最近仕事が忙しくて書けてませんでしたが何とか第2話が書けたので投稿します
トレーナー契約をした次の日、彼は私を見つけると「おーいディディ!」と声をかけてきた。
「練習メニュー持ってきたよ。まぁ練習って言っても初めはディディにあった適正距離や脚質を探すところからだけどね。それに合わせてメイクデビューレースや練習メニュー考えるから。ディディは自分の感覚だとどれが1番」
その話の最中にレース場とは逆の校舎へ歩き出した。自分の脚質は知っている。適正距離も1600m〜2400m程度だとわかっている。それだけ知っていれば、勝つことは出来る。今までがそうだったように。これからも通用するかは分からないが、少なくとも今通じているなら今後も勝てるだろう。そう思った。
そんな私を追いかけて彼は隣に並んできた。
「ディディってもしかして結構我儘だったりする?」
彼の頭にはどうやら失礼という言葉がないらしい。が、実際自分が我儘っていう自覚がないわけではない。ただ、ストレートに言われると無性に腹が立つ。
「まぁ我儘なら我儘でいいんだけどね。可愛いし。人間もウマ娘も、何かを行動するときはそのときの気分がある。昨日は真面目に練習したのに今日はやる気が起きない。それと似たような感じだと思う。気分が乗らないなら今日じゃなくて明日でもいいよ。」
文句を言われ、強制されると思っていたが、彼から出てきた言葉は意外にも気分が乗ったときにやってくれればいい。そんな言葉だった。
彼は私が思ってるより心は広いのかもしれない。
「一応言っておくけど、これやってくれないと今後レース場の予約しないからね。」
訂正、心は狭かった。
「ただ、これさえ測定させてくれたらあとの練習はディディに任せる。メイクデビューレースまではディディの好きなようにやっていいよ。コースが使いたかったら僕のところまで来てくれれば許可は取る。メイクデビューレースでも勝つことが出来たら君の練習には何も言わない。まぁ、もし負けたら僕の練習メニューやってもらうけどね。」
簡潔にいうと、デビュー戦までは自由にするから今日中に適正距離と脚質を教えろ。そういうことらしい。私としても自分の時間が増えることに越したことはない。やり方には納得いかないが、彼なりに私を信じてくれているということだろう。
「…脚質は先行と差し、適正距離はマイルと中距離よ。」
自分でわかってることをそのまま言った。これで解放されると思っていた。しかし、彼の話は続いた。
「それはディディの感覚での話だ。ディディがいうからにはそうなんだろうが、一応データだけは取らせてくれないか?
さっきも言ったけど、これ測定させてくれないとコースの許可は出さないよ?」
あまりにしつこいので、流石に諦めた。
「はぁ…わかったわ。じゃあレース場に行きましょう。ただし、さっきトレーナーが言ったように、今日走ったらデビュー戦まではこっちでやらせてもらう。いいわね?」
「了解。でもそれで気を抜いてデビュー戦負けるなよ?」
彼は笑いながらそう言ってきた。
やはり彼に失礼という言葉ないらしい。
レース場に着き、彼に言われたことは、脚質を先行と差し、距離をマイルと中距離でそれぞれ2本、計4本。
選抜レースを先行で走ったからか、とりあえず最初は先行で走ってくれとお願いされた。
準備をしてるとき、彼が別のトレーナーに声をかけてるのを見かけた。先行や差しは1人で走るとなると距離感が掴みづらいからだろう。私と一緒に並走してくれないかと頼んでいるようだ。
一通り話終わった後、彼がこっちに来た。
「走ってくれって言った後に先行や差しは1人だと走りにくいということに気づいてね。並走してもらうことにした。あっちも『練習になるのでありがたいです!』って言ってくれたから助かったよ。」
容量がいいのか悪いのか。まぁ明らかに悪いだろう。もし並走相手がいなかったらどうするつもりだったのか後で聞いてみよう。
そんなことを考えていると、
「お、来たよ。」
その言葉で一旦考えるのをやめ、彼が見てる方向を見た。その方向から1人のウマ娘がこっちに走ってくるのが見えた。白髪のショートヘアー。選抜レースで私に負けて2着だった子だ。名前は確か、ルミエール。
その後ろで彼女のトレーナーが心配そうにこちらを見ている。
エールはこっちに来た途端、
「ディディ、選抜レースは負けたけど今日は先にゴールさせてもらう。」
勝ち宣言をされた。
「これは競争ではなく並走よ?先にゴールしたところで勝ち負けは関係ないわよ。」
「走る距離はメイクデビューと同じ1600mと2000m。ここでディディより早くゴールすれば今後も勝てる可能性がある。」
どうやら彼女は私をライバル視しているようだ。まぁ、ライバルにするのは彼女の勝手だからとやかくは言わない。こっちに影響されるようなことがあれば別だけど。
「ディディもエールも一応聞いてくれ。流れはさっき説明したに通りに行く。ただ、流石に連続で4本はつらいと思うから先にマイルを2本走って、走った後10分間休憩を挟む。10分経ったら次に中距離を2本走る。中距離は1本走り終えたら5分間の休憩を取り、その後残りの1本を走る。それでいいか?」
無言で頷く。
「エールもそれでいいかな?」
「大丈夫です」
「おっけー!じゃあ2人とも並んで。」
エールがこっちを見てるのだろう。並んだときに横から視線を感じだが無視した。
「よーい…ドン!」
その合図と同時に走り出した。私は言われた通り先行策。選抜レースのときに1度彼女と走っていたけど、気にしていなかったからか彼女の戦法が思い出せない。チラッ彼女の方がを見た。今隣で走っていると言うことは先行なのだろう。ただ、彼女の走りを見たとき少し違和感を感じた。
私は視線を前に戻し、そこから先はゴールだけを見て走った。
私が先行から差しに変えると、それに合わせるように彼女も先行から差しに走り方を変えた。どうしても私と同じ脚質で勝ちたいようだ。ただ、そのお陰で1本目に感じた彼女への違和感の正体に気づいた。
4本走り終わり、結果を言うと先行より差しの方が走りやすかった。中距離とマイルを比べるとマイルの方が走りやすかったが、中距離も主戦で走っていけるくらいの適正距離ということも改めてわかった。
今度自分で測ろうとしていたことを考えると丁度良かったかもしれない。
これで自分の適正距離と戦法がわかったから、明日からは今日の結果を踏まえて練習することにしよう。練習といっても少し走り込みする程度だけど。
それより、今はこの子をどうするか考えないといけない。
「また負けた…また勝てなかった…」
4本とも私のほうが早くゴールした。その結果がこれである。
「何で勝てないの…うぅ…」
彼女は地面にペタッと座り、泣きそうになっていた。いや、静かに泣いていた。真面目に練習をしても私に勝てなかったからだろう。並走前に彼女のトレーナーが心配そうにこっちを見ていた理由が何となくわかった気がする。
「あぁ…どうすっかなこれ…」
彼も困惑してるようだった。
選抜レースのときは私に負けても、ショックは受けていたものの泣いてはいなかった。多分、次こそは勝てるかもと思っていた相手に、併走とはいえ4回とも負けたのが悔しかったのだろう。
そんな状況ではあるが、私は走ってるときに感じた違和感を彼女に聞いてみることにした。
「ねぇエール?」
彼女は静かに顔をあげてこっちを向いた。「今話しかけてくるな…」と訴えてきた気がするが無視して話を続けた。
「もしかして、エールって先行や差しより逃げの方が合ってるんじゃないかしら?一緒には走ってるときにそう感じたのだけど。」
一緒に走っていて感じていた違和感。それは彼女が脚を溜めていることにあった。先行や差しで走るには終盤が仕掛けどころということもあって、体力を残しておく必要がある。実際私も後半用の体力は残していた。
しかし、彼女の場合は脚を溜めることは出来ても、後半にそれを使うことができていなかった。その結果、最後の直線でスピードが出せずにそのまま速度が落ちていったように感じた。
「ディディと同じ走り方で…ディディに…勝ちたいから…」
あくまで彼女は私と同じ脚質で勝ちたいらしい。その決意は素直に褒めてあげたい。
ただ、ウマ娘にはそれぞれあった走り方がある。いくら同じ脚質で勝ちたいといっても、自分に合っていないと勝てるものも勝てない。(一部例外あり)
距離に関しては、遅れてゴールしたとはいえ、呼吸はあまり乱れてなかったことを考えると適正距離なのだろう。
「逃げると私に勝てるかもよ?」
「…練習する」
彼女はだいぶ素直だと思った。さっきまで一緒の脚質で走って勝つと言っていたのに「逃げると勝てるかもよ?」と言っただけでそっちに乗り換えたのだ。彼女はきっと、それだけ私に勝ちたいのだろう。
彼女が一通り泣き止み、地面から立ったタイミングで、
「あの、今日は一緒に併走していただいてありがとうございました!」
とエールのトレーナーはお礼を言った後、彼女を連れて校舎のほうに歩いて行った。
2人を見送った後、彼の方を見た。ノートに何か書いている。さっきの結果をまとめているのだろう。視線に気づいたのか彼がノートから顔をあげ、こっちを見てきた。
「いやぁ、まさか泣き出すとは思わなかったよ。」
それは私も同意見である。
「でも、これでいいライバルができたな。
エールには負けるんじゃないぞ?多分、あの子の適正脚質はディディが言った通り逃げだ。でもって話を聞いていた感じ、エールは相当な努力家だ。早いと明日から逃げの練習を始めるだろう。今のエールには勝てるだろが、気を抜いてるとそのうち抜かされるかもよ?」
「今も努力が才能に勝てるとは思ってません。必ず勝てます。」
「おう!その調子でこれからも頼むよ。
ただ、忘れて欲しくないのがスカウトのときにも言ったが、努力して開花する才能もあるってことだ。それだけは頭の片隅置いといてな。」
そういうばそんなようなことを言っていた気がする。とりあえず、言われた通りに頭の片隅に置くようにしよう。そう思いながら時計は17時を指していて、時間も時間なので片付けを始めた。
片付けてる途中、彼に聞きたいことがあったことを思い出した。
「ねぇトレーナー、もしエールのトレーナーが了承しなかった場合どうする予定だったの?周りに他のトレーナーは見かけなかったけど。」
「ん?その場合は僕が走った。」
彼は笑顔でそう答えた。