【イナイレ二次創作】超次元転生~必殺シュートで成り上がリーヨ!~ 作:雨内 真尋
あれから2年の歳月が流れた。その間は大きなトラブルが起こることもなく、無事に今日僕は10歳の誕生日を迎えたのだ。
「カーミル君、本当にもう行ってしまうのですか?」
「はい、それが僕のすべきことですから」
「院のルールは守っているので問題ありませんが、それでもやはり10歳での旅立ちというのは少し早い気もします……」
孤児院で暮らす子どもは、いずれ全員確実に自立することが義務付けられている。その自立する規定年齢は10から15歳の間だ。
そして僕は以前から、10歳になったその日の早朝に旅立つことを決めていた。最低年齢での卒院生は過去何人かいたらしいが、そう多くはない。何か特別な理由がない限り、基本的には全員規定ギリギリの15歳でここを出ている。
この世界では15歳から成人であるため、卒院後すぐに就職するというのが鉄板のルートらしい。
「気にしないで下さい。僕がここにいると良く思わない子は多いでしょうし、皆のためにも今旅立つのが一番なんですよ」
「ごめんなさい。カーミル君に責任はないと明言しておきながら、最後まで子ども達の意識を直すことは叶いませんでした……」
「あはは、それはもう何度も行ったじゃないですか。サテラ先生は何一つとして悪くないし、僕は気にしていないって」
「はい、そうでしたね。改めて今日まで院の平和のために陰で支えて下さり、本当にありがとうございました」
結局最終日まで皆の僕に対する感情を改善することは出来なかった。でも僕はそれでいいと思っている。皆が僕のことをどう感じていようとも、それで僕が皆を嫌いになることは無いのだから。
あんな惨劇があった後だけど、子ども達は僕からではなく別のどこかからボールを入手し、サッカーで遊んでいた。その光景が見れただけで僕は満足だ。どんな暗い状況にあったとしても、サッカーが皆の希望の光になったのなら。
「当然のことをしたまでですよ。だって僕達は、家族なんですから」
「その通りです。困ったことがあったら、いつでも帰ってきていいのですからね。間違いなくここはあなたの家で私たちは家族、それだけは絶対に変わることはありません」
「……それじゃ、長居しても決心が揺るぎそうですし、そろそろ行きます――」
「ちょっと待ちなさいカーミル!」
「ミル!待って!」
ぼちぼち出発しようかと思ったその時、孤児院から駆けてくる二つの人影が目に入った。マリーナとリタだ。僕が意図的に避けていたからというのもあるが、ここ2年まともに会話をしていなかったから、こうして声を聞くのはだいぶ久しぶりな気がする。
「最後くらいちゃんと挨拶させなさいよ!」
「勝手に行くのはダメ」
怒りと悲しみに満ちた視線を向けられ、申し訳無さが溢れてくる。僕と関わっていることはこの孤児院ではデメリットしかないのだが、それを承知でこうして駆けつけてくれたことが何よりも嬉しい。
「ありがとうね二人とも」
「いいのよ別に。それで、本当にもう行っちゃうのね……」
「うん」
「分かった。カーミルのためにもきっと外の世界に行ったほうが良いと思うし、止めはしないわ」
こうしてマリーナと話をしていると、懐かしさに溢れてくる。一人でいることには慣れたつもりだったが、それでも誰かが傍にいるというのはこんなにも安心するものなのか。
「ミル、これあげる」
「これは、バンダナかな?なんだか凄く勇気が湧いてきそうなアイテムだね」
「それをリタだと思って」
「うん、ありがとう。大切にするね」
リタは2年がたった今でも相変わらず口数は少ないままだ。だがそれでも彼女の思いは十分に伝わってきた。
僕は貰った赤に近い茶色のバンダナを早速頭に巻く。まるで円堂 守になったみたいで、ちょっと恥ずかしいけどそれ以上に嬉しさが勝っている。
「待っててカーミル。ここで魔法を鍛えて、もっともっと強くなったら絶対会いに行くから!」
「リタもミルの力になる」
「そうか。うん、楽しみにしてるね……」
今はマリーナが12歳でリタが8歳か。最近は二人の魔法がどれほ成長したのか知らないが、卒院は数年は先の話だろう。
正直に言ってしまえば二人には、いやこの孤児院の子たちはもう僕とは関わってほしくないと思っている。どうしてもあの事故のことを思い出して、危険な目に遭わせてしまうと思ってしまうからだ。
だがここで断ったとしても引き下がらないことは、二人の性格上容易に想像できる。だから当たり障りのないことを言っておいた。どうせ旅をしていたら、僕の居場所を特定することなど不可能だろうし。
「じゃあ、行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
「気をつけてね!」
「うん」
気を取り直し改めて三人に別れの言葉を告げた僕は、10年間お世話になった孤児院を卒院した。
そんな僕が向かう先は町の外、ではなく町中にある教会だ。最後に挨拶をしておかなきゃいけない二人の友達、レオンとズザナがいるから。
「やっぱり来たか……」
「え、ライナルト?どうしてここに……」
「お前は今日出ていくと思ったからな。ならその後ここに寄ることくらい誰でも予想できるだろ」
「そっか」
レオンとズザナの墓参りにやって来ると、なんとそこでライナルトが先客として待ち構えていた。しかも僕に用事があるような物言いでだ。
「……」
「……ちょっとだけお邪魔するよ」
どう言葉を交わせばいいか分からず僕達の間を重い空気が漂う。だがまずはここへ来た目的を果たすべきだと思い、二人の墓石前で膝を付き手を合わせ黙祷を捧げる。
これは自分の犯した罪を忘れないことと同時に、覚悟の再確認だ。人を助けるために身を粉にして戦う、それが僕の生きる意味だと。
「先生の言いたいことは理解してる。本当はお前は何も悪くないんだって」
「え……」
「だがな、それでも俺はお前を絶対に許さないし、たぶん一生恨み続ける。この感情だけは変わることはねえ」
「うん、それでいいよ。それでライナルトが楽になるのなら」
黙祷を終え立ち上がった僕に対し、ライナルトは不意に話しかけてきた。その声音はやはり強い怒りが籠もっていたが、でもそんな中にもほんの僅かに彼の彼らしい優しさが垣間見えた気がする。
それが感じられただけで僕は満足だ。
「それじゃあ僕はもう行くから、孤児院のことよろしく頼むね。って、僕が言えた義理じゃないけど……」
そう言葉を残し立ち去ろうと歩きだすと、背後から「待てよ!」と声をかけられた。振り返ると、ライナルトは手に持っていたボールを僕に向けて勢い良く蹴りつけてくる。
しっかりと体重の乗った良いシュートだ。僕が孤立した後もライナルトが一番率先してサッカーを楽しんでいたからな。強く成長したみたいで嬉しさが込み上げてくる。
「お前のことなんか大嫌いだ!顔も見たくねえ!でも、どうしてもサッカーだけは嫌いになれなかった。サッカーをしてると、楽しかったあの日々のことを思い出せて、皆が笑顔になれるんだよ……!」
「うん」
「だから、俺達にサッカーを教えてくれてありがとう……兄貴!」
「うん……」
ライナルトは感情の思うままに、泣きながらそんな心の叫びを聞かせてくれた。
僕も思わず涙が溢れて止まらなくなる。皆がサッカーを好きでいてくれて、ずっと楽しんでくれていて、ただそれだけのことが心の底から嬉しかった。
そして、強く恨んでいるはずのライナルトがまだ兄と慕ってくれることは、僕にって最大の誇りだ。
「兄貴は無茶して死ぬんじゃねえぞ……!」
「あはは、分かったよ。それじゃあ行ってくる!」
ライナルトにボールを蹴り返した僕は、今度こそ踵を返し出発する。今の僕にはもう先程までの心暗さは無い。
爽やかな青空と世界をほんのりと暖かく照らす太陽を背に、晴れやかな気持ちを胸に旅立つのだった。