俗世が好きで何が悪い!? 作:みども
ジョン・ドゥが魔都に発生したのは、約3年前。
この時点で既に複数存在していた特殊個体の醜鬼の中では若い個体である。
発生した時点である程度の知識、そして確固とした自我を有していたジョン・ドゥは、目的を探すために魔都をさまよう中で彼女に遭遇した。
魔都の桃を食べた際に適合しなかったことで人型醜鬼と化していたその少女は、自らを『
それが、青羽たちとの出会い。
人語を発する知性を持つジョン・ドゥが身の上を明かした際には、醜鬼と知るなり警戒されたものの、それも一瞬のこと。
敵対する意思がないことを告げたところ、不審者以外の何物でもなかったジョン・ドゥの言葉を勘で信用して青羽は受け入れ、一方的に友達認定してきた。
それから、ジョン・ドゥは全く知識のない現世側のことを青羽と彼女が保護してきた人型醜鬼の人々から教わり、名前がなければ不便だということで『名無しの権兵衛』改め『ジョン・ドゥ』の名前を友情の証にと青羽に貰うこととなった。
人間とは種族も価値観の異なる醜鬼であるジョン・ドゥから見ても、青羽は破天荒な人物であり、そして自らの境遇に悲観することも負けることもしない太陽のような人物だった。
友達という者を知らなかったジョン・ドゥに名前をつけ、友達という存在を教えてくれた。
友情の絆は家族の絆の次に強く、そして友達は絶対に見捨てない。
青羽の言葉は、発生して以来自身の目的を探していたジョン・ドゥにとってその目的になった。
現世において人間社会の統治機構である日本政府の傘下組織の魔都研究を行う機関である陰陽寮は、人型醜鬼の存在を隠蔽し、治療と称して魔都災害に巻き込まれるなどして人型醜鬼となってしまった仲間たちを実験動物扱いしている。
陰陽寮を潰し、人型醜鬼となった人々を解放し、日本政府の闇を白日のもとに晒す。
それを目的として、青羽は人型醜鬼を保護し複数の隠れ里と呼ばれる拠点を魔都に設け、醜鬼を手なずけるなどして戦力を増やし、魔防隊が守る陰陽寮の襲撃計画を画策していた。
それを聞いたジョン・ドゥは、友達として彼女たちの力となるため、隠れ里の住人のために自らの能力を駆使し観光客に紛れ込んで彼女たちに必要な物資を爆買いしたり、醜鬼の群れを用いて魔防隊の拠点を襲って隊員たちの能力を観測しその戦力の把握を行っていた。
それが、ジョン・ドゥの行う爆買いと魔防隊襲撃の理由だった。
醜鬼である自身は、その能力故に魔防隊に存在を知られれば必ず討伐目標にされる。敵対の道は避けられない。
そして青羽たちの目的は陰陽寮とそれを守る魔防隊を潰す事。
人間社会のありふれた様々な事を堪能することは、ジョン・ドゥにとっての娯楽。
青羽たちにとっても一般人を巻き込むのは本意ではない。
共通の敵──というわけではないが、友情と利害の一致から、『敵は魔防隊と陰陽寮であり、一般市民には危害を加えない事』を共通の誓約として、ジョン・ドゥは青羽たちに協力する事にしたのである。
それからというもの、ジョン・ドゥは爆買いによる物資の補給をしたり、魔都に迷い込んだ民間人を自らの能力で現世に返したり、間に合わず人型醜鬼となってしまった元人間を保護したりといった人命保護などの活動を行い、陰陽寮側に人型醜鬼を抑えられるのを阻止するとともに青羽たちの活動を支えてきた。
ジョン・ドゥの協力もあり、隠れ里はそれなりの規模の集落となり──中には生存に必須な物資ではないジョン・ドゥの趣味としか思えない代物もあったが──住人たちは満足した生活を送れるようになった。
青羽が馬扱いしている一本角の特殊個体の醜鬼である『
能力で見た目よりもはるかに多くのものを収納している今回の補給物資からお土産、娯楽用品から無駄としか思えないどうでもいい物などなど爆買いした代物が詰め込まれた背囊を青羽たちに渡したジョン・ドゥは、早速青羽に今回交戦した魔防隊二番組の戦力の情報を伝えた。
「今回の醜鬼の群れは組長単独で全滅。所要時間は4分28秒。魔防隊二番組長“上運天 美羅”、能力は分身。武器は不保持、打撃による格闘戦主体と推測します。これまで確認した各魔防隊に比較し、個人の戦力は最強と推測します」
「分身ね……どれくらい出てたの?」
「今回は本体含め20です。なお、限度は不明です」
「まあ、分身でも殴るしか能がないならココがいれば大丈夫ね。近づかれる前に私の光線で消し炭にしちゃうのもアリだし」
上運天美羅に関する確認できた情報を伝えると、青羽はその情報をもとに対策を考える。
物理攻撃に対して滅法強い能力を持つ青羽の仲間の1人であるココならば、確かに対応しやすい相手ではある。
彼女の能力は自らの体の表面を滑る液体を生み出す能力である。これにより摩擦を減らし、表面に当たる敵の攻撃を滑らせて回避する事などが可能となる。
……あくまで液体を生み出す能力のため、青羽の能力である口から出す光線など液体もろとも破壊するような攻撃にはめっぽう弱いが。
準備は整いつつある。
だが、魔防隊の戦力はまだ把握しきれていない。
「情報を集め終わるまでは動かないこと。民間人を傷つけないこと。わかってるわ、準備が整うまでは私の方も動かない。約束する」
「最高戦力となる総組長『
襲撃計画の確認を行ってから、物資の納品も終えたことだし、次の醜鬼の群れを作る作業に入るためにも隠れ里を後にするべく立ち上がるジョン・ドゥ。
その背中に、青羽が声をかける。
「貴方って、本当に俗世好きよね」
「俗世が好きで何が悪い!?」
「あはははは!」
答えるジョン・ドゥの言葉は、以前彼女たちに教えてもらった言葉。
声量ばかりで感情のこもっていない声だが、それでも全力で答えようとしてくれる友達に青羽たちは周囲の目もはばからず大笑いに包まれた。
「気をつけろよな!」
背中にかけられる青羽の仲間の声に、ジョン・ドゥは背囊を担ぎ直した手を振って返事とした。