俗世が好きで何が悪い!?   作:みども

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八雷神③

 神を自称する八雷神という存在。

 それと対峙するジョン・ドゥは、魔都を舞台に八雷神の一角である雷煉と戦っていた。

 

 雷煉の力は、鋼のごときと自負する頑強な肉体と、名前の通り雷と炎を攻撃手段として発するもの。

 腕を掲げて放つ落雷攻撃や、口から放つ巨大な火炎の砲弾など、直接的なエネルギーをぶつける攻撃手段を得意とする。

 炎は石の盾で防げるが、雷は容易に防げるものではない。

 そのため紫黒も雷煉の方がジョン・ドゥを相手取るのに有効と判断し、相性の上で最悪の壌竜を退かせて雷煉に任せたのだが。

 

「ぐあっ……!」

 

 雷煉自身は石にすることはできないが、雷煉が発した雷や炎などのプラズマでさえも石に変えてしまう上に、霧になり地面に逃げることで雷が当たらないわ、かすったとしてもすぐに地面に受け流されるわ、火炎は結局石の盾を突破できないわ、殴りかかっても霧になるから容易に避けられるわで、雷煉の方も手も足も出ない有様。

 一撃ごとは決して傷を与えられる威力ではないものの、何度も殴りつけるジョン・ドゥの拳は確実に雷煉の肉体に通用しており、一方的に殴られ蹴られで攻撃を許した雷煉がついに紫黒たちのところに結構ボロボロにされて吹き飛ばされてきたのである。

 

 壌竜もそうだが、雷煉でも相性が悪すぎる。

 全力形態を使おうにも、魔防隊とかいう向こうの世界にいる人間たちの組織に見つかる危険性が高まるし、それ以前に霧に何かあるのか力が一部封じられて使用できない。

 紫黒たちから見てジョン・ドゥは、まるで八雷神と戦うために生み出されたかのような、極めて相性において劣勢を強いられる特殊個体の中でもさらに異質な醜鬼だった。

 

「おのれ、小癪な……! 全力形態となれば、貴様ごとき秒殺してくれようものを……!」

 

「君には無理だよ、雷煉。そもそも、相手はその全力形態になることを阻害する霧を駆使しているんだから」

 

「我はこの程度では倒れぬわぁ!」

 

「はいはい強がり強がり。下がってて」

 

 立ち上がった雷煉だが、予想以上にボロボロである。

 一方のジョン・ドゥは頑強な雷煉をあれだけボカスカ殴っていたというのに、拳すらも無傷のまま。疲弊している様子もない。

 突然変異だとしても、支配者たる神に対して反逆するために与えられたような能力を持つその異質な醜鬼に、紫黒は多大な興味と少々の不快感を抱きながら、まだやれるとうるさい雷煉を押しのけて前へ出た。

 

「面白いね君。醜鬼の分際で、神たる僕らに刃向かおうとする。そして神に逆らうために生まれたような能力……俄然、興味の湧く存在だよ」

 

「自分は其方の存在を極めて不愉快と認識しています。神を称し支配を要求する傲慢なる姿勢を許容することができません」

 

 ジョン・ドゥの方は、人間にも醜鬼にも向けたことのないような敵意が八雷神に向く感覚があった。

 通常の醜鬼が人間に対して本能的に敵意を向けるように、冷静に考えればそこまで敵対する必要性がないかもしれない相手だというのに存在そのものを否定したくなるような、決して相容れないものであるという強烈な敵意が八雷神に対して本能的に湧き上がってくる。

 それに困惑しつつも、結局先に敵対の意思を向けたのは向こうである以上敵に変わりはないと、能力を駆使して紫黒たちの頭上に巨大な岩塊を生み出す。

 そして問答するいとまも惜しいと言わんばかりに、その巨大な岩を落とした。

 

「…………」

 

 拳を突き上げ、それを無言で破壊する壌竜。

 壌竜が守ってくれることを承知している紫黒も、頭上に落ちてくる岩のことなど気にもとめない。

 ならばと石を無数に作り出し弾丸のように発射しようとするジョン・ドゥに、握手を求めるように片手を出した。

 

「僕は神だから寛大さ、先ほどまでの無礼は水に流そう。封じることもせず、君の自由意志を残して支配下にしてあげるよ。僕の支配を受け入れなよ、霧岩(むがん)

 

 それは神の立場からすれば実に寛大であり、要求される側にしてみれば傲慢甚だしい勧誘だった。

 ……しかも、勝手にジョン・ドゥに名前を与えようとまでしている始末。

 名乗っていなかったのはジョン・ドゥの方だが、それを差し引いても文句をつけずにはいられないものであった。

 

「訂正を要求します。自分の名前は『ジョン・ドゥ』です。其方の提示は棄却します」

 

「へぇ……僕自ら与えた名を否定し、あまつさえ神の慈悲を蹴るとは、いい度胸じゃないか!」

 

 ジョン・ドゥが拒否の返答を突き返した瞬間、紫黒の表情が変わる。

 寛大という自己評価はどこへ行ったのか。隣の壌竜が冷静な声で「寛大とは?」とツッコミを入れているが、沸点を突き抜けた紫黒には聞こえていない。

 

「退いて雷煉、僕がやる。もう躾なんてどうでもいい……消す!」

 

「お前のどこが寛大だ……」

 

 好戦的な雷煉ですらドン引きする短気を見せた紫黒が前に出て、それを無言で迎え撃とうと構えるジョン・ドゥ。

 両者がぶつからんとしたその時──

 

「……紫黒、近づいてくる存在がある。おそらく魔防隊だ。我らの戦いが気づかれたようだ」

 

「ちっ……!」

 

 魔防隊の接近に気づいた壌竜の言葉に、タイムリミットが来たことを知る紫黒。

 冷静さを取り戻し、悔しさを隠そうともしない舌打ちをしてから、暗幕の中に雷煉と壌竜を取り込んで姿を消した。

 

 そして、壌竜の言葉を聞いていたジョン・ドゥもまた、魔防隊の接近を感知する。

 

「──開門」

 

 存在そのものが許さないという敵意を抱いてしまう相手だが、退いてくれるならば追撃する必要はない。

 自身の本能よりも、今は青羽たちのために動くことを優先するべき時と判断し、魔防隊が来る前に姿をくらませるために門を開いて現世へと立ち去る。

 

 後には、ジョン・ドゥと八雷神たちが暴れた惨状が残されるのみだった。

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