

 肩を剣で貫かれた上に、アクラに拘束させた日万凛は無力化してある。

 八千穂の方も意識を失い崖下に落ちていった。

 

「お互いを思い信頼する姉妹の見せる連携、敵ながら美しかったわ。でも、私たちの勝ちよ」

 

 意識はあるが、もはや抵抗できない日万凛に向けて勝敗の決着はついたことを宣告する波音。

 だが、その隣にいる醜鬼の携える通信機から、洞窟の入り口で戦っているはずのココの声が聞こえたことで状況は一変する。

 

「ゴメン、青羽姉……アタシ、負けちゃった……」

 

 それは、ココが負けたことを示す通信だった。

 

 青羽は奥に向かった2人の組長とまだ戦っている。

 動けるのはこの場にいる自分たちしかいない。

 

「──すぐに向かうわ」

 

 通信機を使って青羽たちに向けてココの救援には自分たちが動くことを伝え、もはや戦える状態ではない日万凛は多少残っている通常の醜鬼に拘束を任せて、壁も天井も自在に這って移動できるアクラを足に洞窟の入り口へ急行する波音。

 

(ココ……少しだけ待ってて。すぐに助けに行くから)

 

 ジョン・ドゥが付近の醜鬼を総動員して時間を稼いでくれているが、いつまでもつかわからない。

 捕まった仲間はあの陰陽寮に送られることになるだろう。

 大切な仲間をそんなことには絶対にさせないと、波音はココの元に急ぐ。

 

 

 

 

 

「せっかくの獲物なんだ、逃がさないよ──」

 

 だが、それを阻む存在が波音の行く手を阻む。

 

 突然響き渡った声とともに、波音の背後に突如としてそれは現れた。

 

「──!」

 

 波音がその声に気づき振り向いた時、それはいつの間にかアクラの上に立っていた。

 その後方では、通信機を携えたジョン・ドゥの醜鬼が別の存在に破壊されていた。

 

「君もいい餌になりそうだね」

 

「──ッ!」

 

 和服姿のその女は、人間に見えるが人間じゃない。

 人型醜鬼となってから得た第六感ともいうべき感覚が、警鐘を鳴らす。

 

「大人しくしてもらうよ」

 

「うっ……!?」

 

 すぐに剣を抜こうとした波音だが、突然何かが首に噛み付いてきた感覚とともに急に目の前が暗くなる。

 

(青羽……ココ……)

 

 ──そして、波音の意識は暗い闇の底に沈んだ。




今章から原作と展開が離れるのでご了承ください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。