俗世が好きで何が悪い!? 作:みども
魔防隊と人型醜鬼が洞窟で戦いを繰り広げていた頃。
魔都のとある場所にて、2つの勢力がぶつかり合う状況を八雷神の1人である壌竜が確認していた。
八雷神が探していた存在。
それは桃の力を獲得した人類の中でも、ある程度強力な能力を持ち、かつ魔都側に拠点を持つ人類。
人型醜鬼や魔防隊員である。
しかし、魔防隊の拠点は強力な結界に守られている上に、勢力が強大である。現時点では殆ど存在を知られていない八雷神側は、8名全員の戦力が揃うまでは影で暗躍することを方針としており、現世側と本格的な激突を繰り広げるつもりはない。
そのため、なかなか居所をつかめない人型醜鬼たちを標的としてその拠点を探していた。
今までは殆ど行動を起こすことなく巧妙に隠れていた人型醜鬼たちだが、今回の優希奪還に動いたことで魔防隊と洞窟を舞台に大規模な衝突を起こしたことにより、それを壌竜に見つけられることとなった。
「紫黒、探し物が見つかったぞ」
「おお、やった」
壌竜の報告に久しぶりの朗報だと、笑顔をみせなから立ち上がる紫黒。
壌竜の他、今回の人型醜鬼襲撃に向けた計画に動く八雷神の1柱である鳴姫と、前回魔防隊に屈辱を味合わされた雷煉の姿がある。
「しかし、よく見つけたね。今までは殆ど姿を見せなかった連中なのに」
「魔防隊と戦闘しているようだ。魔都の外れの洞窟を拠点としていたようだが、手段は不明だがそこを見つけた魔防隊が攻め込んでいる形となっている」
「魔防隊の索敵能力はやはり侮れないね。僕らも行動を起こすときは慎重にしないと。拠点を見つけられれば戦いの主導権を奪われる可能性が高くなる」
「その時はまとめて返り討ちにするのみよ!」
「しかし、元人間の醜鬼か……変わり種だな。確かに、それなら生命力にあふれているだろう」
「雷煉は他にやることあるよ。
当然のように自分も行き戦闘に参加するつもりだというかのような好戦的な表情をしている雷煉。
髪を整えながら、そんな雷煉に冷水を浴びせるようにさも当然という口調で紫黒は今回の作戦に関して雷煉は外す意向を告げた。
「何ィ!?」
「今回は雷煉に向かない。わかるよね?」
「……まあな」
今回の紫黒たちの目的は、桃の能力を持つ人間を空折の餌とするために確保すること。
合わなければ合わなかったで他に使い道はあるが、それでも最低限の条件として生き餌である必要があるため、生け捕りとする目的を達するのに高い殺傷能力を持つ雷煉は適任ではない。
そのため今回、雷煉は留守番である。
そのことを理解している雷煉は、魔防隊へのリベンジも果たしたくて仕方ないとはいえ、納得しておとなしく引き下がった。
「急げよ。魔防隊に倒されては元も子もないぞ」
それだけ言って、空折のところに向かう雷煉。
八雷神たちからみて今まで大々的には動かず大人しくしていた人型醜鬼と魔防隊がぶつかっているという状況の原因は分からないが、人間同士で戦いある程度消耗してくれるというならば生き餌を確保する上では好都合である。
また、一部の人型醜鬼が戦場となる洞窟から動き魔防隊襲撃時に別の場所に避難していることも確認している。
もしも洞窟に残る人型醜鬼たちが全滅するようなことがあれば、その場合は逃げ出した人型醜鬼を確保すればいい。
索敵に特化した醜鬼を使うことで行き先も掴めているので、そちらの確保には鳴姫が動く予定となっている。
「その時は鳴姫が逃げている他の餌を確保すればいいさ。逃げた連中はおそらく非戦闘要員、確保は容易だろうしね」
「物足りないけど……余に任せておきなさい!」
紫黒の言葉に、非戦闘要員の拉致というまともな戦闘に発展しないだろう任務に物足りなさを感じながらも、仕事は確実にこなすと承諾の返答をする鳴姫。
八雷神の一角が直々に動くのである。しかも相手は戦場となる洞窟から逃げた者たち、桃の能力で多少の自衛は出来ようが所詮まともに戦えないだろう弱者たち。
何の障害も問題もなく、人型醜鬼たちは確保できるだろう。
だが、壌竜には1つだけ懸念事項があった。
「鳴姫、予期せぬ障害があるかもしれない」
「?」
「ん、どういうことかな壌竜?」
何の障害もないだろう鳴姫に、忠告をした壌竜。
不確定要素というならば、魔防隊とそれを迎え撃つのに残っている人形醜鬼たちに襲撃を仕掛けることになる壌竜たちの方が何があるかわからない、不足の事態もあり得るというのに、何故か鳴姫の方に気をつけろと言った壌竜にどういう意味かと問う2柱。
確証はない。むしろ、可能性としてはありえないと言っていいほどに低いはずである。
だが、壌竜には1つだけ鳴姫の身に危険が及びかねない想定があった。
あの正体不明の特殊な個体の醜鬼。
本来はありえない、醜鬼でありながら八雷神を敵とみなすジョン・ドゥを名乗る人間の形態を取る醜鬼である。
もしも、ジョン・ドゥを名乗るあの醜鬼が人型醜鬼達とつながっているとすれば、或いは──
いや、さすがにそれは考えすぎだろう。
奴は人間ではなく醜鬼。醜鬼化したとはいえ、元は人間である人型醜鬼たちと共存や協力などできるはずがない。
ありえないとその可能性を捨て、もっと現実的な可能性ある危険の話をした。
「魔防隊も人型醜鬼を狙っている組織だ。そちらにも人間たちが来る可能性がある」
組長格ともなれば、八雷神たちとすら渡り合う力を持つ魔防隊という人間の組織。
人型醜鬼を狙っているのは向こうも同じである。倒され確保されて仕舞えば目的を達成できないし、場合によってはそれら人間たちとの戦闘にも発展しかねない。
「ふっ……望むところよ!」
壌竜の心配をよそに、魔防隊との交戦経験がない鳴姫だがその程度は問題ないと言う。
……確かに、彼女の言う通り魔防隊に負けたのは雷煉の相性の悪さと当人の慢心が大きな要因だが。
鳴姫が出発し、降臨のポーズを考える紫黒。
人間たちへの宣戦布告をする瞬間が楽しみで仕方ないらしい。
紫黒の出した案では威厳に欠けるので、そこは現地で壌竜が修正しそれらしく見せることに。
「さて、僕らも行こうか」
「現地では私が神々しく見せよう」
「いーねー。神の降臨だよ」
こうして八雷神たちも動き出す。
2柱は空折の餌となる人間を確保するために、優希を巡り魔防隊と人型醜鬼たちが激突する洞窟へと。
そして1柱は逃げた人型醜鬼たちを拉致するべく、手薄な避難先の別の隠れ里へと。