【イナイレ二次創作】超次元転生~必殺シュートで成り上がリーヨ!~ 作:雨内 真尋
翌朝、傭兵団の空き室を借りて就寝していた僕は、起床と同時に1階のロビーへと降りる。そこには他の傭兵団仲間がチラホラと集っており、その日受ける仕事を吟味している者がほとんどだった。
「ようカーミル」
「あ、マルクスさん。先日はどうも」
「こっちこそあの時は突っかかって悪かったな。外見だけで人を判断しちゃいけねぇってのを身に沁みて学んだぜ」
傭兵団の朝の一幕を眺めていると、その輪から外れたマルクスが話しかけてきた。
年下である僕に負けた後だったので嫌味の一つでも言われるかと警戒したのだが、なんとびっくりなことにその逆で親しげに話しかけてきたのだ。
「あの、怒ったりはしないんですか?」
「はぁ?何でそんな事しなきゃなんねーんだよ」
「いえ、その……」
「あの勝負はお前が強くて俺が弱かった、だから俺は負けたんだ。そんだけの話だろうがよ。ま、次やる時は俺が勝つがな!」
どうしても気になってしまったので尋ねてみたのだが、マルクスは何を馬鹿なことを言ってんだという顔で見てきた。本当に全てを割り切って受け入れているような、そんな懐の深さで溢れている。
「ありがとうございます。でも僕も負けるつもりはありませんからね」
「おう、臨むところだ!」
彼の本心が分かった頃には僕の警戒心も無くなっていて、自然と肩を組んでくるマルクスに対する嫌悪感など一切なかった。
他人と距離を縮めるのがあまり得意でない僕でも簡単に受け入れられるほど、彼の人の良さに心開いているのだろう。
「それでカーミルは今日何をする予定だ?何もないなら俺が傭兵のいろはを教えてやってもいいぜ」
「今日からはしばらくテレーザさんに色々と指導してもらう予定なんです」
「はぁ!?テレーザがお前の指導係なのかよ!」
「は、はい、そうですけど……」
テレーザという名前を出した途端マルクスの表情が険しくなった。どうにも嫌な予感がするのだが、一体何があるのだろうか。
「テレーザは暗殺やそっち方面の仕事を専門にしてる、傭兵団の中でもイカれた部類の人種なんだよ。人を殺すことに躊躇いがなく、むしろ楽しんですらいるって話だ」
「それ本当なんですか?」
「当たり前だ馬鹿野郎が!これは以前あいつと臨時パーティを組んだ連れの話だがな、なんでもテレーザは仕事の間終始薄気味悪い笑みを浮かべてたらしいんだよ。しかも標的を倒した時に吊り上がった口角は、まるで悪魔のようだったってな」
「うーん、そうですか……」
マルクスは興奮した様子でテレーザの危険性を力説してくれた。だが結局それは全て人伝のもので、自分自身が見たものではないっぽいしいまいち信用しきれない。
確かに昨晩は厳しいことを言われたが、それと今の話だけでそんな狂った人間みたいに評価するのは早計だろう。
暗殺に関しては僕はやりたくないけど、仕事を選ぶのは人それぞれだからそこは特に触れる必要はない。やりたい人は好きにやればいいと思うし関わりは無いから。
「おい、何をしている」
「あ、テレーザさん。おはようございます」
「行くぞ、仕事だ」
「はい!それじゃあマルクスさん、行ってきますね」
「気をつけろよー!」
テレーザがやって来たので、彼女に付き従って出発する。後ろから本気で心配しているようなマルクスの声が聞こえてきたので、大丈夫だと手を振って返しておく。
こうして傭兵団に所属しての2日目が始まったのだった。
――
ペールマンを出てやって来たのは、僕が以前踏破してきたあの森だ。
「よし、ここでいいか」
「何をするんでしょう?」
「模擬戦だ」
「え、模擬戦をするんですか?」
テレーザからは傭兵団の仕事についてを教わるという話だったので、模擬戦と聞いて驚いた。
ただ指導係の彼女が言うのだから、これも傭兵としての仕事に必要なことなんだろう。その真意は分からないが。
「この硬貨が地面に落ちたら模擬戦開始だ。戦闘の準備をしろ」
「分かりました。ボール生成」
「よし、では始める」
僕がボールを生成するや否や、有無を言わさず模擬戦は始まった。テレーザの投げたコインが地面に落ちたのと同時に、彼女は一瞬で姿を消したのだ。
「は、速い……!」
移動する瞬間を目で一切追えなかった。これが暗殺を専門とするテレーザの技ということか。
森の中に姿を隠し隙を突いて攻撃する算段だろう。
「正面から突撃!?くっ、ザ・ウォール!」
違った。テレーザは僕の裏をかいて死角からではなく真正面から突撃してきたのだ。
意表を突く攻撃には驚いたが、でも姿が見えているなら止められるはずだとザ・ウォールを発動する。真っ向勝負なら望むところだ。
「こっちだ」
「えっ、いつの間に!?くそっ――」
「遅い。もう勝負は決まっている」
正面からの攻撃はフェイントだった。防御を誘い素早さで裏を取ったテレーザは僕の首筋に鋭い短剣を突きつけている。
背後から声が聞こえ咄嗟にシュートを放とうとしたのだが、当然間に合うはずもなかった。
「う……ま、参りました」
降参を宣言するとテレーザは短剣を引き距離を取る。その表情は相変わらず冷徹で厳しいものだった。
「どう感じた?」
「え?えっと、テレーザさんの動きが早くて、対応するのに手一杯で結局間に合いませんでした……」
「違う。お前の敗因はそれではない」
唐突に模擬戦の感想を聞かれたのでそう答えたのだが、違うと否定されてしまった。戦って感じたことを伝えたのだが、それ以外の敗因とは一体何なのだろうか。
「他に負けた原因があるってことですか?」
「そうだ」
「なるほど、他にか。後は何があるんだろう……」
違うと言われると答えが気になってしまう。ならば直感ではなくちゃんと冷静に分析してみよう。
まず初手でテレーザを見失ったのは失態だな。こっちには索敵系の技がないのだから後手に回るのは絶対ダメだ。常に先手を取り続けないと。
後は正面突破されそうになった時か。ザ・ウォールで防げるのはそのまま突破しようと突っ込んで来る相手のみだ。ちょうどこの前のボアレストみたいに。
素早く機動性の高い相手なら、自分の視界を奪うのは自殺行為だろう。
後考えられるのは……
「――ミル」
「それ以外だと最後の背後を取られた時で……」
「おい、カーミル!」
「え?は、はい!何でしょうか!?」
一人思考の沼にはまっていると、テレーザに怒鳴られて呼び戻された。しまった、少し一人で考え込みすぎていたみたいだ。何かさっきまでよりも怒ってる気がする。
「お前は私に敗因を聞こうとしないのか?」
「え、はい、聞かないですけど」
「何故だ、何故聞かない?」
「それはまぁ、今までもずっと問題が起きたら一人で改善案を考えてきたので、人に聞くとかしたことがないだけです」
物凄く怒っているのかと思ったが違った。あの顔はどうやら、ただ単に困惑しているだけのようだ。顔が怖いから判断が難しいな。
それにしても、確かにテレーザに聞くという選択肢もあったのか。この世界に転生してから今日までずっと、特訓は一人でしてきたものだからその発想がなかった。
皆でサッカーはしていたけど、必殺技の特訓は淡々と孤独にしていたからなぁ。改めてそう考えると、凄い寂しい人間で惨めになってくる。
「一人で考えていれば、自分の答えが間違っている可能性もあるだろ。それを不安には思わないのか?」
「間違ってたらまた考えて試せばいいだけですから。そうして試行錯誤して、ようやく必殺技は完成するんですよ」
「必殺技?」
「すみません、最後のは忘れて下さい」
こと必殺技を特訓する時に限ってい言えば、不安など感じたことはない。技術を試行錯誤し完成させるため努力し、失敗したらまた考える。そうした積み重ねが出来るありがたみを僕はよく知っているのだから。
前世ではどんなに願っても叶わなかった、努力できることの幸せを。
「答えを聞くのも一つの方法だとは思いますが、考える余地があるのなら僕は自分自身で導き出していきたいだけですよ」
改めて考えを整理した僕は、自分の中にある答えをテレーザに伝えた。