どうも。アーさんに乗って空を飛んでいるハヤシです。僕の肩にはローちゃんが乗っています。
いやー、下は凄惨な光景が広がっておりますなー。
「あだだだだ!」
「こ、こら、こんなことしてただでアダダダダ!」
「サンドパンを持っている奴は『こうそくスピン』で弾き飛ばし、イダダ、こっち飛ばすな阿呆!」
「『どくびし』だけには特に気をつけるんだよ!」
アーさんの鋼の翼から薄い金属を星型に切り取ったような物が零れ落ち、それを避けようと慌てているマグマ団の皆さん。
エアームドの翼にある数枚の羽がボロボロと剥がれていくことで金属製の『まきびし』になっているんだよね。ちなみに羽根はすぐに生えます。
ローちゃんの『どくびし』はそんなマグマ団の皆を取り囲むようにして撒いている。
普段はこんなことしないけど、悪党相手なら容赦は無用なのです、フッフッフ。
ついでに向こう側を見ていると……お、アスナさんとナタネちゃん側が押しているみたいだ。
フエンジムを相手にしている方のマグマ団は既に瓦解状態に陥っている。一応まきびしのあられ攻撃の範囲外なんだけどなぁ。
僕みたいな素人が参戦できるのも、ナタネちゃんが砂嵐を晴らしてくれたおかげだ。やっぱナタネちゃんも強いね。
「調子に乗るんじゃないよ!『うちおとす』!」
―ガインッ!
「グケッ!?」
ア、アーさん!?あわわ、落ちる落ちる~!
―ガッシ!
……あ、あれ?地面に激突していない?思わず閉じた目を開けてみると……。
そこにはアーさんを両手で受け止めている、片目にレンズを付けたサイドンが。力持ちなんだねぇ君って。
「あ、これはご丁寧にどうも~」
このサイドンのトレーナーであろう、怖い顔をした女の子にお礼を言う……怒っているから言っても無駄だろうけど。
「そのまま叩きつけな!」
女の子の命令を受けてサイドンが片手でアーさんを……り、離脱っ!
―ズドンッ!
「あだだだだ!」
アーさんが地面に突き刺さって、ていうか足の裏が痛い痛い!刺さってないけど靴裏に食い込んで超痛い!
降りなかったら巻き添えでもっと痛い目にあっただろうけど、これもまた痛い!裏に刺さっていないかなー……って。
―落ち着いた途端、僕が敵中のど真ん中にいることに気づきました。怒りの視線が360度向けられて怖いです。
「よう……ロゼリア1匹でどうにかなると思っていないだろうな?あぁ?」
と、特にこのサングラスの人が凄く怖い……いやマグマ団とそのポケモン全員の殺気が溢れている時点で怖いんだけどさ!
後ろにはマグマ団のサイドンが指の骨を鳴らしているし、これって絶体絶命のピンチ―――――になるかは!
―ボン!
降りる寸前にこっそり投げておいたボールから出た、ゴーさんに掛かっている!
「『ほえる』!」
ローちゃんと一緒に耳を塞ぎ、隣に出てきたゴーさんに指示を送る!
「バックオオォォーーーーン!!!」
うおおおお耳を塞いでも体中に響き渡るこの轟音んーー!流石は騒音ポケモン!思わずコケちゃった。
この叫び声を聞いた、いや感じてしまった時点でポケモンも人も大騒動を巻き起こす。
たちどころにパニックになって逃げ出そうとする者が現れ、どくびしを避けようとしてまきびしを踏んでさらにパニック。阿鼻叫喚の地獄絵みたいだ。
そんな光景を目の当たりにした幼女と黒メガネは耳を塞ぎながら団員達に何かを言っているようだけど、彼らは全く聞く耳を持たない。鼓膜は破れていないけど一時的に聞こえなくなったのかな?
さて、今のうちにこっそりと逃げて……さっきのサイドンがまだ居た!
「ゴガァッ!」
「グオーっ!」
サイドンが僕に向けて尾を振り回そうと身を捻るが、それよりも先にゴーさんがサイドンを抑えてくれた。
そしたら先にゴーさんを倒そうと考えたのか、ゴーさんにガッチリと掴んで力勝負を挑む。力自慢のゴーさんなら勝てそうだけど……だめだ、押されている!
「ローちゃん、『はっぱカッター』で……っ」
しばらく旅をしていないけど、旅をしていて身についた直感が告げている……動いたりしたら刺されると!
ちらりと視線を下に向けたら、そこには地中から半身を出したサンドパンの爪が僕の顎に向けていた。いつのまに。
「おう兄ちゃん、そろそろ観念しろや」
どうやらこのサンドパンは黒メガネの親玉のものらしい……プ、プレッシャーが……!
ローちゃんは僕が人質にされて動けないし、ゴーさんはサイドンに押されているし、慌てていた団員達は落ち着いてきたし……本気でヤバい、かも。
「ヤバいよカトリ、ジムリーダーどもがこっちにきている!」
しかしこっちに向かってくるフエンジムの皆とナタネちゃんの姿が見えてきたことで、僕の周囲にいるマグマ団はざわめきだした。
さっきの距離を考えると走っていることもあってすぐに駆けつけてくれるだろう。相手側もそう思ったのか黒メガネの親玉が舌うちする。
「悪ガキ程度でココまでなら上出来、てか?……命拾いしたな兄ちゃん。引き上げるぞ!」
もはや一撃当てるですら惜しいと思ったのかサンドパンを引かせ、黒メガネの親玉は懐からボールみたいなものを手に持ち、それを投げる。
―ボフンッ
け、煙玉、ゲホゲホッ!至近距離で煙玉なんて使われたら思いっきり煙たくなるんですけどぉ!
だ、ダメだ目が痛いし喉も痛い、ゲホゲホ、ロ、ローちゃんにゴーさん、あと地面に刺さったアーさんも大丈夫、ゴホッ!
「くそう、逃げられたか……ってハヤシさん大丈夫ですか!?」
そ、その声はナタネちゃ、ゴェホ、ゲホ!も、もう煙晴れているの?め、目がバルス状態で、喉はガラガラで、鼻は痛いしで、ゴゲホォッ!!
「あだだだだだ!ま、まきびしぃぃぃぃ!」
あ、ナタネちゃんの他にも『まきびし』を踏んじゃった人がいるみたい。
―――
よーやく治まった……ローちゃんもかなり咳き込んでいたらしい。僕と一緒に煙を思いっきり被ったからなぁ。
アーさんは無事だったゴーさんによって地面から抜かれ、今は傷薬で治療中。治療してくれたリザードンのお嬢さんに感謝感謝。
あの後、マグマ団は地中に潜って逃げ出したのを確認し、取り残った団員はジムの人によってお縄となった。
其の場で取り調べた所、残された団員の殆どはフエンタウンの問題児だったらしい。温泉のマナー違反者、温泉客にカツアゲした不良、アスナさんにコテンパンにされた挑戦者などなど。
そんな彼らは「連中に騙されていたんだ」とか「俺らが悪いのではなくマグマ団が悪い」とか、傍から見ると言い訳ばかり。お兄さん情けないよ。
どうやら彼らはマグマ団に利用されたクチらしいとアスナさん談。
そういえば世間では悪の組織になりきり罪を擦り付けようとする小悪党も結構いるのだとか。いやな世の中だなぁ。
とりあえず彼らは罰として、しばらくはフエンタウンのボランティア活動に強制参加させることで片をつける事にするんだと。
フエンタウンの皆にマグマ団残党を追い払った事を聞くと、やいのわいのと大騒ぎ。アサ婆ちゃんも嬉しそうに笑ってくれた。
まぁ本物のマグマ団は逃げ延びたとはいえ、しばらくは活動を控えてくれるだろうと予測している。
本当にアレだけならいいんだけど、なんてフラグめいたことを言ってみる。
で、僕とナタネちゃんはといえば……。
「はぁ……なんで私達がこんなことしなきゃならないんだろぉ……」
「ごめんねぇ」
「すみません2人とも」
煙突山に散らばった『まきびし』と『どくびし』を掃除しています。アスナさんとアーさん・ローちゃんもお手伝い。
ここって人が通るからそのまま放置するわけには行かないし、一応は部外者である僕らが喧騒に割り込んだ罰としてアスナさんから命じられたのだ。
助けになったとはいえ見張りを置いてまで部外者の立ち入りを禁止していたのだ。そこへ割り込んだ僕らにも責任があり、それを罰するよう命じるアスナさんの面子もあるから仕方ないね。
「そういえばさ、アスナさんってナタネちゃんの知り合いだったんだよね。どんな関係?」
「ああ、ナタネさんとはムゴゴゴ」
「む、昔ポケモンバトルした仲だよ!草タイプ使いとして、炎タイプ使いのアスナちゃんによく挑んだものでさ!」
ほほぉ。だからナタネちゃんは炎ポケモン相手でも強いんだね、納得。
なんでアスナさんの口を無理やり塞いでいるかは解らないけど……一応アスナさんより年下だよね、君って?
まぁいいや。さっさと終わらせないと夜になっちゃう。夕飯前に一風呂浴びるんだーい。
(いきなし何するんですかナタネさん!)
(しー!お願いだから私がジムリーダーってことハヤシさんに黙っておいて!彼はまだ気づいていないんだからさ!)
(え?ハヤシさんってナタネさんのこと知らないんですか?とうかなんでそこに拘るんですか?)
(意地でも「実は私はジムリーダーなのよ!」って名乗ってやるんだから!)
(……頭のそれって拘り鉢巻じゃないですよね?)
2人で何コソコソ話しているんだろ?女の子同士の密談?
―続く―
どうやらナタネちゃんがジムリーダーってことをハヤシはまだ気づいていない様子。
次回からシダケタウンに戻り、平穏モードに突入。